衆議院

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平成十二年五月二十五日提出
質問第三五号

「少年審判への検察官関与」と少年えん罪に関する質問主意書

提出者  保坂展人




「少年審判への検察官関与」と少年えん罪に関する質問主意書


 今国会に付託された少年法「改正案」は、検察官の少年審判への関与と合議制等を定めるものであるが、しかし最高裁判所(以下、最高裁)で実質的に無罪判決が出された「草加事件」のようなケースは、この「改正」法案ではまったく解決に寄与するものではない。最高裁による「草加事件」判決は、この「改正」法案とはまったく逆の教訓を示している。「草加事件」は、最初から無実を示す血液型のAB型物証があったにもかかわらず捜査機関は虚偽自白を強要し続け、さらに、この無実を裏付ける物証を検察官は家庭裁判所へ送っていない。弁護士がついた段階で物証との矛盾が判明したものだが、警察・検察側は「AとBが混じったもの」「他の機会についたもの」と証拠をねじ曲げ強弁する報告書を出す有様であり、警察・検察の証拠隠しと証拠のねじ曲げが、えん罪を生むきっかけになったものである。また「綾瀬母子殺害事件」にも自白強要の疑いと、少年のアリバイを証言した証人に対して「監禁」状態にして「アリバイ証言を撤回するよう」常識を疑う警察・検察の捜査があった。捜査側のこれらのやり方は「捜査側のための真実発見」の姿勢であり、客観的な真実発見の姿勢に欠けたものである。そのため、検察官関与の真実解明への実効性と、検察官の姿勢・能力について疑問を持たざるを得ない。よってそうした立場から以下のとおり質問するものである。

一 「草加事件」では、少年審判の抗告裁判所及び民事裁判での一、二審とも合議制がとられたが、今回の最高裁民事判決と同じように少年らの自白に疑問を呈し「無罪」判決を出したのは民事における一審判決のみで、少年審判の抗告裁判所も民事二審の東京高等裁判所という合議体も、警察・検察の主張をそのまま取り入れたことが、えん罪を生じさせたという指摘がある。こうして、無実の少年たちの貴重な時間を奪い、かつ被害者遺族に対しては、真実の解明の機会を永久に失してしまった。この事件について、捜査と取り調べに落ち度があったと認めるか。
  「草加事件」のえん罪の原因は、このような虚偽自白を強い、客観的証拠を隠した捜査機関の姿勢にあるのではないか。それらを防止する制度的保障が必要ではないかと考えるが、どう考えるか。
二 捜査と取り調べが、慎重かつ十分適切に行われるためには、国選弁護と弁護人立会い・録音などといった制度的な保障が必要ではないか。また、裁判官が自白に囚われないための制度的保障が必要ではないか。それらがないまま、「検察官関与」をすれば、弁護士がついていたとしても対等な関係ではなく、えん罪を生む可能性を増大させると認識せざるをえないのではないか。
  えん罪を生むきっかけとなりその最大の原因となるのは、捜査段階での虚偽自白なのではないか。少年法「改正」で問題とされる、山形や調布、草加、綾瀬での事件は全てそうではないのか。捜査段階で自白したが、審判になって虚偽自白だと主張されるので、現在の問題が生じていると思われる。少年が容易く虚偽自白をすることは各方面から指摘されている。
  たとえば弁護士の分析の他、裁判官の次のような分析がある。東京家庭裁判所における一九八五年度から一九八九年度までの五年間にわたる一二七件の非行事実なしとされた裁判例を分析した下村芳晴判事補の研究によれば、「特別な要因が捜査官側と少年側双方に潜んでいるように思われる」として、少年側の問題として精神的な未熟さや脆さなどから取り調べに対しては抵抗力が弱く、捜査官が激しい取り調べをしたと意識しない程度の取り調べでも簡単に萎縮しあるいは諦め、また迎合する傾向にあることがしばしば指摘されているところである。捜査官から現場にいて他の者の行動を止めなかったのだから同罪であるとか、共同責任があるといった形で誘導や追及がされた場合に、これに安易に乗ってしまう傾向があるとしている。捜査官側の問題としては、現場にい合わせただけでその少年を安易に共犯として扱っていないか、共犯とされた者の意思連絡の有無、その具体的内容について捜査が十分に尽くされていないのではないか、実行行為を分担していない少年に対しても同罪であるとの観点から安易に少年を誘導していないか、あるいは共犯者の供述を鵜呑みにして少年に対する追及が性急になされていないか、がうかがわれると指摘している。
  これを防止することこそ、今最大にして必要急務なことではないか。この防止のためには、何より当初から国費・公費による弁護人を選任することではないか。特に少年の場台、防御力が弱いので、特にこの制度が求められると思うが、この制度を設けることは考えていないか。
三 「草加事件」をここまで引きずらせた、その端緒となり最大の原因となったのは、捜査側の証拠隠しである。少年法では、全記録を送付すべき義務を検察官に課しているが、今後、このようなことのないよう再発防止策をどのように考えているか、その制度的保障について見解を示されたい。
四 「綾瀬母子殺害事件」の容疑者とされた少年によれば、当初、無関係を主張しながら、「おまえのうそは聞きたくない」などと取調官に拒絶され、「他の者はお前と一緒にやったと言っている」など虚偽の取り違え尋問をしたり、犯行現場の見取り図など捜査官から示され、捜査官の誘導のままそれを認める形で供述し、捜査官に対する「恐怖感」と、その場から逃れたい思いから認めてしまったという。少年が容易く虚偽自白をすることはよく認められているところであるが、少年事件における取り調べでは、誘導尋問とならないよう、あるいは虚偽自白を防止するため、どのような配慮がなされているか。
五 少年に対する取り調べにおいて、とってはならない取調官の態度、取り調べ方法とはなにか。少年警察活動要綱九条では、「やむを得ない場合を除き、少年と同道した保護者等その他適切と認められる者の立会いの下に行うこと」とある。この保護者等とは弁護人も該当するか。この規定は現在、どの程度、遵守されているか。草加や山形等みな保護者の立会いがない。保護者よりも本来は弁護人の立会いが必要だが、弁護人が立会いを求めても、まずほとんど拒否され、認められていない。防御力のない少年の取り調べには、弁護人の立会いが重要であると思われるが、どう考えるか。
六 少年事件の真実の解明で、警察・検察に求められる能力とはなにか。また少年事件でのえん罪を防ぐために、警察・検察に求められる姿勢とはなにか。
七 取り調べ室での様子は、英国では全会話の録音、また米国のいくつかの州では、ビデオによる録画が行われ、弁護人の立会いによる封印が行われ録音の編集を防止しているという。取り調べの密室性排除のために、少年と取調官の会話は、調書採用部分とかかわらず、ビデオ録画か録音などが行われるべきではないか。また弁護人の立会いが必要ではないか。
八 取り調べを受ける少年たちは、取り調べ期間、弁護人・付添人の選任、少年法の下での処遇、逆送年齢、刑事罰年齢などといった自分たちの権利についてどの程度理解しているか、調査を行っているか。過去十年において行われていないならば、現在、各都道府県警察、各検察において取り調べを受けている殺人、放火、強姦、強盗といった兇悪事犯について取り調べを受けている少年たちの、自らの権利の理解について報告されたい。
九 取り調べを受ける少年たちにおいては、警察官、検察官、裁判官、弁護士(付添人)の役割について理解していない者がいるという。弁護士(付添人)に、真実を話した場合も、内容が取調官に伝わり、「うそをついた」などと追及されると思い躊躇する例があるという。また、弁護士も罰を与える側であると理解する場合もあるという。取り調べや、審判に入る前に、それぞれの役割について、告知は行われているか。
十 真実の解明において、家庭裁判所調査官の役割の重要さについて認識しているか。家庭裁判所調査官は、検察官関与が定められた場合、どのような役割の変化があるのか。

 右質問する。



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