質問本文情報
令和七年六月三日提出質問第二一七号
博士人材の育成と活用に関する質問主意書
提出者 藤原規眞
博士人材の育成と活用に関する質問主意書
二〇二四年六月十八日にスイスのビジネススクールの国際経営開発研究所が発表した世界競争力ランキング二〇二四によると、日本は三つ順位を落として三十八位となった。人口二千万人以上の国・地域を対象にしたランキングでは、台湾が首位、米国が二位、オーストラリアが三位で、日本は十五位だった。
日本は、国内経済や雇用、科学インフラの項目が十位以内にランクインして高く評価されたものの、政府の財政状況や企業の経営慣行の項目の評価が前年調査よりも更に順位を落とし、それぞれ六十四位、六十五位と特に低かった。
文部科学省は、天然資源に乏しい我が国が、今後とも世界から「品格ある国家」として認識され、信頼を得つつ発展し、知的存在感を保持しながら成長を遂げていくためには、国際社会で活躍できる優秀な人材を育成するとともに、海外から積極的に優秀な人材を受け入れることが重要であると述べている。
二〇〇五年四月に日本学術会議から発表された、日本の科学技術政策の要諦に明示されているように、人材の育成こそが国家の根幹であることの認識がまず必須である。そのためには、国際社会で活躍できる国家の根幹たる人材をいかに育てるか、明確な戦略を確立することが重要である。また、グローバル化時代を迎えて世界が二十一世紀の新しいパラダイムを求めている、かつ、世界的な知の大競争時代の中で、少子高齢化が進んでいる我が国にとって、一人一人の能力を伸ばし、優秀な人材を育て、輩出すること及び人材を受け入れるべき「知」の拠点たる大学や研究機関の機能をいかに強化するのかということを包括的に考え、検討することが重要であると考える。
二〇二四年三月二十六日、文部科学省は「博士人材活躍プラン」を策定し、二〇四〇年における人口百万人当たりの博士号取得者数を世界トップレベルに引き上げることを目標としている。また同日、盛山正仁文部科学大臣(当時)は、「博士人材は、新たな知を創造し、社会にイノベーションをもたらすことができる重要な存在です。海外では社会の様々な分野で活躍しており、我が国においてもその重要性と期待は非常に高まっています。博士を目指したい方が安心して学修できる環境を整え、高い専門性と汎用的能力を有する人材として生き生きと活躍することを後押ししたい。この思いから、「博士人材活躍プラン〜博士をとろう〜」を取りまとめました」というメッセージを発した。
しかしながら、我が国の博士人材育成は伸び悩んでいる。その理由は、学生の声として「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」との回答が三割を上回っていること、あるいは、博士課程における修業年数の問題、すなわち「人文科学・社会科学系修了者の約六割、理学・工学・農学系修了者の約二割が標準修業年限を二年以上超過している。特に人文科学・社会科学系において標準修業年限内の円滑な学位授与が進んでいない」ことなどが挙げられる。
結果、博士課程への入学者は減少傾向にある。特に修士課程から直接進学する学生数は二〇〇三年から約四割減少していると承知している。
昨今、諸物価高騰による家計負担の増加など、金銭的に余裕がない家庭は、大学院進学を視野に入れることが難しい。その上、博士課程を修了したとしても、就職の受け皿が限定されており、非常勤職等の進路が約半数を占めることも問題であると考える。
たとえば、令和三年度文部科学省委託調査結果における博士後期課程終了後の進路をみると、非常勤のいわゆるポスドク、その他、不詳の者を合わせた割合は、人文科学六十・〇パーセント、社会科学四十一・八パーセント、理学五十三・七パーセント、工学三十四・〇パーセントとなっており、博士課程終了後の進路が安定しているとはいえないと考える。
これでは、教育に投資し、大学から大学院修了まで最低九年間かけて研究したいと考える学生がちゅうちょすることに得心がいく。博士号に対する巷間の認知度や評価が低いことも、博士課程進学を念頭に置かない一要因ではないかと考える次第である。
以上を踏まえて質問する。
一 企業が博士人材を採用しない理由として「「採用する人材は、企業が必要とする人材像に合う人材であればよく、必ずしも博士号を持っている必要はない」という回答が最多であり、必ずしも博士号そのものの価値が評価されている状況ではない」とある(二〇二三年一月 文部科学省科学技術・学術政策局 人材政策課資料)。博士号そのものの価値が評価されるために、政府としてはどのような対策を検討しているのか。
二 採用後の印象として、博士人材については「期待を上回った」と回答する企業の割合が学士・修士よりも高いと報告されている(同資料)。博士人材の価値や能力を、企業などに周知するなどの試み等はなされているのか。なされているのであれば、具体的に示されたい。
三 博士人材が学位を取得した後、就職が困難という現状が続けば、博士人材の国外流出が懸念されるが、政府として我が国の頭脳流出を防ぐ対策を考えているか。
四 国会議員政策担当秘書の選考採用審査認定を受けることができる者の要件として、国会議員の政策担当秘書資格試験等実施規程第十九条第三号に、「博士の学位を授与されていること」とある。このように、人文科学や社会科学の博士人材に周知することで、博士人材の修了後のキャリアパスの選択肢を示し得ると考える。政府として、博士等アカデミック人材の活用を積極的に行う考えはあるか。
五 博士人材輩出のため、早い段階から自律的・挑戦的学びの姿勢等を鍛える秋田県の教育は参考になると考える。秋田県では二〇〇八年から独自に「博士号教員」を採用してきた。採用実績は十二名(うち非常勤一名)で、物理、化学、工学、生物、農学、生物資源科学、環境資源学などを専攻した博士号取得者を採用している。その結果、「日本進化学会二〇一〇」の高校生部門で生徒が最優秀賞を獲得するなど顕著な業績を挙げている。政府は、秋田県の例に学び、他の自治体でも同様の試みを行うことを推進する考えはあるか。
右質問する。