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昭和五十五年十月二十八日受領
答弁第六号
(質問の 六)

  内閣衆質九三第六号
    昭和五十五年十月二十八日
内閣総理大臣 鈴木善幸

         衆議院議長 福田 一 殿

衆議院議員稲葉誠一君提出自衛隊の海外派兵・日米安保条約等の問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員稲葉誠一君提出自衛隊の海外派兵・日米安保条約等の問題に関する質問に対する答弁書



一について

1 我が国が安全保障理事会の常任理事国となるためには、国連憲章の改正が必要であるが、安全保障理事会の常任理事国は、国連憲章の改正についても、いわゆる拒否権を有しており、一般的にいつて、国連憲章の改正に消極的ないし反対の立場をとつている。また、その他の加盟国も、一般的にいつて、拒否権を行使し得る国が増加することに対しては、否定的な意見を有している。

2 五か国を常任理事国と指定するとの構想は、昭和十九年のダンバートン・オークス会談において、主要連合国たる米国、英国、ソ連、中国の四か国により合意され、昭和二十年、サンフランシスコ会議において、参加連合国五十か国により受諾されたものである。

二について

1 国連がその「平和維持活動」として編成したいわゆる「国連軍」には、大別して、通常、停戦監視団といわれる国連インド・パキスタン軍事監視団、国連パレスチナ休戦監察機構、国連レバノン監視団、国連西イリアン軍事監視団、国連イエメン監視団、国連インド・パキスタン監視団と、通常、平和維持軍といわれる第一次国連緊急軍、コンゴー国連軍、国連西イリアン保安隊、国連キプロス平和維持軍、第二次国連緊急軍、国連兵力引離し監視軍、国連レバノン暫定軍とがある。これらのいわゆる「国連軍」の任務は個々の事例により異なるが、前者は、主として停戦の監視、停戦の違反行為についての安全保障理事会への報告を任務としており、後者は、主として停戦の監視、戦闘再発の防止、兵力引離し、国内治安の回復・維持を任務としていると承知している。
  なお、朝鮮国連軍は、憲章第七章(第三十九条)に基づき軍事的強制措置を主たる目的として編成されたものであり、ここにいう国連の「平和維持活動」としてのいわゆる「国連軍」とは別個のものであると聞いている。

2 いわゆる停戦監視団及びいわゆる平和維持軍は、安全保障理事会又は総会の決議に基づき、その都度設置されるものであつて、国連憲章上その設置についての具体的な規定はない。
  昭和三十三年七月、当時の国連事務総長から国連レバノン監視団に対して十名の自衛隊員の派遣要請があつたが、我が国は、自衛隊員の派遣は、我が国の制度上認められず、これに応じ難い旨の回答をしたことがある。

3 いわゆる「国連軍」は、個々の事例によりその目的・任務が異なるので、それへの参加の可否を一律に論ずることはできないが、当該「国連軍」の目的・任務が武力行使を伴うものであれば、自衛隊がこれに参加することは憲法上許されないと考えている。これに対し、当該「国連軍」の目的・任務が武力行使を伴わないものであれば、自衛隊がこれに参加することは憲法上許されないわけではないが、現行自衛隊法上は自衛隊にそのような任務を与えていないので、これに参加することは許されないと考えている。
  我が国としては、国連の「平和維持活動」が国連の第一義的目的である国際の平和と安全の維持に重要な役割を果たしていると認識している。このような観点から、国連の「平和維持活動」に対し、従来から実施している財政面における協力に加え、現行法令下で可能な要員の派遣、資機材の供与による協力を検討して行きたいと考えている。

三について

1 国連憲章第五十一条は、国家が個別的又は集団的自衛の権利を有することを認めている。しかし、我が国が集団的自衛権を行使することは憲法の認めているところではないというのが従来からの政府の考え方である。

2 我が国の自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解している。
  したがつて、例えば集団的自衛権の行使は、その範囲を超えるものであつて憲法上許されないと考えている。また、いわゆる海外派兵については、次の3及び4において述べるとおりである。

3及び4 従来、「いわゆる海外派兵とは、一般的にいえば、武力行使の目的をもつて武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することである」と定義づけて説明されているが、このような海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであつて、憲法上許されないと考えている。したがつて、このような海外派兵について将来の想定はない。
  これに対し、いわゆる海外派遣については、従来これを定義づけたことはないが、武力行使の目的をもたないで部隊を他国へ派遣することは、憲法上許されないわけではないと考えている。しかしながら、法律上、自衛隊の任務、権限として規定されていないものについては、その部隊を他国へ派遣することはできないと考えている。このような自衛隊の他国への派遣については、将来どうするかという具体的な構想はもつていない。

5 憲法第九条第二項は、「国の交戦権は、これを認めない。」と規定しているが、ここにいう交戦権とは、戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称であつて、相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の占領、そこにおける占領行政、中立国船舶の臨検、敵性船舶のだ捕等を行うことを含むものであると解している。
  他方、我が国は、自衛権の行使に当たつては、我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することが当然認められているのであつて、その行使は、交戦権の行使とは別のものである。

6 我が国は、自衛権の行使に当たつては我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することを旨としているのであるから、交戦権が認められていないことによつて不利益が生じるというようなものではない。

四について

1 我が国は、日米安保条約を基礎とする日米友好協力関係を我が国外交の基軸とし、民主主義と自由主義経済体制を共有する諸国の一員として国際社会における我が国の地位を確立することにより、これらの諸国との間においてのみならず、体制を異にする諸国との間においても、積極的な外交を展開し得たのである。また、我が国は、このような外交努力と、日米安保体制を基調としつつ自衛力の整備を図ることから成る安全保障政策を進めることにより、平和と安全を維持してきた。このように安定した対外関係の確立と安全保障の確保があつてこそ、我が国は、内政の充実を図るとともに経済的発展を達成し得たと認識している。更に、日米安保体制は、アジアにおける国際政治の基本的な枠組みの重要な柱として、我が国の安全保障のみならず、アジアひいては世界の平和と安全の維持にも寄与しているものと考える。
  以上のように、日米安保条約は、御指摘のような諸点にわたつて、我が国にとつて積極的な役割を果たしてきていると理解している。

2 日米安保条約の抑止効果としては、同条約第五条に従い、米国が我が国を防衛することになつていることから、第三国としては我が国に対する武力攻撃を行うことを控えざるを得なくなるといつた効果がある。
  我が国の安全保障を全うするためには、同条約の抑止効果を万全のものとするために、有事の際米国が来援しやすいように日米安保体制を平素から整備しておくとともに、米国が我が国を守ることは米国の国益でもあることについて米国民の一層の理解を得るような日米関係の実体を確保するようにすべきである。なお、我が国の自衛力の整備に努めるとともに、国際の平和及び安全を図るための外交的努力を強化することが肝要であることはいうまでもない。

3 御質問の趣旨が、我が国の集団的自衛権の行使を内容として含むような日米安保条約の改正が許されるかということであれば、我が国が集団的自衛権を行使することは憲法上認められていないと解しているので、そのような改正は許されないと考える。

4 我が国の平和憲法の理念に基づき国際的平和を希求して、そのための外交的努力をするとともに、同時に、我が国自ら自衛力を整備し、日米安保体制を効果的に運用することによつて、紛争を抑止してきたからであると考える。
  戦後今日まで我が国が戦争や紛争に現実に巻き込まれるような事態はなかつたと考えるが、これは、ひとえに右に述べたような、我が国の安全保障政策が当を得たものであつたからであると考える。

 右答弁する。




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