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昭和六十年十二月七日提出
質問第一五号

 公職選挙法の一部を改正する法律案(金丸信君外六名提出)及び公職選挙法の一部を改正する法律案(田邊誠君外六名提出)に関する法律上の諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和六十年十二月七日

提出者  安倍基雄

          衆議院議長 坂田道太 殿




公職選挙法の一部を改正する法律案(金丸信君外六名提出)及び公職選挙法の一部を改正する法律案(田邊誠君外六名提出)に関する法律上の諸問題に関する質問主意書


 公職選挙法の一部を改正する法律案(金丸信君外六名提出。以下「六・六案」という。)及び公職選挙法の一部を改正する法律案(田邊誠君外六名提出。以下「野党統一案」という。)が、第一〇三回国会において審議中であるが、これら二法案は、いずれも議員提出であり、また、その重要性において、通常の法案とその質を異にするものである。従つて、これらの法案に、後日問題とされるような法律上の瑕疵がいささかでも存在するとすれば、議員立法の権威をそこない、また国会に対する国民の信頼を失わしめることとなる。本員は、これら法案が、後日、違憲立法であつたという非難をこうむる可能性があると危惧するものであり、次の諸点について、内閣の見解をうけたまわり、本法案審議の参考といたしたいので、速やかに御回答あられることを要請するものであります。
 衆議院議員の選挙区域別定数は、公職選挙法別表第一及び附則に示されているところ、昭和六十年七月十七日最高裁判所(以下「最高裁」という。)大法廷は、次の趣旨の判決を行つた。
 「現行の定数に関する規定は、選挙区の間における一票の持つ重要性についての格差が、国会の裁量権として許容できる範囲を超えており、憲法第十四条に規定している「法の下の平等」の原則に反し、違憲と言うべきである。また、当該規定が法制定当時合憲であつたとしても、人口の移動等その後の変化により違憲となつた場合、合理的期間内に修正すべきところ、この修正が行われておらず、従つて、違憲な定数規定のもとに行われた昭和五十八年十二月の選挙は、本来無効と言わなければならない。しかしながら、現在この選挙を無効とすることは、諸般の事情からして適当でないので、いわゆる事情判決制度の基礎にある法理によつて無効とはしないが、国会は速やかに、当該規定の是正を行うべきである。」
 前記二法案は、この最高裁判決をうけて、違憲状態の是正を目的として提出されたものであるが、次の諸点において、その法律上の性格を明らかにすべきであると思料される。

一 公職選挙法別表第一には、選挙区ごとの議員定数は「五年ごとに、直近に行われた国勢調査の結果によつて、更正するのを例とする」と付記されている。これは、定数是正が直近の国勢調査の結果に基づく人口統計によることが、最も適切であるとの趣旨によるものと考えられる。
  本国会直近の国勢調査は、本年十月一日現在で行われた。その速報値は、本年十二月下旬官報により公表されることとなつているが、速報値と確定値との誤差は殆どなく、速報値を国会が定数是正の基礎として使用することについては何等問題のないことが、政府当局によつて確認されている。
  従つて、速報値公表後は、前記選挙法の規定及び最高裁判決の趣旨から、定数是正は、新しい数値によるべきであると思われるがどうか。
二 十二月下旬の速報値の公表は、十月一日現在における人口を確認する行為であると解すべきであると思われるがどうか。
  もし、この公表された人口と、前記定数配分規定とから、最高裁判決の指摘する違憲状態が明らかになるとすれば、この違憲状態は、十二月下旬の公表のときに始めて生じるのではなく、十月一日の時点で既に生じていることが確認されるのであると考えるべきと思われるがどうか。
  前記公表が確認行為であるとするならば、昭和六十年十月一日以降に行われる改正は、昭和五十五年の国勢調査の結果によつてではなく、公表がごく近く行われることを勘案すれば、本来この公表を待つて行われるべきであると思われるがどうか。
三 昭和五十三年九月十三日の東京高等裁判所判決、及び昭和五十八年十一月七日の最高裁大法廷における判決中の横井大三裁判官ほか二名の裁判官の少数意見において、昭和五十年の定数是正のための改正法(法律第六十三号)が、制定当時既に違憲であつたという判断が下されている。これは、昭和五十年の改正が、昭和四十五年の国勢調査の結果を使用しており、他の統計その他を勘案すれば、法制定当時、既に一票の格差が国会の裁量権の範囲を超える事例の生じることが十分予測されているにもかかわらず、法制定が行われたことを理由としている。
  昭和五十年の改正法は、国勢調査の行われる三ヵ月前の同年七月に成立している。昭和五十八年及び昭和六十年の最高裁の大法廷の多数意見は、あえて同改正を違憲な立法と判定していないが、国勢調査実施前に行われた法改正についてさえも「立法そのものが違憲であつた」との見解が一部において表明されていることは注目に値する。
  今回の改正法案の審議は、昭和五十年の場合と異なり、既に本年十月一日に国勢調査が完了した後の審議であり、また本年九月二日現在の有権者数の調査の結果及び各県単位で公表されている国勢調査の速報値から、十月一日の時点において、六・六案あるいは野党統一案では解消できない多くの違憲状態の存在することが、相当程度以上の確度で予見される状況のもとで行われている。これら二法案の何れかが成立した後、将来選挙が行われた際、当該法律が制定当時から違憲であつたとの理由で、数多くの選挙無効の訴えが提起されること(あるいは選挙前に選挙差止め訴訟が提起されること)が予想される。従来の最高裁判決は、法制定当時合憲であつた定数に関する規定が、その後の事情の変化により違憲となつた場合における選挙の無効を問題としているが、前記訴訟が提起された場合、具体的な選挙の有効無効の判定の前提として、最高裁判決が、当該法律の制定時における違憲性を取り上げる可能性があると考えるがどう思うか。また、この立法そのものを、違憲の立法として判定する可能性があると考えるがどう思うか。
  この場合、本年十二月下旬以降のこれら法案の成立を、「故意に国勢調査の結果を無視したもの」として判定するならば、十月一日以降十二月下旬までの同法案の成立を、刑法上の概念を援用して、「未必の故意」に基づくものと判定する可能性があると考えるがどう思うか。
四 もし、最高裁が「法制定当時既に違憲であり、国会がこの事実を知りながら法制定を敢えて行つた」と判示した場合、国民の議員立法に対する信頼を傷つけ、国権の最高機関としての国会の権威を失墜することになると考えるがどう思うか。
  また、最高裁が国会に対して「違憲状態を放置した」と判示するよりも、「違憲状態を認識し、または認識し得る状況にありながら、法制定の際、故意にその事実を無視した」と判示することの方が、より重大な意味を持ち、立法府と司法府との対立を決定的ならしめるおそれがあると考えるがどう思うか。

 右質問する。





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