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平成六年十二月八日提出
質問第七号

WTO協定による皮革・革靴の関税率引き下げ等に関する質問主意書

提出者  佐々木陸海




WTO協定による皮革・革靴の関税率引き下げ等に関する質問主意書


 WTO協定に関して、政府は、鉱工業品の関税率を平均六一%引き下げることを譲許している。これが実施されると、日本の鉱工業品の平均関税率は先進国間で最低水準の一・五%となる。村山首相は、十一月二日の本会議で日本共産党の藤田スミ議員の質問に対し、ウルグアイ・ラウンドの合意が「中小企業も含めた我が国経済の長期的かつ安定的な発展に資するものと期待をしている」と答弁したが、今回の関税率の引き下げは、現在の異常な円高のもとでの製品輸入の激増によって困難な状況にある中小零細企業・地場産業を、より一層の困難に追い込むものである。特に、皮革・革靴のような零細性の強い産業への影響は甚大であり、国内産業と地域経済、そこに働く労働者への痛打となる。
 皮革・革靴について、政府はウルグアイ・ラウンド交渉において、現行一次税率の二割削減、二次税率の五割削減を譲許した。
 国内の革靴産業は、従業員九人未満の零細業者が七割以上を占める産業であり、東京東部や大阪を中心とする地場産業として多くの関連産業と共に地域経済の中で重要な役割を果たしている。しかしこの産業は現在、輸入品の大量流入と不況、円高の影響を受け、倒産と廃業、家内労働者の工賃未払いや切り下げ、失業と仕事切れが頻発している状況にある。今回の関税率の引き下げは、外国製品の大量輸入を一層加速させ、このような困難な状況に追い打ちをかけるものである。
 現在の国内皮革・革靴産業の窮状は、政府の輸入拡大策のもとで生み出されてきた。政府はアメリカの圧力に屈して、輸入数量制限していた皮革・革靴の輸入を一九八六年に自由化し、現行の関税割当(TQ)制度を導入した。以来、政府は、一次税率を適用する関税割当枠を年々拡大してきたが、特に九二年度以降は毎年二〇%の拡大となり、九四年度の関税割当枠は八百三十四万六千足、一九八六年度の三・四倍となっている。TQ該当品目以外にも、スポーツ靴と称する革靴や部分品が大量に輸入され、国内産業を圧迫している。
 今回の関税率の大幅引き下げに対し、革靴産業の中心地である台東区議会は、今年一月に全会一致でガット「皮革・革靴合意」撤回の決議を採択した。また、「革靴の大量輸入阻止・地場産業を守る実行委員会」の「ガット『皮革・革靴合意』の国会批准を阻止し地場産業と地域経済を守ろう」との「よびかけ」には、台東区内の二十を超える町会長や区議会議長、日本共産党、自民党、新生党の都議会議員から賛同が寄せられている。
 WTO協定で利益を得るのは大企業・多国籍企業である。アメリカはウルグアイ・ラウンド実施法案で通商法三〇一条の強化を規定するなど経済覇権主義をあらわにしているが、WTO協定はこれを容認している。WTO協定は、公平・平等の貿易原則を著しくゆがめ、各国の経済主権を侵害するものである。
 わが党は、貿易の自由を広げるもとで、国の経済の自立にかかわる分野や国民生活にとって重要な分野がおびやかされるときには、経済主権の尊重という点から一定の保護措置をとる権限が認められるべきだと考える。
 政府がWTO協定の批准を拒否し、主権の尊重、国内産業と国民生活擁護の方向で内容の抜本的改善を求めて再交渉をするよう要求する立場から、以下、皮革・革靴の関税率引き下げ等に関し、政府の見解をただすものである。

一 WTO協定において譲許した関税率引き下げの国内中小企業への影響について
  今回の関税率引き下げは、異常な円高のもとでの製品輸入の激増によって困難な状況に置かれた国内中小企業に一層の困難をもたらすものと考えるが政府の見解はどうか。
二 皮革・革靴の関税率引き下げの国内産業への影響について
 @ 政府は、国内の皮革・革靴産業の現状をどのように認識しているのか。
 A 政府は、国内の皮革・革靴産業が存続、発展していく上で、今回の関税率引き下げの影響はないと考えているのか。
 B 今回の関税率の引き下げは、一次税率と二次税率の差を小さくすると共に、改定後の二次税率を現行一次税率の水準に近づけるものであり、関税割当制度を事実上崩壊させるものとの懸念があるが、どうか。また二次税率を五割カットする影響は、特に皮革において輸入の増入として顕著に現れると考えるがどうか。
三 皮革・革靴の関税割当枠の拡大を進めてきた政府の責任について
 @ 一九八六年に関税割当制度を導入した際、政府は関税割当枠の運用方針について、わが党の正森成二議員の質問に「一つは市場アクセスの改善という国際的な要請、もう一つはいわゆる同和対策地域の基幹産業と言ってもいいような産業分野の将来の地位を確保するという、この両方をにらみながら、いわばまた裂きにならないように対応していくというのが基本であろうと思っております」(浜岡平一通産省生活産業局長・一九八六年三月二十四日大蔵委員会)と答弁し、その後の国会答弁でもこの考えを繰り返し表明してきた。現在でもこの方針に変更はないか。
 A 政府は、先の@で示した方針を表明しつつ、一九九二年度以降、関税割当枠を毎年二〇%ずつ拡大してきたが、二〇%という数字の算出根拠は何か。
 B 今回の関税率引き下げに加え、来年度以降の関税割当数量が拡大されれば、国内業者には二重の打撃となる。今年度と同様二〇%増となれば来年度の関税割当数量は一〇〇〇万足を突破する。これは、国際的要請と国内産業の地位の確保の両方をにらむという政府がとってきた方針に照らしても、「産業分野の将来の地位」を危うくするものと言わざるを得ない。政府が、国内産業が厳しい状況にあることを十分認識しているとするならば、関税割当制度を維持・強化すべきであり、来年度も含め今後関税割当枠の拡大はすべきでないと考えるが、どうか。
四 ウルグアイ・ラウンドでの交渉経過について
  ウルグアイ・ラウンドでの交渉過程において、政府は、皮革・革靴について二次税率のカットは三分の一まで、「『国内産業への影響を考慮すれば、これ以上は譲れない』(通産省幹部)と主張」(一九九一年十一月十日「日経」)していたと報道されている。これに照らせば、二次税率の五割カットは、「国内産業への影響を考慮」する立場を放棄したことになる。交渉結果は、事実上、国内産業への影響よりも諸外国の要求を優先したものと指摘せざるを得ないが、政府は、どのような姿勢で交渉を行ったのか。
五 TQ対象品目外でのスポーツ靴・部分品の輸入について
  TQ対象品目以外に、スポーツ靴と称する革靴や部分品の形態で大量の革靴の輸入がされている。一九九二年の統計では、TQ対象品目の輸入数量五百五十二万六千足に対し、スポーツ靴の輸入数量は千三百三十二万足、部分品は六千五百三十七トンに達し、国内産業を圧迫している。政府は、スポーツ靴と称する革靴や部分品の輸入の急増に対して有効な規制措置をとるべきではないか。
六 国内産業の海外移転について
  中小企業庁が十一月十一日に発表した「輸入品との競合による中小企業への影響調査結果」によると、履物・靴業の七六・五%が出荷額減少の理由として「輸入品の増加」を挙げ、履物・靴業の一三・九%の企業が「海外に生産拠点を既に設けている」と回答し、さらに「今後の経営方針」として「海外への生産拠点の移転」を挙げたものが一五・四%にのばっている。今回の関税率の引き下げが、海外移転の大きな流れを引き起こす契機となり、国内履物産業と地域経済の崩壊をまねく危険性を指摘せざるを得ないが、政府として対策の必要はないと考えているのか。
七 国内産業振興対策について
 @ 政府は、ウルグアイ・ラウンド合意に伴う国内産業対策として、皮革・革靴業界団体の設置する基金へ四十八億円を拠出したが、政府は、この基金が国内産業に与える効果をどのように考えているか。国内皮革・革靴産業への関税率引き下げの影響を相殺できるものと言えるか。
 A 通産省文化用品課の資料によると今年度の皮革産業対策費は三億三千七百七十二万七千円であり、皮革関連事業所一事業所当たりの対策費を単純計算すれば約二万七千六百円にすぎない。国内産業を守り振興する上でも、貧困な皮革・革靴産業対策費を増額し、抜本的振興策をとるべきだと考えるがどうか。

 右質問する。





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