質問本文情報
令和七年五月二十二日提出質問第一九八号
日本の成人向け映像コンテンツによる外貨獲得の機会損失と海賊版対策に関する再質問主意書
提出者 八幡 愛
日本の成人向け映像コンテンツによる外貨獲得の機会損失と海賊版対策に関する再質問主意書
私が提出した質問に対する答弁書(内閣衆質二一七第一六四号。以下「同答弁書」という。)に関し、以下の点について、あらためて質問する。
一 AV新法が定める保護対象と行政の政策責任の乖離について
いわゆるAV新法(令和四年法律第七十八号)は、出演者の人格的尊厳の保護と、自主的な表現活動としての出演を支えるために制定された法律であり、国会における議論でも、その立法趣旨は、出演者の保護を通じて映像制作環境全体の健全性を確保することにあるとされてきた。
にもかかわらず、政府は、出演者を保護対象としながら、当該出演者が出演した性行為映像制作物そのものに対しては、知的財産保護、海賊版対策、正規流通支援、海外展開支援などのいかなる制度的施策も講じていないと考える。
本来、こうした施策は出演者の権利と利益の実効的な保障につながるものであり、海賊版を放置し、正規収益機会を失わせることは、出演者の保護に反する結果をもたらすと考える。
1 出演者保護と連動するかたちで本件コンテンツそのものにも支援・流通整備・国際的知財保護などの施策を講じる責任が政府にあると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 同答弁書では「海賊版」「正規業者」などの語義不明を理由に多くの回答が留保されたが、少なくともAV新法において性行為映像制作物の範囲が法的に明示されている以上、当該法定義を用いて回答を行うことが可能であったのではないかと考えるが、この点について当該法定義を活用しなかった理由を明示されたい。
3 AV新法制定からすでに二年が経過しているが、同法を根拠とした流通環境改善、識別技術の支援、国際ルール交渉など、作品側の支援に資する施策を何ら講じていない理由を具体的に説明されたい。
4 出演者の尊厳の回復と保護を目的としながら、作品そのものが地下経済的に流通し、正規業者の収益が毀損され、海賊版が拡散する状態を放置していることは、立法趣旨を根底から損なうのではないかと考える。また、この収益の喪失は、すなわち出演者への正当な対価の喪失でもあると考えるが、政府の見解を問う。
二 外交・知財・産業政策からの制度的排除とその整合性について
政府は、過去に漫画海賊版サイトである漫画村、アニメ海賊版サイトであるAnitube、Miomio等の事案では、海外の捜査当局との連携強化や外交的交渉等の業界支援策を実施してきたにもかかわらず、本件コンテンツに対しては、外交的対応を行っていない旨答弁していると承知している。
1 なぜ本件コンテンツに関して、外交交渉・知財条約上の主張・海賊版サイトへの照会などの対応が一切とられていないのか。その理由を示されたい。
2 他の知財コンテンツ(アニメ・出版等)では適用されているJ−LOD等の支援スキームが、本件コンテンツに限って対象外とされている場合、その法的・制度的根拠を明示されたい。
3 本件コンテンツに関する外貨獲得の機会を制度的に回避していることは、正規市場の縮小と、出演者に分配されうる収益の喪失を意味すると考えるが、政府はこの点をどのように評価しているか。
三 構造的職業差別としての政策排除の実態について
私が提出した質問(質問第一四三号および第一七五号)に対し、政府は「職業選択の自由の尊重」「全ての職業の地位向上を目的とする」旨答弁した。これはいわゆる労働施策総合推進法第一条に基づく法的見解であると理解している。
1 この政府答弁に照らし、本件コンテンツに関わる出演者・制作者らが、外交・保護・支援政策の対象から排除されている現状は、事実上の構造的職業差別ではないかと考えるが、政府の見解を問う。
2 政府は、AV出演者や制作者も保護すべき労働者であり、他の職業と同様の価値を有するという立場に立っているか否かを明示されたい。
3 政府は、合法である限り、いかなる職業も制度的に支援の対象外とすることはないという立場に立っていると解してよいかを示したうえで、本件コンテンツに関わる職業群が複数の制度支援から排除されている現状は政府見解と矛盾しないかについて、政府の整理を確認のうえ示されたい。
四 政策透明性と国際整合性について
1 WTO・TPP・WIPO等において、日本のコンテンツが知財保護の対象となる中で、本件コンテンツを国際交渉や外交方針の対象から外すことを整合的と考える根拠を示されたい。
2 こうした排除が、倫理的・文化的・社会的配慮によるものである場合、その合理性を憲法第二十一条・第二十二条等の基本権と整合的に説明しうるかどうか、政府の見解を示されたい。
3 国際市場で本件コンテンツの正規流通が支援されれば、出演者に対する二次使用料・契約上の分配が期待されるにもかかわらず、これが制度的に妨げられている現状があると考える。政府は、本件コンテンツに対して、合法である限り他産業と同様に政策支援の対象となりうるとの原則を維持しないということか。政府の見解を明確に示されたい。
なお、以下の定義を前提とし、政府は本質問に答弁されたい。
・本件コンテンツ AV新法第二条第二項に規定される「性行為映像制作物」に該当し、日本国内で制作・頒布された著作物。
・海賊版 権利者の許諾を得ずにインターネット上で公開され、海外ユーザー等に視聴・頒布される本件コンテンツ。
・支援対象除外 政府予算による文化支援、知財保護、外交措置等の政策措置が、本件コンテンツに対してのみ適用されていない状態。
・構造的職業差別 法令に違反していないにもかかわらず、特定の職業に対して政策的・制度的な支援を系統的に排除することによって、当該職業の社会的評価や労働条件に格差を生じさせる状況。
右質問する。