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昭和五十六年二月十八日提出
質問第一〇号

 憲法第十八条に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十六年二月十八日

提出者  森  清

          衆議院議長 福田 一 殿




憲法第十八条に関する質問主意書


 日本国憲法第十八条に関し、政府の見解について質問する。

一 「奴隷的拘束」の意味について
  我が国には奴隷なるものは未だかつて存在したことがないと考えるので、憲法において禁止する奴隷的拘束の意味が不明確である。強いて求むれば、アメリカ合衆国において南北戦争後奴隷制を廃止するため憲法修正第十三条を定め、「奴隷及びその意に反する苦役は、当事者が適法に宣告を受けた犯罪に因る処罰の場合を除いては、合衆国内又はその管轄に属するいかなる地にも存在してはならない。」と規定している。我が国に存在したことがない「奴隷」の解釈は、アメリカ合衆国憲法にいう「奴隷」と同じものと解するか。
二 「苦役」の意味について
  昭和二十一年二月十三日、連合国最高司令官より指示された憲法原案の政府訳は、最初は「服務」となつていたが、憲法では「苦役」となつている。この原案も、最終的に連合国最高司令官が承認したものも、英文では同じ文言であり、この英語は「奴隷であること、隷属、苦役、労役」という意味と解するが、このような意味で「苦役」という言葉を使つたものであるか。
  憲法第二十七条では「勤労」という言葉が使われており、通常の用語例においても「労働」を「苦役」と表現することはない。従つて、連合国最高司令官が承認した憲法改正案の英文の訳のとおり、奴隷に近い状態の労働をいうものと解するがどうか。
  先に引用した合衆国憲法においては「奴隷及びその意に反する苦役」と同列に規定されていることからも、このように解するがどうか。
三 政府は、徴兵制を違憲とする根拠に憲法第十八条を引用している。徴兵制によつて自衛官が徴集された場合も自衛官と同じ内容の職務につくこととなり、このような職務に従事させることが、奴隷的拘束又はその意に反する苦役になるから憲法違反であるとしているが、徴兵された者の職務がこの「奴隷的拘束」又は「その意に反する苦役」の両者に該当するものであるか、何れか一方にのみ該当するものであるか。
四 災害救助法第二十四条、消防法第二十九条、自衛隊法第百三条等において、緊急の場合、一定の業務にその意に反して従事させることができることとなつているが、これは憲法第十八条により憲法違反であるか。
  違反でないとすれば、自衛官の職務に従事させることが憲法第十八条に該当し、消防法等の業務に従事させることが同条に該当しない根拠は何か。
五 「世界人権宣言」第四条は、「何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。」とし、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第八条では、次のとおり規定している。
 1 何人も、奴隷の状態に置かれない。あらゆる形態の奴隷制度及び奴隷取引は、禁止する。
 2 何人も、隷属状態に置かれない。
 3(a) 何人も、強制労働に服することを要求されない。
  (c) この3の規定の適用上、「強制労働」には、次のものを含まない。
   (ii) 軍事的性質の役務及び、良心的兵役拒否が認められている国においては、良心的兵役拒否者が法律によつて要求される国民的役務
  以上のとおり、国際的にも確立した概念及び我が国が批准した国際規約によれば、奴隷及び苦役(人権宣言では苦役と翻訳され、規約では隷属状態と翻訳された原文である英文及び憲法第十八条の苦役の英訳文は何れも同一の英語である。)に兵役が含まれないことは明らかである。なお、苦役(隷属状態)ではないが、強制労働(英文においても苦役と異なる文言)の概念に兵役が含まれるおそれがあるため、兵役は強制労働には含まれないと規定している。
  また、「急迫不正の侵害等が行われた場合において、国土防衛の義務上第十八条というものの適用というものは停止されるのかどうか」という質問に対し、政府は、「国土防衛の義務というのは、これは神聖な義務であつて、苦役に服するような、苦役に入るようなものではないのだというような解釈もできないことではないと思います。」と答弁している。
  また、前述のとおり、アメリカ合衆国においては憲法修正第十三条があるが、もとより徴兵制は合憲である。(一九一七年の選抜徴兵制について、修正第十三条に関し、合憲性が争われた事件で、一九一八年連邦最高裁判所は、全判事一致の意見で合憲と判決している。)
  以上のとおり、徴兵制を違憲とする論拠を憲法第十八条に求めることは、憲法解釈としても問題があるばかりでなく、国を守るということは神聖な義務であるとする国民の考え及び自衛隊員の誇りという観点からも論拠とすべきものではないと考えるが、徴兵制違憲の論拠から第十八条の引用を外す考えはないか。

 右質問する。





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