答弁本文情報
昭和四十三年五月二十一日受領答弁第一一号
内閣衆質五八第一一号
昭和四十三年五月二十一日
衆議院議長 石井光次郎 殿
衆議院議員石田宥全君提出政府の阿賀野川水銀中毒事件についての審議、協議に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員石田宥全君提出政府の阿賀野川水銀中毒事件についての審議、協議に関する質問に対する答弁書
一 昭和四十二年四月十八日に発表された厚生省関係の研究班による調査研究の結論は、次のとおりである。
(一) 臨床研究班(水銀中毒の診断に関する研究)の結論
イ 今回の中毒事件は、低級アルキル水銀中毒によるものである。
ロ 患者の汚染は、阿賀野川の川魚の摂取によるものである。
(二) 試験研究班(水銀化合物による汚染様態に関する研究)の結論
毛髪および魚類中の総水銀量の多い検体並びに工場内アセトアルデヒド製造設備の一部から採取した検体について薄層クロマトグラフイおよびガスクロマトグラフイにより得られた知見はメチル水銀化合物のそれと一致した。
工場排水口附近で採取された水苔などの植物(泥を含む)検体についてガスクロマトグラフイにより得られた知見はメチル水銀化合物のそれと一致するものが多かつたが、これらを薄層クロマトグラフイによつてメチル水銀化合物を検索するためには検体量が十分でなかつた。
また、市販酢酸フエニル水銀に含まれるメチル水銀化合物の試験については検体を薄層クロマトグラフイで分析すると塩化メチル水銀のそれと一致する知見が得られた。しかし、それのガスクロマトグラフイによる分析では「注」に述べた理由によつて現段階では未だ明確な所見を得ていない。
以上の結果から考察する限りにおいては、毛髪、魚類および工場内検体には、メチル水銀化合物を含有していた公算が大である。
「注」今回の酢酸フエニル水銀試料(市販の化学用試薬および農薬原体)ガスクロマトグラフイで分析するとメチル水銀化合物のRt値に一致するピークを認めた。しかし多量の酢酸フエニル水銀中に含まれる微量のメチル水銀化合物をこの方法で分析することについては、なお慎重な検討を要する。なお、この酢酸フエニル水銀資料を薄層クロマトグラフイで分析すると、呈色反応とRf値が塩化メチル水銀に一致するスポツトを認めた。しかし、ここに検出されたものをメチル水銀化合物と確認し、これを定量するためには、なお数種の分析法を併用する必要がある。
(三) 疫学研究班(水銀中毒の疫学的調査研究)の結論
本事例は阿賀野川のメチル水銀化合物汚染をうけた川魚を多食して発生したメチル水銀中毒事例で第二の水俣病というべきである。
すなわちその汚染源は阿賀野川上流鹿瀬地区にある昭和電工鹿瀬工場で、汚染機序は、アセトアルデヒド製造工程中に副生されたメチル水銀化合物が工場排水によつて阿賀野川に流入し、アセトアルデヒドの生産量の年々の増加に比例してその汚染量も増し、それが阿賀野川の川魚の体内に蓄積され、その川魚を一部沿岸住民が補獲摂食を繰り返すことによつてメチル水銀化合物が人体内に移行蓄積し、その結果発症するに至つたものと診断する。
(一) 本水銀中毒事件の発生に関しては、昭和電工鹿瀬工場においてアセトアルデヒド生産高が増加するにつれてメチル水銀を含む水銀化合物の生成が漸増し、それが排水中に流出し、同工場下流の阿賀野川流域を長期、広域にわたり汚染し、それが直接あるいは食餌を介して川魚(特に低棲性のニゴイなど)に蓄積し、職業生活状態あるいは食習慣などにより、かかる川魚を常に多量に食する阿賀野川下流地域住民の体内水銀保有量が異常に高められたことが、基盤をなしているものと考えられる。
(二) (一)の状態のみでも、メチル水銀中毒患者発生の可能性があるが、昭和三十九年八月から四十年七月にわたり定型的な症状を示すメチル水銀中毒患者が多数発生した原因は、(一)の他にメチル水銀を含む水銀化合物が比較的急激かつ多量に患者の体内に蓄積されたことによるものであると考えられる。これらは魚の多食ということの他に魚体内のメチル水銀蓄積量が高められたということが重なつて発生したものと推定される。
(三) 水銀化合物の蓄積が急激に増加した原因を考察するに当つて昭和三十九年六月から四十年一月の間に発生した新潟地震、集中豪雨および昭和電工鹿瀬工場におけるアセトアルデヒド製造の操業停止前後における管理の状態などの事実について検討した。
新潟地震に際して新潟埠頭倉庫に保管中の農薬の阿賀野川への投棄あるいは流出農薬の塩水楔による阿賀野川への遡上をその原因とする説があるが各種の資料はこれを裏付けていないのみならずこれを否定している資料もある。
集中豪雨および操業停止前後における管理の不備による工場排水の河川汚染に対する影響については入手し得る資料の範囲においてその有無を推定することは現時点では困難である。
食品衛生調査会の答申は適当と思料され、厚生省としてとくにつけ加えるべき意見はない。
厚生省の見解にとくにつけくわえるべき意見はない。
(二) 昭和四十二年十二月十五日付けをもつて経済企画庁長官から科学技術庁長官に提出された
経済企画庁見解は次のとおりである。
本件に関する食品衛生調査会の答申にとくに異論はない。
(三) 昭和四十二年十二月二十八日付けをもつて通商産業大臣から科学技術庁長官へ提出された通商産業省見解は次のとおりである。
イ 本事件の主要な問題点は、@有機水銀による人体中毒の機序の一般的究明 A阿賀野川流域における水銀中毒事件の加害者の究明 B被害者の救済の三点である。
ロ 有機水銀による人体中毒の機序については、中毒の予防のためにも、加害者の究明のためにも、一層の研究が必要である。
ハ 阿賀野川流域における中毒事件の原因である有機水銀のソースについては、種々の説があるが、そのいずれについても資料が不十分と考えられる。
ニ 加害者の特定が困難な結果、被害者がいつまでも救いのない状態に放置されることは遺憾なことであるので、本件被害者の救済については、早急に何らかの措置が講ぜられることが望ましい。
五 本件については、高橋正春科学審議官を中心とし、主管課である研究調整局総合研究課担当官等をもつて構成する検討グループにおいて、随時長官官房とも意見調整を行ないつつ、検討にあたつた。
すなわち、本年一月中旬から三月中旬にかけて前記検討グループにおいて、本件に関する技術的見解のとりまとめのための基礎的作業として各種資料の検討を行ない、この間、厚生省担当官および食品衛生調査会委員等から研究班報告、厚生省見解等に関する説明を聴取した。以後検討グループにおいて問題点を整理し、これとともに庁内において研究調整局長および同局の総括課である調整課ならびに長官官房と連絡を保ちながら関係各省と意見の調整を行なつている。
庁内における検討のための会合回数は一月中旬から今日まで合計三十余回となつている。
七 前記六で述べたとおり、本件に関する見解を発表した事実はない。また、科学技術庁としては、あくまで科学的立場から見解を鋭意とりまとめ中である。
八 科学技術庁としては、本件に関する見解を発表した事実はない。
九 本件に関し、そのような見解を発表した事実はない。
十 政府としては、ばい煙規制法、水質保全関係法等公害防止関係の規制法に基づき公害の防止に努力しているが、これらの法規にてらして企業に違法の状態があれば当然にそれらの法律に基づいて法律上の責任が追求されることとなる。
また、公害に係る被害の救済制度についてその確立を図るべく中央公害対策審議会においても検討中であるが、当面の措置として公害医療に係る所要の予算措置を講じているところである。
右答弁する。