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昭和五十四年六月十四日提出
質問第五三号

 環境庁の公害指定地域解除の動きに関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十四年六月十四日

提出者  上田卓三

          衆議院議長 (注)尾弘吉 殿




環境庁の公害指定地域解除の動きに関する質問主意書


 次の事項について質問する。

一 五月七日、環境庁は「公害健康被害補償制度」の大気汚染地域指定の解除要件について今夏中に中央公害対策審議会に諮問することを明らかにした。新聞報道によれば、これは大気汚染測定運動東京連絡会の人々が環境庁に、「公害健康被害補償制度の強化」「NOx(窒素酸化物)による汚染も考慮に入れた公害地域指定の拡大」を要望しに行つた席上で明らかにされたという事実だが、公害に苦しむ患者の気持を逆なでするのもはなはだしい。ここ数年、大気汚染は少しつつ改善されてきているとはいえ、まだ地域指定の解除を考えるのはあまりにも時期尚早だと考える。
  そこで、まず公害地域指定の解除の方向を環境庁が打出してきた真意を問いたい。何故、この時期に突然、公害地域指定の解除を検討する必要があるのか。政府の見解を伺いたい。
二 伝えられるところによれば、地域指定の解除について経団連など財界の強い要望が働いているということだ。四十九年の制度発足時には、三十九億五千万円だつた企業の補償負担(賦課金)が今年度推計で六百五十億円に達し、「これ以上の費用負担に耐えられない」という理由で財界から制度見直しを求める申入れが再々なされているという。だが、この公害健康被害補償法における費用負担の問題については、制度化に当たつてそれまでの四日市ゼンソク等の産業別・事業所別に大気汚染の法的責任と損害賠償を求められることを恐れた産業界が、むしろ積極的に働きかけて全企業の共同責任制を選んだという経緯がある。自分で有害物質をまき散らして公害問題をひき起こしておきながら、「のどもと過ぎれば」もう早や、「費用負担に耐えられない」と解除を要求するのは、あまりにも手前勝手な言い分である。環境庁は、もともと高度成長下で公害問題が深刻化する中で行政がそれに十分な対応策をとれなかつたという反省の上に立つて、公害反対を叫ぶ住民の強い要求によつて創設されたという経緯がある。環境庁は、公害をまき散らしてきた財界・産業界の立場に立つのか、それとも公害反対の住民の立場に立つのか、その基本的姿勢を伺いたい。
三 この公害地域指定解除の動きの有力な根拠として指定地域でのSO汚染濃度の改善、新規患者発生率の低下といつた最近の事象が挙げられていると聞く。だが、このことはこれまであまりにもひどかつた公害 ― 大気汚染の一定の改善を示すものであつて、それをもつて、すでに大気汚染は解消したということは決して言えない。
  現実に、指定地域では亜硫酸ガス(SO)濃度こそ年々改善されているものの窒素酸化物(NOx)濃度は横ばい状態を続けており、慢性気管支炎などの公害患者の数も依然増勢を保つている。
  全国の公害指定地域内の認定患者数は本年一月現在でも七万千百九十人、この一年間だけでも約一万人も増加している。また現在認定されていなくても、潜在的な公害患者の数は、実際の認定患者数の十倍は存在しているとの指摘もある。私の地元大阪でも、本年五月現在で認定患者が二万七千七百人、認定申請を行つたがまだ認定されずにいる患者が七百七十人もいる。
  昨年五月に地域指定を受けたばかりの東大阪市と入尾市では、一年足らずの間にそれぞれ認定申請者が千二百人(東大阪)、七百五十人(入尾市)に達し、その大半が認定されている。大阪市でも年間千人以上、堺市でも年間五百人〜六百人のペースで公害患者が増え続けている。
  大気汚染が大幅に改善されない限り、また新規公害患者がもうこれ以上出ないというメドが立たない限り、指定地域解除は適当ではない。環境庁は、汚染状況が改善されてきた反面、患者が増え続けているという現実をどう見ているのか、見解を伺いたい。
四 指定地域の亜硫酸ガス濃度が環境基準を達成し、大気汚染が改善の方向にむかつているとされているにもかかわらず、公害患者が増え続けているという矛盾した現象は、何故生じているのか。問題は、現在の制度が亜硫酸ガス(SO)濃度だけを唯一の基準として地域指定を行つている点にある。大気汚染とそれによる慢性気管支炎などの公害病発生は、亜硫酸ガスだけによつてひき起こされているのではない。それは、亜硫酸ガス(SO)はもちろん窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質、オキシダントなど、さまざまな物質の複合汚染の結果ひき起こされているというのが一般の共通した認識である。特に、窒素酸化物(NOx)は現在でも汚染状況がほとんど改善されておらず、人の健康に与える影響も実験的、疫学的にある程度証明されているところである。
  このあたりの事情は、一九七四年十一月二十五日の「公害健康被害補償法の実施に係る重要事項について」中央公害対策審議会答申で、大気汚染物質は亜硫酸ガスや窒素酸化物、浮遊物質などいろいろあるけれども、汚染と健康被害の関係について現時点で明確にできるのは亜硫酸ガス(SO)だけなので、当面の過渡的措置として、SO濃度を基準とすると述べられているとおりである。
  念のため当該箇所を引用しておくと、「大気汚染の健康影響はいくつかの汚染物質の複合効果として現われるものではあるが、現時点においては、硫黄酸化物で代表された大気汚染の程度を示すこととする」「今回は、前記のように一応硫黄酸化物で代表された大気汚染の程度を具体的に示したが、これは窒素酸化物、浮遊粒子状物質による大気の汚染を無視するものではない」「……窒素酸化物、浮遊粒子状物質については、その健康影響に関する研究を推進し、できるだけ早急にこれらの物質についての大気の汚染の程度を具体的に示す必要がある」と述べている。
  だから問題は、SO濃度が改善されたからと言つて、指定地域の解除を検討することではなく、逆にSO濃度だけを基準にして地域指定を行う現行制度の矛盾点を改めることではないのか。むしろ、窒素酸化物(NOx)をはじめ諸物質による汚染実態と健康被害の関係を明らかにして、いわゆる複合汚染による健康被害の総合的な判定基準を検討する方が公害対策として先決問題である。特に、窒素酸化物については、各種の反公害団体、患者団体等が要望しているように、是非とも指定要件に加える必要があると思われるがどうか。環境庁の見解を明らかにされたい。
五 窒素酸化物(NOx)を指定要件に加える方向で検討すべきであると考えるがどうか。もし、このことを抜きに指定地域解除の検討を急ぐというのであれば、それは昨年の窒素酸化物(NOx)の環境基準の大幅緩和に次ぐ環境行政の後退であるばかりか、公害対策の放棄、ひいては環境庁の存在意義そのものの否定につながる後退であると考えるが、環境庁の見解を伺いたい。

 右質問する。





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