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昭和六十二年五月十九日提出
質問第四一号

 人名として使用出來る漢字に關する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和六十二年五月十九日

提出者  滝沢幸助

          衆議院議長 原 健三郎 殿




人名として使用出來る漢字に關する質問主意書


 昭和二十一年十一月十六日政府は内閣告示第三十二號を以つて當用漢字一、八五〇字を制定し、同二十三年一月一日には法律第二百二十四號を以つて戸籍法を改正すると共に戸籍法施行規則を制定してその第六十條で當用漢字以外の漢字を人名に用ひることを禁止した。然しその字數が餘りにも少いことを考慮してか、同二十六年五月二十五日内閣告示第一號を以つて人名用漢字別表を制定すると共に戸籍法施行規則第六十條を改正して新たに人名用漢字表に掲げる九二字を追加した。更に同五十一年七月三十日内閣告示第一號を以つて人名漢字追加表を制定すると共に戸籍法施行規則第六十條を改正し人名漢字追加表に掲げる二八字を追補した。即ち法權力によつて子の出生届に用ひ得る文字を制限したこの政策は正に有史以來の文化政策・社會制度の一大變革であり、國民の生活と精神に及ぼした影響は極めて大であつた。
 其後、文部省は自ら當用漢字制度が我國の傳統と國民感情に適合しにくいとの判斷から、昭和五十六年十月一日内閣告示第一號を以つて改めて常用漢字を定め、字數も一、九四五字に増加すると共に之を單に國民生活の目安とするに止めて當用漢字における強制的・制限的性格を除去し、指定外の漢字も併せ用ひることを容認した。蓋し當然の改正であり、國民の多くは之を歡迎した。思ふに今日、國民はむしろ、よりもつと自由な制度を望んでをり、且つ歴史的にも、學問的にも、文字等、文化的・精神的分野に對する國家權力の介入は好ましくない。
 然るに一方、法務省は昭和五十六年十月一日右常用漢字を採用して當用漢字に代へ、且つ新たに人名漢字一六六字を指定し合計二、一一一字を人名に使用出來るものと定めたが、肝腎な「國民生活の目安であり強制はしない」との趣旨は全く導入せず、依然として指定外の漢字の使用を認めてはゐない。
 この事實は文部省と法務省との政策の整合性を缺くものであり、且つ國民が父母として其の子の幸な成長を希つて子に與へる名の選定についての自主性を拒み不當に制限するものであつて、國民普くその制限の緩和若は撤廢を求めて止まず、之が對策は國政の急務である。仍つて質問する。

一 出生に當り、父母が子の幸を希つて任意に選んだ名が戸籍法に定める人名に用ひ得る漢字に指定されてゐないがため、止むを得ず意に反して他の文字を用ひざるを得なかつた事例は私が知る限りにおいても極めて多きに達してゐるが、政府は市町村窓口等を通じ、此の事實を的確に把握してゐるか。如何。
二 政府は、「子の名に雜多な文字が使用されゝば杜會が不便を來す」或いは「難書難解な文字を命名されゝば生涯不幸を見る」との趣旨を人名制限の根據としてゐる模樣であるが、その通りか。
  その通りとすれば極めて具體性を缺き絶對的條件たり得ない。凡そ終戰時まで何等の不便不滿を覺えず行はれてゐた事が、かゝる曖味な事由により制限されたことは、その實は彼の被占領時代における特殊な事情によると解されるが、講和成立・獨立恢復後は速かに舊に復すべきではないか。所見如何。
三 名の文字は制限し得ても姓氏については之を統制し得ず、且つ、この法制化以前に出生した生存者及び故人竝びに歴史上の人物や文藝作品中の人物については遡及して制限出來ないことから、所詮この政策は中途半端なものであり、益は極めて少く、其のため世に幾多の父母及び本人の切なる幸への希求を排する権利を行政が持ち得るものとは思はれず、速かなる制限の撤廢をされるべきではないか。所見如何。
四 父母が子の幸を希つて選んだ名を自由に用ひることを許したと假定した場合、之によつて國家が蒙る損失は皆無であることを認めるか。如何。
五 國民にはそれぞれ、その家系傳統があり、その中には尠からず、或る特定の文字を子の名に用ひる習はしがある。にもかゝはらず、この制度以來、これらの尊嚴なる家風・傳統を傳承し難きに至つた例が尠くない。これでは國民のそれぞれの家系についての名譽と誇りを失はせ、國家民族の美風と情緒を損ふものと信ずるが、見解如何。
六 我國には古くより、尊敬する先人や偉人の名を其の儘借用し、或いは、その一字又は數字を借りて子に與へる風習がある。又、子孫や後輩等を愛する故を以つて、自分の名の一字を與へる事も廣く行はれて來たが、之が現行の人名漢字制限の故に中斷されてゐる事は極めて非教育的、反道コ的な事と認めるか。如何。
七 我國には現在もなほ、姓名易學といふ信仰的・學問的風習が廣く行はれてゐるが、その多くは常用漢字・人名用漢字によることなく、正漢字を用ひてゐる。或いは、その選名においては、それら法定漢字の範圍を以つて全しとはしてゐないが、法權力によつて學問的・宗教的結論を曲げての選名を餘儀なくされてゐる。之はこれにかゝはる人々の、より内面的・信仰的・精神的事情であり、國家權力が立入つて之に制禦を加へるべきではない。故に、この人名漢字制限の制度は撤廢されることが望ましい。所見如何。
八 政府は人名用漢字の制度を市町村窓口に於ける出生届出受理の事務の利便を慮つてのことゝしてゐる趣であるが、最近ワープロ等の印字文化の發達はめざましく、人間の記憶能力を越えて難雜な文字をも處理し得るに至つた。凡そ其の字數は一萬にも達するとされてゐる。窓口が、これら印字機械の利用に途を開けば事務上の制限の根據は無くなると思ふが、所見如何。
九 常用漢字及び人名用漢字の合計二、一一一字の中には例へば、死・殺・無・血・惡・爭・盜・尿・墓・葬・病・疾・沒・亡・乏・暮・別・癖・憤・怒・怖・悲・卑・犯・罪・罸・豚・吐・悼・懲・喪・斥・棺・逝・終など通常、常識としては人名に不適な文字も尠くはないので事實上は更に少い範圍からの選名たらざるを得ない實體を認めるか。如何。
十 とにかくにも、この人名に用ひる漢字制限の制度は、少くとも幾多の問題があるといふ事實を考慮して、政府においては、この問題の調査と研究のため諮問機關又は研究調査機關の設置を考へて然るべしと思ふが、所見如何。

 右質問する。





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