答弁本文情報
平成十一年四月二十七日受領答弁第一〇号
内閣衆質一四五第一〇号
平成十一年四月二十七日
衆議院議長 伊※(注)宗一郎 殿
衆議院議員北村哲男君提出行刑施設被収容者の領置物の総量規制に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員北村哲男君提出行刑施設被収容者の領置物の総量規制に関する質問に対する答弁書
一について
御質問の運用内規については、被収容者の領置物の管理に関する規則(平成九年法務省令第三十八号。以下「規則」という。)の施行に当たり、被収容者一人当たりの領置物の総量の具体的定め方について参考例を示すなどして規則の円滑かつ適正な運用に資するため、平成九年七月二十五日付けをもって、法務省矯正局総務課矯正調査官から事務連絡「被収容者の領置物の管理に関する運用について」が発出されており、その内容は、別紙一のとおりである。また、最近、被収容者の訴訟記録の取扱いについて再確認するため、平成十一年三月二十九日付け法務省矯総第九百七十三号矯正局総務課長通知「被収容者の領置物の管理に関する規則(平成九年法務省令第三十八号)の運用上の参考事項について」が発出されており、その内容は、別紙二のとおりである。
御質問の「衣類の総量を保管するための容量」、「衣類臥具以外の物の保管量」及び「被収容者一人当たりの領置物の総量」については、別表一のとおりである。
御質問の「領置倉庫において保管することができる容量」及び「収容定員」については、別表二のとおりである。
御質問の実収容人員及び昨年の一日平均収容人員については、別表三のとおりである。
御質問の各施設で実際に領置している領置物の総量については、別表四のとおりである。
なお、本質問主意書提出時点での領置物の総量については、既に出所している者がいること等から、調査することが困難であったため、本年三月三日時点で実際に領置している領置物の総量を調査して計上した。
御質問の「被収容者一人当たりの領置物の総量」を超過していた被収容者の人数及び超過容量の合計については、別表五のとおりである。
御質問の物品の購入又は差入れを不許可とした事例については、別表六のとおりである。
なお、いずれの事例も、同表の「処分の根拠となった数量超過の細目」欄記載の衣類の種類ごとの個数又は衣類臥具以外の物の一人当たりの保管量を超過するだけでなく、一人当たりの領置物の総量をも超過するものである。
御指摘のとおり、「監獄法改正の骨子となる要綱案説明書」には、監獄法(明治四十一年法律第二十八号)第五十一条第二項の規定の趣旨が、物の性質上保存の価値なく、又は保存に不適当と認める場合に限られており、被収容者の領置物が多量に上るため、刑事施設の管理運営上不適当と認める場合であっても、この規定に基づき領置をせず、又は領置を解くことはできないと解される旨の記載があるところ、現在も同様に解している。
規則は、監獄法第五十一条第二項の規定を根拠とするものではなく、差入れに関する制限を命令に委任した監獄法第五十三条第一項に基づき、行刑施設の長が、被収容者一人当たりの領置物の総量を設定する
とともに、その量を超えるときには、新たな購入又は差入れを許さないことができることとしたものである。
規則は、被収容者の領置物を保管、管理するための領置倉庫の保管能力やその保管、管理に従事する職員数には限界があり、特に、一部の行刑施設においては、特定の被収容者が多量の領置物を有するため領置倉庫に収納しきれない状態が生じるなど、被収容者の領置物の適正かつ良好な管理に支障を来たしている状況にあったことから、限られた人的、物的条件の下で、被収容者間の処遇の公平に配慮しつつ、領置物の適正かつ良好な管理を図るために定められたものである。しかし、規則は、監獄法第五十三条第一項の委任に基づくものであり、規則の下においては、自弁物品の購入又は差入れを制限することはできるが、被収容者の物を強制的に処分又は廃棄することができるものではない。これに対し、第百二十回国会提出に係る刑事施設法案(以下「刑事施設法案」という。)においては、被収容者の物品が著しく多量であるため刑事施設における被収容者の物品の適正な管理に支障を生ずるおそれがあるとして領置しない物品については、強制的にこれを処分する、又は廃棄することができる旨の規定(刑事施設法案第百二十六条第四項)が置かれている。このように、両者の制限措置には、効果に違いがあり、規則が刑事施設法案に比べ絞りを外したとの比較は適当ではないと考える。
行刑施設においては、被収容者の法的地位に応じ、その収容目的のために必要かつ合理的な範囲において被収容者の権利及び自由が制限されるほか、多数の被収容者を外部から隔離して収容し、施設内でこれらの者を集団として管理するに当たっては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があることから、この目的のために必要がある場合には、この面から被収容者の権利及び自由について一定の制限が加えられることはやむを得ないところである。このことは、被収容者の物品の購入又は差入れについても、前述のとおり、人的、物的条件が限られている以上、同様に当てはまることである。規則は、以上の点を踏まえ、一般社会においても、自己の所有物がその生活空間に比較して多量となったときには、最も必要な物を手元に置き、不要な物を廃棄し、必要な物を他人に預けるなど、適宜の措置を講ずるのが通常であるという一般常識を行刑施設に適用して、必要かつ合理的な範囲内で制限を課し得るとしたものであり、憲法との関係で問題があるものとは考えていない。
また、規則は、監獄法第五十三条第一項の委任に基づき、領置物の適正かつ良好な管理を図るため、行刑施設の長が被収容者一人当たりの領置物の総量を合理的な方法により定め、その総量を超える場合について自弁物品の購入又は差入れを制限することができるとするものであって、被収容者の物を強制的に廃棄することを規定したものではなく、監獄法その他の法令に違反するものとは考えていない。
被収容者の領置物を保管、管理するための領置倉庫の保管能力やその保管、管理に従事する職員数には限界があり、この限られた人的、物的条件の下で、被収容者間の処遇の公平に配慮しつつ、領置物の適正かつ良好な管理を図るためには、各施設の領置倉庫の保管能力の状況に応じて、行刑施設の長が一律に、かつ、相当量の領置物の保管を可能とする容量として、被収容者一人当たりの領置物の総量を定めるのが最も合理的である。
仮に、被収容者一人当たりの領置物の総量を定めるに当たって、被収容者ごとの個別的事情を考慮するとすれば、在監期間の長短、家族関係、宅下げの状況等ばかりではなく、例えば、未決拘禁者の刑事事件の複雑性及び裁判の進行の状況、各被収容者の経歴、個人的希望、出所後の職業及び生活上の必要性等についても考慮を要することとなるが、これらの被収容者ごとの事情は極めて多数の要素から成っており、特定の要素に着目して被収容者一人当たりの領置物の総量決定の基礎とすることは、むしろ不公平な結果をもたらし、不合理である。
したがって、御質問に係る個別的事情は、「被収容者一人当たりの領置物の総量」を定めるに当たって考慮するのではなく、衣類臥具又は衣類臥具以外の物の購入又は差入れを制限するか否かを判断する際において考慮すべきものと考えている。すなわち、規則第五条から第八条までの各規定は、被収容者一人当たりの領置物の総量を超えれば、いかなる場合であっても新たな購入又は差入れを不許可とすべしとするものではなく、例えば、当該被収容者について、適当な宅下げ先の有無、領置物の増大をもたらした理由、在監期間の長短等の個別具体的な事情に照らし、特別の理由があると認められる場合には、新たな購入又は差入れを許可するという各行刑施設の長の合理的裁量権の行使までも否定するものではないのである。
被収容者一人当たりの領置物の総量については、被収容者間の公平な処遇に配慮しつつ、領置物の適正かつ良好な管理を図る観点から、領置倉庫の容量を収容定員で除し、その数値を参考にして定めることとしている。仮に、領置倉庫が全体として逼迫状況にない限り規制できないこととすると、収容人員の増加により、たちまち領置物を領置倉庫に収納しきれない事態に陥るおそれがあるからであり、そのような規制方法は採用しなかったものである。
領置倉庫の容量を収容定員で除し、その数値を参考にして被収容者一人当たりの総量を定める場合には、収容人員が収容定員を下回っていれば、確かに領置倉庫の全体としての容量には余裕があることになるが、被収容者の収容状況は常に変動していることから、各施設においては、仮に、収容人員が収容定員を上回ることがあったとしても、領置物を適正かつ良好に管理するために必要な収納場所を確保しておくことが望ましいというべきであり、これを無駄遣いというのは当たらない。
規則は、領置物を保管、管理するための領置倉庫の保管能力やその保管、管理に従事する職員数には限界があり、特に、一部の行刑施設においては、特定の被収容者が多量の領置物を有するため領置倉庫に収納しきれない状態が生じるなど、被収容者の領置物の適正かつ良好な管理に支障を来たしている状況にあったことから、監獄法第五十三条第一項の委任に基づき、行刑施設の長が各施設の領置倉庫の保管容量等に応じて被収容者一人当たりの領置物の総量を定め、その量を超えた場合に、その者の購入又は差入れを許さないことができることとしたものである。かかる規則は、限られた人的、物的条件の下で、被収容者間の処遇の公平に配慮しつつ、領置物の適正かつ良好な管理を図るため、必要かつ合理的なものであると考える。
訴訟関係書類については、監獄法第四十八条に規定する「裁判所其他ノ公務所ヨリ在監者ニ宛テタル文書」に該当する場合には、同法第四十九条が「本人閲読ノ後之ヲ領置ス」と規定している趣旨を勘案して、規則による規制の対象から除外し、当該在監者の領置物の保管量にかかわらず領置することとしている。これに該当しない場合には、規則にいう「被収容者一人当たりの領置物の総量」に含まれるものとして取り扱うことになるが、この場合であっても、規則は、被収容者が訴訟関係書類を閲読し、検討すること自体を何ら制限するものでないことはもちろん、被収容者は一人当たりの領置物の総量の範囲内で必要な訴訟関係書類の保管をすることができ、その総量を超える場合であっても、他の領置物を宅下げすること等により、領置することができる空間を空けて必要な訴訟関係書類の保管ができるのであって、防御権に不当な制限を加えるものではない。さらに、本規則については、刑事被告人の防御権の重要性にかんがみ、個別の事案に応じて適切な運用をしているところである。
監獄法上の領置は、行刑施設内における私物使用制限等の管理目的から、被収容者の私物について、その占有を行刑施設に強制的に移して占有を継続する行為であるところ、同法第五十一条が「在監者ノ携有スル物ハ点検シテ之ヲ領置ス」として房内で使用する物品か否かにかかわらず領置するものとしていることから明らかなとおり、被収容者が房内で現に所持する衣類、書籍、日用品等であっても、監獄法上の領置物であることに変わりはない。これら房内で所持する物品は、領置を解くことなく、いわゆる「仮出し」によりその使用を一時許可したものにすぎないことから、基本的には、規則の「被収容者一人当たりの領置物の総量」に含まれ得るものである。
しかしながら、規則が主として領置倉庫における領置物の適正かつ良好な管理を図ることを目的として制定されたものであることから、領置倉庫において保管せずに房内で現に所持している衣類、書籍、日用品等の物品については、計算上、領置倉庫に保管されている物品にこれらの物品を含めると「被収容者一人当たりの領置物の総量」を超える場合であっても、規則の運用上は、直ちに「被収容者一人当たりの領置物の総量」を超えているとして差入れ等の制限を行うことはしないこととしている。このことは、房内で現に所持している訴訟関係書類についても同様である。
別紙1
別添1
A拘置所領置倉庫内配置図
別添2
衣類臥具の種類及び品名例(未決用)
衣類の種類及び品目例(受刑者用)
(注)
上記表(未決用)は、未決拘禁者、死刑確定者、労役場留置者、拘留受刑者及び被監置者に対する例であり、また、上記表(受刑者用)は、懲役受刑者及び禁錮受刑者に対する例である。
別添3
別紙2
別表一
(注)
一 表中、特段の記載があるものを除き、「未決被収容者」とは、未決拘禁者、死刑確定者、拘留受刑者、労役場留置者及び被監置者を意味し、「既決被収容者」とは、懲役受刑者及び禁錮受刑者を意味する(別表二及び四についても同じ。)。
二 複数の種類の容器を使用している施設については、容器の種類別の記載は余りに複雑になるため、容器の個数ではなく、容量(リットル)のみで計上している(別表二及び四についても同じ。)。
別表二
別表三
別表四
別表五
別表六