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令和七年六月三日提出
質問第二一四号

看護基礎教育現場におけるハラスメント防止と看護師養成教育の質の保障に関する質問主意書

提出者  阿部知子




看護基礎教育現場におけるハラスメント防止と看護師養成教育の質の保障に関する質問主意書


 近年、看護専門学校の多くで定員割れが常態化し閉鎖が相次いでいる。特に、地方では看護大学は少なく、看護師養成は看護専門学校が担っているが、このままでは地方の医療を守る人材の供給が途絶えかねないと考える。
 このような危機的な状況に加えて、現在看護基礎教育の現場で問題となっているのは、学生に対する教員及び実習指導者からのハラスメントである。これらのハラスメントによって心身の不調をきたし、休学・留年・退学、最悪の場合は自殺に追い込まれる学生の存在が頻繁に報道されていると承知している。看護基礎教育現場における人権侵害の根絶、並びに医療を支える人材の確保及び看護の質向上のために、看護師養成基礎教育の抜本的見直しについて、以下政府に対し質問する。

一 ハラスメントの実態について
 北海道は、道立看護学院における教員からのハラスメントに関して学生及び遺族からの申立てを受け、第三者委員会による調査(道立江差高等看護学院を巡る諸問題への対応に関する第三者調査委員会)を実施し、二〇二一年に五十二件、二〇二三年に四件のハラスメントを認定した。認定されたハラスメントは、軽微の規則違反に対する行き過ぎた処分(書類の提出期限に一分遅れたことをもって再試験を受けさせず留年を確定させた等)、指導の放棄・拒否や進級卒業の妨害、暴言・人格を否定する発言(「看護師になれると思ってんの」「看護師に向いてない」等)及び留年退学の示唆(「学生辞めちゃえば」「学校辞めたら」「いつでもお前の首なんて切れるから」等)であった。
 こうしたハラスメントは、道立看護学院固有の問題ではなく、全国各地の看護専門学校に共通して発生していると承知している。
 千葉県木更津看護学院では、教員のハラスメントを原因として大量の退学者が生じているとの報道を受け、第三者委員会による調査(木更津看護学院ハラスメント調査委員会)が行われた結果、二〇二三年一月に七件がハラスメント行為として認定された。具体的事例は、「記録を床に投げつける、怒鳴って指示をする等の指導時における威圧的態度」、「生徒を馬鹿にする言動」、「看護師に向いていない、辞めた方がいい等と生徒の人格を否定する言動」、「具体的な指導を行わず、闇雲に記録の再提出を繰り返し求めたこと」等である。
 愛知県蒲郡市立の看護専門学校におけるハラスメントに関する調査委員会(蒲郡市立ソフィア看護専門学校のハラスメントに関する調査委員会)は、二〇二三年七月に十五件をハラスメント、四件をハラスメントの疑いがある事実と認定した。ハラスメントとして認定された事例は、「文句があるならどうぞ学校を辞めてください」「あなたを落とす」「あなたの声は患者に不快感を与える」等の発言や、実習の予定を教えない、課題の提出を認めない等であった。
 兵庫県相生市の看護専門学校でも、複数の生徒らが教員からのパワーハラスメントを訴え、設置者が調査(相生市看護専門学校ハラスメント防止対策委員会)を行った。生徒に連帯責任を負わせようとする発言や、「どう責任をとるのか」「けじめをつけろ」「誠意が感じられない」「ずる賢い」「プライドが高い」などの発言等四件を、「不適当な指導、妥当性を欠く指導」と判断し、教員四名に対し口頭訓告などの処分が行われたと承知している。
 生徒に連帯責任を求める発言については、北海道立看護学院に対する北海道の調査報告書でも「相当な範囲を逸脱する不適切な指導」として事実認定されている。なお、相生市看護専門学校では一九九四年二月に実施されたアンケート調査で、五十%の学生が学内でハラスメントがあると回答している。
 福井県越前市にある看護専門学校においても、教員のハラスメントについて複数の学生から告発があった。
 「無言で記録物を叩きつけられ」「お前アホじゃねえけ」「看護師に向いていない」「あなたは看護師になったら大きなミスをする。絶対に人を殺す」等、十件以上の被害の訴えに対し、第三者委員会は五件を不適切な言動として認めているとされている(福井新聞オンライン 看護専門学校パワハラ問題、教職員の不適切言動確認 調査委員会の報告書公表 福井県越前市 二〇二五年四月二十六日)。
 以上のように、それぞれの第三者委員会が認定した事実から、看護専門学校において、現在の一般社会では許容できない言動が、教員等から学生に対し繰り返し行われていることがうかがわれる。
 また、公益社団法人日本医師会は、二〇二四年三月に公表した「二〇二二・二〇二三年度医療関係者検討委員会報告書」(以下、医師会報告書)において、学生に対するハラスメントの背景に、「伝統的に看護教育の中で伝達されてきた「人の命に関わる仕事であるから厳しいのは当たり前」という根強い価値観や、「自分の時はそのように教えられたから」という自分の体験を元にした悪しき看護教育の連鎖があるように思えてならない」と指摘している。
 厚生労働省の地域強化型看護基礎教育カリキュラム調査検証事業において、学生の実態調査が必要とされているが、学生及び元学生に対する教員等からのハラスメントの実態に関する調査も実施すべきではないかと考えるが、政府の見解を述べられたい。
二 専任教員の採用について
 北海道立看護学院の事例で第三者委員会座長は、「臨床現場に配置しにくい人材に退職してもらうことができず、直接患者を受け持たない学校という現場に転勤させてきた」と指摘している。看護現場に不適切な人材を、看護基礎教育現場に配置するなどということは本末転倒であり、将来のある学生のためにも、看護の質向上のためにも看過できないと考える。
 1 北海道内看護学校の二〇一九年までの九年間の平均卒業率は八十九・三%であったが、ハラスメントが問題となった二校では七十四・五%及び七十・六%であった。専任教員として適切な人材の採用が担保されているか。特に退学・留年・休学が多発している看護専門学校については、教育現場の実態調査が必要と考えるが、政府の見解を述べられたい。
 2 性暴力と同様に、過去にハラスメントを行ったことを原因として懲戒・分限処分等を受けた者が、その事実を秘匿して再び教員として採用され、新たな被害を生むことがないよう、教員採用段階において何らかの取組をすべきと考えるが、政府の見解を述べられたい。
三 専任教員の養成について
 看護専門学校の専任教員には、五年以上の看護業務経験があり、なおかつ専任教員養成講習会における三十一単位(六百六十時間)以上を取得し修了が認められた者等がなることができるとされている(看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン第五及び専任教員養成講習会実施要領)。
 専任教員養成講習会及び教務主任養成講習会ガイドラインでは、看護基礎教育の基盤となる能力を「学生の尊厳や人権を擁護するとともに、意志決定を支え援助する能力」「相互理解を基本とした援助関係を形成する能力」「学生の生活背景や価値・信条、文化を理解する能力」等と定義している。
 一方、北海道立看護学院の調査書は、「教員全員が学生を育てるよりもふるい落とすような教育方針ないし態度をとっていた」と指摘している。
 1 現在の専任教員養成講習会における三十一単位(六百六十時間)のうち、ハラスメントに関する研修に充てられているのは何時間か示した上で、看護基礎教育の基盤となる能力の習得に照らして、現状の専任教員養成講習会のカリキュラムは十分と考えるか。政府の見解を述べられたい。
 2 医師会報告書では「二〇二一年度時点で全教員が「専任教員資格要件」を満たしていると回答した課程は三百七十九課程中百七十九課程」に留まっている。つまり半数以上の看護専門学校で「専任教員となることのできる者」の条件を満たさない人材が採用されている可能性がある。各地で起きているハラスメント事例は教員の質が担保されていないことに原因の一端があるのではないか。最低限、専任教員資格要件を義務化すべきと考えるが、政府の見解を述べられたい。
四 教務主任の養成について
 看護専門学校の教務主任には、三年以上の専任教員経験があり、なおかつ、教務主任養成講習会における十一単位(二百五十五時間)以上を取得し修了が認められた者等がなることができるとされている(看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン第五及び教務主任養成講習会実施要領)。
 教務主任講習会は、「看護師等養成所において、統括的役割を果たすために必要な能力を開発する」ために設けられ、主務教員には、「学校運営に起こりうる課題や問題事例に倫理的に向き合い、真摯な態度で管理者責任が果たせること、リスクマネジメントにおいて関係者がチームとなって対応・解決しうるための統制力を身につけていること」等が求められている(専任教員養成講習会及び教務主任養成講習会ガイドライン)。
 民主的な教育を実現するため経験を積んだ教員によるリーダーシップが求められる中、医師会報告書では「閉鎖的な人間関係の中で、「影響力の大きい教員」に引きずられ、「見よう見まね」「従来通りのやり方」で学生に関わる」と指摘されている。
 北海道立看護学院の調査書では、副学院長が「実質上のトップとして君臨し、他の意見を受け付けない体質により、教員が意見をさしはさむことを控え、教務室内においてハラスメントに遭わないよう自己保身のため、従う構造」があったと記載されている。蒲郡市立看護学校の調査書では、一部教員による学生へのハラスメントや行き過ぎた指導を副学校長が黙認ないし助長させたばかりでなく、あろうことか副学校長自身が、ハラスメント調査委員会から提出を求められた学生に対するアンケートを廃棄処分したことが認定されている。
 1 教務主任講習会等において、専門学校運営の中心を担う人材に対してもハラスメントに関する研修の徹底が必要であると考えるが、政府の見解を述べられたい。
 2 医師会報告書によれば「二〇二二年度に教務主任の役割を担うもので教務主任養成講習会、あるいはそれに準ずる必要な研修を受講済みの課程は三百七課程中百五十五課程(五十・四%)」に留まっている。およそ半数の看護専門学校で「教務主任となることのできる者」以外の者がその役割を担っている可能性がある。政府は、毎年度の都道府県からの報告によりこの事実を認識できると考えるが、しかるべき指導をしたのか。したとしたらどのような形で行ったのか。具体的に述べられたい。
 3 教務主任資格要件を義務化すべきと考えるが、政府の見解を述べられたい。
五 外部の第三者による相談体制の整備について
 医師会報告書によれば、三年課程の看護専門学校においては、専任教員八名と事務職員二名の合計十名という非常に小規模な組織で運営を行っている養成機関も多いとされている。相談者のプライバシー保護はハラスメント防止のために講ずべき措置の一つ(厚生労働省の事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針 二〇二〇年一月十五日)であるが、教職員十名の組織に構築された校内の相談体制では、プライバシーの保護は実際上不可能である。また、ハラスメントがすでに蔓延している組織においてハラスメントの疑義が生じた場合、内部での「事実関係を迅速かつ正確な確認」も現実的に不可能であると考える。
 北海道立看護学院の調査書で示された事例では、外部相談窓口が設置されていることが、学生等に周知徹底されていなかった。二〇一九年に学生が自殺し、二〇二〇年から二〇二一年に苦情・通報が複数寄せられたが、設置者の対応は口頭指導に留まった。その後も度重なる訴えを受けて北海道調査委員会は学生並びに教員への聴取を実施したが、まとめられた報告内容は事案をかなり過小評価あるいは矮小化したもので、第三者調査委員会の設置まで事態は深刻と受け止められなかった。
 木更津看護学院では、二〇〇七年頃より、生徒や家族等からのクレームが増加し、スクールカウンセラーから提言が出されたものの、改善策が検討されることはなかった。二〇一六年に決議されたキャンパス・ハラスメントガイドラインも実際には運用されず、生徒等からの訴えに対してハラスメント委員会は開催されなかった。生徒に対しハラスメントを訴える中立な場が保障されていなかったとされている(木更津看護学院ハラスメント調査員会報告書 二〇二二年十二月二十八日)。
 蒲郡市の看護専門学校では、教員の指導が不適切あるいはパワハラである旨の発言が教務主任や学生の保護者より出たが、副学校長は事実を確認せず学生が悪いと叱責し、教員による不適切な指導を放置容認したとされる(蒲郡市立ソフィア看護専門学校のハラスメントに関する調査委員会報告書 二〇二三年七月六日)。
 これらを踏まえ、ハラスメント防止のための措置を機能させるため、看護専門学校において、外部の第三者による相談体制の整備、学生保護者等への周知徹底、通報や相談に対して解決までのフローを定めるなど、具体的な取組が急務であると考えるが、政府の見解を述べられたい。
六 看護学生からの個別相談担当部局について
 1 看護専門学校におけるハラスメントに関する相談窓口であるが、一部の都道府県の担当部局においては、学生からのハラスメントに関する個別の相談には対応しないと公言するところがあると承知している。看護専門学校生からのハラスメントに関する相談については、各都道府県の看護師等養成所の所管部局において対応するとの政府方針に間違いはないか。
 2 各都道府県の所管部局において対応するのであれば、教員から学生へのハラスメント禁止をまず指定規則に明記し、国の方針を明確にすることが順当ではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
七 臨地実習中の睡眠不足について
 看護学生が睡眠時間を削って臨地実習に取り組んでいることは様々に報告されているところであり、記録・課題の多いことがその要因の一つと分析されている。
 そもそも、一単位の授業科目は「四十五時間の学修を必要とする内容をもって構成することを標準」(大学設置基準第二十一条第二項の規定の例による)とすると定められている。理学療法士専門学校の学生が臨床実習中に自殺し、遺族が提起した事件で、裁判所は、厚生労働省が「臨床実習における学習時間を一週間当たりおおむね四十五時間以内とするよう求め」たのに、「(当該学生の)学習時間が質的・量的に過重であったにもかかわらず、(実習指導者が)実情を把握せず改善の指導をしなかったこと」を実習指導者の違法行為と認定している。また、「(学生に対し)具体的な作業時間や睡眠時間等の確認(中略)すらしたことがなかった」専門学校に対し安全配慮義務違反と認定した(二〇一八年六月二十八日大阪地裁判決)。
 看護師養成の臨地実習においても、「長時間の学習によって学生が過度の疲労や心理的負荷等を蓄積し、その心身の健康を損なってしまうことのないように、学生を保護する」(同判決)必要があることは、理学療法の臨床実習と同じである。一単位の時間数である「四十五時間」とは、臨地実習の時間外に当該臨地実習に必要な書類の作成等を行う時間も含むものであることを指定規則及びガイドラインで明示すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
八 教育の質保証の観点からの情報公表の必要性について
 看護専門学校も高等教育機関として教育の質の保障を社会から求められていると考える。中央教育審議会は、「学修者や社会が期待する学修成果が認められるかを自ら示すことができて、はじめて教育の質が保証されていると言える」(中央教育審議会大学分科会 新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について 二〇二二年三月十八日)としている。
 看護師学校養成所においても、教育の質の保障の観点から「教育活動に伴う基本的な情報」については公表が必要不可欠であると考えるが、政府の見解を示されたい。
九 ガイドラインの形骸化について
 医師会報告書では、資格を有しないものが専任教員並びに教務主任となっている事実以外に、「ガイドラインで望ましいとされている教員数が「配置基準未満」と回答したのは三百五十八件/千六百十八件(二十二・一%)」とも報告されている。相当の看護専門学校で専任教員数さえ担保されていない実態が明らかであり、一単位四十五時間の規定についても同様である。
 看護師等養成所の運営に関する指導ガイドラインは完全に形骸化していると考える。まずは看護専門学校における義務と努力義務を峻別し、義務は指定規則への格上げが急務であると考えるが、政府の見解を示されたい。

 右質問する。

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