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平成十七年十一月十一日受領
答弁第六七号

  内閣衆質一六三第六七号
  平成十七年十一月十一日
内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員平岡秀夫君提出犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員平岡秀夫君提出犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に関する質問に対する答弁書



1の(1)の@について

 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号。以下「組織的犯罪処罰法」という。)においては、我が国における組織的な犯罪の実態、その量刑の実情等を勘案し、その罪に当たる行為が組織的に行われた場合には刑法(明治四十年法律第四十五号)に定められた法定刑では十分でないと考えられるものを選択してその刑を加重した組織的な殺人等の罪を設けるとともに、これに対応した未遂罪を設けているほか、刑法上の予備罪の法定刑では十分でないもの等について組織的な殺人等の予備の罪を設けている。組織的犯罪処罰法の未遂罪及び予備罪は、このような趣旨で設けられたものであって、もとより、これらの罪やその既遂罪についてしか組織的に行われることが想定されないというものではないと考えている。
 その上で、組織的犯罪処罰法において未遂罪や予備罪が設けられていない罪を含め、死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪(以下「重大な犯罪」という。)に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの等について、その遂行の共謀を新たに犯罪とすることは、刑事法の体系上矛盾を生ずるものではないと考えている。

1の(1)のAについて

 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「国際組織犯罪防止条約」という。)第三十四条1にいう「自国の国内法の基本原則」とは、各国の憲法上の原則等、国内法制において容易に変更することのできない根本的な法的原則を指すものと解されている。
 他方、我が国の刑事法においては、現実に法益侵害の結果が発生した場合はもとより、いまだそのような結果が発生していなくても、その危険性のある一定の行為について、未遂犯や危険犯として処罰することとされているほか、特に重大とされる一定の犯罪や取締り上必要がある一定の犯罪については、予備罪や共謀罪等、実行の着手前の行為をも処罰することとされている。
 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(以下「本法案」という。)による改正後の組織的犯罪処罰法第六条の二の罪(以下「組織的な犯罪の共謀罪」という。)は、すべての犯罪の共謀を一般的に処罰するものではなく、重大な犯罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの等の遂行を共謀した場合に限って処罰の対象としており、我が国の国内法制において容易に変更することのできない根本的な法的原則に反するものではないと考えている。

1の(2)の@について

 一般的に、他国が条約を国内で実施するに当たりいかなる立法措置を講じているかについて、我が国として必ずしも網羅的にその詳細を承知しているわけではないが、国際組織犯罪防止条約第五条1(a)(@)に定める行為について「組織的な犯罪集団が関与するもの」を要件としている国としては、ノルウェーがあると承知している。ノルウェーの国内法では、組織的な犯罪集団は、「三人以上の者の組織的な集団で、その主たる目的が三年以上の期間の自由刑で処罰され得る行為を行うことであるもの又はその活動が主としてそのような行為を行うことであるもの」と定義されていると承知している。

1の(2)のAについて

 国際組織犯罪防止条約第二条(a)は、「組織的な犯罪集団」とは、「三人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在し、かつ、金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するものをいう」と規定しているところ、「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」という要件は広い概念であると解されており、これによって除かれるのはおよそ物質的な利益に無関係なものにとどまると解される。お尋ねのような集団が「組織的な犯罪集団」に当たるか否かは、個別具体的な事実関係の下で、そのような意味での「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」重大な犯罪等を行うことを目的として一体として行動するものに該当するか否かにより決せられることとなるものと考えている。
 他方、本法案による改正後の組織的犯罪処罰法第六条の二第一項に規定する「団体」とは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるもの」をいうところ、お尋ねのような団体が、同項に規定する「団体」に該当するか否かは、個別具体的な事実関係の下で、当該団体が、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるもの」に該当すると認められるか否かにより決せられることとなるものと考えている。

1の(2)のBについて

 組織的な犯罪の共謀罪は、重大な犯罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの又は重大な犯罪に当たる行為で、団体に不正権益を得させ、若しくは団体の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を共謀した場合に成立する。
 この場合、「団体の活動」とは、「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するもの」をいい、「不正権益」とは、「団体の威力に基づく一定の地域又は分野における支配力であって、当該団体の構成員による犯罪その他の不正な行為により当該団体又はその構成員が継続的に利益を得ることを容易にすべきもの」をいう。
 したがって、このような「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」又は「団体に不正権益を得させ、又は団体の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるもの」という要件のすべてを満たすこととなる場合において、当該団体が、お尋ねの組織的な犯罪の共謀罪の対象となるものと考えている。

1の(2)のCについて

 組織的な犯罪の共謀罪は、重大な犯罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの等の遂行を共謀した場合に成立する。
 この場合、「団体」とは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるもの」をいい、「団体の活動」とは、「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するもの」をいい、「組織」とは、「指揮命令系統に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体」をいい、「共謀」とは、二人以上の者が、犯罪を遂行することについて、具体的かつ現実的な合意をすることをいうと解される。
 したがって、お尋ねのような事例について、組織的な犯罪の共謀罪が成立するか否かは、個別具体的な事実関係の下で、お尋ねのような集団が、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるもの」に該当すると認められるか否か、共謀に係る重大な犯罪に当たる行為が、「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するもの」としてこれを実行するための組織により行われるものに該当すると認められるか否か、二人以上の者によりこのような犯罪に当たる行為を遂行することについての具体的かつ現実的な合意がなされたと認められるか否か等により決せられることとなるものと考えている。

1の(2)のDについて

 組織的な犯罪の共謀罪は、重大な犯罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの又は重大な犯罪に当たる行為で、団体に不正権益を得させ、若しくは団体の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を共謀した場合に成立する。
 したがって、団体とは無関係の者がこのような犯罪の遂行を共謀することは通常は考え難いが、例えば、団体の構成員ではない者であっても、団体の構成員との間でこれらの犯罪の遂行を共謀した場合には、組織的な犯罪の共謀罪が成立し得るものと考えている。
 また、国際組織犯罪防止条約第五条1(a)(@)に規定する「重大な犯罪」について「組織的な犯罪集団が関与するもの」という要件を付する場合であっても、当該「重大な犯罪」を行うことの合意の参加者は、組織的な犯罪集団の構成員に限定されるものではないと解されている。

1の(2)のEについて

 組織的犯罪処罰法第三条の要件を満たした事例として承知している団体の例は、五十数件あるが、そのうち、どの程度のものが、お尋ねのような「越境的な組織犯罪を行っている、又は行う可能性が高い団体」であるかについての捜査は行われていないので、その数を挙げることは困難である。

1の(2)のFについて

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)は、暴力団の構成員の活動を規制すること等を目的としたものであることから、同法においては、その対象者を明確にするために、暴力団について、あらかじめこれを特定して指定することとされているのに対し、組織的な犯罪の共謀罪は、組織的な犯罪について、その遂行を共謀した者を処罰するものであることから、そのような犯罪行為の内容や態様に着目した要件を定めたものである。なお、組織的な犯罪に係る団体としては、暴力団だけでなく、外国人犯罪組織等多種多様のものが想定されるため、このような団体のすべてを行政的な手続で把握して指定することは、現実問題として困難であり、実効性を欠くものと考えている。

1の(3)の@について

 一般的に、他国が国際組織犯罪防止条約を国内で実施するに当たりいかなる立法措置を講じているかについて、我が国として必ずしも網羅的にその詳細を承知しているわけではないが、国際組織犯罪防止条約第五条1(a)(@)に定める行為について「その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為」を要件としている国としては、オーストラリアがあると承知している。オーストラリアの国内法では、共謀罪として有罪となるためには、「その者又は合意の当事者の中の他の少なくとも一人がその合意に基づいて顕示行為(Overt act)を行ったものでなければならない」と規定されていると承知している。

1の(3)のAについて

 国際組織犯罪防止条約第五条1(a)(@)に規定されている「合意の内容を推進するための行為」という条件は、米国法におけるいわゆる「オーバート・アクト」を念頭に設けられたものであると承知しているところ、米国の判例においては、我が国における予備罪の予備行為には当たらないと考えられるような行為についても「オーバート・アクト」に当たるとされているものと承知しており、「合意の内容を推進するための行為」の意義については、このような起草過程も踏まえて慎重に検討すべきものと考えている。
 また、国際組織犯罪防止条約は、犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪として、「重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意すること」を犯罪とすることを義務付けているのであるから、このような義務を履行する方法としては、御指摘のような「準備罪又は予備罪とそれらの共謀共同正犯又は教唆犯という法体系」とすることは適当でないと考えている。

1の(4)の@について

 我が国は、国際組織犯罪防止条約第三十四条2の「第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第三条1に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。」との規定に関し、国際組織犯罪防止条約が犯罪化を求める行為につき、仮に国際性を要件とすると、対象となる犯罪が組織犯罪の実態に照らして不当に狭くなる上、早期かつ的確な検挙及び処罰が困難となるとの考え方に基づき、犯罪化に当たって国際性を要件としないことに合意したものである。

1の(4)のAについて

 犯罪の国際性について、我が国が、国際組織犯罪防止条約の交渉の過程において、国際的な組織犯罪を防止し、その捜査及び訴追に関する国際協力を確保するためには、一律に厳格な要件を定めることは適当ではないと主張したのは、国際組織犯罪防止条約の適用につき一律に国際性の要件を付すると、法の抜け穴を巧みに利用して行われる国際的な組織犯罪の実態に適切に対応できなくなるおそれがあり、適当ではないとの趣旨である。

1の(4)のBについて

 国際組織犯罪防止条約第三十四条2の規定は、法の抜け穴を巧みに利用して行われる国際的な組織犯罪の実態に適切に対応するため、その防止に特に有効であり、又はその取締りの必要性が特に高い行為類型について、「国際的な性質」の存在を要件とすることなく犯罪とすることを各国に義務付けたものであり、国際的な組織犯罪への効果的な対処を目的とした国際組織犯罪防止条約の正に中核をなす規定であると考えられる。したがって、かかる規定に留保を付することはできないと考えている。

1の(5)の@について

 国際組織犯罪防止条約第三条2は、「一の国において行われるものであるが、その準備、計画、指示又は統制の実質的な部分が他の国で行われる場合」等についても、そのような犯罪は、性質上国際的である旨規定している。
 近年のグローバリゼーションの進展を考慮すれば、重大な犯罪のうち、このような意味での国際性を有する可能性がおよそあり得ない犯罪というのは、想定し難いと考えている。

1の(5)のAについて

 組織的な犯罪の共謀罪は、国際組織犯罪防止条約の締結に伴い必要となる法整備の一環として設けるものであるが、国際組織犯罪防止条約は、各国の国内法において定められている刑期を基準として、「長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪」を行うことを合意することの犯罪化を義務付けている。
 そこで、組織的な犯罪の共謀罪においては、死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪を対象犯罪としているところであり、これを犯罪の内容に応じて選別することは、国際組織犯罪防止条約上できないものと考えている。

1の(5)のB及びEについて

 我が国の国内法においては、犯罪が重大であるか否かを区分する一般的な基準を定めたものはないが、例えば、弁護人がなければ開廷することができないいわゆる必要的弁護事件は、「死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件」とされ(刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百八十九条第一項)、また、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときに、逮捕状なしに逮捕することが認められるのは、「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合に限られている(同法第二百十条第一項)ことなどにかんがみると、国際組織犯罪防止条約が義務付けるところに従って、死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪を組織的な犯罪の共謀罪の対象犯罪とすることは、我が国の国内法に照らしても合理性があると考えている。

1の(5)のCについて

 各国が自国の国内法において定められている刑期を基準として国際組織犯罪防止条約第五条1(a)(@)に規定する合意の対象となる罪を定める場合、一部の罪について、ある国ではその合意が犯罪となるのに対し、別の国では犯罪とならないということもあり得るが、国際組織犯罪防止条約が義務付けるところに従って、各国において、「長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪」を行うことの合意が犯罪化されることにより、多くの場合は、同様の行為が犯罪となるものと考えている。
 したがって、多くの場合において、捜査共助の対象となる事実が要請国においても被要請国においても犯罪に当たるものであるといういわゆる双罰性の要件が満たされることとなり、国際的な捜査共助が促進されることとなるものと考えている。

1の(5)のDについて

 ウクライナが「留保及び宣言」の名の下に表明している事柄については、その趣旨等も含めて調査中であるが、いずれにしても、国際組織犯罪防止条約第五条は、「長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪」を行うことを合意することの犯罪化を義務付けているので、組織的な犯罪の共謀罪の対象犯罪について更に限定することは、国際組織犯罪防止条約上できないものと考えている。

1の(5)のFについて

 外国の各国内法における犯罪について、国際組織犯罪防止条約第二条(b)に規定する「重大な犯罪」に該当するものの数を網羅的に把握するのは困難であり、その数は承知していない。

1の(5)のGについて

 お尋ねの犯罪数の推移について網羅的に把握するのは困難であるが、平成十七年四月一日の時点において死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている犯罪から、性質上共謀の対象とならない過失犯及び未遂犯に係るものを除くと、そのような犯罪を定める規定の条の数は四百九十二であり、そのような犯罪の行為の態様に着目して数えると、その数は六百十五である。
 また、このような犯罪数の将来の増減については、その時々の犯罪情勢や国民の規範意識等を踏まえた立法によることから、その見通しを述べることは困難である。

1の(6)の@について

 組織的な犯罪の共謀罪を犯した者が実行に着手する前に自首した場合に、その刑を減軽し、又は免除することとしているのは、自首を奨励し、共謀に係る犯罪が実行されることを未然に防止しようという政策的配慮に基づくものである。
 このような規定を設けることは、重大な犯罪が現に行われることを未然に防止する目的で、その合意を犯罪とすることを義務付けた国際組織犯罪防止条約第五条の趣旨に沿うものであり、また、その発生を未然に防止すべき必要性は、重大な犯罪のいずれについても変わるところはないことから、一律に自首による刑の減免の対象とすることが適当であると考えている。

1の(6)のAについて

 組織的な犯罪の共謀罪の捜査についても、他の多くの密行的に行われる犯罪の場合と同様の方法で、捜査の端緒を得て、必要かつ適正な捜査を尽くすことになると考えている。
 お尋ねの捜査手法のうち、いわゆる司法取引については、そもそも我が国には導入されていない制度であり、現行法の下でこのような手法を用いることは考えられない。また、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(平成十一年法律第百三十七号)の規定による通信傍受については、組織的な犯罪の共謀罪は同法の別表に掲げる罪に当たらないが、同法の規定により通信傍受を実施する場合において、組織的な犯罪の共謀罪に関する証拠が得られることもあると考えている。さらに、いわゆるおとり捜査については、最高裁判所の裁判例においても、一定の場合にこれを行うことが認められているが、組織的な犯罪の共謀罪の新設を契機として、おとり捜査が行われる範囲が拡大されるとは考え難い。
 なお、平成十六年八月二十四日の閣議決定により設置された国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において、司法取引等の捜査手法につき特段の検討がされたという事実はない。

1の(6)のBについて

 一般に、捜査共助は、事案の全容が判明する前に行われる場合が多く、共助の要請に当たって十分に詳しい資料が提供されない場合もあることに加え、共助の実施において犯罪の国際性等の要件の認定が求められるものでないことから、お尋ねの「国際的組織犯罪」がどれだけあるかを正確に特定することは困難であるが、平成十五年一月一日から本年九月末日までの期間に我が国が外国からの要請で共助を実施した事案の中には、国際組織犯罪防止条約第十八条1の規定の適用対象となる可能性があると思料される事案が少なくとも二十件ある。
 同じ期間に我が国が外国に共助を要請した事案の中にも、同規定の適用対象となる可能性があると思料される事案が少なくとも二件ある。

1の(6)のCについて

 国際捜査共助等に関する法律(昭和五十五年法律第六十九号)第二条第二号は、外国から要請された共助を実施する要件として、共助犯罪に係る行為が日本国内において行われたとした場合において、その行為が我が国の法令によれば罪に当たることを必要としているが、この要件の判断に当たっては、罪名のみを形式的に比較して判断するのではなく、構成要件的要素を捨象した社会的事実関係に着目し、その事実関係の中に我が国の法の下で犯罪行為と評価されるような行為が含まれているか否かを検討すべきものとされている。
 したがって、国際組織犯罪防止条約第五条1(a)(A)に規定する行為を犯罪とする国から、その犯罪に係る共助の要請がなされた場合であっても、当該要請に係る事案の社会的事実関係の中に我が国の法の下では組織的な犯罪の共謀罪に該当する行為が含まれる場合には、捜査共助を行うことが可能であると考えられる。

1の(6)のDについて

 新たに捜査共助が可能となる件数については、犯罪という事柄の性質上、これを予測することは困難であるが、国際組織犯罪防止条約の締結に伴い、組織的な犯罪の共謀罪等が新設されることにより、これらの罪に当たる行為についても捜査共助を実施することが可能となる。

1の(7)について

 国際組織犯罪防止条約第五条2は、お尋ねの「合意」について、客観的な事実の状況を検討し、当該状況により推認する方法でこれを認定することができることを規定したものであり、通常の裁判過程で認められている事実の認定方法を確認的に規定したものである。我が国の刑事訴訟法第三百十七条は「事実の認定は、証拠による。」と規定しているが、その認定方法については、証拠によって認定された客観的な事実に基づく推認により罪となるべき事実の認定をすることが認められており、当該「合意」を客観的な事実の状況により認定することは、我が国の法体系に適合するものと考えている。

2の@について

 本法案による改正後の組織的犯罪処罰法第七条の二の罪(以下「証人等買収罪」という。)は、一定の刑事事件に関し、証言をしないこと、虚偽の証言をすること等の報酬として、金銭その他の利益を供与した場合等に成立するものである。したがって、弁護士が、証人となる者等に対し、交通費や日当を支払い、あるいは、証人となる者等との打合せの際の飲食代金を支払うなどしても、それが証言をしないこと、虚偽の証言をすること等の報酬でない限り、証人等買収罪が成立することはない。

2のAについて

 証人等買収罪による処罰の対象となる者は、証人となる者等に対し、証言をしないこと、虚偽の証言をすること等の報酬として、金銭その他の利益を供与するなどした者であって、そのような利益の供与等を受けた者は、実際に虚偽の証言をするなどの行為をした場合に限り、刑法の偽証罪等により処罰されるにすぎないことから、御指摘のようなおそれが生ずるとは考えられない。

2のBについて

 証人等買収罪は、国際組織犯罪防止条約の締結に伴い必要となる法整備の一環として設けるものであるところ、国際組織犯罪防止条約第二十三条は、一定の手続において虚偽の証言をさせるために、又は証言すること若しくは証拠を提出することを妨害するために、不当な利益を供与すること等を犯罪とすることを義務付けており、また、国際組織犯罪防止条約第三十四条2は、「第二十三条の規定に従って定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第三条1に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める」旨規定していることから、証人等買収罪について、御指摘のような要件を付することは、国際組織犯罪防止条約上許されないものと考えている。

3の(1)の@について

 サイバー犯罪に関する条約については、G7諸国はいずれも署名済みではあるが、いまだ締結には至っていない。政府として詳細を把握しているわけではないが、現在、各国において同条約の締結に向けた取組が鋭意進められていると承知している。

3の(1)のAについて

 本法案による改正後の刑法第百六十八条の二第一項(不正指令電磁的記録作成等)の罪は、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」で、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」を作成すること等により成立する。お尋ねの「電子ワクチン」は、いわゆるコンピュータ・ウイルスの除去等のためのプログラムを意味するものと思われるところ、このような電子ワクチンは、一般に、これを実行させようとする者の意図に沿って使用されることを前提として作成されるものであるから、その作成者には「人の電子計算機における実行の用に供する目的」があるとはいえず、また、一般的には、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」にも該当しないため、その製造行為が処罰されることはないものと考えている。

3の(2)の@について

 お尋ねのいわゆるプロバイダにおける通信履歴の記録の実態については、その詳細を把握しているわけではないが、総務省において、プロバイダを含む電気通信事業者に対し、課金等の業務の遂行上必要な場合に限りこれを記録することができ、記録目的を達成した後は速やかにこれを消去するよう指導していることなどから、一般的には、プロバイダが業務上記録している通信履歴の電磁的記録は、短期間で消去されることが多いものと承知している。
 本法案による改正後の刑事訴訟法第百九十七条第三項の規定による通信履歴の電磁的記録の保全要請(以下「保全要請」という。)の制度は、捜査機関が、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者等に対して、その業務上の必要から現に記録している通信履歴の電磁的記録のうち捜査上必要なものを特定し、これを消去しないように求めるものにすぎないこと、その保全の期間も九十日を超えない期間に制限していること、捜査機関は、差押え等をする必要がないと認めるに至ったときは、当該求めを取り消さなければならないことなどから、その求めの相手方に過度の負担を負わせるものではないと考えている。

3の(2)のAについて

 保全要請の対象となる通信履歴の電磁的記録は、その性質上消去や改変が容易であり、実際にも短期間で消去されることが多く、一般的に、消去や改変のおそれが高いと考えられる上、仮に、個別具体的な事案において消去や改変の具体的な危険性がある場合に限って保全要請を行うことができるものとすると、捜査機関は、保全要請に先立ち、通信履歴の電磁的記録が保管されている具体的な状況に関する捜査を尽くさなければならないこととなり、短期間で消去される場合が多い通信履歴の電磁的記録の迅速な保全という目的を達成できなくなるおそれがあることから、御指摘のような限定をすることは適当ではないと考えている。

3の(2)のB及びCについて

 保全要請において、保全の期間の上限を九十日間としたのは、サイバー犯罪に関する条約第十六条2が保全の期間につき「九十日を限度とする」と規定していることや、現在の捜査実務における通信履歴の電磁的記録に係る記録媒体の差押えの実施までに要する期間を踏まえたものである。また、同条約第二十九条7は、他の締約国からの要請に応ずるために行われた保全は「六十日以上の期間のものとする」と規定しており、これに的確に対応するためには、保全の期間が六十日以上であることが必要である。したがって、保全の期間を三十日以内に短縮することは適当ではないと考えている。

3の(2)のDについて

 刑事訴訟法第百九十七条第二項の規定によるいわゆる捜査関係事項照会について、法律上、これを書面で行わなければならない旨規定されていないのと同様に、保全要請についても、法律上、これを書面で行わなければならない旨規定するまでの必要はないと考えている。もっとも、実務上は、捜査関係事項照会が一般に書面で行われているのと同様に、保全要請も、要請の範囲を明確にすること等のため、書面で行われることになると考えている。

3の(2)のEについて

 保全要請は、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者等に対し、その業務上の必要から現に記録している通信履歴の電磁的記録を消去しないように求めるものにすぎず、これを捜査機関に開示させるものではなく、また、仮にこの求めに従わなかったとしても、罰則による制裁もない。このような保全要請の内容や効果にかんがみると、その実施状況につき、一律に国会への報告を義務付けるまでの必要はないと考えている。

3の(3)について

 お尋ねは、本法案による改正後の刑事訴訟法第九十九条第二項及び第二百十八条第二項の規定による電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体からの複写の処分に関するものであると思われるところ、この処分は、差押えの対象である電子計算機が他の記録媒体といわゆるLANで接続されている場合も含め、その電子計算機からアクセス可能なすべての記録媒体について行うことができるものではなく、「当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にある」記録媒体に限って認められ、その範囲は令状に記載されることとしているのであって、この処分の対象が広すぎるとの御指摘や令状での特定が無意味になるとの御指摘は当たらず、明文でこれ以上の限定をする必要はないと考えている。

3の(4)について

 そもそも「頒布」という言葉は、「広く行き渡るように分かち配ること」を意味するものであって、その対象は必ずしも文書等の有体物に限られるものではなく、また、不特定又は多数の者に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為を意味する「販売」も含む概念であることから、本法案においては、電気通信の送信により電磁的記録を広く行き渡るように分かち配る行為や文書等の「販売」を含めて「頒布」の用語を用いることとしたものであり、構成要件の規定の仕方として問題はないと考えている。



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