答弁本文情報
昭和五十六年十一月六日受領答弁第五号
内閣衆質九五第五号
昭和五十六年十一月六日
衆議院議長 福田 一 殿
衆議院議員小沢貞孝君提出北方領土問題について政府の刊行物等に日本政府自らが主権を放棄したがごとき表現がなされていることの訂正と責任追及に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員小沢貞孝君提出北方領土問題について政府の刊行物等に日本政府自らが主権を放棄したがごとき表現がなされていることの訂正と責任追及に関する質問に対する答弁書
一について
自治省が編集している全国市町村要覧は、執務の参考資料とするため、現実に行政を行つている市町村を集録しているものであり、そこに集録されている市町村数は、三千二百五十五である。
一方、色丹・国後・択捉三島の六村については、現実にソヴィエト連邦によつて不法に占拠されているため、市町村としての行政の実態がないので、全国市町村要覧では凡例部分に名称及び面積を記載することとしている。なお、これら三島の六村を加えた場合は、市町村数は、三千二百六十一となる。
北方四島は、我が国の固有の領土であるので、国土地理院発行の地図では当然我が国の領土であると表示しており、政府の刊行物はすべて同地図に準拠している。
御指摘の全国市町村要覧もこれに準拠しているので、従来から北海道の地図上、北方四島の名称及び位置を表示し、我が国の領土であることを明らかにしてきた。
さらに、昭和五十六年度版からは、根室市と合併した旧歯舞村を除く色丹・国後・択捉三島の六村についても凡例部分にその名称及び面積を掲載するとともに、六村の位置を地図上表示することとした。
我が国の総面積は、国土地理院調査によれば、昭和五十五年十月一日現在の面積は三十七万七千七百八・〇九平方キロメートルであるが、この中には当然色丹・国後・択捉三島の六村の面積も含まれている。学校の教科書、政府の刊行している海外紹介文書等についても、この国土地理院の調査した数値に基づいている。
御指摘の全国市町村要覧においては、北海道の面積は色丹・国後・択捉三島の六村を含めた面積(八万三千五百十六・五七平方キロメートル)としているが、北海道の市町村別の面積・人口等の概要を記載した部分については、一に示した考え方から、六村は記載していないので、当該部分に記載されている市町村の面積を集計した場合には、七万八千六百二十二・四一平方キロメートルである。
北方四島が歴史的にも国際法上も我が国の固有の領土であることは明らかであるが、北方領土問題を国際司法裁判所に提訴して司法的解決を図ることは、従来から政府が述べているとおり困難な状況にあり、かかる状況において北方領土問題が国際司法裁判所で審議されるとの想定で個々の問題につき、あらかじめ政府の見解を述べることは差し控えたい。
なお、北方領土問題に関する我が国の立場につき、世界各国の正しい理解を求めることは、極めて重要であると考えており、政府としても従来から北方領土問題に関する各種広報資料の作成・配布を行う等、国際世論に訴えてきていることは、御承知のとおりである。
色丹・国後・択捉三島については、国土地理院がこれら三島の面積を公表したことに伴い、昭和四十四年度から北海道の面積の一部に含めて道分の普通交付税に算入しているが、これらの三島の六村については、市町村としての行政の実態がないため、その面積に係る市町村分には算入していない。
色丹・国後・択捉三島の旧島民は、離島後他のいずれかの市町村の住民となつているが、これら旧島民に係る諸証明等の問題については、現在次のように対応している。
(一) 北方領土問題対策協会の融資を受ける際必要な元居住者たる証明は、同協会から千島歯舞諸島居住者連盟に依頼して行つている。
(二) 土地・建物の当時の登記簿等は現在釧路地方法務局根室支局に保管されている。登記事務は戦後停止せざるを得ない状態にあるが、登記簿等に記載されている所有名義人について相続が開始し、相続人からその旨の申出があつたときはこれを受理し相続登記に準じた取扱いを認めているほか、登記簿等の閲覧等の請求にも応じている。また、戦前六村に在籍していた者の戸籍等については同支局でその一部を保管しており、当該戸籍等に記載されている者の利便に供するため、それについての証明事務を行つている。
(三) 学歴証明については、戦前の関係資料は現在見当たらないが、今後、北海道とも協議し、遺漏のないよう配慮してまいりたい。
(四) 漁業権については、旧漁業権は消滅している。
(五) 引揚者給付金、引揚者特別交付金については、引揚者がその全生活の基盤を失つたという観点から特別の政策的措置を講ずるとの趣旨により支給されるものであり、北方四島から引き揚げてきた者であつても、樺太、朝鮮、台湾等の外地から引き揚げてきた者と事情が変わるものでないため、これらの支給対象としているものである。
なお、右に述べたほか、今後問題が生じた場合には、北海道とも連絡を取り遺漏のないよう処理してまいりたい。
1について
竹島は御指摘のように国有地である。一方、尖閣諸島は、大部分が民有地であるが、一部国有地も存在する。
2について
色丹・国後・択捉三島の地域には、ソヴィエト連邦の占拠前において、国有財産、公有財産及び旧島民の財産があつた。これらの財産上の権利は引き続き存在しているものと考えられる。
3について
旧島民関係の諸問題の処理状況については、前述のとおりであり、また、北方四島が返還された後のこの地域の振興については、返還時点において諸般の事情を勘案し、具体的な振興策の実施を図ることとしたい。
4について
現行戸籍法においては、戸籍に関する事務は市町村長がこれを管掌することとされている(戸籍法第一条)が、色丹・国後・択捉三島の六村については、現実に行政権を行使し得ない状態にあり、村長も置かれていないので、六村への転籍の届出を受理することはできないのである。
最後に行政事件訴訟法についてであるが、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきにかかわらず、これをしない場合には、当該申請者は、不作為の違法確認の訴えを提起することができる(行政事件訴訟法第三条第五項参照)。