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昭和五十九年五月二十一日提出
質問第一七号

 公害健康被害補償法に基づく慢性砒素中毒症の認定に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十九年五月二十一日

提出者  松浦利尚

          衆議院議長 (注)永健司 殿




公害健康被害補償法に基づく慢性砒素中毒症の認定に関する質問主意書


 環境庁は、昭和五十六年十月二十八日環保業第三九〇号、同庁企画調整局環境保健部保健業務課長通知「公害健康被害補償法に基づく慢性砒素中毒症の認定等について」(以下「新通知」という。)により、慢性砒素中毒症の従前の認定要件を変更した。
 これによると、慢性砒素中毒症の認定に必要な要件として、砒素濃厚汚染地域に居住し、無機砒素化合物による長期にわたる曝露歴を有することを前提としながら、
@ 慢性砒素中毒に特徴的な色素異常及び角化の異常が皮膚に認められること。
A 鼻粘膜瘢痕又は鼻中隔穿孔が認められること。
B @を疑わせる所見又は砒素によると思われる皮膚症状の既往があつて、慢性砒素中毒を疑わせる多発性神経炎が認められることのいずれかに該当すること。
 とされ、なお書として、@を疑わせる所見又は砒素によると思われる皮膚症状の既往があり、かつ、長期にわたる気管支炎症状がみられる場合には、その原因に関し、総合的に検討し、慢性中毒症であるか否かの判断をすること、となつている。
 ところで、宮崎県西臼杵郡高千穂町の土呂久地区は、土呂久鉱山の長期にわたる亜砒酸製造に伴い、大気・水質・土壌が砒素によつて汚染され、住民はそれを、経口、経気道あるいは経皮的に吸収して健康を冒され、これまで長い間、慢性的な腹痛、下痢、激しい咳、ぜん息、発作的な動悸、息切れ、めまい、上下肢及び全身的なしびれと痛み、失明を含む視力障害、全くにおいのわからない嗅覚障害、難聴、はしを落とし食事もうまくできないほどの知覚・運動機能障害、食物をかめずボロボロ欠けたりする歯の障害、慢性的な全身疲労、倦怠感や不眠症など、さまざまな症状で苦しみ続けてきたのは周知のとおりである。
 これらの病像は、単に慢性砒素中毒症の比較的特異とされる皮膚症状や鼻症状、多発性神経炎や気管支炎等にとどまらず、胃腸障害、肝障害、心筋障害、動脈硬化、高血圧、各種神経障害等、非特異的症状とされるものにまで及んでおり、土呂久の慢性砒素中毒症においては全身的な症状として発現することが、既に幾多の医学論文によつて裏付けられ、今日では医学の常識となつているとさえいわれている。
 公害病における法的因果関係の判断は、既に多くの公害裁判において、疫学による蓋然性が重視され、被害者が救済されてきたところであるが、環境庁においても、かつて水俣病の認定に関し、疫学的資料からの判断をも採用すべき旨を通達(昭和四十六年八月七日事務次官通知)し、中央公害対策審議会答申(同四十八年四月五日)においても、同様の趣旨が採用されている。また、同五十五年五月十九日の公害健康被害補償不服審査会における認定関係審査請求事件裁決(昭和五十五年裁決第一〇号=昭和五十一年審査請求第二七号事件。以下「五十五年裁決」という。)においては、「非特異的症状についても、それが他の原因によるものかどうかを検討し、これらの所見を総合して判断すべきものと考える」として、本件では処分庁による原処分が取り消され、審査請求人が、慢性砒素中毒症として認定されたところである。
 このように公害病においては、疫学的資料から判断して因果関係が否定できない場合には、公害病として認定されるというのが、司法、行政における認定判断の原則として確立されているといつて過言ではないと思う。
 以上の観点から以下質問する。

一 新通知の認定要件は、慢性砒素中毒症の比較的特異症状といわれるもののみに限定しているが、医学的根拠を示してその理由を説明されたい。
二 処分庁の慢性砒素中毒症を否定する処分に対する不服審査請求があつた場合、再び五十五年裁決と同様の裁決が行われることが予想されるが、そうなれば新通知の権威は失墜し、行政の混乱を招く恐れがあると思うがどうか。
三 従つて、慢性砒素中毒症については、被害者の全身的多様な症状について砒素による影響が否定できない以上、五十五年裁決のごとく慢性砒素中毒症として認定できるよう、新通知は改正されるべきであると思うがどうか。

 右質問する。





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