質問本文情報
令和七年六月三日提出質問第二一五号
技能実習生・留学生らの妊娠・出産についての抜本的な対策の進捗に関する質問主意書
提出者 阿部知子
技能実習生・留学生らの妊娠・出産についての抜本的な対策の進捗に関する質問主意書
技能実習生らの妊娠・出産に関する抜本的な対策について、令和六年六月二十一日に答弁書(内閣衆質二一三第一三六号。以下、答弁書)が出されているが、その対策の効果が見えないと考える。
同年十二月に、鹿児島市で孤立出産をし、出産後乳児を殺害したインドネシア出身の技能実習生が殺人容疑で逮捕された。また、同年二月に福岡市で孤立出産をし、死産した乳児を遺棄した容疑で逮捕されたベトナム人技能実習生は無罪を主張したが、令和七年三月七日に懲役一年六月、執行猶予三年の有罪判決を受け、現在、控訴中である。技能実習生らが孤立出産に追い込まれる背景に「妊娠したら帰国」といった退職・帰国勧奨があることへの対策が、未だに不十分であると理解している。
この問題への対応は、国際連合女子差別撤廃委員会も日本政府に対して勧告している。育成就労制度の開始までに従来の対応を検証し、早急に対策を再検討する必要があると考える。
以上を踏まえ、政府に対し質問する。
一 外国人技能実習機構の業務統計について
1 「言語別 相談内容別 母国語相談件数」について、妊娠や出産の項目がないため、これらに関する相談が何件あったか不明である。令和五年度統計においては「その他の制度に関すること」(千六百十四件)、もしくは「途中帰国に関すること」(二千三百八十八件)などに、妊娠や出産に関する相談が含まれていると思われる。この中に、妊娠や出産に関する相談がどの程度あったのか、政府の把握する件数を可能な限り示されたい。
2 同統計は「言語別」に集計されており、対策に役立てることができる意義のある統計であると理解する。「複数の相談を受け付けた場合は、複数項目で計上している」となっており、母国語相談員の報告書式に項目を追加して集計することは可能だと考えるが、今後の妊娠や出産に関する相談の件数を公開することは可能か、見解を示されたい。
3 同統計中「受入形態別 事由別 技能実習実施困難時届出件数」について、令和五年度の「実習生都合」による届出件数を事由別に見ると、団体監理型では「その他」が最も多く九千百三十七件に上っている。妊娠・出産を理由とする場合は「その他」に含まれるのか、政府の把握するところを示されたい。
4 業務統計の公開は、技能実習制度の運用の検証や課題の共有が目的だと察する。令和六年度以降、妊娠・出産により技能実習の実施が困難な場合を事由別の表で公開することについての見解を示されたい。
5 業務統計を技能実習生の出身国別に公開されると、対策にも活用できると考える。統計が極めて少ない国については「その他」としてまとめれば、個人が特定されることはない。その結果の活用について見解を示されたい。
6 技能実習実施困難時届は、実習生本人ではなく監理団体が記入している点も問題だと考えるが、本人が記載するよう改める可能性についての見解を示されたい。
二 答弁書で示された「技能実習困難時届」数等について
1 答弁書では令和五年三月三十一日までの、@妊娠・出産を理由とした「技能実習困難時届」数のうち、A技能実習の継続意思を有するもの、B技能実習を再開する技能実習計画の認定が確認できたものの数が示された。@からBについて、令和五年四月一日以降の件数をそれぞれ可能な限り示されたい。
2 令和五年度末までに、@妊娠や出産を理由とした技能実習実施困難時届件数二千六十二人に対して、A技能実習の継続意思を有するものは二百四十四人で、@に対する割合は約十二%である。B技能実習を再開する技能実習計画の認定が確認できたものは七十一人で、Aに対する割合は二十九%である。出身国での出産や育児を望む技能実習生もいるため、これらの数字の解釈は容易ではないが、技能実習生の多くが多額の借金を背負って来日している現実を考えると、技能実習の継続意思を有するものや再開が確認できたものが総数に比して極めて少ないことは課題ではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 厚生労働省が公開した令和五年度雇用均等基本調査の結果によると、女性の育児休業取得率は八十四・一%、有期契約労働者においても七十五・七%、また、復職予定であった女性のうち復職した者の割合は、九十三・二%である。これらの数字と技能実習生の統計を単純に比較できないことは十分承知しているが、一般の女性被雇用者に比して技能実習生の産休や育休の取得が実質的に困難であることは、外国人差別に相当しないのか。また、法務省・厚生労働省・外国人技能実習機構による「妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取扱いについて」という注意喚起や多言語情報以外の対策について、それぞれの見解を示されたい。
4 数は少ないとは言え、これまでに妊娠・出産による実習を中断したのち、再開した例が七十一件あることは朗報である。技能実習生の間で広がった「妊娠したら帰国」という言説を改めるには、復職できた例を示すことが最も効果的だと考える。個人情報等に差し障りのない範囲で、技能実習生本人や監理団体、実習実施者に対して聴取を行い、好事例として紹介することは、これまで行ってきた注意喚起とは異なる情報発信として取り組む価値があると考えるが、その予定はあるか。
5 未だに「妊娠したら帰国」といった警告をしている監理団体があると承知しているが、妊娠等による不利益取扱いを行った監理団体や実習実施者、送り出し機関に対し、いわゆる男女雇用機会均等法違反として厚生労働大臣が助言、指導、勧告を行った件数をそれぞれ可能な限り示されたい。
6 在留資格が「留学」や「特定技能一号」の場合も、妊娠や出産による帰国勧奨が行われているが、技能実習実施継続困難時届に相当する書類を提出する制度はない。在留資格の種別にかかわらず、妊娠や出産を理由とした不利益取扱いが行われていることを把握すべきであるという質問に対して、答弁書では「その必要性も含め、今後検討してまいりたい」と回答しているが、その後、どのような検討を行ったのか、具体的な検討内容とその結果をそれぞれ示されたい。
三 令和六年十月十七日に開催された女子差別撤廃委員会会合で、日本の第九回定期報告書が審査され、最終見解で技能実習生を含む移民女性についても勧告をした。同委員会は、移民女性が「出入国管理及び難民認定法の下で保護されるための資格を維持するために「正当な理由」を提出する必要があるため、在留資格を取り消されることを恐れて、ジェンダーに基づく暴力の事例を報告することに特に消極的である」ことや、移民女性らが「職場で差別及びハラスメントを経験していること」に懸念を持っている。さらに、「女性の技能実習生は、賃金が低く、労働条件が劣悪で、妊娠・出産に関する差別に直面しているおそれがある」ことを踏まえて、「女性の技能実習生の労働条件の適切な監視を確保する適切なメカニズムを設置し、妊娠による本国送還や海外における家族単位からの隔離などの差別的慣行から女性移民労働者を保護する」ことを勧告している。
外国人から「選ばれる国」を目指すならば、これらの問題を放置するのではなく、優先課題として対策を強化すべきだと考えるが、同勧告を受けてから、どのような対応がなされたのか、具体的な取組を示されたい。
右質問する。