平成25年5月23日(木)(第10回)

◎会議に付した案件

1.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(緊急事態と憲法をめぐる諸問題)

衆議院法制局当局から説明を聴取した後、自由討議を行った。

2.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(国会と司法の関係をめぐる諸問題(裁判官弾劾裁判所及び裁判官訴追委員会等)そのほか)

衆議院法制局当局から説明を聴取した後、自由討議を行った。


【緊急事態と憲法をめぐる諸問題について】
◎自由討議

●各会派の代表者からの意見表明の概要

中谷 元君(自民)

  • 国民の生命、身体、財産の保護は、緊急時においても国家の最も重要な役割であり、超法規的な対処ではなく、平素から整備しておく必要があるとの考えから、我が党の憲法改正草案では、緊急事態に対処するための仕組みを、独立の章として憲法上明確に規定した。有事、大規模災害等が発生した場合に内閣総理大臣が閣議にかけて緊急事態の宣言を行うが、事前又は事後に国会承認が必要であるとし、国会承認の議決は衆議院の優越を規定した。さらに緊急事態の期間は 100日に限定し、100日を超えて継続するときは事前の国会承認を要し、また、国会の議決により宣言は解除されるものと規定した。
  • 緊急事態の宣言の効果は、憲法に規定されている事項に限定されるべきであり、我が党の憲法改正草案では、緊急政令の制定、地方自治体の長に対する指示等を規定した。これらは立法措置のみでも可能であるが、憲法上の根拠があることが望ましい。また、国民の生命、身体、財産という大きな人権を守るため、他の人権が制約されることもあり得るとの考えから、国民は、国や地方自治体等による、国民を保護するための指示に従わなければならないことを規定した。
  • その他、緊急事態の宣言が発せられた場合に、衆議院が解散されないことや国会議員の任期や選挙期日の特例について規定した。なお、解散中に緊急事態が生じた場合は前衆議院議員の身分を一時回復させるべきとの意見もあった。

山口 壯君(民主)

  • 民主党は 2005年の「憲法提言」において、憲法に非常事態に関する規定を置くべきかに関して、「国家緊急権を憲法上に明示し、非常事態においても、国民主権や基本的人権の尊重などが侵されることなく、その憲法秩序が維持されるよう、その仕組みを明確にしておく」と記している。通常の行政執行体制では事態に機動的に対処できない場合に備えて、緊急事態に関する規定を置くという方向性を示しながらも、あくまでも「国民主権」や「基本的人権」といった憲法の原理を、緊急事態においても維持するという趣旨である。
  • 基本的人権の制限の歯止めに関しては、武力攻撃事態対処法案においても、民主党主導の下で、憲法の基本的人権に関する規定が最大限尊重されなければならない旨の修正が加えられた。このような趣旨は、憲法の緊急事態条項の内容を検討する際も、基本に置くべきである。
  • 我が党が緊急事態への対処について重視するもう一つの原理は、国会による民主的統制の確保である。国会の組織と機能は、緊急事態においても常に維持されなければならず、「憲法提言」に「国家非常事態における内閣総理大臣の解散権の制限」を、緊急事態条項の内容として例示している。これは、緊急事態の下で、衆議院が解散され、行政権の濫用を監視する国会の機能が果たせなくなる事態を避けるためである。
  • 今後、緊急事態条項の具体的内容を検討する際には、災害の場合には、被災自治体支援、人権調節的なものとして国民が許容する余地も大きいと思うが、戦争の場合はそれと同一ではなく、より慎重な検討が必要となってくると思われる。したがって、戦争のような事態と災害等の場合とを分けて規定することもありうる。

小熊 慎司君(維新)

  • 我が党は、国の役割を外交、安全保障、危機管理等に絞り込み、国の機能を強化することをうたっており、緊急事態体制を強化する方向で統治機構改革を推進すべきだと考えている。
  • 我が国では、緊急事態に対応する恒常的な組織が政府に存在せず、緊急事態のたびに各省庁寄り合いの対策本部が設置される仕組みとなっているが、これは、現行憲法には緊急事態に関する規定が欠落しているためである。
  • 他国からの武力攻撃等の緊急事態に迅速かつ効果的に対処するとともに、有事にあっても憲法秩序を維持し、権力の濫用を防ぐため、内閣総理大臣による指揮命令権の行使と国会による民主的統制を憲法に明記すべきだ。
  • 次の 3点についても、憲法に明記する方向で検討する。@内閣総理大臣の権限集中と、緊急事態における内閣総理大臣の指揮・命令に対する国会のチェック体制、及び国会議員の任期延長、解散の制限など、A緊急事態における移動の自由や財産権などの人権の制約、国民の役割(被災者救助、被災地支援等)とその補償措置、B地方公共団体は、他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、国の指示に従い、緊急事態に対する責務を有すること。
  • 福島の被災地に入ったときには、国民の生命と財産を守るべき国の役割が果たされていないと感じた。緊急事態に対する整備がなかったことで失われた命もあったのではないかと思う。やはり決断をして、憲法に条項を明記し、何もしないことで生じるリスクをとっていくことが必要だ。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 緊急権には、@平時の立憲体制の範囲内で、一時的に統治機構・作用を変更する緊急権、A憲法秩序を一時的に停止し、一定条件下で一国家機関による独裁的な権限行使を認める、憲法制度上の国家緊急権、B憲法秩序を全面停止し、超憲法的な独裁的権力の行使を認める、不文の、憲法を踏み越える緊急権があると言われている。我々が議論すべきは、@もそうだが、特にAの憲法制度上の緊急権である。
  • 国家緊急権は憲法保障の制度とも言われるが、他方で一時的であれ立憲的な制度を停止し、一国家機関への権限集中を認めることは、立憲主義を破壊する危険も有するため、厳格な要件の下で認められるのが通常である。具体的には、@目的が立憲主義体制の維持又は国民の権利・自由の保護に限定されること、A権限行使が一時的かつ必要最小限度であること、B通常の手段では対処できない事態であると客観的に明らかであること、C講じられた措置等について、事後に議会・裁判所による政治的・法的責任の追及、国民が被った不利益の十分な回復措置が行われること、が必要であると考えられている。
  • 国家緊急権の憲法への明記について、公明党内には、緊急事態対処に関する基本法の制定とともに、憲法にも緊急事態条項を規定すべきとの意見がある一方、あえて憲法に規定する必要はなく、法制上の措置で済むとの意見や憲法に規定することで、ぎりぎりまで法規に則って対処する努力を放棄することにならないかとの意見もある。いずれにしても、今後予想される非常事態について、人権保障のための体制整備が必要で、そのための統治機構についての踏み込んだ議論が必要だとの認識は共通している。
  • 非常事態において一定の人権制限が必要な場合でも、それは国民の生存を確保するという最上級の人権を守ることを目的とすべきで、国家の利益を守るためになすべきではない。

畠中 光成君(みんな)

  • 我が党は、昨年 4月の「憲法改正の基本的考え方」において、憲法上、非常事態法制の整備を明記するとした。
  • 緊急事態にあっては、総理への権限集中や国民の協力といった必要が生じるなど、平常時の法制の限界を超える事態が想定されるため、法律の整備は徹底して行わなければならないが、緊急事態であっても、自由・人権を守る最後の砦としての憲法を機能させることは重要で、緊急事態条項を制約的な条項として明記すべきである。
  • 緊急事態条項が適用される対象・期間・地域、制限された人権の回復に加え、このシステムが暴走することのないよう、国会による承認・取消しに関する規定が設けられるべきだ。また、三権分立の観点から、ドイツの制度を参考に違憲審査制をさらに進め、内閣・国会が認めた緊急事態に対し、司法がストップをかける制度の導入も検討に値する。緊急事態に際し、いかに人権を制限するかではなく、いかに自由・人権を保障するかという観点が肝要だ。
  • 東日本大震災・福島原発事故は、官邸・首相といった意思決定権者への正確な情報伝達の必要性や、平時における危機管理体制構築の重要性を教訓として示した。政治家の責務は国民の生命・財産の保護であるから、現行法制下での危機管理体制には適合しない、又はこれが想定していない事態の発生についても考慮し、対処する必要がある。この点から、我が党は、法律の上位にある憲法に、緊急事態における首相の権限を明記する必要があると考える。
  • 憲法における緊急事態の取扱いは極めて重要である。憲法改正のみならず、その他の国民投票の在り方を規定することにより、憲法が守るべき国民の自由・権利を重層的に担保することが必要だ。我が党の考える憲法改正は、国民の手に政治を奪還するためのものである。

笠井 亮君(共産)

  • 日本国憲法には緊急事態についての章立てはなく、憲法審査会でも既に第 4章の検証の際に様々な意見が表明されており、あえて取り立てて扱うべきテーマではないと考える。
  • 必要とされているのは、大規模自然災害、武力攻撃の際に憲法の例外規定を設けることや、諸規定の停止でなく、日本国憲法を文字通りいかすことである。
  • 東日本大震災及び原発事故の教訓は、最大限対処可能な法体系を整備し、被害を最小限に抑え、被災者の生業の再生に努力することの重要性だった。震災後の 2年間は、超党派でさらなる法律・制度の整備を行ってきており、人権を守ることを土台に、防災と被災者支援を最優先する社会を作ることこそ大規模災害に備える最も確かな道である。
  • 憲法に緊急事態の規定を設け、総理に権限を集中すれば大規模災害に対処できるとする議論自体、震災後 2年間にわたる超党派での努力の方向と異なる主張であり、議論のすり替えである。
  • 外部からの武力攻撃への対処のために、緊急事態の規定が必要との意見もあるが、そのような事態を起こさないために、前文と 9条に基づく外交力が重要である。
  • 日本国憲法が、明治憲法で規定されていた緊急勅令を拒否し、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義などの諸原則を根本に据えたのは、緊急勅令により、侵略戦争遂行のための体制を作っていった苦い経験によるものである。恒久平和によって緊急事態を生じさせないと規定した日本国憲法は、諸外国にはない先駆的な憲法である。

鈴木 克昌君(生活)

  • 我が党の「憲法についての考え方」では、「緊急事態」は見直し、加憲として位置づけている。具体的には「緊急事態に際し、対応策を迅速かつ強力に推進することができるよう、内閣による緊急事態宣言の根拠規定その他の緊急事態に関する事項について規定する」とし、憲法の規定に基づいて「法律で定めるべき事項についても、併せて検討を行う」こととしている。
  • 従来の法制度では全く想定しておらず、対処の方向性が見えない事例について「大規模テロなどにより、内閣総理大臣を含む全国務大臣が欠けたとき等の臨時代理について、憲法上の根拠規定を置く」ことも必要である。
  • 緊急事態中に国会議員の任期が満了したが、物理的に選挙を行うことができない場合等を想定し、緊急時における国会議員の任期延長及び衆議院解散の禁止等について検討することが必要である。
  • 私見だが、衆議院解散後、総選挙実施までの間に緊急事態が起こった場合、前衆議院議員の身分を一時回復させるような措置も検討に値すると考える。内閣総理大臣を含む全国務大臣が欠けたときを想定すれば、新しい内閣総理大臣を指名するという国会の機能は、参議院の緊急集会で対処するというよりは両議院がそろった状態で果たされるのが望ましいからである。

●委員からの発言の概要(発言順)

船田 元君(自民)

  • 本日の憲法審査会のテーマ設定について意見があったが、緊急事態は、かつて憲法調査会時代にも議論をした経緯もあり、また、東日本大震災の教訓がこなされていない中、憲法論議においても議題とすべきであるとして、幹事会において決められた。
  • 多くの政党が憲法上、緊急事態に関する規定を設けるべきとの意見であった。英米では、行政権が必要な措置は何でもできるという考えなどから憲法に規定を置いていないが、非常時において、行政の権限が無制限に拡大・濫用される恐れもあることから、防止するための規定を置くべきである。
  • 具体的には、緊急事態の定義を制限的に列挙、明確にする。また、緊急事態の宣言は総理が行い、国会の承認を得る、などである。そして、宣言によって、法律と同じ効力の政令、予算外の財政支出、地方自治体の長への指示等をできるようにする。国民の権利を制限する場合には、基本的人権を最大限尊重すべきである旨を規定するべきであり、宣言終了後、被害を被った国民への財産の回復も重要である。事態終了後の緊急事態の解除宣言等も盛り込むべきである。

古川 元久君(民主)

  • 緊急事態においても、国民主権や基本的人権の尊重といった憲法秩序が確保されるよう、憲法において担保することが重要である。そのような観点から、緊急事態において、行政権によって基本的人権や国民主権等がないがしろにされないよう、緊急事態に備えた法的枠組みを平時から議論し整備すべきである。
  • 内閣官房副長官の時に作成を指示した新型インフルエンザ等対策特別措置法もまた、インフルエンザが流行してから対応したり、私権が制限されたりしないよう制定に至ったものであるが、その時になって対処するのではなく、平時における議論、事後チェックや損害の回復を含めた整備が重要である。
  • それでも想定しえない事態が起きる恐れもあるため、憲法秩序が確保されるよう、憲法上、緊急事態規定を置くべきである。

高鳥 修一君(自民)

  • 先日、災害対策特別委員会において、泉田新潟県知事が参考人として発言されたように、時代によって生活スタイルが変わり、災害に必要な対応も常に変化していくものである。全ての起こりうる危機に対し、個別に対応しきれない可能性を否定できない。包括的な非常事態宣言を規定し、手続を簡略化して迅速にやらなければ被災者を迅速に救済できないものと考える。
  • 地方議会議員や首長の任期は特別立法で延長できるが、国会議員の任期は憲法で規定されており、「法律の制定によって国会議員の任期は延長できない」との政府答弁書もある。「非常事態を生じさせないよう努力すべき」と言っても、自然災害は止められない。予算にない支出を緊急的に迫られる場合もあり、緊急事態条項は必要である。
  • 諸外国でも細かく緊急事態が規定されている。非常時に国家が混乱し、対応が後手後手に回らないためにも、また、超法規的措置でなく憲法の範囲内で憲法の規定に従って対処するためにも、平時において、緊急事態に対応するルールを憲法上規定する必要がある。

辻元 清美君(民主)

  • 緊急事態関係を憲法に規定するかどうかを検討する際には、今回の東日本大震災において、現場では何ができなかったのかを検証する必要がある。
  • これまで、国は原発事故は起きないことを想定してきた。原発事故発生時の対応について法整備をしすぎると、事故が起きることを認めることになるとして、原発事故への対応がされてこなかった。津波対策についても、不備が指摘されてきたにもかかわらず「大丈夫」という根拠のない政府答弁が繰り返されてきた。
  • 現行憲法下においてできたこと、また、どのような不備があったのかを徹底的に検証した上で憲法議論に入らなければ、緊急事態条項を憲法に入れれば何でもうまくいくという議論になりかねない。今の議論は、実態を伴っていないと感じる。
  • 緊急事態の際の人権制限については、治安維持法や表現の自由の制約が戦争を長引かせたという過去の歴史に鑑みて議論する必要がある。

馬場 伸幸君(維新)

  • 緊急事態の宣言を行うことにより、首相に権限が集中するため、国会による民主的統制を確保することが不可欠である。
  • 緊急事態の宣言の際、対象地域と期間を限定すべきである。対象地域については法律で定め、期間についてはおおむね 90日とし、必要に応じて国会の承認を得ることにより延長する。これは、首相の強力な権限が歯止めなく続いて、憲法秩序が破壊されることがないようにするためである。
  • 緊急事態の宣言については、 20日以内に国会の承認を求めることとし、国会によってその宣言を解除できるようにして、国会による民主的統制を確保すべきである。
  • 緊急事態においては、両議院の議員任期を延長し、衆議院の解散を制限すべきである。また、衆議院解散後に、緊急事態の宣言がなされた場合、その解散はなかったものとみなすべきである。

小池 政就君(みんな)

  • 国家全体の緊急事態だけでなく、地域的な緊急事態もあり得る。その場合は地域的な対応が求められる。第 8章の審査の際に、平時における条例による上書き、上乗せ、横出しの議論もあったが、個人的には手続の迅速化、地域性を反映させるとの観点から憲法上の原則を変えることには慎重な意見を持っている。ただ、今回の大震災においては、被災地で建築基準法等が復旧復興の障害になったという現状があり、法律制定の際に緊急事態や地方の特色を考慮して柔軟に法律を制定することも考えられ、緊急時において地域と国の関係を改めるということも考えられるのではないか。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法を変えて緊急事態を宣言しなければ災害等に対処できないということではないと確信した。平素から憲法に基づく具体化をして、災害防止に努め、発生時の対処をしておくという不断の積み重ねこそ必要なのである。緊急の財政処分については、予備費の活用、補正予算により対応でき、緊急事態宣言をすべき根拠とはならない。逆に強大な権限を持った政府が人権制限に走りかねない。議会による民主的コントロールを重視してあれこれ条件をつけたとしても、総理に権限を集中し、人権制限をすること自体あってはならないというのが歴史の教訓だ。
  • 衆議院の解散後に緊急事態が発生した場合の対応について、選挙期日の延期は法律で可能であり、選挙までの間は参議院の緊急集会で対応すべきというのが憲法の規定である。自民党の憲法改正草案でも、解散後の議員の身分回復は認めず、何らかの方法で選挙を実施することとしており、憲法の欠陥ではない。

葉梨 康弘君(自民)

  • 東日本大震災からの復興が遅れたのは、政治、法律、憲法のどの問題か、よく精査して議論する必要があるが、個人的には政治の問題が大きかったのではないかと思う。仮に当時、憲法に緊急事態規定があり、任期延長により当時の政権が長期間復興を担っていたらと考えると、恐ろしい。緊急事態条項があった場合に、東日本大震災の復興の助けになったか、妨げにならないにしても特段の関係があるかどうかについては、よく精査すべきである。
  • 衆議院の解散後に緊急事態が生じた場合、参議院の緊急集会があるとはいえ、ねじれが常態化している現状では、国民の負託を受けた強力な政権が復興を担っていくべきだと考える。東日本大震災についても、半年後には被災地でも選挙が可能な状態になっていたのだから、解散・総選挙を行った上で国民の負託を受けた政権が担っていれば、復興もより加速したのではないかと考える。

山口 壯君(民主)

  • 震災復興については、実際に何が問題であったかを知った上で発言してもらいたい。当時は、超党派で問題点を把握しながら議論し、政府へ要望するなどした。被災地の自治体で職員が足りなくなり、全国から応援の職員が派遣されたが不案内な地での職務遂行であったこともあり、皆が歯がゆい思いをした。どのようにしたら官僚組織を機能させることができるか議論が必要だが、政権が交代していたら復興が進んでいただろうなどという発想に基づく発言は、責任ある議論とは言えない。

中谷 元君(自民)

  • 緊急事態下での私権制限は不要であるとの意見がある。しかし、国や地方が被害拡大の防止や人命救助の活動を行う際、がれき撤去、避難、物資の調達・供給などの場面においても統制は必要となる。このような状況下における権利義務の関係を法律で定めておかなければ、対応は遅れるばかりだ。危機管理上、いざという時に混乱の下で超法規的措置をとったり、曖昧な対応をするのではなく、平素からこのような場合における権限と義務を整理しておくことが必要だ。

辻元 清美君(民主)

  • 自民党が主張する人権制限の必要性については、根拠が稀薄ではないか。今回の震災に際し自衛隊を中心とした救援活動をしていくに当たって、活動を阻害するどのような具体的事例があったのか。今回の震災や原発事故では、被災者・地方自治体とも、公共の福祉に鑑みて、権利を主張するのではなく、お互いどうすれば助け合い復興できるかを考え対応していた。したがって、事例を具体的に示すことにより根拠を持って発言しないと説得力に欠ける。むしろ人権制限の部分が独り歩きしかねない。

中谷 元君(自民)

  • 人権制限が必要な具体的事例としては、がれき処理の際に車・家屋等の所有者が確認できず他の場所へ移動できなかった事例、家屋の立入り・立退きの際に許可を取る必要があることにより、人命救助に時間的ロスが生じた事例、避難指示に対し被災者が避難を拒否した場合の対応に苦慮した事例、憲法上の規定がないために、政府による強制的措置をとることができず、必要な地域に物資が調達できず、生活が不自由で生命にかかわるような状況となった事例等が挙げられる。

【国会と司法の関係をめぐる諸問題(裁判官弾劾裁判所及び裁判官訴追委員会等)そのほかについて】
◎自由討議

●委員からの発言の概要(発言順)

武正 公一君(民主)

  • 立法府と司法府の関係が議論になる背景としては、 2011年3月の最高裁の一票の較差に関する違憲状態判決、これに続く高裁による違憲、違憲状態、選挙無効判決において、法の下の平等を定める憲法 14条違反との指摘があったことが大きい。この場においても、司法の判断は真摯に受け止めるべきであると申し上げたところである。
  • 民主党は、憲法裁判所の設置を検討することを既に主張しており、司法府の違憲立法審査権の充実を求めている。
  • 立法府と司法府の相互作用については、米国では動的な相互作用を通じた達成が試みられているが、日本では静的・消極的な相互作用とされており、違憲判決の重さを重視するあまり、迅速に対応するか放置するかの極端な対応となっていることが課題である。
  • 訴追委員会の受理件数が多い中で、処理体制には工夫が必要である。米国の「動的な相互作用」が提起されているが、例えば、司法と立法の間の人事交流、訴追事案の検証体制の強化、訴追委員会と弾劾裁判所の連携が必要であると考える。

船田 元君(自民)

  • 裁判官の罷免手続について、検事役の訴追委員会、裁判官役の弾劾裁判所が国会に設けられているのは、理に適ったものと考える。
  • 国民からの罷免訴追請求件数が非常に多いが、その理由の 60%以上は、誤判、不当判決や訴訟手続違反である。これは、裁判の経過、結果についての不服、不満の捌け口となっていることが推察される。請求の権利を制限するという考えではないが、正しい罷免事由の理解について国民への PRが不足していると考える。
  • 弾劾裁判制度は、一審かつ終審である。裁判員として携わった経験から、もう一審あってもいいのではないかとも思う。弾劾裁判所の在り方については、工夫をする必要があると考える。

中谷 元君(自民)

  • 弾劾裁判について、これまでの事例からすると、いわゆる服務的な違反が多く、これらは、司法の内部の服務審査として処理すべきではないか。
  • 一票の較差についての最高裁の違憲判決に関し、司法判断が絶対的か疑問である。選挙制度は憲法上「法律で定める」と規定されている。地方自治、地勢、交通等の要素もあり、選挙制度については司法だけでなく、立法、行政、国民の判断も加えて判断するべきであり、憲法裁判所の設置が必要である。

鳩山 邦夫君(自民)

  • 現在、裁判官訴追委員会委員長を務めているため、発言は控えるべきだと思うが、定足数が足りず、訴追委員会を開会できないということがあった。国会議員も訴追の権能について意識を高めていくべきであるが、原因の一つは、訴追されて弾劾裁判が開かれるのが 4、5年に一度しかないということがある。国民から訴追請求される件数は多いので、定期的に開かなければならない。
  • 弾劾裁判所で罷免という判断しか下されないということも、弾劾制度が機能していない一因かとも思う。「罷免する」か「しない」かという二者択一の判断でいいのか、その中間の判断もできるという権能を国会が持っていいか、憲法上、議論の必要がある。

馬場 伸幸君(維新)

  • 憲法を改正するには国民投票が必要であるが、憲法改正国民投票法には「 3つの宿題」が残されている。このうち2つについては、決められた期限からすでに 3年が過ぎている。
  • 我が党は、憲法改正国民投票法の改正案をすでに国会に提出している。この改正案について、一刻も早く憲法審査会において議論を進めていただきたい。
  • 議員の定数問題についても司法から「国会の不作為」が指摘されている。憲法改正国民投票法の「 3つの宿題」についても、国会の不作為ではないかと考える。