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答弁本文情報

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平成十九年七月十日受領
答弁第四四一号

  内閣衆質一六六第四四一号
  平成十九年七月十日
内閣総理大臣 安倍晋三

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員前原誠司君提出薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員前原誠司君提出薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問に対する答弁書



一及び二について

 先の答弁書(平成十八年十二月二十二日内閣衆質一六五第二三七号。以下「前回答弁書」という。)一についてで述べたとおり、社会保険制度において、故意又は重大な過失等により障害、死亡、疾病又は負傷という保険事故を生じさせた者に対し保険給付等を行うことは、保険集団全体の利益を損なうなど制度の公益的な性格を損ない、また、保険制度における保険事故発生の偶然性の尊重の趣旨に反するものでもあることから、これらの者に対する保険給付等の制限を行うことは、やむを得ないものであると考えているが、厚生労働省としては、御指摘の「精神障害者である薬物依存症者」について、必要とされるサービスの確保等に努めてまいりたい。

三について

 前回答弁書三についてで述べたとおり、厚生労働省においては国又は地方公共団体から当該活動に対し補助が行われている等の場合で社会復帰に効果が期待できると認められる場合は移送費の支給の対象となるものである旨の基準を示しているところである。この基準に基づく支給の判断は、生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第十九条第四項に規定する保護の実施機関に委ねられているものであるが、障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第二十九条第一項に規定する指定障害福祉サービス事業者等が実施する活動については、基本的に、社会復帰に効果が期待できるものとして認められ、当該活動に参加する薬物依存症者は移送費の支給対象となるものと承知している。

四について

 前回答弁書四についてで述べたとおり、市町村障害福祉計画及び都道府県障害福祉計画は、基本指針に即し、各自治体において、地域における障害者の実情及びニーズを把握した上で作成することとされており、各自治体における個別のニーズの状況については国として把握していないが、薬物依存症者を含む精神障害者のためのサービスについても、地域の実情に応じて市町村障害福祉計画等に適切に定められているものと考えている。
 また、薬物依存症者対策については、厚生労働省の主催により全国六ブロックにおいて薬物中毒対策連絡会議を年一回開催し、同会議における薬物依存症者及び薬物中毒者の治療、社会復帰支援に携わる関係機関の専門家による相談事例等の情報・意見交換を通じて、地域における関係機関の連携強化を図っているほか、薬物依存症者及び薬物中毒者本人の治療や社会復帰を助け、再乱用を防止するためのカウンセリング理論等をまとめたハンドブックや、薬物依存症者及び薬物中毒者の家族向けに自立を助ける上での留意点等をまとめた自立補助読本等を作成するなど、厚生労働省としても積極的に実施しているところである。

五について

 前回答弁書六についてでお答えしたとおり、刑事施設において交付する紹介状については、被収容者の病名、治療の経過、現在の処方の内容等の個人情報が記載されており、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十八号)等の関係法令に従い適正にこれを取扱う必要があることから、原則として、紹介状を希望する被収容者に対して釈放時に紹介状を交付することとし、被収容者が知的障害等のため紹介状の希望の有無を判断することが困難な場合には、紹介状を希望する保護者、身元引受人等に対して当該被収容者の釈放時に紹介状を交付する取扱いとしているところであり、今後とも関係法令に従い、適正な取扱いに努めてまいりたいと考えている。

六について

 刑事施設における医療関係研修は、被収容者の処遇に携わる職員を対象として実施しているものであり、処方を行う医師は対象としていない。
 薬物依存症患者を含め患者に対する処方の在り方等については、医師の専門的判断に委ねられるものであり、刑事施設において研修を行うことは適当でないことから、医師に実務に関連する学会や研究会へ参加させるなどして、知識及び技術の向上を図っているところである。

七について

 更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)に基づき法務大臣の認可を受けた者以外の者には委託事務費は支給されないが、これは、施設の規模や職員等の基準を満たし更生保護事業を営むことが適当と認められた更生保護施設において、その認可基準に照らした適正な処遇が実施されることを確保するために委託事務費を予算措置するという考え方に基づくものであり、このような予算措置の考え方にかんがみると、同認可を受けた者以外の者を委託事務費の支給対象とすることは適当でないと考える。

八について

 お尋ねの「相談件数九千二百八十八件」に対する認識については、前回答弁書十二についてで述べたとおり、薬物依存症が社会的に表面化しにくいこと等から「実際に依存症に苦しんでいる人」の実態を把握することが困難であるため、お答えすることは困難である。
 また、相談体制については、薬物中毒対策連絡会議における講演等の実施や、カウンセリング理論等をまとめたハンドブックの作成等によって、薬物相談担当者等の資質の向上を図るなど、その充実を図っているところである。保健所及び精神保健福祉センターにおける薬物相談の一般市民に対する周知については、薬物乱用防止読本等への相談窓口の掲載等により行っているところである。
 保健所、精神保健福祉センター等で行われる家族教室については、地域の実情に合わせて実施されているものと認識しているが、厚生労働省としても、四についてで述べたとおり薬物中毒対策連絡会議を主催し、同会議における情報・意見交換を通じて、当該家族教室の内容等の充実を図っているところである。

九及び十について

 御指摘の研究としては、平成十年度の厚生科学研究費補助金により行われた「薬物乱用・依存等の疫学的研究及び中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究」等があり、ダルク等における薬物依存からの回復支援に関する実態が研究されてきているところである。厚生労働省としては、これらの研究において、ダルクの活動内容について薬物依存症者の回復支援や再乱用防止における意義が認められていると認識している。
 厚生労働省としては、ダルクに対して、これらの研究結果を踏まえた具体的支援は行っていないが、再乱用防止対策として、障害者自立支援法に基づく自立訓練や共同生活援助等のサービス及び薬物依存症者の家族に対する相談等の事業の適切な実施の確保を図ってきているところである。

十一について

 薬物中毒対策連絡会議への民間団体等の参加については、九及び十についてで述べた研究結果も踏まえ、同会議の趣旨も考慮しつつ、今後検討してまいりたい。

十二について

 お尋ねについては、国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部診断治療開発研究室の業務量等を考慮しつつ、今後検討してまいりたい。

十三について

 薬物依存症者を含む精神疾患者に対する治療は、医師が個々の患者の症状に応じてその内容を決定するものであり、必要に応じて、睡眠薬、抗不安薬等による薬物療法を施す場合があるが、そのような場合においても、薬物依存を高めることがないように留意しつつ、医師の適切な判断により処方薬を投与しているものと承知している。また、御指摘の「依存している薬物を切る」ことについては、既に一般の精神科の医療機関による解毒治療や、いわゆる自助グループ等による支援が行われているものと承知しており、御指摘のような「専門センター」として、公立の精神科病院や精神保健福祉センター等を位置付けることが望ましいものとは考えていない。

十四について

 お尋ねの総合的就労支援対策とは、平成十八年四月から、法務省と厚生労働省とが連携して、無職の刑事施設出所者等の就労を支援するために実施している施策のことである。具体的には、刑事施設の受刑者に対して、就労支援スタッフによる就労指導、雇用情勢に応じた職業訓練、公共職業安定所職員が刑事施設に出向いての職業相談・職業紹介等を実施するとともに、試行雇用制度、身元保証制度等を活用しつつ、公共職業安定所において、無職の保護観察対象者等に対する担当者制によるきめ細かな職業相談・職業紹介等を実施するものである。
 また、保護観察中の薬物事犯者については、必要に応じて、保護観察所で実施する薬物事犯者処遇プログラムを受講させるとともに、医療施設又は民間リハビリ施設等との連携により、必要な医療等の確保に努めることとしている。

十五について

 現在、法制審議会において、被収容人員の適正化を図るとともに、犯罪者の再犯防止及び社会復帰を促進するという観点から、刑事施設に収容しないで行う処遇等の在り方等について審議がなされているところであり、政府としては、今後の議論の推移を見守ってまいりたいと考えている。
 また、現行制度の下においても、薬物事犯で刑を受けた者に対する適切な処遇を図るため、様々な施策を実施しているところである。例えば、保護観察所においては、薬物依存を抱える仮釈放者及び保護観察付執行猶予者等の保護観察を実施するに当たり、医療機関、福祉機関又は公共職業安定所等の関係機関との連携に努めているところである。また、刑事施設においては、薬物事犯による受刑者に対して、再犯防止・円滑な社会復帰のため、外部の専門家の意見を踏まえて作成した処遇プログラムに基づく指導を行っており、その実施に当たっては、ダルク等の民間自助グループや薬物問題に関する専門家の協力を得るよう努めているところである。さらに、薬物事犯受刑者のうち、薬物の使用に起因する幻覚妄想等の精神症状が著しく認められる者については、医療刑務所等に収容して精神科医師による専門的な治療を行い、医療刑務所等に収容するまでもない軽度の症状の者については、一般の刑務所に収容し、必要に応じて投薬治療を行っているところである。

十六について

 御指摘の「ダルクへ移動した場合」に生活保護受給者の移管等の手続を行うかどうかは、保護の実施機関の判断に委ねられており、厚生労働省としては、移動先が障害者自立支援法第二十九条第一項に規定する指定障害福祉サービス事業者であるなど社会復帰に期待できると認められる場合には、移管等の手続は適切に行われているものと承知している。

十七について

 御指摘の「既に罹患している者の数」については、薬物の使用が社会的に表面化しにくいこと等からその実態を正確に把握することは困難であるが、例えば、感染症発生動向調査によると、平成十四年から平成十八年までの間に新たに報告されたウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く。)の患者及びエイズ患者を含むHIV感染者のうち、静脈注射による薬物常用を原因としたものは、それぞれ、十五人及び四十七人となっている。
 また、御指摘の「既に罹患している者」に対しては、感染原因のいかんを問わず、治療の拠点となる病院の設置等による医療提供体制の整備、保健所等への相談窓口の設置等の取組を行っているところである。
 さらに、御指摘の「感染予防策」については、前回答弁書二十一についてで述べたとおり、注射器や注射針を共用することの危険性について注意喚起を行うとともに、薬物乱用防止対策を徹底し、薬物乱用を根絶することにより、注射針の回し打ち等による感染症の罹患等の問題の解決を図ることが必要であると認識している。

十八及び二十について

 御指摘のサービス提供拒否事例については、前回答弁書の二十二についてで述べたとおり、当該サービス提供拒否が法令違反となる可能性があり、アンケート調査等により事業者から正確な回答を得ることが困難であると考えられ、その実態を正確に把握することは困難であるが、厚生労働省としては、このような受入れ拒否がなされることのないよう、今後とも適切な法令の運用に努めてまいりたい。
 薬物依存症者に対応できる専門性のある訓練されたスタッフの養成については、国立精神・神経センターにおいて、薬物依存の診断、治療、予防等に携わる人材の育成を図るため、これまで、医師を対象に計二十回、看護師を対象に計八回の技術研修を行ってきているところである。また、施設の判断により専門性のあるスタッフ等を配置することは可能であり、それぞれの施設において必要な対応が図られるものと考えている。
 御指摘の講義が個々の学校等において、どの程度行われているか、また、それが必修になっているかについては把握していない。

十九について

 御指摘の自治体における実態については把握していないが、障害者自立支援法におけるグループホーム等の居住支援サービスについては、同法第十九条第三項(同法附則第十八条第二項において読み替えて適用する場合を含む。)に規定するいわゆる「居住地特例」により、原則として入所又は入居前の居住地である市町村が給付を行うこととし、御指摘の「遠隔地からの利用者」についても適切にサービスが提供される仕組みとなっているところである。
 また、薬物依存症者への遠隔地での回復支援については、平成十五年度の厚生労働科学研究費補助金により行われた「薬物乱用・依存の実態とその社会的影響・対策に関する研究」において「薬物乱用を行っていた地縁・血縁者からの分離を行うことで乱用抑止の一定の効果を持っていると思われた」という研究結果があることは承知している。



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