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昭和四十二年十二月二十七日提出
質問第一号

 新潟県阿賀野川河口附近における水銀中毒事件の調査等に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和四十二年十二月二十七日

提出者  小澤貞孝

          衆議院議長 石井光次郎 殿




新潟県阿賀野川河口附近における水銀中毒事件の調査等に関する質問主意書


 阿賀野川河口附近の水銀中毒事件については、厚生省は、食品衛生調査会の答申を厚生省の見解とし、「特につけ加えるものはない」という意見を昭和四十二年九月二日付で科学技術庁に申達した。
 しかるところ、その後の衆議院科学技術振興対策特別委員会(以下科学技術委員会と略称する)または、衆議院産業公害対策特別委員会(以下公害委員会と略称する)の質疑で明らかなように、食品衛生調査会は、独自の調査を行なわずに、特別研究班報告書に基づいて結論を出しているが、特別研究班の調査内容には、正しい結論を導き出すことはとうてい不可能と思われるような事実誤認、調査不十分、故意又は過失と思われる事実のわいきよく等があることが明らかとなつた。
 よつて、厚生省の回答から、現在判明しているそれらの点の一部について質問し、厚生省および農林省の見解を承り、本中毒事件の事実関係を的確には握し、真因を究明いたしたい。

一 日本瓦斯化学の調査に関連して、小林食品衛生調査会長は、さる九月十一日の公害委員会において、日本瓦斯化学を汚染源から除外したが「新井郷川の水の流れが逆であれば再検討の要がある」旨の答弁をしてるが、この水の流れはもとより下記のように数項目にわたり、その後新たな事実が明らかとなつた。すなわち、
 (a) 新井郷川の水は、昭和四十二年八月十日提出質問第三号に対する昭和四十二年九月二日受領答弁第三号および昭和四十二年九月十一日公害委員会における、館林局長の「川の流れに関しては、政府と疫学班とは意見の違いがございます」と答弁しているごとく、明らかに事実誤認を認めている。
 (b) 昭和四十二年十一月二十九日の厚生省の提出資料(十一月十日科学技術委員会にて資料要求を行なつたのに対して、厚生省の正式提出資料 ― 以下単に提出資料という)において、「日本瓦斯化学排水口の水こけからはガスクロマトでメチル水銀の所見を得ている」といつている。
    これは、疫学班報告書にもなく、まして食品衛生調査会提出資料にもなく、厚生省が、科学技術庁に結論を申達した後に発表されたものである。
 (c) また、提出資料によれば、新井郷川と阿賀野川を結ぶ水路について、「この水路は地震時河底が隆起し、水は流れなくなり、しばらく復旧が行なわれなかつたので、地震直後の津浪の影響は受けていない」としている。
     地震後に水路の水が流れなくなつたとしても、地震前からの長期にわたる日本瓦斯化学の排水についての汚染を否定することにはならない。
 (d) また、提出資料によれば、「新井郷川沿いにある日本瓦斯化学の排水口、水路(新井郷川と阿賀野川を結ぶ水路)などの位置的関係をみると、河口から約三〇〇メートル、五〇〇メートル、七〇〇メートル、九〇〇メートルの地点に排水口があり、二一〇〇メートルの地点が水路となつている。水路の長さは約七〇〇メートルである。アセトアルデヒド製造の排水は五〇〇メートルの地点の排水口から排出していた」とある。
     これによると、日本瓦斯化学の排水口から患者の発生地に注ぐ阿賀野川への流入口まで、それぞれ、二・五キロメートル、二・三キロメートル、二・一キロメートル、一・九キロメートルの近距離にある。六〇キロメートル余上流の昭電鹿瀬工場とは比較にならないほど重要である。
     しかも、新井郷の塩分分析の結果から海水は、新井郷川と阿賀野川を結ぶ水路上流に及んでいることが明らかとなつているから、日本瓦斯化学の排水は、海水とともに新井郷川を遡上して水路を経て阿賀野川に注いでいたこととなる。
 (e) また、提出資料によれば、日本瓦斯化学の昭和三十九年度のアセトアルデヒド生産量は、年間八五三九キログラムであつて、疫学班報告の月四〇〇キログラムとは著しく異なる。
  以上(a)から(e)まで各項は、厚生省が結論を出して科学技術庁に申達した以後に提起された事実である。これは後述する各種の項目と同じく、本事件の基礎調査を行なつた疫学班の調査のずさんであつたことを物語るものである。かかる事態に当たつて厚生省はどう対処するか。
二 中毒の発生状況について、提出資料では、熊本大学の水俣病などをあげて「明らかに慢性中毒を実証している」と述べ、また、「本中毒の発生はさきの熊本の水俣病発生と同様に汚染された魚介類を反覆して多量に摂取することにより、人体に移行蓄積しておこつたものである。一時的に濃厚な汚染物質をごく短期に摂取しておこる急性の中毒でないことは、臨床的に明らかにされていることである」と述べている。
  これはきわめて重要な意味をもつている。すなわち、厚生省は、食品衛生調査会の答申になんらつけ加えるものはなく、答申をもつて厚生省の見解とすると言明している。
  食品衛生調査会答申は「昭和三十九年八月から四十年七月にわたり、定型的な症状を示すメチル水銀中毒患者が多数発生した原因は、一のほかにメチル水銀を含む水銀化合物が比較的急激かつ多量に患者の体内に蓄積されたことによるものであると考えられる。これらは魚の多食ということのほかに、魚体内のメチル水銀蓄積量が高められたということが重なつて発生したものと推定される」と述べている。すなわち、川魚及びそれを喫食した人間の一時濃厚汚染が、直接原因であると推定しているのであるが、厚生省はかかる重要な答申内容を否定していると思われる。厚生省の見解を問う。
三 提出資料の中で、長期広域汚染の裏付けとなる重要なものとして、「婦人の長髪水銀保有量の経時変化」なるものをグラフを付して提示したが、これについてはさる十二月十四日の公害委員会において、環境衛生局長はその誤びゆうを認めて削除することになつたが、さらに左記項目に事実の誤認とわいきよくがみられた。すなわち、
 (a) 提出資料によれば「本中毒の人体内の水銀量を高めた主なる川魚と目されているニゴイは、その魚齢別の水銀量を見ると別紙IIのごとく相対的に魚齢の高いものに水銀量が多くなつている」として、附表(提出資料別紙II)を提示された。この表は作為的な表としか思われない。
    なぜならば、
   (イ) 本表の最初の三例は疫学班報告のものであるが、同報告書にある他の七例が削除されている。特に患者発生地帯で四十年六月から七月にかけて採取された二三、〇六PPM二一、〇PPM九、〇三PPMと多量に水銀を含むニゴイを削除している。
   (ロ) また、四十二年一月に患者発生地帯の一日市で採取されたニゴイ一歳魚〇、四PPM、三歳魚〇、三八PPM、四歳魚〇、二三PPMも除外されている。これを入れて考えると、魚齢別の水銀量はきわめて不規則となる。
      これは、「相対的に魚齢の高いものに水銀量が多くなつている」という結論とはならないことを示している。しかも、この作為的な表が食品衛生調査会に提出した資料であるから重大である。
 (b) 塩水楔による汚染を否定する論拠として、信濃川の魚は阿賀野川の魚に比較し汚染度が少ないとして、両川の川魚の水銀量比較表を出している。その採取場所について、提出資料によれば、一目りよう然、信濃川の川魚は塩水楔の及ばないはるか上流のものである。塩水楔否定論拠になり得ない。
 (c) 提出資料によれば広域汚染について「特に注目されることは、鹿瀬町に一〇〇PPMをこえる水銀保有者が二名発見されていることである」として、遠○ツ○の一八七、〇PPMと遠○幸○一〇七、五PPMを表示している。遠○幸○は遠○好○郎の誤りとみられるが、これは疫学班中間報告では五、〇PPMとあり、同最終報告では七五PPMに訂正された。ところが、今次提出資料ではまたまた、一〇七、五PPMとされている。提出資料の信頼性を疑わざるを得ない。 以上(a)(b)(c)三項について、厚生省の見解を明らかにされたい。
四 農林省では、さる十月二十日、四二水調第九四二号によつて「厚生省の見解に特につけ加えるべき意見はない」との答申をした。これについて次の各項について答弁されたい。すなわち、
 (a) 前述厚生省に対する質問一、二、三、で明らかなように、新たに指摘された問題については、どう取り扱うか。
     さる十二月十四日の公害委員会において、山中水産庁次長は「新しい事実につきましては、検討いたさなければならないと思つております」と答弁しているが、本質問主意書以外にも農薬保管の状況、撒布防除農薬の河川汚染等々について厚生省が科学技術庁に結論を申達した以後において、問題が提起されている。これらに対する農林省の見解を伺いたい。
 (b) 山中水産庁次長は去る十二月十四日の公害委員会で、農林省独自の「われわれがやりました調査に基づいてやつているわけでございます」と答弁しているが、その調査は千九百六十六年三月日本海区水産研究所の「阿賀野川における魚介類ならびに底生生物の分布調査」のことであるか。そして、調査はそれのみであるか。
     ほかに、独自の調査があればそれを明示されたい。
 (c) 前項の「阿賀野川における魚介類ならびに底生生物の分布調査」の一三頁の「まとめ」において、「魚類の水銀含有量についてみると、必らずしも高年のものに蓄積されたとか、あるいは、若年のものに多いということもないようである。同一魚類について比較しても、含有量にかなりの変動がみられる」としている。これについては前三項に述べたように、厚生省は長期汚染の理由として、「相対的に魚齢の高いものに水銀量が多くなつている」として、明らかに水産庁の見解と対立している。これについての農林省の明解な答弁を承りたい。

 右質問する。




阿賀野川ニゴイ水銀含有量




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