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平成十二年一月三十一日提出
質問第二号

危険有害物輸送の事故再発防止と安全確保に関する質問主意書

提出者  寺前 巖




危険有害物輸送の事故再発防止と安全確保に関する質問主意書


 一月三十日、東名高速道路(静岡県富士市)でタンクローリーが横転する事故が発生、積載していた可燃性有害物質が路上に流出し通行止めとなり、事故処理に長時間を要している。昨年十月二十九日にも、東京都心の首都高速道路で過酸化水素を積んだタンクローリーが爆発する事故が発生し、タンク部分が数十メートルも上空に吹き飛び、二十三名の負傷者を出すなど、半径百数十メートルにわたって、大きな被害をもたらした。この事故は、危険有害物輸送の恐ろしさを浮きぼりにした。
 また、九十七年八月、東名高速道路(静岡県菊名町)でタンクローリーが横転した事故では、積載していた「ステアリン酸クロライド」が道路上に流出、水と反応して有毒ガスが発生し、日本の大動脈である東名高速道路は十五時間にわたり通行止めとなった。
 政府は、この事故後に関係省庁対策会議を開催するなど、対策をすすめているが、その後も高速道路での危険有害物輸送中の事故が続いている。消防庁の調査によれば、九十年は二十七件、九十七年は三十六件、九十八年には四十八件に増加している。
 わが国では、危険有害物を積んだタンクローリーが頻繁に通行し、日本ハイウェイセーフティ研究所が東名高速道路で行った調査によれば、二分間に一台の頻度で走っている。こうした背景には、大企業の毎日必要量だけ工場に運ぶジャストインタイムの原材料調達方式がある。まさに、道路上のタンクローリーが「走る貯蔵庫」となっているのが実態である。
 危険有害物を積載したタンクローリーがひとたび事故を起こせば重大な被害をもたらすものであり、危険有害物輸送における事故の再発防止・安全対策の強化をはかることは緊急の課題である。
 よって、以下、質問する。

一 危険有害物輸送の規制強化と総合的な事故防止対策の体制確立について
  わが国において、危険有害物輸送を規制する法律は、火薬類取締法、消防法、毒劇物取締法、高圧ガス保安法、道路運送車両法など多岐にわたっている。
  また、同じ物質でも濃度等により規制を受ける法律や規制の内容、監督官庁が異なるなど複雑な仕組みになっている。
  過酸化水素の場合、濃度三十六%以上であれば消防法上の「危険物」になるが、濃度三十六%未満はその対象外となる。昨年、首都高速道路で爆発した過酸化水素は濃度三十一%であったため、「危険物」ではなく、毒劇物取締法の「劇物」として輸送されていた。しかも過酸化水素の流通は濃度三十一%から三十五%のものが大半をしめ、「危険物」の規制を受けないまま道路輸送が行われている。
 1 従って、危険有害物の道路輸送における法的規制を見直す必要があるのではないか。
 2 政府は、関係省庁による「危険物運搬車両の事故防止等対策会議」を行っているが、危険有害物の輸送における安全全体について責任をもつ官庁は明確になっていない。
   政府は、危険有害物に対して総合的に責任をもつ官庁を明確にし、安全輸送、事故処理・二次災害防止、事故防止対策など、一体的にすすめる体制を確立すべきではないか。
 3 先に指摘した東名高速道路の事故では、タンクローリー上部のマンホールが横転時に破損し化学物質が流出した。タンクローリー横転時の積載物流出を防ぐために、消防庁(法令)及び厚生省(通知)によって防護枠の取り付けやマンホールの強度、タンクの厚さ等について基準を定めているが、高速運転中の横転を想定した強度になっていないと関係者から指摘されている。
   危険有害物を積載したタンクローリーが高速運転中に横転した場合でも、タンクなどが破損し、積載物質が流出しないように、マンホールやタンク、防護枠など、構造上の基準の見直しを検討すべきではないか。
 4 首都高速道路で発生した過酸化水素の爆発事故の原因について、「タンク洗浄が不十分だったために過酸化水素が異物と混ざって化学反応がすすみ爆発した」と報道されている。道路輸送の安全を確保するために、過酸化水素など、異物が混じった場合、爆発・火災を起こす危険のある化学物質の輸送にあたっては、専用タンクの使用を原則とし、併用する場合の法的な基準について検討すべきではないか。
二 事故処理、被害拡大防止対策などに一体的に対応できるシステムについて
  「ステアリン酸クロライド」を流出したタンクローリー事故の際、積載していた化学物質の名称・性質の特定に時間がかかり、適切な対処が遅れた。政府は、その教訓から、輸送中の事故発生時に、運転者等が応急措置など、正確な対応をとるための緊急連絡先等を記載した「イエローカード」の普及・改善をはかることを確認している。
 1 政府が事故発生時の処理対策の柱として、業界がすすめている「イエローカード」の携行を位置づけている以上、当然その携行状況を把握すべきである。
   政府は、危険有害物の道路輸送における「イエローカード」の携行状況についてどのように把握しているか、その実態を明らかにされたい。
 2 「危険物輸送に関する国連勧告」では「危険物」を九クラスに分類、四桁の数字で表示し、危険性を図案や数字で示している。諸外国ではその国連番号や図案を車両に見やすく表示することを義務づけている。
   化学物質の名称は複雑で同じ物質にいくつもの名称が存在するなど、事故発生時に物質の特定ができず、事故処理・二次災害防止対策など遅れる危険がある。諸外国のように国連勧告に従うことによって、単純な四桁の番号表示となり、より迅速な対応が可能となる。すでに、航空輸送や海上輸送では国連勧告に基づいた番号や図案に日本語を加えた標識が使用されている。国内の陸上輸送に移る時には、その表示を(注)がして、現行法令に基づく「危」「毒」などの標識にかえている。
   危険有害物輸送の事故発生時に積載されている物質をただちに特定し、迅速な対策をとるうえでも、現在航空・海上輸送で使用されている国連番号、図案を陸上輸送の危険有害物積載車両に表示させることを検討すべきではないか。
   もし、検討しないということであれば、危険有害物の陸上輸送において、国連勧告に基づく番号や図案の表示をなぜ使用しないのか具体的な理由を明らかにされたい。
   また、運輸省、建設省、消防庁は、欧州における「危険物道路輸送に関する欧州各国合意書」(略称「ADR」)による危険有害物の陸上輸送について調査したことがあるのか。
 3 危険有害物の道路輸送における事故は、深夜・早朝に多く発生していることから、事故処理・二次災害防止を迅速に行うためには二十四時間対応できるシステムの確立が必要である。現在、消防庁、高速道路管理者、厚生省が事故発生時などに対応するためのデータベース化をそれぞれすすめている。行政によるタテ割の対応ではなく、事故発生時に一元的に対処できるようにすることが必要である。
   政府とメーカー・荷主の責任によって、二十四時間体制で事故発生時の迅速な処理方法、中和剤の入手、二次災害防止などの情報提供を適確に行い、事故処理に対応できるシステムを整備するべきではないか。
三 タンクローリーの横転事故の原因解明について
  消防庁の「平成十年の主な事故事例」によれば、タンクローリーの横転事故が八件発生し、積載物が流出するなど大きな被害をもたらしている。
  タンクローリーの横転は、スピードの出し過ぎなど無理な運行だけでなく、制限速度で運行していても、S字カーブを曲がりきれずに横転する「低速横転」が発生している。タンクローリー横転の原因については未解明であり、自動車メーカーと国の責任で徹底した実験・調査を行い、「低速横転」など、タンクローリーの横転事故の原因を解明し、車両の構造上の改善をはじめ、横転事故防止策を強化すべきではないか。
四 安全輸送のための下請運送事業者の適正運賃の確保と労働条件改善について
  石油元売り各社は、物流費削減をはかるため、油槽所の廃止・共同利用を推進するとともに配車の一元化と全国・ブロックでの配車センターを設けている。さらに車搭載端末機の導入による配送及び車両の管理、輸送元請け業者の油槽所単位での一社体制への移行など下請支配の強化をすすめている。
  石油元売り各社は、運送契約に入札制度を導入し、一定規模以上の台数と輸送量などの選定基準を満たす会社でなければ入札させないとか、それ以下の中小運送業者は企業連合で入札せよとか、迫っている。
  石油元売り各社は、希望する運賃・料金にならない場合、入札のやり直しをさせるという異常なやり方で、従来の運賃・料金から二十%も切り下げている。
  入札で落札できなかった下請会社は一方的に運送契約を解約され、経営難が深刻となり、減車、労働者に対する希望退職の募集や指名解雇の通告を余儀なくされる事態を招いている。このような石油元売り各社による一方的な運賃ダンピングは、「危険物」の安全輸送の確保にも重大な影響を与えるものである。
 1 そこで質問するが、石油元売り各社は、配車センターを設置し、本州と四国・九州をあわせた全国配車や広域なブロックごとの配車を行っている。各社の配車センターから運送事業者に配車表が送付され、事業者の掲示板などに張り出される。その配車表を運転者が直接見て運行しているのが実態である。
   貨物自動車運送事業法では運行管理者が運転者の安全運転、労働時間などを指導・監督し、健康状態などをチェックすることになっている。
   ところが、石油元売り各社・荷主側は、各運送事業者に配車表を送付し、一方的に運行を管理している。こうしたやり方は、貨物自動車運送事業法の安全規則に反するものではないか。
   政府は、法律に定められた運行管理者を通して配車及び管理を行わせるべきではないか。また、こうした実態を調査し、改善の措置をとるべきではないか。
 2 トラック事業の運賃・料金については、貨物自動車運送事業法の規定により運輸大臣に対する届出が義務づけられており、届け出た運賃・料金を適用しない場合には罰則規定がある。違反行為が荷主等の指示に基づいて行われた場合には、同法第六十四条により運輸大臣から当該荷主に対して再発防止のための勧告を行うことができる。
   政府は、石油元売り各社による運賃・料金の入札などの実態を調査し、不当な運賃ダンピングをやめさせ、届出運賃に基づく適正な運賃を支払うよう指導すべきではないか。
   また、このような届出運賃を無視した運賃ダンピングのための入札は、貨物自動車運送事業法に規定されている運賃の届出制度と矛盾するものではないか。
   さらに、石油元売り各社のこのようなやり方は荷主の優位的地位によって公正な取り引きをゆがめるものではないか。
 3 (社)全日本トラック協会のアンケート調査によれば、石油類輸送運転者の年間総労働時間は二千七百六十時間(九十八年度)にのぼり、政府の国際公約である千八百時間を大きく上回っている。事故と運転者の長時間過密労働は密接に関連するものであり、「危険物」の安全輸送のうえで重大な問題である。
   危険物の規制に関する政令第三十条の二の二項で「危険物の移送をする者は、長距離にわたる移送をするときは、二人以上の運転要員を確保すること。」を規定しながら、ただし書きによって、危険物の規制に関する規則第四十七条の二の二項で「危険物」の大半である石油類の輸送について除外している。
   危険物輸送の安全運行を確保するうえでも、政令の「交代するための運転要員の確保」の規定を石油類の輸送にも適用するように改善すべきではないか。
   また、石油元売り各社に対して、危険物輸送運転者の労働時間短縮についてどのような指導を行っているのか。
 4 トラック運転者の労働条件について、九十八年の一年間に労働省が監督を実施した四千五百十三のトラック事業場のうち六十三・三%の事業場が労働基準法及び労働安全衛生法に違反し、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(八十八年二月九日労働省告示第七号、以下「改善基準告示」)について重点的に監督を行った二千五十一事業場のうち、五十三・八%が違反している。
   「改善基準告示」の目的には、「この基準を理由として、自動車運転者の労働条件を低下させてはならない」と定めている。しかし、石油元売り各社の物流コスト削減による下請運送事業者の経営悪化、タンクローリー運転者の長時間過密運転が常態化しているもとでは危険物輸送の重大事故があとを絶たない。
   政府は、安全輸送に不可欠な運行時間と労働条件の確保のためのコストを織り込んだ運賃契約基準を設けるべきではないか。
   また、危険物輸送のタンクローリー運転者の労働条件改善をどのようにすすめていくのか明らかにされたい。

 右質問する。





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