答弁本文情報
平成十年十一月二十七日受領答弁第三一号
内閣衆質一四三第三一号
平成十年十一月二十七日
衆議院議長 伊※(注)宗一郎 殿
衆議院議員保坂展人君提出冤罪における再審請求と証拠開示および国際人権(自由権)規約の実施状況に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員保坂展人君提出冤罪における再審請求と証拠開示および国際人権(自由権)規約の実施状況に関する質問に対する答弁書
一について
刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百九十九条第一項により、検察官が公判廷で取調べを請求する証拠物及び証拠書類については、あらかじめ弁護人等に閲覧の機会を与えなければならないものとされている。これに加えて、最高裁判所の決定(昭和四十四年四月二十五日同裁判所第二小法廷決定)により、裁判所は、一定の場合には、その訴訟指揮権に基づき、検察官が所持する証拠の開示を命じることができるものとされている。実際にも、具体的必要性に応じて、裁判所から検察官に対し証拠開示の命令又は勧告が行われており、検察官においても、事案に即して証拠開示の要否、時期、範囲等を検討し、被告人の防御上合理的に必要と認められる証拠については、これを適正に開示しているところである。
御質問の勧告については、このように、弁護人等には公判の準備をするために必要な証拠の開示を受ける機会は十分に保障されていることから、更に証拠開示を受ける機会を保障するための新たな措置を採る必要はないものと考えている。
御質問の報告書の記載は、公判の準備のための証拠開示についてのものである。
なお、再審請求事件における再審請求者等に対する証拠開示についてお答えすると、刑事確定訴訟記録法(昭和六十二年法律第六十四号)においては、再審請求者等に対して、検察官が公判に提出した証拠を含む訴訟記録の閲覧を認めているが、公判に提出されていない記録については閲覧の対象としていない。他方、再審請求事件における公判不提出記録の開示については、同記録には事件発生から広範な捜査活動の結果収集された種々多様な資料が含まれており、その中には再審請求事件の争点とは関係がないものがあるばかりでなく、証拠開示によって関係者のプライバシー、名誉等が害されるとともに将来の捜査に対する協力が得られなくなるおそれがあること等から、検察官において、個々の事案ごとに、これらの観点を踏まえつつ、再審請求審における必要性に留意して、個別に判断して適切に対処しているところである。
御質問の「いくつかの(差別・偏見)を土台とする冤罪事件」がどの事件を念頭に置くものか明らかではないが、一についてでお答えしたとおり、検察官においては、被告人の防御上合理的に必要と認められる証拠については、これを適正に開示しているところである。
証拠の開示は公訴の提起後に行っているところであるが、弁護人から再審請求事件において公判不提出記録の開示の申出があった場合における対応については、二の(1)についてでお答えしたとおりである。
御質問は、いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件等の具体的事件の捜査手続又は刑事裁判手続における検察官及び裁判所の判断にかかわる事柄であるので、死刑の必要性、情報公開などに関する再質問に対する答弁書(平成十年三月二十四日内閣衆質一四二第一〇号。以下「平成十年三月答弁書」という。)六の(3)についてと同様に、答弁を差し控えたい。
なお、平成十年三月答弁書六の(3)について、死刑の必要性、情報公開などに関する第三回質問に対する答弁書(平成十年五月一日内閣衆質一四二第二〇号)六の(3)について並びに死刑制度などに関する質問に対する答弁書(平成十年八月二十一日内閣衆質一四二第六四号)六の(3)について及び六の(6)についてでお答えしたとおり、検察当局においては、これらの事件に係る再審の判決において、捜、査又は公判にかかわる問題点が指摘されたことを深刻に受け止め、右指摘に係る問題点を踏まえて、信用性のある供述の確保とその裏付け捜査の徹底、証拠物やその鑑定等の客観的な証拠の十分な収集、検討等に一層の意を用い、事件の適正な捜査処理に努めているとともに、公判においても、法が定めるところに従い、適正な訴訟活動に努めているところである。
いわゆる免田事件においては、検察官は、昭和二十九年五月十八日から昭和三十一年八月十日までの第三次再審請求事件の第一審において、熊本地方裁判所八代支部からの要請に応じ、公判不提出記録一冊を同支部に提出している。
いわゆる財田川事件においては、検察官は、昭和四十五年十一月六日、第二次再審請求事件の差戻し前の第一審において、高松地方裁判所丸亀支部からの要請に応じ、警察保管記録三冊を同支部に提出し、さらに、その後、昭和五十二年十月四日、同請求事件の差戻し後の第一審において、弁護人からの申出に応じ、警察保管記録二冊を高松地方裁判所に提出している。
いわゆる松山事件においては、検察官は、昭和五十年十一月二十六日、第二次再審請求事件の差戻し後の第一審において、仙台地方裁判所からの要請に応じ、公判不提出記録八冊を同裁判所に提出している。
御質問については、二の(1)についてでお答えしたとおり、検察官において、個々の事案ごとに、個別に判断して適切に対処するものと考えている。
御質問のいわゆる狭山事件については、現在、東京高等裁判所に再審請求事件が係属中であり、同再審請求事件における公判不提出記録の開示については、事件を担当する検察官と弁護人側との間で個別に協議をしているところであるので、政府においてお答えすべき性格のものではないと考えている。
いわゆる狭山事件における弁護団からの証拠開示の申出に対する検察官の回答については、現に再審請求が係属中の具体的事件における検察官の活動内容にかかわるものであるので、政府においてお答えすべき性格のものではないと考えている。
また、御質問の「冤罪事件」というのがどの事件を念頭に置いているか定かでないが、再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおりであり、検察官において、関係者のプライバシーにかかわる内容の証拠であっても、個々の事案ごとに、右プライバシーの保護のほか、再審請求事件における争点との関連性、将来の捜査における協力の確保等の観点から個別に判断して、開示の合理的な必要性があると認める場合には、これを開示しているものと考えている。
再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおり、関係者のプライバシーも考慮すべき要素の一つであるが、検察官においては、個々の事案ごとに、種々の観点から個別に判断して適切に対処しており、それ以上の要件や基準を設ける必要があるとは考えていない。
三の(2)についてでお答えしたとおり、関係者のプライバシーにかかわる内容の証拠であっても、開示の合理的な必要性が認められる場合には、これを開示しているところであり、その限りで関係者のプライバシーが損なわれることは否定できないが、これがプライバシーの不当な侵害に当たるとは考えていない。
もとより被疑者、被告人のプライバシーに配慮する必要があると考えているが、再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおり、検察官において、個々の事案ごとに個別に判断して適切に対処しているところである。
保護基準の設定については、三の(3)についてでお答えしたとおりである。
また、再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおり、検察官において、個々の事案ごとに、再審請求事件における争点との関連性、関係者のプライバシー等の保護、将来の捜査における協力の確保等の観点から、開示すべき範囲を個別に判断しており、関係者のプライバシーの保護のみの観点から判断しているものではない。