平成25年11月28日(木)(第1回)

◎会議に付した案件

1.幹事の辞任及び補欠選任

補欠選任  齋藤  健君(自民) 岸  信夫君(自民)委員辞任につきその補欠

補欠選任  平井たくや君(自民) 葉梨 康弘君(自民)委員辞任につきその補欠

補欠選任  北側 一雄君(公明) 斉藤 鉄夫君(公明)幹事辞任につきその補欠

2.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件

  1. 「衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団」の調査の概要について、保利会長及び武正会長代理から説明を聴取した後、調査に参加した委員から意見を聴取した。
  2. 自由討議を行った。

◎「衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団」の調査の概要

一 派遣議員団の構成

団長  保利 耕輔君(自民)

副団長 武正 公一君(民主)

    船田 元君(自民)、中谷 元君(自民)、伊東 信久君(維新)、

    斉藤 鉄夫君(公明)、畠中 光成君(みんな)、笠井 亮君(共産)、

    鈴木 克昌君(生活)

二 期間

平成25年9月12日から9月22日(日)まで11日間

三 派遣目的

欧州各国の憲法及び国民投票制度に関する実情調査

四 訪問先

ドイツ連邦共和国 連邦憲法裁判所、連邦議会議員会館、連邦参議院、学識経験者、連邦議会、元連邦議会議員、ベルリン州財務省

チェコ共和国 上院、下院、カレル大学

イタリア共和国 上院、内務省、下院、憲法裁判所、破毀院、カーラヴィータ教授事務所

五 調査の概要(1は保利団長報告から、2〜5は武正副団長報告から)

  1. 総論
    • ドイツではカールスルーエとベルリン、チェコではプラハ、イタリアではローマを訪れ、憲法裁判所における違憲立法審査権行使の実態、二院制における両院の関係や役割分担、国民投票制度と間接民主制の関係などについて調査を行った。
    • その政治的立場・評価は別として、欧州各国における憲法や国民投票制度の実情について、派遣議員間で共通の認識を持つことができたのではないか。この共通認識を委員とも共有しながら、今後の本審査会における憲法論議をより充実したものとしたい。
  2. ドイツ連邦共和国における調査の概要
    • ドイツの憲法裁判所は、立法権を尊重しつつ、基本的な権利を侵害するような法律に待ったをかける役割があるとの説明があった。
    • 国民から選ばれた立法府の判断を国民から選ばれていない裁判官から構成される憲法裁判所が否定することの是非、いわゆる「憲法裁判所の民主的正統性」については、@裁判官は議会によって選出されること、Aナチス時代の経験により、憲法裁判所の権限を基本法に明文化したことから、ドイツでは問題とされたことはないとの説明があった。
    • 一票の較差の問題については、憲法裁判所は連邦選挙法の合憲性をしっかりチェックしている、また、小選挙区比例代表併用制の下で政党の得票の増大がかえってその政党の議席の減少をもたらす、いわゆる「負の投票価値」の問題について、違憲判決が 2回出されたことを受けて連邦選挙法が改正された、との説明があった。なお、ドイツでは一票の較差として許容されるのは、プラス・マイナス 15%程度とのことである。
    • ドイツの憲法(基本法)は、ナチス時代の反省を踏まえて制定されたもので、広く国民から支持され、愛されていることが印象に残った。
    • ドイツでは戦後、憲法改正が 59回行われているが、技術的な改正も多く、再軍備や緊急事態条項の創設に係る改正などを除けば、国論を二分するような議論となることはなかったとされる。
    • 憲法改正手続については、両院の「 3分の 2」以上の賛成という要件は、歴史の教訓とともに、憲法の安定性を保障するために必要な要件と認識されており、この要件を下げようとする動きはない。高いハードルを課すことで、各政党が妥協により国の基本的方向性について慎重に議論していくことを要求している。一方、改正に高いハードルを設けることは賛成だが、憲法であっても改正の可能性は残しておくべきで、改正できないほど高いハードルを課すことはかえって政治を不安定にする面もあるのではないかとの意見も伺った。
    • ドイツでは、有能な政治家ほど反対派と適切な妥協ができると理解されている。両院協議会での成案成立率が高いのも、「妥協しないと国益にそぐわない」という認識が共有されているからである。両院協議会の議事は非公開で、採決が秘密投票であることも、妥協に向かいやすい一因かもしれないとの説明があった。
    • ドイツでは、ナチス時代のポピュリズムに対する反省から、国民投票は危険視されており、憲法改正にも国民投票は不要である。しかし、近年は、国民投票を導入すべきとの意見も強くなってきた。特に EUに関わる重要問題は、一度決定されると加盟国がそれを変更することが難しいため、あらかじめ国民投票で国民の意見を聞く必要が高いのではないかとの意見も伺った。
  3. チェコ共和国における調査の概要
    • チェコでは、「憲法」、「自由及び基本権憲章」、複数の「憲法的法律」が憲法秩序を構成している。これがチェコ憲法の特徴である。
    • 2012年の憲法改正により大統領の直接公選制が導入された。改正内容は大統領の権限を拡大するものではなかったが、実際には、大統領の個性にもよるが、大統領の政治性が増すことで首相との関係が微妙になるなどの影響も出ているとの説明があった。
    • 下院議員の任期短縮のための憲法的法律に対して憲法裁判所が違憲判決を出したため、憲法改正によって「下院の自発的解散」の制度が設けられるなど、憲法裁判所と政治部門のやりとりを通じた憲法政治が、実際に行われている。こうした違憲判決には、国民の多くも関心を持っているとの印象を受けた。
    • 憲法裁判所の裁判官は、大統領が任命し、上院が同意することとなっているが、上院が同意しなかった例もある。
    • 憲法改正手続における両院の議決要件については、現行憲法制定時に大きな議論があった。当時の政府側は「過半数」を、野党は「 5分の 3」を主張したが、安定性を重視するという意識から、結局「 5分の 3」となった。現在この要件を緩和しようという議論はなく、むしろ厳しくすべきとの意見もある。なお、憲法改正の際に国民投票を必要とするかについては、議論はあったが、現在でも要件とはされていないとの説明を受けた。
    • チェコには一般的な国民投票制度はなく、 2003年に EU加盟の是非を問う国民投票が特別に行われただけだが、地方レベルでの住民投票は行われている。
    • その他、上下両院の関係、緊急事態、憲法の制定経緯などについて説明を受けた。
  4. イタリア共和国における調査の概要
    • イタリアでは、本年前半の首相、大統領選任をめぐり政治が大混乱に陥った経験を踏まえ、現在、統治機構に関する全般的な改革が議論されている。改革の具体的な内容は、首相の諮問的機関である賢人会議が提出した報告書を基に、今後、上下両院で議論されるとの説明があった。
    • この報告書の概要は、次の(1)〜(6)のとおりである。
      (1)上下両院が完全に対等な二院制を見直し、不信任決議や立法権を一院に優先的に配分すること。
      (2)憲法と一般法律の間に「組織的法律」という中間的分野を設けること、政府法案に一定期間内の議決を義務付けるなど迅速な意思決定を行うこと、他方、政府による緊急政令の制度は廃止し、議会の意思を尊重すること。
      (3)州の立法権の一部を国の権限に戻すこと、多層的な地方団体を簡素化し、「県」を廃止すること。
      (4)政府の形態については、@大統領の直接選挙、A建設的不信任制度、B首相の直接選挙の 3案が検討されている。
      (5)選挙制度については、政府の形態との関連で、@小選挙区 2回投票制、A完全比例代表制+足切り条項、B 1回目は比例制、 2回目は 1位と 2位の政党の決選投票でプレミア票を与える仕組みなどが検討されている。
      (6)国民の直接的な政治参加を促すために憲法改正における国民投票制度を強化すること。
    • @「法律廃止型の国民投票」には、最低投票率制度がある一方、A「憲法改正国民投票」には同制度がない理由は、@では、国民の代表からなる議会が既に制定した法律を、ごく少数の国民の意見で廃止するのは適当ではないこと、これに対してAの場合は、憲法改正案は議会を通過しているがまだ効力はなく、国民に改正の是非を問うているので、たとえ投票率が低くても、投票者の意見は尊重すべきとの考え方である。
    • 国民投票運動は、公務員も含めて基本的に自由であり、制限はないとの説明があった。
    • 憲法裁判所は、世論の動向にも配慮しつつ、適切な憲法判断に努めているとのことだった。
    • 今般検討されている二院制改革等のための憲法改正の手続については、@現行憲法では、上下両院で、 3か月以上の熟慮期間をあけた 2回の議決が必要だが、この熟慮期間を 45日に短縮すること、A一方、現行憲法では国民投票が不要とされている、両院とも 3分の 2以上で最終的に可決された場合にも、要求があれば国民投票を行うことについて、現在国会で議論が進められているとの説明があった。
  5. まとめ
    • チェコ上院での懇談において、「日本の憲法が 1947年の施行から全く改正されずに現在に至ったことは、非常にうらやましい。仮に憲法改正に至ることがあっても、その後はこれまでと同様に長期間改正されないで済むようになることをお祈りする。」との感想が述べられた。発言の背景にチェコや東欧が歩んできた戦後の激動の歴史が感じられ、大変印象に残った。
    • ドイツでは、戦後 60年以上たった今でも、市内の公共交通機関が第二次大戦中どのようにナチス政権に関わったのか、といった検証を頻繁に行っているとの話を伺った。さらに、人権規定を最初に置く基本法の構成、連邦憲法裁判所に代表される統治機構やドイツ人の基本法に対する「愛着心」などの点が、歴史への反省との関係で語られた。我々が憲法論議を進める上でも、歴史の検証は欠くべからざるものである。

◎調査に参加した委員の発言の概要(発言順)

船田 元君(自民)

  • ドイツでは、連邦憲法裁判所の存在が非常に大きいと痛感した。憲法秩序を守る役割を十分に果たし、戦う民主主義の象徴的存在であることが分かった。特に、国民からの信頼が高いこと、立法府の暴走を防ぐ一方で過剰な政治的干渉をしないための知恵を持っていることが印象的だった。
  • ドイツは、ナチスの台頭への教訓が色濃く残っており、それを再検証しているというのが印象深い。ポピュリズムに走らないために憲法改正に国民投票を要件としていないことや、次の総理候補を決めた上で内閣不信任案を提出するという建設的不信任制度も、ワイマール憲法の誤りを正すものである。また、憲法の改正限界を明確化しており、連邦制、人間の尊厳、民主制度は、永久禁止条項として改正できないようにしていることも特徴的である。
  • 当初、ドイツという国は原則論的で堅いという印象を持っていたが、妥協の政治の重要性が強調されていて、その印象が変わった。
  • チェコについても、 1989年のビロード革命、 1993年のスロバキアとの分離等で国政上の仕組みが未成熟ではないかという印象を持っていたが、予想に反し、欧州的な政治の安定を兼ね備えている国という印象に変わった。
  • チェコの憲法改正要件について、国民投票がないところはドイツと似ている。改正要件を緩和しようという議論はなく、むしろ厳しくすべきという意見が多いという点は傾聴に値する。
  • イタリアの政治の混乱は、対等な権限を持つ二院制が根本にあるとのことである。現在、憲法改正によって、この対等な二院制を解消すべく政治が動いている状況を肌で感じることができた。
  • イタリアでは、法律を廃止するのに最低投票率を 50%とする国民投票が必要とされている。大変ユニークな制度で、憲法改正は国会中心、法律の廃止は国民投票が中心という仕分けは興味深い。
  • 欧州の EU加盟について、これまでは EUに各国主権を移譲する流れであったが、特にイタリアでは、その動きが止まっているとのことだ。この背景には、 EUは国を超えた存在ではなく、国家が集まった連邦であるというように考え方の変化が起きているのではないか。

中谷 元君(自民)

  • 憲法裁判所は、司法機関であると同時に議会が制定した法律の有効性を否定するような判断をすることもあり、政治的な機関でもあるため、その民主的正統性を根拠付ける仕組みとして裁判官の任命方法に工夫がみられる。訪問した 3か国においては、いずれも、憲法裁判所裁判官の選出に議会の一定の関与を認めている。ドイツでは連邦議会と連邦参議院が半数ずつ選出するものとし、チェコでは上院の同意を得て大統領が任命するものとし、イタリアでは大統領、議会の合同会議、最高司法機関が 3分の 1ずつ選任するものとしている。
  • 我が国の最高裁判所は、純粋な司法機関であって政治から独立した機関なのだから、例えば、選挙制度の在り方といった、議会の政治判断への積極的な介入となる案件における合憲性審査の在り方については、ドイツ等の憲法裁判所とは異なる面があって然るべきである。
  • 各国の憲法裁判所の機能・役割からすると、三権分立から独立した機関が違憲審査を行う場合、問題の政治的事情や現実的背景も考慮した上で、議会の政治判断に積極的に介入すべきである。その際には、裁判官の任命方法等をこれに対応した形にする必要がある。
  • 今回の海外調査では、少数派の人権救済等を図るためにも、抽象的違憲審査権が付与された憲法裁判所制度を我が国にも導入すべきであると強く感じた。
  • 枢軸国・敗戦国として我が国と同じ歴史を持つドイツ、イタリアの憲法には、我が国と同様に平和主義が盛り込まれている。ドイツでは、戦前に、ヨーロッパ諸国を支配する過程で司法がこれを防止する機能を果たせなかったという歴史の教訓を生かし、「戦う民主主義」の理念をもって、自由で民主的な秩序に対する危険を排除していることに感銘を受けた。イタリアにおいても 1条 1項で「民主的」共和国であること、 11条で条件付きながら戦争の否認を宣言している。我が国の憲法にも平和主義が謳われており、これは永久不滅のものとして、今後とも尊重されなければならない。

伊東 信久君(維新)

  • ドイツのカールスルーエでは連邦憲法裁判所を訪問し、基本法改正のプロセスや連邦憲法裁判所における最近の動向、議会との関係等の説明を受けた。訪問団からは、一票の較差問題、連邦憲法裁判所の裁判官の資格や選出プロセス等について質問をした。
  • チェコでは、憲法改正における議会内の合意形成プロセスやそれに伴う効果、 2012年の大統領直接公選制の導入等について説明を受けた。私からは、下院の自発的解散を認めた 2009年の憲法改正について質問をした。
  • ドイツ連邦憲法裁判所の中立性確保について、裁判官はどの党、どの州から選ばれたとしても中立でなければならず、今まで問題になったことはないとのことだった。また、改正手続を厳格にするよりも、現実的に改正できる可能性が残されていなければならないとの発言もあった。
  • イタリアでは、国民投票の設問の審査における破毀院の存在意義等について質問した。また、連邦制の評価、ヨーロッパにおける連邦主義についての認識等に関する説明を受けた。
  • 各国とも憲法は国の基本法であり、国を構成する民族の歴史の積み重ねの結束であると強く感じた。ドイツ基本法に通底する理念は、まさに「基本的人権の尊重」であり、それが民族の存続に通じるものなのであろう。
  • 一方で、そのような憲法でも、各国において、社会情勢の変化や国民意識の変化に伴い、必要に応じて改正していくことに勇気と合意をもって臨んでいる姿に接することができた。国、地域を問わず、関係者が長年にわたり合意形成プロセスに労力を費やしてきたということも学べた。
  • 憲法は重要な法典であるが、それ以前に、憲法そのものが国民にとって行動規範の礎であることを感じた。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • とりわけ私の関心事項であった憲法改正手続に焦点を当てて報告する。ドイツでは、基本法改正には連邦議会及び連邦参議院の各々の 3分の 2以上の賛成が必要だが、国民投票は要件ではない。しかし、連邦制、人間の尊厳規定、民主国家・社会国家という国家の基本秩序については改正できないと明記されていることが、基本法の大きな特徴ではないかと感じた。
  • ドイツの連邦憲法裁判所を訪問した際、現在は基本法改正手続として国民投票は要件とされていないが、これが必要との議論はあるのかと質問した。先方からは、「国民投票を導入すべきとの議論は活発だが、連邦レベルにおいては結論が出ていない。連邦憲法裁判所はこの点に関する議論には関与しない」との回答があった。
  • 連邦憲法裁判所の民主的正統性に関する議論の中で印象的だったのは、民主的基盤を有する議会が制定した法律を憲法裁判所が無効と判断できることについて、ナチス政権下の議会で基本権を侵害する法律の制定を阻止できなかったという反省を踏まえて、連邦憲法裁判所の独立性を重要視しており、一般市民の基本権を侵害する可能性のある法律に待ったをかけられる制度を構築していることだった。
  • 国民からの訴え無くして立法や行政の行為に対して憲法違反の判決を出せるのかとの質問に対しては、「連邦憲法裁判所は監視機関ではないからそういうことはしない」との明快な回答があったことが印象的だった。
  • チェコにおいては、憲法改正はこれまでに 8回行われているが、その要件は、下院は「総議員」の 5分の 3以上、上院では「出席議員」の 5分の 3以上の賛成である。この違いの趣旨は、わからないようだ。
  • チェコの憲法は複雑で、「憲法」のほかに「憲法的法律」があり、憲法改正は「憲法的法律」で規定されているということも印象的だった。
  • チェコにおいては、公務員に関する投票運動の規制について、公立学校の教員が、授業において「今度の投票では先生は賛成だからお父さんお母さんにもそう伝えて」と発言するといったことは、教育に関する法律で禁止されているということが印象的だった。

畠中 光成君(みんな)

  • ドイツ連邦憲法裁判所では、一票の較差について意見交換を行ったが、日本では、 2倍程度の較差でも立法府はなかなか動かないのに対し、ドイツでは、 15%程度の較差でも違憲判決が出されるとの話が印象に残っている。
  • 59回も基本法改正を行っているドイツと、一度も憲法を改正をしていない日本を比べると、ドイツの場合はナチス時代の反省、日本の場合はポツダム宣言の受諾という歴史的な背景が両国の憲法の在り方に影響を与えていると感じた。
  • ドイツでは、基本的人権、自由、民主主義は永久に変えられないという、基本法に対する国民の信頼があるとの話があり、チェコでも同様の説明があった。また、チェコ憲法には、道徳的な概念は見られず、ユニバーサルな内容であることも印象的であった。
  • 我が党は、本格的な国民投票制度導入の法制化について、現在党内で詰めの議論をしている。最大のポイントは、国民投票法附則の 3つ目の宿題である国民投票の対象拡大についてである。我が党は、国政上重要な問題についても国民投票を可能とし、原発問題、生命倫理といった国の根幹に関わる課題について、国民に諮問した上で国会で議論するという制度を検討している。
  • 今回調査を行った国では、イタリアが国民投票制度を有しており、最近では原発の是非を問う国民投票が行われた。イタリアで導入されている最低投票率要件は、投票の棄権の呼びかけが行われるなどの観点から、我が党の案には導入していない。また、イタリアでは国民投票の乱発により、国民の投票への関心が薄れているとの指摘もあったが、我が党の案は、国民投票の発議要件を憲法改正案の発議要件と同じとし、国民投票が乱発されないようにしている。

笠井 亮君(共産)

  • 今回の海外派遣調査において、注目に値する点を 5点挙げる。 1点目は、訪問国の憲法は苦い歴史の教訓を反映しているという点である。例えば、ドイツではナチス時代の教訓から、基本法の最初に人権を謳っており、連邦憲法裁判所は基本権を侵害するような法律に待ったをかける機関であると強調していた。歴史の教訓が、人権保障にこそ憲法の本質があることを導いた、と感じた。日本国憲法でも侵略戦争・植民地支配の反省から 9条や前文、 30か条にわたる人権規定等を制定した。侵略戦争の定義が定まっていないというような意見が挙がることは、時代と逆行していると言わざるを得ない。
  • 2点目は、どの訪問国も改正経験があるが、いずれも技術的・小幅なもので、憲法の基本原則を変えるような改正は行っていないという点である。ドイツでは、基本法が 59回も改正されていると言われるが、 EU加盟や東西統合に伴う事項がほとんどで、国を二分する改正は 1950、 60年代のものである。
  • 3点目は、憲法改正手続要件を根本から緩和する議論は行っていなかったという点である。ドイツでは、「 3分の 2」にこだわるのは歴史的理由からであり、改正要件は、すでにどの党においても議論の余地のないコンセンサスとなっており、基本法改正が政治的駆け引きのツールとならないようにしているとのことである。日本では、憲法改正要件を 3分の 2から引き下げようとする主張もあるが、これは欧州の議論からもかけ離れているといえる。
  • 4点目は、 18歳選挙権が世界の趨勢になっていることだ。しかし、日本では 18歳選挙権の話は先送りにされており、国民投票の投票権年齢ですら当面 20歳にしようとする動きもある。これは、世界の趨勢と逆行するものであり、憲法調査特別委員会での議論をないがしろにするものである。
  • 5点目は、福島の原子力発電所事故が訪問国の原発問題にも多大な影響を与えていたという点である。例えば、イタリアでは 2011年に行われた原子力発電所廃止の国民投票(賛成が 94.1%)にも影響を与えたとのことである。日本は、汚染水処理もできないのに、原子力発電所の再稼働・輸出へ走る動きは異様である。
  • ファシズムの時代を体験した当事国を訪れるものだったが、いずれの国も過去の歴史を反省し、今日でも検証を続けている。ドイツでの、我が国の憲法改正論議について「歴史を顧みてもらいたい」との発言は重く受け止めたい。

鈴木 克昌君(生活)

  • 訪問国では、いずれも、憲法改正について、通常の法律改正と比べて、その手続が加重されて然るべきとの認識が共有されていた。チェコなどは、憲法制定時に、憲法改正要件について政府・与党が主張する「過半数」ではなく、野党側が主張する「 5分の 3」を採用したとのことである。また、ドイツでは、議決要件が「 3分の 2」であることによって、「憲法改正が日常の政治的駆け引きのツールとならないことを担保している」との発言もあった。これらはいずれも、その時々の政権が容易に憲法を改正できるようなシステムは好ましくないものとして、憲法の「安定性」を求める思想であり、我が国に対しても当てはまるものであると感じた。憲法改正手続の緩和は、憲法の基本理念を否定するような安易な改正につながり、最高法規としての安定性をも失わせてしまうという我が党の問題意識について、改めて確信を抱いた。
  • 国と地方の関係に関する議論も印象的だった。ドイツでは、 2006年の連邦制改革は、財政運営の改革まで及んでおらず、連邦が政策の定義や基準を定め、州がそれを施行していくという関係は、財政的な観点からも見直していかなければならない旨の説明があった。
  • 地方分権改革に関して、イタリアでは、国と州との間での権限争いが多いことや南北の経済格差が大きいことなどが問題とされており、分権改革の揺り戻しが生じているとのことである。地方の独立性や自立性を保障する一方で、国家全体の統一を侵害しないようなバランスを探っていかなければならないとの説明があった。我が党は、地方自治体が自らの判断と責任において、必要とされる施策を策定・執行できるよう憲法改正を主張しているが、我が国の地方分権改革の在り方にも大きな示唆を与えるものであると感じた。

◎自由討議

長妻 昭君(民主)

  • 昨今の憲法をめぐる議論で、日本国憲法は、制定以来一度も改正されていない憲法だから良くないと言わんばかりの議論に違和感がある。今日まで改正されてこなかったのは、時代の変化に耐えうる良い憲法であったからであるという認識も持つべきである。
  • 憲法改正の議論の前提として、先の大戦についての総括が必要である。過去に政府は村山談話において、国策を誤ったと正式に認めたわけであるが、具体的にどの国策を誤ったのかという検証は、政府としてこれまでなされていない。ドイツでは、西ドイツ時代に政府によって総括がなされており、我が国においても、明治憲法のどこに問題があったのか検証するなど、歴史の教訓を学ぶ視点が必要である。

坂本 祐之輔君(維新)

  • 今回の海外調査においては、@各国では、時代の変化に合わせて憲法を改正してきていること、A憲法改正は、小異を捨てて大同につくという政治的「妥協」の成果であることを知見として得たのではないか。
  • ドイツ基本法はワイマール時代からの歴史を背負っているが、我が国の憲法もまた、制定経緯に問題があった事実を無視して議論することはできない。
  • 2000年に憲法調査会が設置されて以降、憲法論議は相当の蓄積がされており、憲法審査会においても条章ごとの検証を一巡させたところだ。今後は、この成果を踏まえて憲法の中身の議論を進め、具体的な改正の要否を議論する段階に入るべきだ。
  • そのためにも、国民投票法の「 3つの宿題」のうち、いわば違法状態にある@選挙権年齢等の 18歳への引下げ、A公務員の政治的行為に係る法整備について、解決を急ぐ必要がある。同法は、本来ならば憲法施行直後に整備されているべきものだから、未だに不完全であるという状況を放置することは許されない。
  • 憲法改正という大目標の下、小異にこだわらず、妥協すべきは妥協して、我が党が提出した国民投票法改正案を基に早急に「宿題」を解決し、具体的な憲法改正論議という次のステップに進むべきである。

小池 政就君(みんな)

  • 今回の訪問国においては、憲法解釈の在り方について議論はあるのか。
  • 訪問国の憲法裁判所は、定められた解釈に基づく違憲審査だけではなく、憲法解釈に関わる裁判も扱っているが、政治とは独立した機関として、時の政権の意向が反映されにくい仕組みになっているのか。

中谷 元君(自民)

  • 小池委員の質問に回答したい。ドイツでは、憲法の解釈は立法府や連邦政府が勝手に決めてはいけないという認識のもと、連邦憲法裁判所が判断しているという説明を受けた。また、例えばユーロの救済など、 EU統合の深化に伴う政策についても、連邦政府が一存で決めることはできず、一定部分以上のことについては連邦憲法裁判所の判断を仰がねばならないとのことであった。
  • 訪問国では、時代に合わせて頻繁に改正が行われている。ドイツでは再軍備や緊急事態条項のような国防の根幹に関わる事項を、大きな議論の末に改正した。チェコでは、下院の解散や大統領の直接公選制の導入など、統治機構の核心に関わるような改正がなされている。イタリアでは現在、二院制のあり方等、国の根幹が憲法改正のテーマになっている。
  • イタリアでは、訪問時から問題となっていたベルルスコーニ元首相の議員資格剥奪が決定されたようである。これは 2004年に、贈収賄の罪に問われているベルルスコーニ首相を免訴する裁判凍結法を憲法裁判所が違憲としたことが発端となっている。
  • 我が国では、いまだに軍隊の保持や自衛権の行使、緊急事態条項等が憲法上明記されていない。憲法を曖昧に運用するのではなく、国民議論を経てしっかりとした改正が行われるべきである。

西野 弘一君(維新)

  • 明治憲法と先の大戦との関係を議論すべきとの意見もあったが、その議論の前に、現行憲法は明治憲法 73条の改正規定に基づいて制定されたことを認識する必要がある。
  • 派遣報告を聞いて、各訪問国においては、憲法を国民の議論に委ね、改正を繰り返すことによって、憲法に対する愛着心が生じているとの印象を受けた。我が国も、憲法を国民の議論に委ね、憲法に愛着を持ってもらえるようにしていくべきだ。我が党が国会に提出している国民投票法改正案の審議を早急に進めてほしい。

大塚 拓君(自民)

  • ドイツでは、ポピュリズムのリスクを踏まえて、憲法を制定しているということが印象に残った。これは、時勢に流されず、幅広い民意を集約しつつも専門家の見地を踏まえた判断ができる間接民主主義の良さを捉えたものだと思う。国民投票は有用だとよく言われるが、ポピュリズムのリスクも忘れてはならない。
  • 訪問国の憲法改正要件について報告があったが、改正要件と発議要件を混同してはならない。ドイツの 3分の 2、チェコの 5分の 3という数字は議員の投票による改正要件の数字である。一方、我が党が過半数に緩和すべきと主張しているのは、それとは異なり、あくまで発議要件である。日本の憲法改正手続では、議会の賛成を得た後に、国民投票での承認という高いハードルがある。
  • 諸外国においては、戦後 70年を経て、憲法に関する根幹的な議論が積み重ねられてきている。特に、欧州では、各国憲法より上位の概念としての EUの存在が議論に影響を与えている面もあると思う。日本でも、これまでの議論の蓄積を踏まえ、憲法改正に向けて具体的な手順に入る時期にきている。

伊東 信久君(維新)

  • ドイツの連邦憲法裁判所について補足する。裁判官の選出資格は、 40歳以上で、法曹の国家試験に合格していることが条件である。 16名の裁判官には大学教授などの有識者も入っている。選出のタイミングは、 12年の任期が終了したとき、又は定年を迎えたときなど、前任者が辞めたときに順次選任している。
  • 連邦憲法裁判所裁判官の中立性に関しては、裁判官を選任した政党を驚かせるような判決も出ているとのことであり、ドイツで、裁判官の中立性が問題となったことはないとのことだった。
  • 訪問国の議員から、日本の憲法はこれまで変わっていないからうらやましい、との発言もあったが、これは一人の意見であり、その他の議員や有識者からは、憲法を変えられないのは問題であり、変えられるような手続をもって議論することが大切であるとの発言もあった。

畠中 光成君(みんな)

  • イタリアでは、選挙運動や国民投票運動において、メディアやインターネットに対する規制はなく、全くの自由であるとのことだった。また、ベルルスコーニ元首相がテレビ局を保有しているが、特定の政党や政策に偏った報道がなされることについても規制は全くないとのことであり、この点は我が国のメディア文化とはかなり異なるとの印象を受けた。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法改正手続に関する議論があったが、今回の訪問国ではいずれも、憲法改正の要件を根本から緩和すべきとの議論はないとのことだった。各国間で憲法改正の回数に差はあったものの、改正内容は、技術的で小幅なものが圧倒的だった。
  • 憲法をどうするかはその国の国民が決めることであって、日本国憲法について言えば、多くの国民が 9条をはじめとする内容に愛着心を持っているからこそ改正せずにきたのであって、国民の間に定着していると思う。
  • 今回の訪問を通じて、改憲の必要はないとますます確信した。

中谷 元君(自民)

  • ドイツでは、人間の尊厳、民主主義、法治国家、連邦制などの国の根幹は改正できないという、永久禁止条項がある。ドイツは、戦う民主主義という理念を持っており、永久禁止条項により国の根幹が覆される危険を排除している。また、永久禁止条項を守る義務を国民に課している。
  • ドイツにおいて、表現の自由、結社の自由を自由主義・民主主義に敵対するために濫用した場合は、これらの基本権を喪失する旨の規定がある。人間の尊厳は絶対に制限できないが、表現の自由は立法で制限可能とのことだった。例えば、政治活動において「ナチス」という言葉を使うことは法律で禁止され、違反に対する罰則もある。また、ワイマール憲法や大ドイツ主義に戻そうという政党や動きは全くないそうだ。

長妻 昭君(民主)

  • 中谷委員から、ドイツの永久禁止条項を評価する発言があったが、自民党の憲法改正草案では、最高法規の章で基本的人権について定める 97条が削除されており、矛盾するのではないか。

中谷 元君(自民)

  • 自民党憲法改正草案では、現行憲法 97条は、他の条項と内容が重複しているため 1つの条項にまとめただけであり、自民党憲法改正草案においても、基本的人権に関する規定は生きている。