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平成十二年三月三日提出
質問第一三号

徳山ダム建設事業地域に棲息する大型猛禽類に関する質問主意書

提出者  石井紘基




徳山ダム建設事業地域に棲息する大型猛禽類に関する質問主意書


 昨年9月、水資源開発公団(以下、公団という)は、徳山ダム建設事業地域における大型猛禽類の調査データを、日本自然保護協会(以下、NACS−Jという)に渡し、公表に関しての助言を求めた。12月、NACS−Jは、調査結果についてのNACS−Jとしての見解を添付して公団に返却した。この添付文書によれば、徳山ダム建設事業地域には、少なくともイヌワシ5番・クマタカ17番の棲息が確認され、全国有数の大型猛禽類の棲息地帯であること、公団は適切な調査を行っておらず、保護策を検討することもできない状況であることが明らかになった。NACS−Jは「一度全ての計画及びそのスケジュールを見直」すべきだと指摘している。ところが、公団は、このNACS−Jの見解の公表と同じ日に即刻「専門家の意見でも、聞けないものもある」として、工事計画・スケジュールの見直しは一切しない旨を明らかにした。
 1月5日、公団は、本体工事の入札公告を行い、3月中にも本体工事に入るとの態度を示している。
 この問題への対策は緊急を要すると考えられる。
 従って、次の事項について質問する。

一 昨年6月23日、当該地域でクマタカの営巣木近くで公団が工事を進めていたことが明らかになった際、環境庁は、流域住民グループに対して、「事業者は環境庁指針を守り、専門家の助言を得て工事を進めていると聞いているので、状況を見守りたい」旨を述べた。これは環境庁指針を守らず、専門家の助言に耳を貸さないことが明白になった時は、環境庁としても何らかの積極的な対応をするという趣旨と受け取れる。
  今般、事業者は「専門家の助言」を拒否する旨を明確に明らかにした以上、環境庁としてはもはや看過できない、積極的に対応する段階に入ったと考える。環境庁としての見解を明らかにされたい。
二 イヌワシについて
  イヌワシは、国の天然記念物でもあり、また「第二のトキ」といわれるほどに絶滅が危惧されている生物である。繁殖の保障が重要なのはもちろん、今生きている個体の維持もまた無視できない。
 1 公団による「徳山ダム ワシタカ類に関する資料」(以下、公開資料という)の一〇一ページ、一〇三ページによれば、イヌワシDつがいは、まさに徳山ダム湖予定地そのものを行動圏としており、仮にダムができれば甚大かつ壊滅的な影響を受けることは必至である。これに対する保護策は現に存在せず、また専門家(NACS−J及び日本イヌワシ研究会のメンバー)によれば保護策を検討するだけの調査ができていない。
   この段階で、「ダム計画・スケジュールは変更しない。本体工事を進める」ということは、少なくともDつがいについては公団は「死んでも仕方がない」という判断をなしたも同然であるが、これについて、環境庁の見解を明らかにされたい。
 2 同じ資料によれば、Fつがいもその行動圏の一部がダム湖予定地にかかるが、公団としては、調査対象にもせずにその存在を無視して工事を進める姿勢であるが、このことを環境庁はいかに考えるか、明らかにされたい。
 3 徳山ダム事業予定地域に関係するだけでも5つがい若しくは6つがいのイヌワシが棲息している。この地域につながる岐阜県奥揖斐地方及び滋賀県・福井県の県境付近は、他のイヌワシも棲息しており、ここは日本で最も重要なイヌワシの棲息地帯であるといっても過言ではない。イヌワシを「第二のトキ」への運命から守るためには、この地域の環境を守ることが不可欠であると考える。「生物多様性条約」「生物多様性国家戦略」「種の保存法」に則って考えるならば、環境庁は積極的にこの地域のイヌワシの保護、環境保全に乗り出す義務を負っていると考えるがいかがか。
三 クマタカについて
  徳山ダム事業予定地は、クマタカは実に17つがいも確認されている日本でも有数のクマタカの棲息地である。クマタカは、その習性として、一旦居を定めた場所は移動しない。従ってこの地域の環境改変は、クマタカの繁殖及び生存に影響を与えることは必至である。
 1 公開資料一〇二ページを見れば、当該地域のクマタカの行動圏とダムによる自然改変が行われる地域はほぼ重なっており、徳山ダム建設が、この地域のクマタカ個体群すべてに甚大な影響を与えることは論をまたない。にもかかわらず、保護策を検討する調査資料も存在しないうちに、工事スケジュール・工事計画は変えられないとする公団の姿勢は、クマタカの保護・保全とは相容れないと考えるが、いかがか。
 2 徳山ダム事業予定地でのクマタカの繁殖は、1996年が3、1997年が1、1998年と1999年は0である。この数字を見れば、この地域でのクマタカの繁殖が危機的な状況にあることは明らかである。この繁殖成功率の急激な悪化には、ダム関連工事が関係している可能性もあるとの指摘が専門家からなされている。これについて、環境庁はいかが考えるか。
四 環境庁は、「個々の事業に対応できない」と言い、一般論として「事業者は環境庁指針を守って調査している」というが、今回、環境庁指針が守られているとは言い難い実態が明らかになった。守られているかどうかのチェックもできない状況では、到底、本来あるべき責任を果たすことはできない。
 1 環境庁指針の遵守を実質的に担保する方向で、当該建設工事のみならず、全国の工事箇所での調査及び保護施策の状況を、早急に把握すべきであると考えるが、いかがか。
 2 環境庁の現体制では「個々の事業に対応できない」「指針を守っているかどうかチェックできない」のであれば、個々の事業への指導監督の権限を強め(事業者からの要請がなければ指導も助言もできないというのは環境庁としての存在がなきに等しい)、指針遵守のチェックができるよう、予算や人員の確保を要求して、国会及び関係各省庁に積極的に働きかけるべきだと考えるが、いかがか。
 3 現在、猛禽類保護とそのための調査は事業者が実施することになっているが、事業者は事業を推進することが第一であり、事業推進の足かせになるような調査及び保護策には消極的になるのは当然であろう。まして事業中止を事業者自身が考慮・決定するのは容易ではない。実際、公団が前述のように「見直しをしない」と強硬な姿勢をとる原因の一つは、公団自身がダム計画の変更をなす権限を持たないことにもある。いかに事業者が、調査を行い保護策を検討しても、保護策の実施に必要な権限を持たないのであれば、実効性ある対策をとり得ないのは当然である。
   従って、生物環境に重大な影響をもたらすことが明らかになった事業については、環境庁の主導で事業計画を再検討する措置をとり得るような法的な保障を確立すべきだと考えるが、いかがか。環境庁の見解を明らかにされたい。
五 NACS−Jによる公開資料・添付文書は以下のように結論づけている。
  「今回の徳山ダムにおける猛禽類調査は、地域の生息状況を把握したいわゆる『スクリーニング調査』ができた段階であるのが現状と考えられ、解析に必要な十分な調査がなされたとはいえない状況にある。一度全ての計画及びそのスケジュールを見直し、自然保護と開発活動に関わる自然環境調査のあり方を論議すると共に、猛禽類の地域個体群としての環境保全に必要な措置とその根拠とは何かを再検討すべきといえる。」当面、このことを実現させるのが環境庁の責務と考えるが、いかがか。見解を明らかにされたい。
六 徳山ダムは、環境アセスメント実施の対象事業になっていない。しかし、現に絶滅危惧種に対して甚大な影響を与える可能性が明らかになってきた以上、本体工事実施以前にアセス新法に則った環境アセスメントを実施すべきと考えるが、いかがか。

 右質問する。





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