昭和四十三年一月三十日受領
答弁第一号
(質問の 一)
内閣衆質五八第一号
昭和四十三年一月三十日
内閣総理大臣 佐藤榮作
衆議院議長 石井光次郎 殿
衆議院議員小澤貞孝君提出新潟県阿賀野川河口附近における水銀中毒事件の調査等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員小澤貞孝君提出新潟県阿賀野川河口附近における水銀中毒事件の調査等に関する質問に対する答弁書
質問主意書の一から三までに対する厚生省の見解及び質問主意書の四に対する農林省の見解は、次のとおりである。
一(a) 昭和四十二年九月十一日衆議院公害対策特別委員会において食品衛生調査会委員長は、「日本ガス化学からの排水が長年にわたつて阿賀野川に入つておつたとすれば、これは十分考えなければならない」と答弁しているが、これは、日本ガス化学からの排水に関して述べているのであつて、新井郷川の水の流れが逆であれば再検討の要があるという主旨ではない。
また同委員会において舘林環境衛生局長が「川の流れに関しては、政府と疫学班は、意見の違いがございます」と答弁しているのは新井郷川と阿賀野川を結ぶ水路の水の流れに関して、疫学班と政府の間に意見の違いがあるということを述べたものである。
新井郷川は同川と阿賀野川を結ぶ水路より上流にある排水機により排水も行なわれているので、同水路より下流にある日本ガス化学の排水を含む新井郷川の水が、この水路までそ上してきて、この水路を経て、阿賀野川へ流れ込むようなことは考えられない。このことは昭和四十二年八月十日提出質問に対する答弁書においても述べたところである。
(b) 日本ガス化学の排水口附近の泥からは研究班も水銀を検出しておりアセトアルデヒドの製造工程からメチル水銀が副生することは、当初から想定されたことであつて、その排水口の水こけからメチル水銀の所見を得たことは、(a)において述べたことと合せて研究班報告や食品衛生調査会の答申に影響を及ぼすものでないと考える。
(c) (a)において述べたように新井郷川と阿賀野川を結ぶ水路を通じて日本ガス化学の排水が阿賀野川を汚染することはなかつたものと考える。
(d) (a)において述べたように日本ガス化学の排水が阿賀野川を汚染したことは考えられない。
(e) 研究班が月産およそ四〇〇トンであつたと報告したのは、日本ガス化学の月別生産量に相違があつたためである。
以上述べたように、これらはいずれも食品衛生調査会の答申の結論を変えるものではないと考える。
二 食品衛生調査会の答申は、メチル水銀化合物が川を長期に汚染して川魚に蓄積され、それを常に多量に摂取する住民の体内水銀保有量が異常に高められたことが中毒発生の基盤をなしているとし、このような状態だけでも中毒発生の可能性があると述べたのち、さらに、昭和三十九年八月から昭和四十年七月にわたり中毒患者が多数発生した原因は、このような基盤に加えて水銀化合物が比較的急激かつ多量に患者の体内に蓄積されたことによるものであると述べているのであつて、この中毒が濃厚な汚染物質を極めて短期間に摂取しておこる急性の中毒であることは述べていない。従つて、提出資料は食品衛生調査会の答申を否定していない。
三(a)(イ) この附表は、阿賀野川の魚類の水銀含有量を魚齢別にまとめたものであつて魚齢が不明なものは除外したものである。
(ロ) 食品衛生調査会には総ての事例についての資料が提出され、これらについて検討されたものであるが、小澤委員への提出資料には整理もれにより、含まれていなかつたものである。
(b) 塩水楔による汚染を否定する論拠については、昭和四十二年十一月十日衆議院科学技術振興特別委員会における要求に基づいて小澤委員に提出した資料のとおりである。
(c) 御指摘のとおり遠○好○郎の毛髪水銀量は七五PPMであつた。
四(a) 当該事件については、現在科学技術庁を中心に政府見解をとりまとめ中であり、厚生省が科学技術庁に見解を申達した以後に提起された新しい問題があれば、その際あわせて考えたい。
なお、当該申達以後農薬保管の状況、撒布防除農薬の河川汚染について提起された問題はないと考える。
(b) 当該事件に係る調査については、一九六六年三月日本海区水産研究所が報告した「阿賀野川における魚介類ならびに底生生物の分布調査」のみである。
(c) 厚生省はニゴイについて「相対的に魚齢の高いものに水銀量が多くなつている」という見解であるのに対し、日本海区水産研究所の調査はニゴイの水銀含有量を測定していないので、当調査と厚生省の見解と対比することは極めて困難なものである。
右答弁する。