質問本文情報
昭和三十四年十二月十九日提出質問第二号
在外公館借入金等に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
昭和三十四年十二月十九日
提出者 北條秀一
衆議院議長 加※(注)鐐五※(注) 殿
在外公館借入金等に関する質問主意書
一 在外公館借入金の完済について。
在外公館等借入金の返済の実施に関する法律によつて借入金一件五万円までの返済を実施したのであるが、これに対して五万円を超過する金額を支払うべきであるとして、昭和二十七年(7)第三六五〇号在外公館等借入金返還請求訴訟事件を提起し、昭和三十一年三月十七日東京地方裁判所民事十一部において判決が下され、原告たる国は敗訴した。しかるに政府はただちに控訴し、じ来三年有余の裁判を続け近く判決が下るものと考えられていたが、最近判決がひきのばされたとのことである。
由来古今東西を通じて「裁判の勝ち負けは財布のひもの長さによる」というたとえがある位であつて、本件の原告がたとえ第二審において勝訴したとしても、その返還を受ける金額はわずか三万数千円にすぎない。原告の公訴維持は犠牲が大き過ぎる。
又若し最終審において原告が勝つたとして、これと同様の他の利害関係者が、原告と同様の処遇を受けるためには裁判によらねばならない。他方政府が本件の正当性を認め、全関係者の借入金の返還をしたとしても、その総額は四億円をでないことは明らかにされている。
以上の事情を十二分に勘案し、国家正義の上に立つて、この際政府は本件を十分に反省し、在外公館等借入金の返済の実施に関する法律を改正し、全関係者に残額を支払うように措置をとつてはどうか。
二 インド国よりの引揚者の在印財産について。
昨年十月一日日印両国間の協定が成立し、インドよりの引揚者の在印財産は本人に返還されることとなつた。その結果、政府は、それら引揚者に返還措置を取つたはずであるが、その具体的措置の内容を明らかにされたい。
三 アメリカ引揚者の在米財産について。
サン・フランシスコ平和条約により、アメリカ合衆国よりの引揚者の在米財産は、ことごとく没収されるという結果となつた。その後アメリカ政府は、その財産の一部を返還せんとし、昭和三十一年以来米議会上院において繰り返えし討議されているのである。
これと同質問題としてドイツ人の財産の一部はすでに金銭をもつてそれぞれ補償的返還をされたのである。
しかりとすれば、なぜ日本人に対してはドイツ人同等の措置が講ぜられないのか。これは一にかかつて政府の優柔不断なる折衝によるものと考えられる。
本件につき政府は対米折衝を行つているのか。また行う考えであるのか。
四 戦前中国における生命保険契約について。
戦前中国において一時払の生命保険契約をしたものが、引揚げ後、その実支払額(日本円換算)の何分の一しか当らぬ金額の支払を受け、契約を解除せしめられたことははなはだ不当なことと考えられる。
もちろん、この支払は法規の命ずるところによつたものであるとはいえ、その契約者に対する支払金額の限度については大蔵大臣の命令によつたものであり、従つて、大臣命令は一万円とするか、何万円とするか相当に幅を持ち得たはずである。生命保険会社はそれぞれ今日隆々と繁栄しているのである。この際政府は、あらためて大蔵大臣命令をもつて、さきの命令を是正し、生命保険契約者に相当額の追加支払をなしたらどうか。政府の所信を詳細に承りたい。
五 旧満鉄及び華北交通社員中の軍属者の処遇について。
南満洲鉄道株式会社及び華北交通株式会社の元社員で軍属として前線に活躍し、公務死亡した者は二千人余を数え、一千人余がかろうじて生を全うして帰還したのである。これらの者は、敗戦後の混乱のために立証書類もなく、ために軍属としてなんらの処遇を受けていない。
国家正義の上から誠に遺憾なことであるが、政府としては、わずか四千人のこれらの人達に軍属としての処遇を与えることを、この際あらためて考慮してはどうか。
六 在外財産問題審議会の復活について。
昭和三十一年十二月十日在外財産問題審議会が政府諮問の第二について答申を決定した際、当時内閣官房副長官田中栄一氏は右答申によつて一応本審議会を解散する措置をとるが、将来第一の諮問事項(在外財産について)について必要の生じた際にはふたたび設置する旨明言されたのである。
その後、日韓会談において、在韓日本人財産に対する請求権を政府は一方的に放棄したのである。従つて、政府としては当然にそれら財産の原所有者に対して補償措置を講ずべきであるが、いかなる所存であるか伺いたい。
また在韓財産問題がかかる方法によつて放棄されたとすれば樺太、満洲、中国における日本人財産も必ずや同一の措置を取るものと想像されるが、この際政府は田中官房副長官の言明通りに、あらためて在外財産問題審議会を設置して、将来に問題を残さないように措置をしてはどうか。政府の所信を伺いたい。
右質問する。