答弁本文情報
昭和五十年六月二十四日受領答弁第二二号
内閣衆質七五第二二号
昭和五十年六月二十四日
衆議院議長 前尾繁三郎 殿
衆議院議員瀬野栄次郎君提出サッカリンの規制緩和に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員瀬野栄次郎君提出サッカリンの規制緩和に関する質問に対する答弁書
一について
(1) 昭和四十八年十二月十八日の食品衛生調査会毒性・添加物合同部会で配布したサッカリンに関する資料とその概要は次のとおりである。
ア カーターらの実験報告(一九六九年) マウスに十八か月投与したが発がん性は認められない。
イ マンローらの実験報告(一九七二年) ラットに二十八か月投与したが発がん性は認められない。
ウ ムーアらの実験報告 ハムスターに九十八週投与したが発がん性は認められない。
エ シュメールらの実験報告(一九七二年) ラットに二年以上投与したが発がん性は認められない。
オ クレースらの実験報告(一九七三年) マウスに六世代にわたつて二十か月以上投与したが発がん性は認められない。
カ 米国FDAの実験報告(一九七三年) ラットに七十二週投与したところ、最高濃度投与群(七・五%)九十六匹中三匹に膀胱腫瘍が認められた。
キ 米国国立がん研究所の実験報告(一九七二年) ラットに二年、マウスに十八か月投与したが、発がん性は認められない。
ク デルスらの実験報告(一九七二年) ラット二世代にわたつて百週投与したところ最高濃度投与群(五%)の雄において膀胱がんの発生率が高かつた。
ケ ロルケらの実験報告(一九七三年) マウスを用いた優性致死試験で、その結果は陰性であつた。
(2) 食品衛生調査会毒性・添加物合同部会において、(1)に掲げる各資料をもとに検討した結果、次の結論を得たものである。
ア 一代の投与実験では発がん性は認められない。
イ 米国における二代にわたる二つの実験((1)のカ及びク)で、高濃度投与群において二代目に膀胱がんの発生を認めているが、これについては試験に用いたサッカリンの不純物が原因ではないかとの疑問も持たれている。
ウ 以上の各種の知見から現在決定的な結論を出すことは困難であり、更に、各種の実験を追加して行い、その結果をまつて再検討を行う必要がある。
エ 上記の各種実験結果に基づき、無作用量に十分な安全率を見込んで暫定的に一日許容摂取量を定めることとした。
オ 暫定許容摂取量は、FDAにおいて二世代について行つた慢性毒性試験の無作用量に安全率五百倍を見込んで一日一mg/kgとする。
(3) 御質問に係る告示は、食品衛生法第七条第一項の規定に基づき行つたものである。
(1) 現行のサッカリンの一日摂取許容量(一mg/kg/日)は、サッカリンの発がん性問題の結論が得られるまでの間の暫定的なものとして定められたものであつたが、国立衛生試験所で実施されてきた実験において、その後、サッカリンの発がん性を否定する結果が得られ、昭和五十年四月九日の日本薬理学会で発表された。このため、同月二十三日の食品衛生調査会毒性・添加物合同部会において、国立衛生試験所の実験資料を中心としFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会の新しい評価、米国がサッカリンの規制を強化しないと発表したときのFDAの見解及び従来のサッカリンの発がん性に関する報告の一覧などを参考として審議が行われた。
更に、同月三十日の同合同部会においてFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会が最大無作用量を定めた時に用いた報告のほか、最近報告された二つの実験報告を参考として審議が行われた。
(2)から(4)まで 提出された資料三編のうち一編は、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会がサッカリンの最大無作用量を定めた時に用いた報告であり、他の二編はいずれも米国での発がん性を疑う実験を追試したもののうち、政府機関の研究所において行われ、かつ、公表された詳細な実験報告である。
なお、三編の報告に添付した資料は、当該実験報告について実験者名、登載された学会誌名等、実験材料及び実験方法並びに結果を簡単に事務当局でまとめたものである。
また、無作用量については、WHO科学グループの報告において次のように述べられているところと同様に考えている。
無作用量とは、一群の動物に有害な作用を示すことのない最大の食餌中レベルであつて、そのレベルから外そう法により人の許容食餌摂取量を算定することのできるものである。(WHOテクニカルレポート第三四八号)
(5) カナダの厚生省保健局から「サッカリンの発がん性の評価」の標題で一九七三年七月に発表されたものである。
(6) マンローらの実験は、サッカリンの発がん性の確認を主たる目的としているが、その際雄の全投与群においてのみ死亡までの平均期間に危険率+%で統計上の有意差があると述べている。
(7) サッカリンの変異原性に関する資料とその概要は次のとおりである。
ア ウージらの実験(一九七二年) マウスを用いた宿主媒介試験で、その結果は陰性であつた。
イ ロルケらの実験(一九七三年) マウスを用いた優性致死試験で、その結果は陰性であつた。
ウ クラグテンらの実験(一九七四年) ハムスターを用いた生体骨髄細胞染色体試験で、その結果は陰性であつた。
(8) 採用する文献は、政府機関の研究所、大学その他権威ある研究機関で実施され、かつ、原則として公表されたものを用いることとしている。
(9) サッカリンのアレルギーに関しては、山口大学医学部(一九六五年)の報告があるが、アレルギー領域については、食品添加物全般について今後の研究課題と考えている。
(10) サッカリンは、食品衛生法第六条の規定に基づいて、食品添加物としての使用が認められているものであつて、今回の食品衛生調査会の意見に照らしてもその指定を削除する必要はないものと考えている。
なお、我が国をはじめとする世界各国が指針としているFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会のこれまでの報告においてもサッカリンのアレルゲン性については、特に問題とされていない。
(11) ベンツピレンを用いたサッカリンの発がん補助作用の有無についての報告(一の(1)のアの資料)が一九六九年に公表されているが、これによると発がん補助作用を示さなかつたとしている。
(12) 食品添加物の使用基準の設定に当たつては、国民栄養調査等をもとに調査した食品ごとの一人一日当たりの最大摂取量に食品ごとの許容濃度を乗じて計算した当該食品添加物の一人一日当たりの最大摂取量の総計が当該食品添加物の一日許容摂取量を超えないように定めている。
今回のサッカリンの場合について、同様の方法で計算した一人一日当たりの総摂取量は、一日許容摂取量とされた五mg/kgをかなり下回つている。
(1) EAO/WHO合同食品添加物専門家委員会は、世界各国のがん、病理学者などの専門家により構成されており、また、一九七四年のサッカリンの再評価は、一九五七年の同委員会報告「食品添加物の安全性確認のための試験指針」に基づいて、一九六七年に行われたサッカリンの安全性の評価を受けてその後の資料を検討して行つたものであり、その結論は信頼できるものである。
(2) 一九七四年のFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会のサッカリンの安全性を再評価した会議には、我が国の学者は参加していない。
現行のサッカリンの使用基準は、サッカリンの発がん性問題の結論が得られるまでの間の暫定的なものとして定められたものであつたが、国立衛生試験所で実施されてきた実験において、その後、サッカリンの発がん性を否定する結果が得られたところから、食品衛生調査会の審議を経、その意見具申を得て使用基準を改正することとしたものである。
昭和四十八年以前においては、昭和四十五年三月十七日米国ウイスコンシン大学のブライアン博士がサッカリンを含むペレットをマウス膀胱に移植した実験で腫瘍が観察された旨の発表があつたため、この資料に基づいて同月十八日食品衛生調査会毒性部会で検討され、その結果、この実験は特殊な実験であるので国立衛生試験所での試験結果が出た段階で問題があれば再検討することとされた。
サッカリンの生産量等は、別紙のとおりである。
(1) 食品衛生法第六条に基づく食品添加物の指定については、安全性が評価されたもののみを指定することとしている。
(2) 食品衛生調査会の委員については、当該調査会が食品衛生に関する専門的事項を調査審議する任務を有するものであるところから、食品衛生法第二十五条第五項の規定に基づき学識経験のある者を任命することとしているが、現在の委員の中には学識経験を有し、かつ、消費者代表的立場にある者も含まれているところであり、今後とも学識経験を有するふさわしい者については、委員の任命について検討してまいる考えである。
現行のサッカリンの使用基準は、サッカリンの発がん性問題の結論が得られるまでの間の暫定的なものとして定められたものであつたが、国立衛生試験所で実施されてきた実験において、その後、サッカリンの発がん性を否定する結果が得られたところから、食品衛生調査会の審議を経、その意見具申を得たので、当該意見に基づいて使用基準の改正を行う方針である。
別紙
サッカリンの生産・出荷状況(単位トン)