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平成十年九月二十五日提出
質問第一五号

死刑制度等内閣の姿勢に関する質問主意書

提出者  保坂展人




死刑制度等内閣の姿勢に関する質問主意書


 一九九八年六月十七日提出の「死刑制度などに関する質問主意書」は、同年五月十三日の衆院法務委員会での死刑問題集中質疑、その際の「議論は必要」との法務大臣答弁などを踏まえ、論議を深めるための質問だった。
 しかし、政府は参院選が公示された六月二十五日、三人の死刑を執行したと伝えられている。しかも、政府はその執行の報道が事実かどうか、いまなお答弁していない。
 こうした姿勢は憲法の定める国民主権にもとる暴挙であり、今後も繰り返し非難し続けるが、これまでの頑な答弁姿勢は果たして、国民の信を得て選ばれた政治家本来の態度であろうか。
 もし、司法試験や国家公務員試験には合格していても、決して国民の審判を受けていない官僚がこうした暴挙を主導し、閣僚及び政務次官がこれを見逃しているとすれば、金融破綻問題と同様、政治家は後に大きなしっぺ返しを受けることになろう。法務省については、先の国会で明らかになった片山隼君の交通死亡事故をめぐる役所窓口のひどい対応と大臣の陳謝は記憶に新しい。官僚は政治家がしっかりチェックしなければならないことを改めて示したケースだった。
 「死刑制度などに関する質問主意書」(以下「前回質問」とする)に対する八月二十一日付けの政府答弁書(以下「答弁」とする)は、官僚の作文がそのまま答弁となってしまったとみられる箇所が散見される。本質問主意書では、前回の不十分な答弁をただすとともに、官僚答弁ではなく、各閣僚の政治的見識に基づき、内閣としての答弁を求める。

一 日本の死刑制度
 (1) 答弁「一の(1)について」によると、政府は日本で死刑が開始された時期、状況等については「承知していない」ようだが、答弁に当たり、いかなる範囲でどのような調査を尽くしたか、明らかにされたい。
 (2) 「死刑を考える平成七年度関弁連(関東弁護士会連合会)シンポジウム報告書」では、日本における死刑は八一八年から一一六四年まで停止されていたと指摘されている。また団藤重光著の「死刑廃止論」にも同様の指摘がある。「一の(1)について」では「文献によれば」との答弁があるが、この点については知らなかったのか。
 (3) 前回質問「一の(5)」は「戦後、死刑が太政官布告に従って執行されていることに疑問を呈する裁判所の判断が示されたケースはあるか」だったのに、答弁はケースの有無を答えていない。改めて答弁されたい。
 (4) 答弁「一の(7)及び(8)について」は「調査した範囲では、具体的な死刑執行の事実について答弁をしたものは見当たらない」としているが、一九六五年十二月二十三日の第五十一回国会衆院法務委員会での政府答弁は調べたか。
 (5) 答弁「一の(9)について」によると、改正刑法草案は「死刑を存置するとしても、その適用をなるべく制限するのが望ましいとの考え」に基づいているようだが、どのような理由からか。
 (6) 答弁「一の(11)について」の「一部に疑義を差し挟む向きもあった」とは、具体的にどのようなことがあったのか。
 (7) 答弁「一の(12)について」で言及した刑事施設法案は過去三回の国会提出で、どのような審理経過をたどったか。可決されない理由をどのように考えているか。
 (8) 三度の提出にもかかわらず、可決されない刑事施設法案と本質的に異ならない法意の一九六三年三月十五日法務省矯正局長依命通達が現在、有効に運用されていることに疑問は感じないか。政府は国会の権能をどのように考えているか。また、本件について閣内で議論があったか。あったとすればどのような議論があったのか。なかったとすれば、内閣として各閣僚の見解を把握しておく必要があるのではないか。
 (9) 答弁「一の(13)について」によると、一九六三年三月十五日の法務省矯正局長依命通達は、死刑確定者が精神の安静裡に執行を受けるように配慮するという要請を阻害する典型的なものを類型化して定めたものであって、通達前にその類型に合致する事例があったかなかったかは、関係記録がすべて残っているわけではないので、答弁できないということらしい。同様に担当省庁で具体的事例は明らかにできないが、法益を阻害すると省庁が考えた典型的なものを類型化して通達を出している例を列挙されたい。こうした事例が存在することについて、政府はどのように考えるか。また、これについて閣内で議論があったか。あったとすればどのような議論か。なかったとすれば、内閣として各閣僚の見解を把握しておく必要があるのではないか。
 (10) 答弁「一の(15)について」によると、一九六七年八月、田中伊三次法務大臣(当時)がマスコミ関係者と東京拘置所小菅支所(当時)の刑場を視察し、同年十月には「ただいま二十三人の執行命令書にサインした」と発表したかどうか、事実関係の確認はできなかったという。法務省内の記録を精査したか。また、当時の新聞記事を照会しないのか。どのような方法で事実関係の調査を尽くしたのか。政府は行政の継続性をどのように考えているか。
 (11) 答弁「一の(18)について」で列記された東京都清瀬市議会、同小金井市議会、大阪府高槻市議会、同泉南市議会、埼玉県新座市議会の死刑制度の廃止等を求める意見書について、政府はどのように受けとめているか。また、このような意見書が採択されたことについて、閣内で議論がかわされたことがあるか。あったとすればどのような議論か。なかったとすれば、内閣として各閣僚の見解を把握しておく必要があるのではないか。
二 世界的動向
 (1) 答弁「二の(1)及び(2)並びに(4)から(6)までについて」によると、死刑制度の存廃は「基本的には各国において当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討されるべきものであり、それぞれの国において独自に決定すべきもの」と考えているようだが、カナダやイタリアが死刑を廃止した理由となった「人間の尊厳を尊重する姿勢」や「人道主義」は「当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等」によって、国家間で大きな違いがあると認識しているのか。
 (2) 答弁「二の(10)について」によると、米国テキサス州においては、死刑執行に関する情報は原則として公開であり、死刑確定者が希望する親族などの立ち会いも許されている。日本の現状とあまりにもかけ離れているが、このような状況について、政府はどのように考えているか。また、これについて閣内で議論があったか。あったとすればどのような議論か。なかったとすれば内閣として各閣僚の見解を把握しておく必要があるのではないか。
三 戦争と死刑
 (1) 答弁「三の(1)について」によると、日中戦争や太平洋戦争中の捕虜などの取り扱いについては「断片的な記録しか残っていないため、政府として確定的な判断を行うことは困難である」というが、戦前、戦中の閣議や旧軍の意思決定機関の会議録などには捕虜などの取り扱いについて、明確な記載がないということか。もしないとすれば、それは関係記録が現在防衛庁にあるような大きな焼却炉で燃やされてしまったのか、それとも元々決まっていなかったのか。
 (2) 答弁「三の(2)について」によると、日中戦争や太平洋戦争中、日本軍が殺害した連合国側の捕虜等の数は「正確な記録が見当たらない」ということだが、それは関係記録が大きな焼却炉で燃やされてしまったのか、それとも元々ないのか。
 (3) 日中戦争や太平洋戦争中の捕虜等の取り扱い、殺害者数などをただした前回質問に対し、政府はどのような調査を尽くしたか、明らかにされたい。
 (4) 答弁「三の(10)について」の「様々な資料等」とは何を指すのか。
 (5) 答弁「三の(11)について」によると、法務省が保管しているBC級戦犯裁判に関する資料のほとんどは「原資料との同一性が確認されたものではなく、内容の正確性についての保証が十分ではない」ということだが、答弁「三の(4)について」で明らかにした各裁判国別の死刑者数はどのようにして正確に把握したのか。
 (6) 答弁「三の(12)について」によると、政府は日本国憲法前文の「人間相互の関係を支配する崇高な理想」を「友愛、信頼、協調というような、民主的社会の存立のために欠くことのできない、人間と人間との関係を規律する最高の道徳律」と解釈している。官僚が一部刑事責任を問われるなどの接待を繰り返し受けたり、役所をめぐる背任事件の証拠書類を大きな焼却炉で燃やしたり、立法府の国政調査の基本的事項について「個々、具体的な事項は答弁を差し控えたい」と言って調査をそれ以上できないようにしたりすることは「友愛、信頼、協調というような、民主的社会の存立のために欠くことのできない、人間と人間との関係を規律する最高の道徳律」に基づく行為か。
 (7) 現在の官僚は「友愛、信頼、協調というような、民主的社会の存立のために欠くことのできない、人間と人間との関係を規律する最高の道徳律」を遵守していると断言できるか。
 (8) 答弁「三の(13)について」によると、死刑制度と平和主義の理念とは関係がないと考えているようだが、死刑制度と「友愛、信頼、協調というような、民主的社会の存立のために欠くことのできない、人間と人間との関係を規律する最高の道徳律」とは関係がないと本当に思っているのか。
 (9) 答弁「三の(14)について」によると、日本国憲法前文第二段の「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」という部分と死刑の存続、情報公開の具体的程度についての政府の態度とは関係がないとしている。いかに死刑制度が違憲ではなく、三審制の裁判で慎重に判断されたとしても、その執行は官僚にゆだねられ、どのように行われているか情報が公開されない以上、死刑の執行には官僚の「専制」「圧迫」「偏狭」が存在する余地が十分ある。関係がないという答弁はこうした官僚の「専制」「圧迫」「偏狭」を隠す意図か。
 (10) 繰り返し官僚に対する不信感を指摘してきたが、それは死刑問題に限らず、金融破綻問題、防衛庁背任事件、大蔵省接待汚職、薬害エイズ事件、公安警察の在り方などで、官僚が自分たちに都合の悪い情報を公開しないことに由来している。どのように考えるか。読売新聞の報道によれば、三(注)博元大蔵大臣は山一証券の自主廃業について、それをスクープした日本経済新聞の朝刊が届く直前に報告を受けたとされるが、それでいいと考えているか。
     続発する官僚の不祥事を踏まえ、官僚の在り方などについて閣内で議論があったか。あったとすればどのような議論か。なかったとすれば、内閣として各閣僚の見解を把握しておく必要があるのではないか。
 (11) 答弁「三の(17)について」の「法律の定めるところに従って特定の公務員がその職務上武器を使用することが許され、必要やむを得ず人を死に致すような行為を行う場合」とはどんな場合か。いかなる公務員が担当するのか。
四 絞首刑
 (1) 答弁「四の(1)について」で指摘の刑法第十一条第一項の制定経緯、当時の行政府の考え方を明らかにされたい。
 (2) 答弁「四の(2)について」の「多数の国」とはどこの国を指すのか。
 (3) 答弁「四の(3)について」によると、ナチス政権下のドイツにおいて、絞首刑が銃殺やギロチンによる斬首以上に残虐な刑罰とされていたことについて「承知していない」というが、どのような調査を尽くしたか。
 (4) 答弁「四の(6)について」によると、アメリカで死刑を存置している一部の州において、絞首刑ではなく薬物注射や電気殺などを採用している理由については「承知していない」とあるが、どのような調査を尽くしたか。
 (5) 答弁「四の(7)について」によると、国連加盟国中、絞首刑を採用している国の数とその理由については「承知していない」とあるが、どのような調査を尽くしたか。
五 死刑執行人の苦悩
 (1) 答弁「五の(1)について」によると、矯正施設職員の採用に当たって作成するパンフレットには死刑について記載されていないようだが、死刑執行を担当するという極めて重要な職務を募集時に周知徹底しないのはなぜか。
 (2) 答弁「五の(3)について」によると、矯正施設職員からは「折りに触れてその心情が述べられることはある」ようだが、どのような心情が吐露されるのか。
 (3) 答弁「五の(4)について」によると、死刑執行の苦悩などを記載した元刑務官らからの通信は下稲葉耕(注)前法務大臣に送付された一通だけか。
 (4) 答弁「五の(5)について」によると、政府は「死刑執行に当たる職員の心情等については、十分耳を傾けなければならないものと考えている」ようだが、答弁「五の(9)について」によると、死刑執行を担当した刑務官には二万円の特殊勤務手当以外、心情の安定を期する特別の措置はないという。職員の心情等について十分耳を傾けるだけで終わりか。耳を傾けた後の対応、対策はないのか。
 (5) 答弁「五の(8)について」の「死刑執行に直面することによって、自己の罪責を深く自覚し、悔悟する側面もある」事例について、どの程度把握しているか。把握する態勢は整っているか。
 (6) 答弁「五の(10)について」によると、死刑執行を指揮する検察官の相手方が監獄の長であることは国会の議決を経ない法務省の執行事務規程に基づいているようだが、人命にかかわる重大事案について、法律の定めは必要ないのか。
 (7) 答弁「五の(13)について」では「現行法上、死刑は行刑施設の職員が執行するものであり、検察官又は検察事務官がこれを行うことはできないと考えられる」とある。人命にかかわる死刑執行の担当者を定めた法律がなく、実際に担当する矯正施設職員には苦悩がある上、死刑に関する情報公開がほとんどなされない現状では、死刑執行は責任がより重大な公務員に担当させる必要があるため、議員立法で死刑には法務省刑事局長、同矯正局長が立ち会い、執行は検察官と検察事務官が直接担当するように改正案を提出したいと考えている。他の法律との関係で、何か問題は生じるか。
 (8) 答弁「五の(14)について」によると、検察事務官募集用のパンフレットには死刑執行の立ち会い、執行始末書の作成について記載されていないようだが、死刑執行を担当するという極めて重要な職務を募集時に周知徹底しないのはなぜか。
 (9) 前回質問「五の(15)」では「検察事務官に対して、死刑執行に立ち会い、執行始末書を作成するための研修はなされてきたか」とただしたのに、答弁「五の(15) について」は「刑の執行に関する研修が行われている」というだけで、明確に答えていない。改めて答弁されたい。
六 冤罪
 (1) 答弁「六の(2)について」によると、無罪判決が確定し、担当検察官が処分された事例はないという。それはなぜか。
 (2) 前回質問「六の(3)」では「学校や民間企業などでは通常、失敗や過ちを犯した反省と将来の再発防止に向けた決意が言葉だけではないことを示すには、失敗や過ちの内容を具体的に明らかにし、なぜ過ったのかを検証するが、検察官の場合には必要ないのか」とただしたのに、必要の有無について答弁がない。改めて質問する。
 (3) 答弁「六の(8)について」で指摘の刑事訴訟法第三百五十一条第一項の制定経緯、当時の行政府の考え方を明らかにされたい。
七 世論
 (1) 答弁「七の(1)について」で、列挙したイギリスとフランスの世論調査の「死刑の存続に賛成する意見」の回答とは、どのような質問事項による回答か。
 (2) イギリスやフランスにおいて、世論調査では死刑存置を求める意見が大多数だったのにもかかわらず、死刑が廃止されたのはなぜか。
 (3) 答弁「七の(3)について」によると、犯罪の「被害者やその遺族が犯人の処罰についていかなる心情を有しているかについては、検察官において、個別具体的な事件ごとに、被害者等からの告訴の受理やその取調べ等を通じてその把握に努め、それが適切に裁判結果に反映されるように努めている」ようだが、東京都世田谷区の片山隼君の交通死亡事故で、東京地検は被害者の遺族の「心情」を逆なでするような対応を取った。それは被疑者が不起訴処分であり、「裁判結果に反映」することがないからか。
 (4) 片山君の件をみると、答弁「七の(3)について」の「努めている」という言葉が実態を伴っていないのではないかという疑問を持つが、どのような努力をしているのか。また、法務大臣が陳謝した片山君の件では東京地検の担当者らにどのような処分をしたか。
 (5) 犯罪被害者の救済をめぐる問題については、片山君の件などをきっかけにマスコミで数多く取り上げられているが、政府は被害者救済の現状について、どのように考えているか。また、新たな政策を検討しているか。
八 情報公開と死刑
 (1) 答弁「八の(1)について」によると、雑誌「アサヒグラフ」一九四七年十月二十九日.十一月五日合併号に広島の刑場写真が掲載された経緯については「記録がなく、承知していない」というが、どのような調査を尽くしたか。雑誌の出版社に問い合わせるなどしたか。
 (2) 答弁「八の(2)について」によると、政府は死刑をめぐって「国民の間で多角的観点からの冷静な議論が行われることは望ましい」と考え、議論を理解、深めるものとして「死刑判決が言い渡された個々の事件の内容等はもとより、様々な議論、諸外国の動向等」が伝えられることを挙げているが、国民が死刑の執行がどのように行われているかや死刑確定者の拘置状況、被害者の遺族救済の現状などを知ることは答弁中の「等」に含まれているのか。
 (3) 答弁「八の(3)について」によると、教科書の中には「死刑制度の是非についての議論や諸外国の状況等を取り上げているものがある」というが、学校現場において、人命の尊さや基本的人権として最大に尊重される「生命」と、国家が法に基づき、人を死亡させる死刑制度は矛盾しないと、子どもにはどのような例を挙げて教えているのか。
 (4) 神戸市の連続児童殺害事件では、現代の子どもが人命の尊さをどれほど理解しているか、あるいは教えられてきたかなどが論議され、一部には加害者の少年を死刑にすべきとの冷静さを失った声もあった。死刑制度は少年事件や学校現場にどのような影響を与えていると考えるか。
 (5) 答弁「八の(4)について」によると、死刑に関する情報公開の程度と死刑に関する論議との関係については「判断が困難」としているが、どのような調査、検討を尽くした上で、そうした結論を得たか、明らかにされたい。
 (6) 前回質問「八の(6)」で指摘したとおり、六月二十五日に死刑が執行されたとの報道があった。新たに死刑廃止条約の批准を求めるNGOや報道関係者の間では、次の執行は年内から来年にかけて想定される衆議院の解散から総選挙の間と予想されているが、今度も事実か。

 右質問する。





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