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昭和五十六年十月二十一日提出
質問第五号

 北方領土問題について政府の刊行物等に日本政府自らが主権を放棄したがごとき表現がなされていることの訂正と責任追及に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十六年十月二十一日

提出者  小沢貞孝

          衆議院議長 福田 一 殿




北方領土問題について政府の刊行物等に日本政府自らが主権を放棄したがごとき表現がなされていることの訂正と責任追及に関する質問主意書


一 日本の市町村数は三、二五五か、三、二六一か。
  政府刊行物中特に自治省発行の全国市町村要覧によれば、昭和五十五年及び五十六年版では全国市町村数は三、二五五である。これを北海道だけでみるといずれも二一二市町村である。これは、日本固有の領土として日本国民が挙げて主張している三島六ヵ村を、自治省では、日本領土であることを無視して前記要覧に記載しておらず、現北海道の市町村数を二一二としてあるところに間違いがある。要覧には当然、北海道には二一八市町村とし、全国市町村数は三、二六一として三島六ヵ村分を記載してなければならないのである。自治省の見解は、北方四島は北海道の区域に入つており、うち歯舞諸島は昭和三十四年に根室市に編入されたことに伴い現在根室市の一部になつているが、国後、択捉、色丹の三島の六ヵ村(国後島 ― 泊村、留夜別村、択捉島 ― 紗那村、留別村、蘂取村、色丹島 ― 色丹村)については、「市制町村制以来、あるいは地方自治法による廃村手続を取つていないので現在も存続しているが、ソ連に占拠されているので、行政権の行使できない状態」になつている(参議院地方行政委員会 昭和五十五年十月二十三日 自治省行政局長答弁)。公式見解では、あたかも「廃村手続きを取つてすつきり」した方が良いのだともとれるような消極的態度である。
  また、同じ自治省発行の地方公共団体総覧には全然記載されていない。これで領土権を主張する日本政府の態度と言えるだろうか。
二 北方四島七カ村の地図についてなぜ政府の刊行物から抹殺されてきたか。
  全国市町村要覧の昭和五十五年版までは地図に村名すら記載されなかつた。ようやく昭和五十六年版に記載されたが、新たに掲載した理由を問うたところ、「行政の実態がないので記載しなかつたが、北方領土に関する論議をふまえ五十六年度版から所要の改訂を作つた」という理由である(全国市町村要覧五十五年版、五十六年版とも三五頁参照のこと)。単に北方領土の論議が高まつてきたから訂正した、というだけで済まされる問題だろうか。まして、後述質問四のことを考えればなお更である。
三 全国市町村の総面積と全国都道府県総面積とが食い違つていて、日本国国家としての体をなしていないと考えるがどうか。
  全国都道府県の総面積は三七七、七〇八・〇九平方キロメートルである(全国市町村要覧二九頁)。うち、北海道だけでみると八三、五一六・五七平方キロメートルである(昭和五十六年版全国市町村要覧三六頁)が、同要覧の北海道の市町村の総面積は七八、六二一・九五平方キロメートルであつて、四、八九四・六二平方キロメートルだけ食い違つている。日本政府は、日本国の総面積をどちらが正しいとして採るか。学校の教科書等に日本の総面積はどちらを記載しているか。海外への日本の紹介にはどちらの面積を採つているか。このような食い違いがあつて正しい国家と言えるだろうか。
四 政府は国際司法裁判所にいずれは提訴しなければならないと思うが、その意思はあるのか。
  前記要覧及び総覧が国際司法裁判所の審理の際、ソ連側又はソ連に好意的な国から北方三島六ヵ村が日本の領土に入つていないという証拠として出されたとき、どう反論するのか。
  北方四島七カ村が日本固有の領土として、「日本が、サンフランシスコ講和条約によつて放棄したものでない」というのが我が国の主張である。サンフランシスコ講和条約参加四十八カ国中、この我が国の主張を正式にコメントしているのは米国のみである(一九五六年ダレス国務長官一九五七年の対ソ米国書簡)。
  我が国は、政府・国民挙げて我が国の主張を少なくとも講和条約参加国に理解を求め、その支持を得なければならない。これは、今後朝野挙げての国際活動に待たねばならないと思う。そして最終的には、サンフランシスコ講和条約第二十二条によつて国際司法裁判所に提訴し、その審判を待たねばならないと考える。
  さてそのときに、自治省発行の前記全国市町村要覧、地方公共団体総覧(五十五年版以前のもの)がソ連又はソ連に好意的な国から日本の主張の反論資料として出されると思う。要覧、総覧がソ連に入手され、たとえ国際司法裁判所へ証拠資料として提出されるようなことがなくとも、ソ連からみれば、日本政府の領土権主張のあいまいさとしてみられる。
五 地方交付税において北方三島六ヵ村は無視されてきた。なぜか。
  左表は、同様に問題になつているこの種諸島の交付税の交付状況である。

   戦後における地方交付税の新たに交付された経過
戦後における地方交付税の新たに交付された経過

 表の(注)にも明らかなように、市町村分の交付税が交付されていないのは三島六ヵ村のみである。これでは交付税上も日本の領土となつていない。「地方交付税法の臨時特例法」(仮称)等の制定により、羅臼町には泊村分を交付するとか、又は、三島六ヵ村分全部を根室市に交付し、北方四島隣接市町で一部事務組合によつてこの交付税を財源として当該隣接地域の振興に充てるとか、方法は考えられるはずだ。(なお、次の質問六にいう三島六ヵ村の役場事務を行うようにすれば、交付税交付について一層の整合性が得られる。)
六 三島六ヵ村の役場事務が行われていない。なぜか。
  小笠原諸島は復帰前東京都が役場事務を行つていた。尖閣諸島は現に石垣市で、竹島は五箇村で行つている。尖閣諸島(九島五・八三平方キロメートル)も、竹島(〇・二三一平方キロメートル)も石垣市(二二六・九九平方キロメートル)又は五箇村(五一・九八平方キロメートル)に含まれ、役場事務が行われ、交付税が交付されていて、領土権の主張が鮮明である。
  これでこそ領土権を主張する地方自治法、交付税法上の採るべき日本政府の姿勢だと思う。また、北対協の融資に対応する旧島民であるとの証明は千島連盟が行つており、行政が直接担当していない。我が国固有の領土であることを主張する以上、役場事務が行われ、たとえ不法占拠されたとしてもその住民、財産、土地等について当時の記録を持ち、特に住民については死亡した場合の後継者を明確にしておくことこそ領有を主張する基本になる事項と考えられる。六ヵ村の学歴証明についても外地と同様に扱われている。いま旧島民とその子孫は、北方領土が返還されたとき、島に残してきた諸権利 ― 在島財産や漁業権等 ― はそのまま継承されているのかどうか不安を持つている。北方領土の引揚者は樺太、朝鮮、台湾等の引揚者と同様に扱われている(引揚者給付金・在外財産補償金 ― 見舞金 ― 等)。そして、このこと自体が放棄した領土と同じ扱いになつている。
 1 竹島は国有財産である。尖閣諸島は昭和四十一年琉球政府の資産目録に入つていたものを引き継いだのだから、これは沖縄県有財産であると思うがどうか。
 2 しからば、三島六ヵ村は旧島民並びにその子孫の財産等そのままか、あるいはすべて国有財産か。どのようなものか明示されたい。
 3 北方領土隣接市町が三島六ヵ村の役場機能を有し、かつ、それ等市町の一部事務組合によつて、返還後直ちに実施される開発計画等を樹立することが旧島民の返還運動に勇気を与え、かつ、領土権を主張する積極的な姿勢と考えるがどうか。
 4 以上のうえに立つて次のことに答えて欲しい。
   歯舞諸島(多楽島、志発島、勇留島、秋勇留島、水晶島)の五島は、旧歯舞村で根室市に合併しているので根室市役所で戸籍事務を扱うことができる。現に、歯舞諸島には戸籍数三三戸、在籍者六三人となつている。ところが、昭和四十四年に色丹、国後に転籍を希望した人の届出書が最近本人に返されてきた。「戸籍に関する事務は、市町村長がこれを管掌する。」(戸籍法)とあるが、六ヵ村の市町村長を任命してこなかつたところに問題があると思う。
   我が国の領土である限り、三島六ヵ村へ転籍を希望するものがあるときは、これを受け入れるのが国の責任である。それが行われないのはなぜか。
 以上、国権の最高機関である国会の度重なる決議、あるいは総理自らの指示にもかかわらず、政府内部に北方領土返還運動に取り組む熱意に欠けていることが原因であると思う。
 「北方領土の日」の制定、総理の北方領土の視察は我が国として返還運動に新機軸を画するものと言える。この機会に、過去の誤つた態度の政府部内に責任を明らかならしむることが必要である。
 最後に“行政事件訴訟法”についてであるが、行政権の積極的発動たる行政行為に対する救済手段として抗告訴訟(及び行政行為の無効確認訴訟)があるが、行政権が積極的に行政行為をなさない場合は、行政行為をなすべきことが法規により国民に対する関係で義務づけられているとき ― 本質問の内容はこれに該当するように思う ― 利害関係者はその行政行為をなさないこと(不行為)を違法として攻撃する訴訟を理論上考えられることができるか。政府の見解を問う。

 右質問する。





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