衆議院

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昭和五十年三月十一日提出
質問第一〇号

 不動産登記法第百五条についての法務省民事局長通達に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十年三月十一日

提出者  大出 俊

          衆議院議長 前尾繁三郎 殿




不動産登記法第百五条についての法務省民事局長通達に関する質問主意書


 参議院議員鈴木強君が、昭和四八年七月七日に不動産登記法第百五条についての法務省民事局長通達に関する質問主意書を、及び同年九月二五日に同通達に関する再質問主意書(以下これらの質問主意書及びこれに対する答弁書を、単に質問及び答弁並びに再質問及び再答弁という。)を提出して右法務省民事局長通達(昭和三六年二月七日付民事甲第三五五号通達、以下本件通達という。)について質問したところ、内閣は、右通達が適法であると答弁しているが、本件通達が違法なため、登記官は本件通達に従つて、所有権移転仮登記の本登記申請を違法に却下して、不動産所有者の権利の行使を違法に妨害し、その権利を明白に侵害し、もつて取引の安全を阻害していると認められる。
 しかして、その後、質問記載のB、Aから世田谷登記官に対する訴訟は最高裁判所第一小法廷で昭和四九年五月三〇日世田谷登記官が一部敗訴した判決(以下単に本件一小判決という。)があり、また、最高裁判所大法廷で昭和四九年一〇月二三日いわゆる仮登記担保権という新たな担保権を創設した判決があつて、従来の各小法廷がなした代物弁済予約に関する違法な判例理論を大きく変更した。
 最高裁判所判例は、所有権移転仮登記権利者が不動産の実体的所有権を取得して、所有者となつて登記義務者と共同で所有権移転本登記申請をしても、登記官が本件通達に従つてこれを却下した以上、仮登記権利者であつた実体法上の所有者は「現実に本登記を経由していないから所有者でない。」との民法及び不動産登記法における第三者対抗要件の基本原則に従つて、所有者を敗訴させているのであるから、内閣は本件通達を取消して、右本登記申請を受理させることが適法かつ正当な行政であると考える。
 しかして、さきの答弁及び再答弁には、不動産についての実体法上の所有権の効力発生要件及び第三者対抗要件につき明白な誤解があるものと認められるので、私は鈴木強君のあとを継いで、同君の再質問に表示した具体事例を、左記のとおり更に具体的に表示して、改めて内閣の見解を伺いたい。

       記

 甲 区

  一番  所有権移転 所有者 A
  二番  停止条件付所有権移転仮登記(四二・二・一四受付第四七七七号) 所有者 B
     (Bは、四五・四・一〇条件成就により代物弁済として本件不動産の所有権を取得し、
     その引渡を受けた。)
  三番  仮差押 債権者 C
  四番  仮差押 債権者 D
  五番  任意競売申立(四四・一一・七受付)申立人 X´
     (本件不動産(土地を含む)の四五・一一・一一の最低競売価額一、三一〇万円)
  六番  所有権移転仮登記(四五・四・一四受付) 権利者 B´
  七番  所有権移転 所有者 E(仮定)
  八番  所有権移転 所有者 F(仮定)

 乙 区
  一番  根抵当権設定 根抵当権者 W
     (債権額五〇〇万円)
  二番  抵当権設定抵当権者 X
     (債権額四二五万円)
  三番  抵当権設定(四二・二・一四受付第四七七六号)抵当権者 Y
     (債権額三五〇万円、四五・四・一〇、YはBに債権額八五万円を譲渡した。)
  四番  賃借権設定(四二・二・一四受付第四七七八号)権利者 Z

 そこで、再質問の頭書で述べた事項を、更に具体的に補充すると、BはAから条件成就により昭和四五年四月一〇日、三番抵当権付債権の元本八五万円に対し、W、X、Yの抵当権付債権一、七三五万円の負担を引受けて本件土地、建物の代物弁済を受け、同日これが引渡しを受けると共に、同日、B、A共同で世田谷登記官に対し本登記申請をしたので、右八五万円の債権は同日消滅した。
 ところが、世田谷登記官は同月一四日右本登記申請には、C、D、X´、Zの承諾書の添付がないから却下するというので、Bは同日右申請を取下げて、同日、B、A共同申請により、甲区六番に、登記原因を昭和四五年四月一〇日代物弁済として、所有権移転仮登記をなして順位を保全した。

一 内閣は、再答弁一において「Bの本登記がされると、その登記の順位は、仮登記の順位によることになるので、仮登記後に所有者がAであることを前提としてなされたC、Dの仮差押、X´の任意競売の申立て及びZの賃借権設定の各登記は、Bの本登記と両立し得ない登記となる。」と答弁しているが、右は論理法則上、本登記される前に、同時に及び本登記された後にの区別を誤つたもので、正確には「Bの本登記がなされたときには、……Bの本登記と両立し得ない登記となる。」との誤りであるから、登記官はBの申請どおりの本登記をなし、Bをして、第三者対抗要件を具備させることが、民法、民事訴訟法及び不動産登記法(以下この三法律を本件三法律という。)の効力発生要件及び第三者対抗要件の基本原則に従う行政であると考えるが、どうか。
二 Bは実体的所有権を取得したときに、登記官に対し、B、A共同申請による本登記申請権を有するものであるから、登記官が、C、D、X´及びZ(以下この四者を本件四者という。)の承諾書の添付がないとの理由で、Bの本登記申請を却下することは「登記は登記権利者と登記義務者による実体的権利変動に符合した登記申請があつた場合には、必ず受理されなければならない。」と規定する不動産登記法の基本原則に違反する運用であつて、Bの所有権を違法に侵害する行政であると考えるが、どうか。
三 世田谷登記官は、本件一小判決において「X´に対する承諾書の添付を要求したのは違法である。」として一部敗訴したが、右敗訴の原因は本件通達が違法であるからであると考えるが、どうか。
  また、国は、右世田谷登記官の一部敗訴に対し国家賠償責任があるものと考えるが、どうか。
四 内閣は、本件四者の登記が「Bの本登記と両立し得ない登記となる。」と答弁しているが、右は登記順位に基づく判断であるから、登記官の判断に属する事項であるとして解釈しているものと考えるが、右は本件三法律を誤解したもので、右の「両立し得ない」との判断は「登記順位に基づく実体法上の権利関係についての判断であるから、登記官の形式的審査権限に属する事項でない。」と考えるが、どうか。
  換言すれば、本件通達は実質的審査権のない登記官をして、Bに対し本件四者の承諾書を添付することを強要している結果、本件一小判決において世田谷登記官が一部敗訴したのであつて、本件通達は登記官に対し違法かつ不当に重い負担を課したものと考えるが、どうか。
五 内閣は、不動産の取引においては、その不動産についての抵当権、賃借権、仮差押及び任意競売申立などの負担を引受けるいわゆる「負担引受主義」によつて、その取引が円滑に行われている事実を認識しているものと考えるが、どうか。
 1 具体的事例は、Bが、Aの設定した抵当権及び賃借権の負担を引受けて、代物弁済によつて本件土地、建物の所有権を昭和四五年四月一〇日に取得したものであるが、かかる取引は実体法上適法であると考えるが、どうか。
 2 右の負担引受主義による取引が適法であるならば、Bは実体関係に符合した本登記をすることができるはずであるから、登記官は、この場合において、本件通達に基づかずに、本件四者の承諾書の添付なしに、Bの本登記をすることができると考えるが、どうか。
 3 Bがなした負担引受主義による不動産取引は、昔から行われていたものであつて、右取引によつて不動産登記における公示上の混乱をきたしたり、取引の安全を阻害したりした事実はなかつたと考えるが、どうか。
 4 世田谷登記官は、Bが、本件不動産の取引が負担引受主義によるものであることを証明したにもかかわらず、本件四者の登記を「職権で抹消する権限がある。」と称して、本件取引に違法に介入し、本件四者の承諾書の添付がないとの理由で、B、Aの本登記申請を却下し、訴訟したが、かかる職務の執行は、本件不動産についての所有権、抵当権、賃借権及び仮差押債権を侵害する違法な行為であると考えるが、どうか。
六 内閣は、答弁二〇において、登記官が職権抹消をするための「登記上利害関係を有する者の承諾書の添付は、公示上の混乱を防止するという公共の福祉の実現を図るための必要かつ合理的な制約であり、憲法、及び不動産登記法に違反するものでない。」と答弁しているが、負担引受主義によるBの本登記申請が却下されたため、Bが本件不動産を売却して、Aの債務を清算することができないでいる事実を検討したときに、右答弁は本件三法律に違背する違法な行政であると考えるが、どうか。
七 B、A及び利害関係人らは、登記官の本登記申請却下処分によつて、次のとおり本件不動産に関する権利を侵害されて、損害を受けたが、内閣は、これに対し、国家賠償責任があると考えるが、どうか。
 1 Bは、本件不動産がBの所有名義にならない結果、Bがこれを売却し、又は銀行に担保に入れて資金を調達することができないため、Aの債務の清算を引受けたのに、清算することができないので、多額の損失をして、同額の損害を受けた。
 2 Bは、C、Dを相手方とする本登記承諾訴訟、第三者異議の訴及びその他の訴訟を、仮登記のままでやることを強制され、そのうえ、本件通達及び最高裁判所判例が憲法違反の違法なものである旨を主張、立証しなければならなかつたため、多額の訴訟費用を支出したので、同額の損害を受けた。
 3 Aは、右1記載の理由により、Bが、Aの債務の清算をすることができないため、Aが五年間にわたる多額の遅延損害金を賦課されたので、同額の損害を受けた。
 4 C、Dは、本件不動産の売却代金から配当を受ける見込みがないのに、右2記載の訴訟で、多額の訴訟費用を支出させられたので、同額の損害を受けた。
 5 W、Y、Zは、右1記載の理由により、Bが、Aの債務を清算することが遅れているため、多額の損失をして、同額の損害を受けた。
 6 Zは、Bから、理由もないのに、本登記承諾書の交付を強要されたので、その意に反してこれを交付した結果、適法な賃借権設定登記を抹消される不利益を負担することになり、右抹消による相当額の損害を受けた。
八 国民は「不動産を買つたときには、すぐに登記するものである。」という事理を知つているのに、登記官は、Bが不動産を買つて、B、Aの共同による本登記申請をしたのに、これを却下して、五年間もBが自己の名において、その所有権を行使することを妨害しているが、右は内閣が不動産登記法の執行において、国民常識に反する違法な行政をしているものと考えるが、どうか。
九 内閣は再答弁六において、例えば、本件不動産の実体法上の所有名義がA→E→Fと移転し、また、A→B´及びA→BとB´、Bがともに本登記をしたとすると、「B、B´及びFは、ともにAから所有権の移転を受けたものとして三者の登記名義が併存することになる。このような状態を放置した場合、これらの者の権利の優劣を登記に記載された受付番号のみによつて判断することは不可能であり、不動産に関する権利関係を明確に公示するという登記制度の趣旨に反する。」(以下右所有者が三名併存する説を、単に三者併存説という。)と答弁しているが、右答弁は民法及び不動産登記法に違反すると共に論理法則に違背する違法な行政であると考えるが、どうか。
一〇 この三者併存説は、第百五条を創設した立法理由であつて、同条の制定はこの三者併存説を適法化するための苦心の立法であつたと考えるが、どうか。
  また、この三者併存説による行政は、大審院及び最高裁判所の判例に従つたものであると認めるが、内閣は不動産登記法の執行責任者として、本件三法律の基本原則に従つて適法かつ論理法則に適合した行政をなすべきであると考えるが、どうか。
一一 内閣は、この三者併存説に従つて、実体法上の所有権の移転が引渡し及び登記を必要とする取引であることを認識しながら「A→E→Fと実体的所有権が移転し、Fに対し引渡し及び登記が行われた後においても、Aはなお契約上の登記義務者であるから、Aが、なお、実体的所有権者として、B´及びBの両者に対し、それぞれ引渡し及び本登記をすることができる。」と本件三法律を誤解して、登記実務を運用してきたが、右三者併存説による本登記申請の却下は、「登記が有効であるためには、登記の記載に符合した実体法上の権利関係が存在することを要し、これを欠くときは無効である。」との基本原則を全く誤解した違法な運用であつて、明白かつ重大なかしある行政処分であると考えるが、どうか。
一二 国民は、不動産を買うときには、現地を見て、かつ登記簿を見て買うもので、AからF、B´及びBの三人が買つていたなら、誰がその不動産の引渡しを受けたか、そして誰が先に所有権移転登記をして第三者対抗要件を具備したかを確認するものであると考えるが、どうか。
  従つてFが現在の所有者であつたなら、BはAからの特定承継人であるFから引渡し及び本登記を受けることができるのみで、A及びB´からはできないことが、不動産登記法の基本原則であり、かつ国民常識であると考えるが、どうか。
一三 ところが、内閣は、登記官をして、三者併存説によつて、違法な手続で実体法上両立し得ない三者の所有権移転登記を受理して、自ら公示上の混乱を作り出しておいて、この混乱を処理するため意味のあいまいな第百五条を制定し、同条の制定後一年もたつてから、違法な本件通達を発令し、Bの本登記申請を違法に却下し、もつて五年間の長期にわたつて、Bの本登記を妨害しているものであると考えるが、どうか。
  また、登記官は、本件通達に従うことが、その職務権限を越える違法な行政であることを知らないで、本登記却下処分をなして、Bの本件不動産所有権を違法に侵害したものであると考えるが、どうか。
一四 内閣は「登記官は登記簿に記載された権利の内容のすべてを識つているから適法な行政ができるものである。」と誤解し、登記官をして「利害関係人の権利を保護し、取引の安全と円滑を保護し、もつて、公示上の混乱を防止し、よつて公共の福祉の実現を図つている。」と答弁しているが、登記官は仮差押の債権額や、抵当権の債権の現在の残額を識つていないため、右のような立派な行政を現実に遂行していないと考えるが、どうか。
一五 具体事例において、BがA→B登記により本登記をしたときには、Bの所有名義があるのみで、他の所有名義が、二重又は三重に併存することはあり得ないのであるから、登記官は本件通達に従うことなく、Bの本登記を受理しても「公示上の混乱は発生しないものである。」と考えるが、どうか。
一六 登記官は、本登記申請人に対し、仮差押及び任意競売申立の登記につき、その承諾書又はこれに代る本登記承諾請求訴訟の判決を添付することを要求し、右承諾書によつて、民事訴訟法又は競売法によつて裁判所がなした職権登記を、「登記官の権限に基づく行政である。」と称して職権で抹消しているが、右は、登記官の本登記申請人に対する職権の乱用による所有権の侵害であると共に、裁判所に対する職務権限の明白かつ重大な侵犯になる違法な行政であると考えるが、どうか。
一七 仮差押及び任意競売申立の登記及びこれが抹消登記については、民事訴訟法及び競売法に立派な規定があるのであるから、登記官は本登記申請人に対し「本登記を申請する前に承諾書を取つてこい。」という無理な要求をしないで、昔のように「裁判所が職権で抹消することが適法である。」と考えるが、どうか。
一八 世田谷登記官は本件通達に従つて、Bに対し「Zの承諾書を添付せよ。」と不可能なことを強要し、右承諾書によつてZの賃借権設定登記を、違法にも職権で抹消しようとしているが、右強要及び抹消は、Zが抵当権者にさえも対抗することができる権利である民法、借地法及び借家法によつて保護されている賃借権を違法に侵害する行政であると考えるが、どうか。
一九 所有権移転仮登記権利者は、仮登記によつてその権利の順位を保全しているものであり、右仮登記後に登記をする者は、右仮登記があることを認識し、実体法上自己の権利の登記が将来、抹消されて無効になることを認識して登記をしたのであるから、登記官は右仮登記権利者に対し「承諾書を添付せよ。」という無理な要求をしないで、右保全された順位に、直ちに本登記をなし、右無効については当事者に後日処理させることが、適法かつ論理法則に適合する職務の執行であると考えるが、どうか。
二〇 大法廷判決は、内閣答弁と同様、仮登記に第三者対抗要件を認めて「仮登記担保権者は仮登記のままでその優先順位を主張し得ることとなるが、それは、右権利者が仮登記のままの状態においても、その権利の実行として換価処分の権能を行使し、その一環として所有権の本登記をすることによつて債権の排他的満足を得る法的地位を取得していることによるものであつて、仮登記の段階で、その本登記がされた場合と同様の権利主張、即ち所有権の取得そのものについての対抗力を認めるわけではない。」と判示しているが、右判示は、誠におかしな理論構成ではあるが、仮登記の場合における本登記と仮登記の対抗力の相違を述べているので、本件通達による本登記却下処分が違法な行政であることが認定できるものと考えるが、どうか。
二一 大法廷判決は「仮登記担保権」という新たな担保権を創作したが、右は、内閣が登記官をして、本件通達に従つて所有権移転仮登記に基づく本登記を違法に却下する処分をさせている結果、大法廷が右却下処分を「違法である。」と認定することを回避して、具体事例のように、本登記をすることができないで不利益を受けている実体法上の所有者を救済するために、苦心して創作した判例による画期的な新担保権であるが、右担保権は、本件通達を前提としているため、本件三法律に違反する違法な担保権であると考えるが、どうか。
二二 内閣が、本件通達を取消して失効せしめれば、「仮登記権利者は、当然かつ直ちに第三者対抗要件を具備した所有者になることができるので、所有権に基づいて権利を主張することができるから、仮登記担保権という新たな担保権によつて保護される必要がない。」と考えるが、どうか。

 右質問する。



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