答弁本文情報
昭和二十八年七月三十一日受領答弁第三六号
(質問の 三六)
内閣衆質第三八号
昭和二十八年七月三十一日
内閣総理大臣 吉田 茂
衆議院議長 堤 康次※(注) 殿
衆議院議員喜多壯一※(注)君提出石川県河北郡内灘地区の「内灘演習場一時使用に関する件」についての質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員喜多壯一※(注)君提出石川県河北郡内灘地区の「内灘演習場一時使用に関する件」についての質問に対する答弁書
一 在日米軍は、昨年春以来わが国において砲弾類の発注を開始し、これら砲弾の試射を必要とするに至つたので昨年九月日米合同委員会において試射場一箇所の要求を提出した。
右要求に応じ、全国にわたりこれが候補地を物色し関係事務当局において鋭意検討を加えた結果、石川県内灘地区が最も適当であるとの結論に達した。その理由は、地形上技術上試射場としての最適条件を備えており、且つ、農、漁業等の産業に及ぼす影響が他地区に比し著しく少いものと認めたからである。
二 政府は、右の結論に基き、昨年十一月当時の林屋国務大臣外関係各省局課長等をして内灘村において地元側と交渉を行わしめたが、地元側の猛烈な反対をうけた。その反対の主要な理由は、同地区の使用により地元農、漁民の生活権が侵害せられること及び米軍の駐留に伴い風紀上好ましからざる事態が派生すること等であつた。
三 政府は、もとより同地区使用に伴い地元村民のこうむる損失の補償等については、法令の許す範囲内において最大限度の考慮を加えるとともに、一方米軍に対しては、強く風紀対策等につき交渉し鋭意地元側と折衝を行つた結果、地元側もようやく納得しとりあえず本年一月一日から四月末日までの四箇月間一時使用することについて了解に到達した。
四 試射場の提供は、安全保障条約及び行政協定に基くわが国の義務であり、且つまた、政府としては、内灘地区が最適当であると認めていた関係上五月以降においても引き続き同地区を使用したい意図を有していたのであるが、当時の情勢よりして現実に試射を開始し、その結果地元で最も憂慮している風紀問題等に関する懸念が解消されるのをまち改めて継続使用の話合を開始することを適当と考えた。三月中旬試射が開始されたが、続いて議会解散総選挙となつたため、右話合は選挙終了の四月下旬まで持ち越されるに至り、結局時日切迫のため四月末日までには話合は妥結を見なかつた。よつて政府は、昨年施設決定の際の話合に従い、五月一日以降は米軍の試射を中止せしめ、更に内灘村各部落より試射場に立ち入る通路八ヵ所を開放し、村民の漁業操業を可能ならしめた。
五 内灘地区の使用については、以上のごとき経緯を経てきた次第であるが、特に同地区を使用しようとする理由は、次のごときものである。
(イ) 技術的、地形的見地から内灘地区が試射場として最も適当な条件を備えている。
(ロ) 産業、経済に及ぼす影響が最も少い、即ち何れの地区を使用するにしても産業的影響は免かれ得ないが、政府としては比較検討の上、最も影響の少い地区を選定する必要がある。
(ハ) 地元のこうむる不利益、損失等については政府としては、充分に考慮を払つている。即ち内灘地区に対しては既に特別の補償措置を講じたが今後の施策としてもでき得る限りの努力を払うこととしている。政府としては、これらの措置の結果として地元民の生活は将来むしろ改善せられるものと確信している。
(ニ) 当初憂慮せられた風紀関係については、駐留米軍将兵の数が二十名以下であり、且つ、米軍側の自粛により問題を起していない。
(ホ) 試射の音響については弾丸の種類によつては内灘村並びに宇ノ気、七塚、高松等関係町村に対しても相当の影響を与えているものもあるが、試射弾数は、さほど多くはない。
六 政府は、前述のごとく五月一日以降試射を停止したが、政府部内において、更に本問題を検討した結果あらゆる観点からして本地区の使用を必要と認めたので、県、村当局に対し引き続きその使用につき交渉を行うとともに、各種団体等による陳情に対しても誠意を披瀝して政府側の意とするところを説明し、もつぱら円満な了解を得るよう努力を傾け約一箇月半を経過し、その間六月上旬には内閣官房副長官、外務省国際協力局長、農林省農地局長を現地に派遣し、極力交渉に努めたが、最終的な円満解決を得るに至らず、一方在日米軍側においては、六月中旬には是非とも試射の再開を必要とする状況に至つたのでやむを得ず試射場地区の国有財産の部分を米軍の使用に供し試射の再開を認めた次第である。政府は、内灘地区使用に伴う補償措置等においては可能なる限りの対策を考慮しており、且つ、同地域にある民有地使用を含め問題全般の円満解決に到達するよう引き続き極力努力している。
右答弁する。