答弁本文情報
平成十九年七月十日受領答弁第四七四号
内閣衆質一六六第四七四号
平成十九年七月十日
衆議院議長 河野洋平 殿
衆議院議員赤嶺政賢君提出沖縄戦の強制集団死(「集団自決」)をめぐる文部科学省の検定意見に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員赤嶺政賢君提出沖縄戦の強制集団死(「集団自決」)をめぐる文部科学省の検定意見に関する質問に対する答弁書
一について
お尋ねの申請図書の記述、それに対する検定意見及び検定決定後の記述については、日本史Aでは、山川出版の「島の南部では両軍の死闘に巻き込まれて住民多数が死んだが、日本軍によって壕を追い出され、あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった。」という申請図書の記述に対し、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」とする検定意見が付され、「島の南部では両軍の死闘に巻き込まれて住民多数が死んだが、そのなかには日本軍に壕から追い出されたり、自決した住民もいた。」という記述で検定決定され、東京書籍の「沖縄県民の犠牲者は、戦争終結前後の餓死やマラリアなどによる死者を加えると、一五万人をこえた。そのなかには、日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民や、集団で「自決」を強いられたものもあった。」という申請図書の記述に対し、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」とする検定意見が付され、「沖縄県民の犠牲者は、戦争終結前後の餓死やマラリアなどによる死者を加えると、一五万人をこえた。そのなかには、「集団自決」においこまれたり、日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民もあった。」という記述で検定決定され、三省堂の「沖縄では、一九四五年三月にアメリカ軍が上陸し、日本国内で住民をまきこんだ地上戦がおよそ三か月間にわたって行なわれ、戦死者は日本側で約一八万八〇〇〇人、そのうち一二万人以上は沖縄県民であった。さらに日本軍に「集団自決」を強いられたり、戦闘の邪魔になるとか、スパイ容疑をかけられて殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。」という申請図書の記述に対し、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」とする検定意見が付され、「沖縄では、一九四五年三月にアメリカ軍が上陸し、日本国内で住民をまきこんだ地上戦がおよそ三か月間にわたって行なわれ、戦死者と戦闘による犠牲者は日本側で約一八万八〇〇〇人、このうち、沖縄県民は一二万人以上の数にのぼった。さらに、追いつめられて「集団自決」した人や、戦闘の邪魔になるとかスパイ容疑を理由に殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。」という記述で検定決定され、日本史Bでは、三省堂の「沖縄では、一九四五年三月にアメリカ軍が上陸し、約三か月間にわたった日本国内で住民をまきこんだ地上戦が行なわれ、戦死者は日本側で約一八万八〇〇〇人、このうち、沖縄県民は一二万人以上の数にのぼった。さらに日本軍に「集団自決」を強いられたり、戦闘の邪魔になるとか、スパイ容疑をかけられて殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。」という申請図書の記述に対し、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」とする検定意見が付され、「沖縄では、一九四五年三月にアメリカ軍が上陸し、約三か月にわたった日本国内で住民をまきこんだ地上戦が行なわれ、戦死者と戦闘による犠牲者は日本側で約一八万八〇〇〇人、このうち、沖縄県民は一二万人以上の数にのぼった。追いつめられて「集団自決」した人や、戦闘の邪魔になるとかスパイ容疑を理由に殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。」という記述で検定決定され、清水書院の「現地召集の郷土防衛隊、鉄血勤皇隊、ひめゆり隊など非戦闘員の犠牲者も多かった。なかには日本軍に集団自決を強制された人もいた。」という申請図書の記述に対し、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」とする検定意見が付され、「現地召集の郷土防衛隊、鉄血勤皇隊、ひめゆり隊など非戦闘員の犠牲者も多かった。なかには集団自決に追い込まれた人々もいた。この沖縄戦ではおよそ一二万の沖縄県民(軍人・軍属、一般住民)が死亡した。」という記述で検定決定され、実教出版の「日本軍は、県民を壕から追い出し、スパイ容疑で殺害し、日本軍のくばった手榴弾で集団自害と殺しあいをさせ、八〇〇人以上の犠牲者を出した。」という申請図書の記述に対し、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」とする検定意見が付され、「日本軍は、県民を壕から追い出したり、スパイ容疑で殺害したりした。また、日本軍のくばった手榴弾で集団自害と殺しあいがおこった。犠牲者はあわせて八〇〇人以上にのぼった。」という記述で検定決定され、同社の「六月までつづいた戦闘で、鉄血勤皇隊・ひめゆり隊などに編成された少年・少女を含む一般住民多数が戦闘にまきこまれ、マラリア・飢餓による死者も少なくなく、約一五万人の県民が犠牲となった。また日本軍により、県民が戦闘の妨げになるなどで集団自決に追いやられたり、幼児を殺されたり、スパイ容疑などの理由で殺害されたりする事件が多発した。」という申請図書の記述に対し、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」とする検定意見が付され、「六月までつづいた戦闘で、鉄血勤皇隊・ひめゆり隊などに編成された少年・少女を含む一般住民多数が戦闘にまきこまれ、マラリア・飢餓による死者も少なくなく、約一五万人の県民が犠牲となった。また、県民が日本軍の戦闘の妨げになるなどで集団自決に追いやられたり、日本軍により幼児を殺されたり、スパイ容疑などの理由で殺害されたりする事件が多発した。」という記述で検定決定された。
御指摘の記述については、不幸にも集団自決された沖縄の住民のすべてに対して、自決の軍命令が下されたか否かを断定できない中で、すべての集団自決が軍の命令で行われたと誤解されるおそれがあるとの趣旨で、教科用図書検定調査審議会(以下「審議会」という。)の審議に基づき、検定意見を付したものである。
お尋ねについては、教科書調査官が申請者への検定意見の伝達の際、申請者の求めに応じ、集団自決された沖縄の住民のすべてに対して、自決の軍命令が下されたか否かを断定できないということが最近の見方であるということを前提として審議会の審議に基づき検定意見が付された旨を補足的に説明したものと承知している。
今回の検定意見は、沖縄における集団自決について、最近の著書等で軍の命令の有無が明確ではないという内容の記述があること等を総合的に勘案して、集団自決された沖縄の住民のすべてに対して、自決の軍命令が下されたか否かを断定できない中で、すべての集団自決が軍の命令で行われたと誤解されるおそれがあるとの趣旨で、審議会の審議に基づき付されたものであり、訴訟が提起されていることを直接の根拠とするものではないことから、御指摘は当たらないものと考える。
審議会においては、渡嘉敷島及び座間味島における集団自決に限らず、沖縄における集団自決全般に関して審議がなされたものと承知している。
今回の検定意見は、審議会の各委員がそれぞれの知見により審議した結果に基づくものであり、お尋ねの著書等のすべてをお答えすることは困難であるが、例えば、石原昌家他著「争点・沖縄戦の記憶」があるものと承知している。
教科書調査官は、御指摘の調査意見書を取りまとめるに当たり、学習指導要領、教科用図書検定基準等に照らし、申請図書が適切なものであるか否かについて、学術的、専門的な観点から調査を行ったが、住民の証言は聴取していない。
審議会の委員、臨時委員又は専門委員からどのような意見が出されたかについては、自由な意見交換が制約され、公正、中立な審査が損なわれるおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。
御指摘の調査意見書は、審議のための資料として審議会に提出され、審議会では、当該調査意見書を踏まえて必要な審議を行い、当該審議に基づき今回の検定意見をとりまとめたものである。なお、審議会の部会又は小委員会でどのような意見が出されたかについては、自由な意見交換が制約され、公正、中立な審査が損なわれるおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。
審議会の委員、臨時委員及び専門委員については、教科用図書検定調査審議会令(昭和二十五年政令第百四十号)第二条の規定により、学識経験を有する者の中から文部科学大臣が任命することとされている。教科書調査官については、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)等の規定により、担当する教科等に関し十分な知識を有し、専門的な調査を行うことができる者を任用している。
また、教科書調査官の氏名は、青山孝、淺香修治、浅見直司、荒井和男、池田佳司、卜部勝彦、遠藤貴子、大田浩、岡田力、小串雅則、奥田浩嗣、小原俊、加藤惠己、加藤徹也、加茂川惠司、川上新吾、木部剛、工藤由貴子、小林保則、白石良夫、新保良明、末澤裕子、鈴木康志、須藤拓、高橋直、高橋秀樹、高橋裕一、高橋洋子、田中健一、田中康二郎、田中大士、照沼康孝、冨中利治、中野遵、根岸和義、間晃郎、福士士、正野泰周、松井秀郎、三谷芳幸、村瀬信一、室井俊通、杢子耕一、門間理良、矢吹久、山河重弥、山下直、山本仁、吉田史郎、吉野康子及び脇田美佳であり、このうち日本史を担当する者の氏名は、高橋秀樹、照沼康孝、三谷芳幸及び村瀬信一である。
審議会の専門委員の氏名は、相賀慈恵、青木紀久代、浅井一郎、飯村菜穂子、井口淳子、石川赴夫、今澤紀子、大角欣矢、大山俊幸、奥聡一郎、小塩さとみ、角田範義、粕谷宏美、金尾健美、兼田信一郎、菊地俊一、木津文哉、黒岩伸枝、小西康夫、斎孝則、酒井治人、佐古丞、佐々木史郎、芝正巳、杉本義美、須藤眞平、高崎禎子、高野博子、高橋清久、高橋渉、滝沢由美子、筒井茂徳、鶴田彦夫、野崎雅秀、野田隆博、平岩利文、平垣内清、福島佐江子、福田靖子、前野芳子、間下佳代子、三浦励一、翠川葉子、南道子、宗像勝年、矢崎太一、柳澤政生、山田晴通、山田政美、芳仲美恵子、渡辺知、Jeffrey Miller、John Noel Hamilton、John Philip Oliphant of Rossie、John William Casey、Robert De Silva、Sandra Fotos、Scott Johnston及びSteven Martinであるが、日本史担当がいずれの者であるかについては、自由な意見交換が制約され、公正、中立な審査が損なわれるおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。
お尋ねについては、例えば、実教出版の「日本軍のくばった手榴弾で集団自決と殺しあいがおこった」という記述、同社の「県民が日本軍の戦闘の妨げになるなどで集団自決に追いやられた」という記述等がある。
検定決定後の記述については、沖縄における集団自決について、日本軍の関与がなかったと誤解されるおそれがある記述はなく、御指摘は当たらないものと考える。
教科用図書検定規則(平成元年文部省令第二十号)第十三条第一項の規定に基づき訂正された例としては、市町村合併に伴う市町村名の訂正等がある。また、同条第二項の規定に基づき訂正された例としては、最新の数値にあわせたグラフの更新等がある。なお、同条第四項の規定に基づき勧告した例はない。
御指摘の答弁は、文部科学大臣の権限又は責任を否定したものではなく、文部科学大臣としては、教科書検定は、教育の中立・公正、一定水準の確保等の高度の公益目的のため、学術的、教育的な専門技術的観点から、教育職員、学識経験者等を委員とする審議会の答申に基づいて行われるべきもので、特定の与党、文部科学大臣個人等の政治思想に左右されるべきではないとの考えに基づいて職務を行っている旨を述べたものである。