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平成十年六月二日提出
質問第四〇号

組織犯罪対策法案と死刑に関する再質問主意書

提出者  保坂展人




組織犯罪対策法案と死刑に関する再質問主意書


 「組織的な犯罪に対処するための法整備に関する三法案」(以下、組対法案という)については、現在の日本の捜査機関に通信傍受などを認めて本当に問題は起きないのかという最大の問題点のほか、三法案のうちの一つ「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案」に国連人権委員会決議(本年四月三日)で新たな法制化を制限されている死刑が盛り込まれた。このため、捜査機関の信用性をただす「日本共産党幹部宅盗聴事件の事実認定と責任所在などに関する質問主意書」、同再質問主意書と並行して、組対法と死刑に対する国際的な動向と日本政府の対応について、「組織犯罪対策法案と死刑に関する質問主意書」(以下、前回主意書という)を本年四月二十七日に提出したところ、同年五月二十九日に政府答弁書(以下、答弁書という)の送付を受けた。
 ところが、答弁書は組対法案や死刑制度の是非はともかくとしても、質問に正確に答弁しないなど内容が不十分で、事実誤認とみられる部分もあるので、以下再質問する。前回主意書提出後の動向にかんがみ、一部新たな質問も加えた。

一 組織犯罪対策をめぐる国際的動向について
 (1) 答弁書「一の(1)について」によると、組織犯罪対策に関し、各国間で死刑を刑罰に規定することについて議論が行われたという事実は承知していないようだが、国連加盟国中、死刑廃止国(戦争犯罪を除く、以下同じ〉が過半数を超えていることにかんがみ、組織犯罪対策の刑罰に死刑を規定することについての議論があるかないか、情報収集に努めたか。それとも、死刑の存置はもっぱら自国の判断という見解から情報収集もしていないのか。
 (2) 答弁書「一の(2)及び(3)について」によると、国連加盟国中、組織犯罪対策のための法律を制定している国が何力国あるかなどについて、政府は十分に調査していないようだが、今回の法案提出に当たり、政府は国際的な要請を強調しているにもかかわらず、基本的なデータさえ答弁できないという姿勢に問題はないと考えるか。
 (3) 答弁書「一の(2)及び(3)について」で、アメリカ合衆国、ドイツ連邦共和国、フランス共和国については言及があったが、三国において組織犯罪に関し、一定の組織的な犯罪の加重処罰、マネーロンダリング行為の処罰その他を内容とする刑事法を整備した経緯、国会等における議論の概要を明らかにされたい。アメリカでは死刑が最高刑となっているようだが、ドイツ、フランスでも死刑が最高刑になっているのか。三国に言及しながら、この点についてはアメリカの事例しか答弁がないので、他の二国についても明らかにするように求める。また、日本の組対法案に盛り込まれているのに、三国の組対法案の例に記載がない通信傍受に関する議論はどうだったのかも併せて答弁されたい。
 (4) 答弁書「一の(4)について」によると、組対法案の最高刑に死刑が盛り込まれたのは、従来の殺人罪に対する刑の上限と比較して「殊更引き下げるべき理由はない」と言うが、組対法案では組織犯罪の重罰化が骨子となっており、刑罰の下限引き上げも盛り込まれている。裁判での求刑意見が一般の殺人罪では無期懲役となるケースでも、組織犯罪であるとして死刑を求める場合も想定されるのではないか。
 (5) 答弁書「一の(5)について」には「組織的な犯罪に対する厳格な対応を求める国際的な動向にかんがみ、それぞれの国の刑罰体系の中で組織的な犯罪について重い刑を定めることは、国際的な要請にかなった対応であると考えている。」とあるが、(2)でただしたように何力国に組対法があるかも答弁できない現状で、「国際的な動向」や「国際的な要請」を事実としてどのように評価すればいいのか。また、「重い刑」という漠然とした答弁ではなく、国連加盟各国において、どのように重罰化が図られているのか、具体的に明らかにされたい。とりわけ、死刑廃止国における組織犯罪の重罰化について、詳細に説明されたい。前回主意書の質問は前述の国連人権委員会決議や国連加盟国中、死刑廃止国が過半数を超えている現状で、死刑を組織犯罪対策法案の最高刑にすることも国際的な要請なのかどうか、また死刑を最高刑とすることについて、日本に組織犯罪対策を求めたとされる国のうち死刑廃止国にはどのように説明したのかなどについてただす趣旨だったが、答弁と食い違いもあるようなので、この点についても改めて答弁されたい。
二 死刑廃止を求める決議と死刑をめぐる国際的動向について
 (1) 答弁書「二の(1)及び(2)について」によると、前述の国連人権委員会決議に際し、日本政府が反対票を投じたのは「我が国は、死刑制度の存廃の問題については、基本的には各国において当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討されるべきものであり、国際機関の場で死刑制度の是非を決するになじまない」との理由とされるが、票決に当たり、こうした趣旨を各国に説明したか。また、これまでに国連などの議論の中で「国際機関の場で死刑制度の是非を決するになじまない」と主張した具体的な日時、場所、それに対する各国の反応、日本の意見が採り入れられずに死刑廃止に向けた決議がなされた経緯などを明らかにされたい。
 (2) 「国際機関の場で死刑制度の是非を決するになじまない」理由として、各国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を挙げているが、ヨーロッパ諸国を中心とする死刑廃止国と日本における国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等の異同を明らかにされたい。
 (3) 答弁書「二の(3)について」には「ロビンソン国連人権高等弁務官は、第五十四回国連人権委員会において死刑問題決議が採択された後、右決議を支持する旨の発言を行ったものと承知している」とあるが、ロビンソン氏は決議採択後に「米国や日本にも死刑廃止を訴えたい。近い将来、満場一致で死刑廃止決議が採択されることを望んでいる」とコメントしたのではないか。死刑廃止国アイルランド元大統領のロビンソン氏が国連人権高等弁務官に選出された際、日本政府は反対したのか。
 (4) 答弁書「二の(4)について」によると、死刑に関する各国の考え方は「(国連人権委員会決議における)各国の投票態度及び立場表明」から国際的に一致した意見はないと認識しているようだが、同決議に当たっての各国の「立場表明」の内容を明らかにされたい。また、答弁書「二の(1)及び(2)について」に記載された反対票を投じた国のうち、現在他国と戦争中の国、人権侵害が発生しているとして日本が警告を発している国、核実験を断行するなど自国の論理のみによって国際社会の潮流を理解しない国はどこか、具体的に列挙されたい。
 (5) 答弁書「二の(5)について」には「死刑制度の存続が我が国の外交活動一般に影響を与えることはなく」とあるが、死刑制度を存置していることが犯罪の国際共助、外国人の犯人引き渡しなどの支障となったことはこれまでに一度もないのか。
 (6) 答弁書「二の(6)について」には「国民世論の多数が、極めて悪質、凶悪な犯罪については、死刑もやむを得ないと考えており」と断言している。しかし、過去十年において総理府や読売新聞などが実施した世論調査では確かに「存置」が過半数を超えたが、朝日新聞が衆院議員を対象に実施した調査などでは「廃止」「停止」が「存置」を上回っている。こうしたデータも踏まえずになぜ断言できるのか。
 (7) 答弁書「二の(7)について」によると、政府は国際協調主義の原則を宣明した日本国憲法前文について「死刑の存廃や死刑に関する情報公開の具体的程度のような基本的には各国の決定、処理にゆだねられていると考えられる事項について、我が国が自らの判断でその在り方を決定することを否定する趣旨のものでないことは当然」と解釈しているが、前回主意書で指摘した憲法前文中の「政治道徳の法則」に死刑の存廃や死刑に関する情報公開の具体的程度は含まれると考えるか。
三 ルワンダの公開処刑について
 (1) 答弁書「三の(1)について」には本年四月二十四日の死刑執行が記載されているが、その後民族大量虐殺の責任者などに対する死刑執行はないのか。
 (2) 答弁書「三の(2)について」によると、日本政府は他国の具体的な司法判断に関することについては答弁しないが、ルワンダ共和国政府には平和で安定した国家の再建に努力し、国際社会としてもかかる努力を支援していくことが重要と考えているようだが、後段のルワンダ政府に対する考え方は同国や日本内外に公表したものか。国連加盟国中、日本政府と同様の理由で今回の大量死刑に対するコメントを「差し控えた」国はあるか。逆に大量の死刑執行に対し、人権侵害として批判した国はあるか。また、コメントを差し控えた国と批判した国において、人権意識に異同はあるか。
 (3) 前回主意書においては「国連人権高等弁務官がルワンダでの今回の公開処刑にどういう態度を取ったか、承知しているか」とともに「そうした弁務官の姿勢をどのように評価するか」と質問した。「評価」についての見解が答弁書「三の(3)について」にないので、改めて答弁を求める。なお、広辞苑によると、「評価」とは「善悪・美醜などの価値を判じ定めること」と定義されている。
四 組織犯罪対策法と死刑について
 (1) 答弁書「四の(1)について」には、組織犯罪対策は「国際的に一致した認識」とあるが、国連などで満場一致で決議されたことがあるのか。具体的に明らかにされたい。もし、そうした事例がなく、サミットなどにおける先進国の共通認識という意味で「国際的に一致した認識」と判断しているのであれば、中国などサミットに加わっていない国の意向が「国際的に一致した認識」に含まれない理由を明らかにされたい。また、前回主意書において質問したのは、組対法は「国際的要請」で、死刑は国連で廃止を促す決議が繰り返されても「自国の判断」と主張する日本政府の姿勢は国際的に理解を得られているかをただしたのであり、こうした二つの姿勢が矛盾しているかどうかの政府見解を質問したのではない。諸外国に対して、こうした二つの姿勢を明確に説明し、理解を得ているかどうか、また諸外国から異論が示されていたならば、どういう議論になったのかなどを尋ねたものであり、改めて答弁を求める。
 (2) 答弁書「四の(2)について」には、元オウム真理教の林郁夫被告に対する東京地検検察官の論告は「本来死刑が相当であると判断しながら無期懲役を選択したというものではなく」とあるが、報道によると、論告の要旨はこれまでの判例を指摘しつつ「犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的悪影響といった、いわば犯罪行為とその結果またはそれと直接関連する量刑要素を考慮すれば、正しく極刑をもって臨むほかないと言うべきである」といったん死刑相当の意見を述べた上で、特段の事情として、答弁書前記部分にあるように「組織的な凶悪犯罪の解明と犯罪組織の中枢の検挙による将来における凶悪犯罪の防止に大きく貢献したことなど」を考慮し、無期懲役を選択したとされている。正確な事実はどちらか。また、政府が認識している「司法取引」とはどういうものか、説明されたい。
五 林郁夫被告に対する判決について
 (1) 林郁夫被告に対する本年五月二十六日の東京地裁判決は、検察官求刑どおり無期懲役を言い渡したが、判決理由では検察官が情状酌量しなかった犯行当時の事情(例えば、麻原彰晃の犯行指示に逆らうことは困難だったことなど)も刑を減軽する理由に加え、もっぱら逮捕後、組織犯罪の解明、将来の犯罪防止に貢献したという検察官の意見と異なった見解を示した。これまでの判例で、死刑相当としながら情状酌量して無期懲役に刑を減軽した事例のうち、犯行当時の事情を斟酌することなく、主に逮捕後の捜査に対する「大きな貢献」だけを酌量したケースはあるか。
 (2) 組対法に関する自民、社民、さきがけの与党協議で、法務省は組織犯罪の重罰化を図ることで「求刑の弾力化が図られる」と説明したが、「弾力化」とはどういう趣旨か、改めて説明されたい。林郁夫被告に対する無期懲役の求刑は「弾力化」を示唆するケースなのか。
 (3) 本年五月三十一日付け朝日新聞朝刊に八王子市の男性が「無期懲役にとどめた林被告の判決を支持する」と投書している。その中で、男性は自分が娘を交通事故で亡くし、加害者を憎んだ経験を書いた上で「人間にはいかなる理由でも、人を殺す権利はない。戦争でも、裁判でも、である」「正しい理由があれば、人間は人間を殺してもよいという論理こそが、人類の悲劇を繰り返してきた原因ではないだろうか」と指摘している。こうした国民の声をどのように受け止めるか。
六 報道と死刑について
 (1) 本年五月十三日の衆議院法務委員会では、五人の委員が死刑制度や死刑に関する情報公開などについて集中的に質問し、真剣な議論が交わされた。この日の議論とそれに対する報道をどのように受け止めたか。
 (2) 検察当局が新聞、テレビの記者に対し、事件の被疑者逮捕や家宅捜索などを事前に報道したとして、その後の取材はもちろん、庁舎内の出入りさえも禁止するようなケースはあるか。あるとすれば、いかなる法令に基づく措置か。
 (3) 大蔵省などの接待汚職事件の最中、東京地検がそれまで複数あった取材の窓口を次席検事だけにしたという報道があったが、事実か。事実とすれば、どのような事情によるものか。現在も同様か。
 (4) 刑事事件や事件にかかわる今回の組対法案などをめぐる報道について、取材を受ける側の法務・検察当局や警察当局にはどのような態度が求められると考えるか。
 (5) 死刑廃止条約の批准を求めるNGOなどによると、最近は国会の会期外に執行してきた死刑について、法務省内で「今度は通常国会の会期内に執行する」と話している幹部がいるというが、事実か。会期末は間もなくだが、執行するのか。

 右質問する。





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