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昭和五十九年八月二十八日受領
答弁第三八号

  内閣衆質一〇一第三八号
    昭和五十九年八月二十八日
内閣総理大臣 中曽根康弘

         衆議院議長 (注)永健司 殿

衆議院議員稲葉誠一君提出財政、経済に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員稲葉誠一君提出財政、経済に関する質問に対する答弁書



一について

 政府の考え方は、次のとおりである。
(一) どのような状況を「財政危機」と言うかを一義的に明らかにすることは困難であるが、我が国の財政事情には、異例に厳しいものがあることは事実である。
(二) すなわち、公債の発行残高は既に百兆円を超え、昭和五十九年度末には約百二十二兆円にも達する見込みであり、昭和五十九年度予算においては、その利払等に要する経費も予算の十八パーセント強を占めている。また、歳出総額に占める税収の割合は六十パーセント台と先進諸外国に比べ著しく低く、このような状態が昭和五十年度以降、十年間も継続している。
    このため、財政は、本来、期待されている諸機能の発揮を十全には行い得なくなつており、このままでは、人口の高齢化や国際社会における我が国の責任の増大など、今後の社会・経済の変化に対応する力が失われることは必至である。
(三) 現在の状況は、第一次石油危機後の十年余の間、特に、昭和五十年度以降、連年、特例公債を含む多額の公債発行を行わざるを得なかつた結果である。
(四) 公債残高が累増することとなつた契機は、第一次石油危機後の景気の落ち込みと税収の伸び悩みの中で、大量の公債発行により、各種公共サービスの拡充と景気の回復を図つてきたことにある。

二について

1 我が国の財政事情には、異例に厳しいものがあるが、我が国経済の着実な発展と国民生活の安定・向上のためには、引き続き財政の改革を強力に推進し、その対応力の回復を図ることが緊要であることから、「一九八〇年代経済社会の展望と指針」において、昭和六十五年度までに、特例公債依存体質からの脱却と公債依存度の引下げに努めるという努力目標を示したものである。今後とも、この努力目標の達成に向け、全力を挙げて取り組んでまいる所存である。
2 政府の考え方は、次のとおりである。
 (一) 第一次石油危機による景気の落ち込みの中で、景気の回復と国民生活の安定を図るため、大量の公債発行を行うことにより、財政が積極的な役割を果たすことを求められたのは事実である。しかしながら、現在は、公債残高の累増と大幅な財政赤字により、財政が異例に厳しい状況にあるため、財政に景気浮揚等の積極的な役割を求めることは極めて困難である。
 (二) 公債の増発により、経済の拡大を図れば、これに伴い、一時的にはある程度の税収増を期待することができるであろうが、公債の元利負担は、極めて長期間継続することに留意する必要がある。したがつて、公債の増発は、現在、深刻なものとなつている財政状況をより深刻化させるおそれが極めて強い。
     また、経済の構造変化の下で、財政面での措置による景気刺激効果は、次第に低下してきていることに加え、公債発行が、それ自体、金利を押し上げる要因となり、かえつて経済に悪影響を及ぼす懸念がある。
 (三) なお、公債の利払が、ほとんど国民に還元されることは事実であるが、利払を受ける者とそれを負担する者とが必らずしも一致していないため、利払により意図せざる所得再分配が行われる可能性がある。
 (四) 現在、経済が自律的拡人を遂げつつあるのは御指摘のとおりであり、こうした時こそ行財政改革を進める好機である。
3 我が国経済は、中長期的には、技術革新の進展、相対的に高水準の貯蓄率、安定的な労働力供給等から見て、先進国の中で良好なパフォーマンスを維持するだけの経済的条件を備えていると見られる。このため、今後とも民間経済の活力が最大限に発揮されるような環境の整備を行うとともに、景気動向に即応した適切かつ機動的な経済運営により、物価の安定基調を維持しつつ、国内民間需要を中心とした景気の持続的拡大を図つてまいる所存である。
4 所得税については、昭和五十九年度の税制改正において、課税最低限の引上げ、税率構造の改正等により、初年度八千七百億円(平年度七千六百五十億円)の減収規模の減税が実施されたところである。
  現在の財政事情等から見て、更に所得税減税が実施できる状況にはないと考える。
5 公債発行がこれまで税収に及ぼした影響について、これを一義的・定量的にとらえることは困難である。
  ただ、経済の構造変化の下で、財政面での措置による景気刺激効果は次第に低下してきていることに加え、公債発行が、それ自体、金利を押し上げる要因となり、かえつて経済に悪影響を及ぼすことにも留意する必要がある。
  次に、税収見積りは、毎年度の予算編成の一環として、その時点までの課税実績や政府経済見通しの諸指標等を基礎として個別税目ごとに積上げで行うものであり、現段階において、将来の税収の伸び率の見込みについてお答えすることはできない。
  なお、近年における税収の動向を見ると、二度にわたる石油危機を経て、我が国経済は、かつての高度成長から安定成長に移行し、これに伴い税収の伸びも大幅に鈍化してきている。
6 昭和五十九年度税収の動向については、その本格的な収納が始まつたばかりの現段階においては、確たることを申し上げることは困難である。
  また、来年度の税収見積りについても、前記二の5の後段と同様の理由によりお答えすることはできない。
  なお、税収弾性値は、個別税目の積上げの結果算出される税収伸び率と名目国民総生産伸び率とを対比することによつて事後的に得られるものであり、これを基に単年度の税収予測を行うことは適当でない。
  ただ、「財政の中期展望」においては、中期的な財政の姿をおおまかに示すため税収弾性値を用いて今後の税収を算出しているが、これは他に適当な手掛かりがないためにやむを得ず機械的に過去の平均税収弾性値を用いているものであり、それによつて算出される個々の年度の税収に過度の意味づけを与えることは適当でないと考える。

三について

 参議院予算委員会(昭和五十九年四月十日)等において内閣総理大臣は、「流通の各段階において網羅的に税を取り上げるというような型の間接税を自分は大型間接税と呼んで、これは中曽根内閣が続く限り、やる考えはない」旨の答弁をしている。
 また、衆議院地方行政委員会(昭和五十九年四月二十日)等において大蔵大臣は、税制調査会の答申において、今後課税ベースの広い間接税について検討する必要があるとされているところであり、課税ベースの広い間接税について今後とも勉強は続ける必要がある旨の答弁をしている。
 なお、課税ベースの広い間接税の主要諸外国の例としては、西欧諸国のEC型付加価値税のほか、カナダの製造者消費税、オーストラリア等の卸売売上税、アメリカの州等の小売売上税がある。

四について

1 最近の為替相場は、円安ではなくドルの独歩高を反映したものであり、円は欧州通貨との関係で見ればここ数か月ほとんど変化を見せていない。
  このようなドルの独歩高の主たる要因としては、
 (1)アメリカの高金利により内外金利差が拡大したこと、
 (2)アメリカ経済が予想を上回る景気拡大を続けていること、
 (3)中東情勢等国際情勢に依然不安があること、
 等が考えられる。
2 為替相場は、当該通貨国の経済情勢のみならず、国際的な政治経済情勢あるいは為替市場心理等種々の要因に左右されるので、これについて確たる見通しを示すことは困難であり、また、適当でないと考える。
3 為替相場は、中長期的には、物価、経常収支等の経済のファンダメンタルズによつて決定されると従来言われてきたが、最近は、金利水準、国際政治情勢等の影響を受ける度合いが高まつている。
  一般に、ある時点における為替の適正相場がどのような水準であるかを算出することは難しく、基本的には、市場の判断にゆだねざるを得ないと考える。
  今後とも、経済の良好なファンダメンタルズを維持していくことが、円相場の安定のためにも重要であると考える。
4 一般的に円安が我が国経済にもたらす影響については、その時々の内外の経済情勢、円安の程度や期間等により異なるため、明確に述べることは困難である。
  しかしながら、我が国経済の現状は、全体として見れば景気拡大が続いている一方、物価も安定基調で推移しており、当面、最近の為替相場の動向が我が国経済に与える影響はそれはど大きくはないものと考えられる。
5 前述したとおり、現在のドル高には種々の要因が働いており、このような状況の下では、直ちにドル高が修正されることは望み難い。しかし、現在、アメリカも財政赤字の削減、インフレなき安定成長の維持を目指しており、このような政策が効果を挙げ金利の低下が図られれば、現在のようなドル独歩高の状態は徐々に修正されていくものと期待している。

五について

1 政府の考え方は、次のとおりである。
 (一) 我が国において近年消費者物価が安定している原因としては、
   (1)第二次石油危機発生時において、早期の引締政策及び物価対策が実施されたこと、
   (2)第二次石油危機においても、比較的順調な労働生産性の伸びが維持されたこと、
   (3)賃金が緩やかな上昇にとどまつたこと、
   (4)昭和五十八年には原油をはじめとする輸入エネルギー価格の低下や為替レートの動向が物価の安定に寄与したこと、
     等がある。
 (二) 欧米主要先進国の消費者物価は、第二次石油危機の影響等により高騰し、賃金決定の制度及び生産性動向等の物価変動の決定要因並びに政策変更のタイミングなどが我が国と異なつたため、その後も我が国を上回る物価上昇率が続いた。しかし、各国の引締政策への方向転換、世界的な長期不況による実需不振等から、物価は昭和五十五年春をピークに徐々に鎮静化に向かい、アメリカ、西ドイツ、イギリスなどでは、昭和五十七年頃から一段と鎮静化を示している。フランスの物価上昇率も高水準ながら昭和五十七年央以降鈍化を続けている。この結果、昭和五十八年の対前年比消費者物価上昇率は、アメリカ三・二パーセント、イギリス四・六パーセント、西ドイツ三・三パーセント、フランス九・六パーセント、日本一・九パーセントとなつた。
 (三) なお、これら諸国において、いかなる政策を採れば物価鎮静をより速やかに達成し得たかは、各国の経済環境の相違などから考えて、一概に論ずることは困難である。
2 政府の考え方は、次のとおりである。
 (一) 消費者物価指数の採用品目には、卸売物価指数と共通の品目があるほか、卸売物価指数の採用品目となつている素原材料や中間財を使用している品目も多く含まれているため、卸売物価の変動は消費者物価に影響を与える。しかし、消費者物価においては、サービスや生鮮食品のウェイトも半分程度を占めており、これらは卸売物価との関係が比較的薄い。
 (二) 一般的には卸売物価の騰落はある程度のタイムラグを伴つて消費者物価に影響を与えるが、具体的な影響の程度や影響が現れるのに要する時間については、卸売物価のどの部門が変動したか、また、それによつて影響を受ける消費財の原材料コスト比率や需給状況如何などにより異なつてくるため、一義的に計測することは困難である。
3 (1)昭和五十九年度予算関連公共料金(米の政府売渡価格、医療費、国鉄運賃、電話料金等)の改定による消費者物価指数への影響(年度平均寄与度をいう。以下同じ。)が〇・三パーセント程度と見込まれること、
  (2)政府認可料金(民営鉄道、公営地下鉄、バス・タクシーの運賃等)の改定及び地方公共料金(公営水道料金、公営家賃、公立高校授業料等)の改定による消費者物価指数への影響は昨年度(政府認可料金〇・一パーセント、地方公共料金〇・一パーセント)を上回るものと予想されること、
  (3)公共料金ではないが、酒税等の間接税の税率引上げ等が仮にそのまま価格に転嫁されたとすれば、その消費者物価指数への影響が〇・二パーセント程度と見込まれること、
   等を総合的に勘案すると、これら全体が昭和五十九年度の消費者物価指数に及ぼす影響は、一パーセント程度となる可能性がある。
4 政府の考え方は、次のとおりである。
 (一) 公共投資が景気刺激の効果をもつことは否定できないが、その効果は高度成長期に比べ、低下していると言われている。
     また、公債残高の累増や大幅な財政赤字による厳しい財政事情の下で、財政政策の自由度は低下している。
     一方、最近の我が国の経済情勢を見ると、業種別・地域別等になおばらつきが残されているものの、全体として見れば、景気は拡大している。
 (二) 公共投資については、こうした景気動向、財政事情等を勘案するとともに、民間資金、民間活力の導入を図る等の工夫を行いつつ、その総合的、効率的実施に努めていくべきである (三) なお、我が国の社会資本の整備水準は漸次向上しつつあるが、ストック面ではまだ十分とは言い難いので、公共投資の配分に当たつては、「一九八〇年代経済社会の展望と指針」に即して、部門ごとの整備状況等も踏まえて慎重に判断する必要がある。

 右答弁する。




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