平成26年10月16日(木)(第1回)

◎会議に付した案件

1.幹事の辞任及び補欠選任

補欠選任  根本  匠君(自民) 齋藤  健君(自民)委員辞任につきその補欠

補欠選任  古屋 圭司君(自民) 伊藤 達也君(自民)委員辞任につきその補欠

補欠選任  保岡 興治君(自民) 平沢 勝栄君(自民)委員辞任につきその補欠

2.委員派遣承認申請に関する件

委員派遣(地方公聴会)承認申請に関する件について、協議決定した。

(派遣地)岩手県

(派遣日)平成26年11月17日(月)

3.日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件

  1. 「衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団」の調査の概要について、保利会長及び武正会長代理から説明を聴取した後、調査に参加した委員から意見を聴取した。
  2. 自由討議を行った。

◎「衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団」の調査の概要

一 派遣議員団の構成

団長  保利 耕輔君(自民)

副団長 武正 公一君(民主)

    船田 元君(自民)、中谷 元君(自民)、馬場 伸幸君(維新)、 斉藤 鉄夫君(公明)、笠井 亮君(共産)

二 期間

平成26年7月16日(水)から7月26日(日)まで11日間

三 派遣目的

欧州各国の憲法及び国民投票制度に関する実情調査

四 訪問先

ギリシャ共和国 行政改革省、日本国大使館(学識経験者)、共和国議会、最高行政裁判所、教育・宗務省

ポルトガル共和国 ジョゼ・ゴメス・フェレイラ高等学校、共和国議会、大統領府、憲法裁判所、法務省、メデイロス教授事務所

スペイン 首相府政治・憲法研究センター、下院、憲法裁判所

五 調査の概要(1は保利団長報告から、2〜5は武正副団長報告から)

  1. 総論
    • ギリシャではアテネ、ポルトガルではリスボン、スペインではマドリードを訪れ、@過去の憲法改正の内容と経緯、A憲法裁判所等における違憲立法審査権行使の実態、B財政規律条項や環境権条項を憲法に規定することの意義、C国民投票制度と間接民主制の関係など、各国の憲法や国民投票制度について調査を行った。
    • 政治的立場、評価は別として、欧州各国における憲法や国民投票制度の実情について、派遣議員の間で共通の認識を持てたのではないか。この共通認識を委員各位とも共有しながら、今後の審査会における憲法論議がより充実したものとなることを願う。
  2. ギリシャ共和国における調査の概要
    • 憲法改正については、総選挙を間にはさんで、2つの会期にわたる手続が必要とされ、さらに1度改正されると5年間は改正できないこととされているが、これは憲法改正が非常に重いものであることを表しているとの説明があった。
    • 今後の憲法改正の見通しについて、@経済危機が非常に厳しいことなど、改正に関する合意が簡単に形成されるような政治状況ではないとの認識が示された一方、Aこの状況で改正の議論を重ねることは、異なる意見を持つ政党間で「協力」が生まれることも期待されるとのことであった。もっとも、B改正について基本的合意が得られず、前回2008年改正のように本質的ではない小さな変更をするだけでは意味がないと考えているとの指摘もあった。
    • ギリシャ憲法の解釈規定を変更する際にも、それ以外の憲法の条文改正と同じ難しい手続が当然に必要となることから、憲法改正の手続を経ることなく、憲法解釈だけを変えることで憲法を本質的に変えることは難しいとの説明があった。
    • 財政規律条項については、2013年のEUの財政協定を受けて、憲法レベルではないが、国内法の整備は進んでいるとの説明があった。その上で、財政規律条項を憲法に導入することは、あまりにも国家主権を縛りすぎるものであり、適当でないとの意見も述べられた。
    • 環境問題は、開発と環境保護のバランスなど、非常に繊細なものを含んでおり、環境権条項については、特に国民の賛成をしっかり得ることが必要と考えているとの意見を伺った。
    • 緊急事態条項は、大規模な災害が起き、国会で法案審議を行う時間がない場合に備えたものであるが、欧州の債務危機が発生して以降、ここ4、5年は、本来の「緊急事態」ではないにもかかわらず、「時間がないから」という理由で緊急事態条項が何十回も使われており、民主主義の観点から問題であると考えているとの話を伺った。
    • 欧州には「欧州裁判所」と「欧州人権裁判所」の2つの裁判所が実質的にEU単位での「憲法判断をする裁判所」として機能しているので、国内に憲法裁判所を作ったとしてもあまり大きな影響を持たないと思われるとの意見も伺った。
    • 国民投票については、現行憲法になってから40年間実施されたことはないが、その理由の1つに、国民投票は、イエスかノーかという簡略化した問いでなければならないため、物事の本質を問うという意味では非常に使いにくいためではないか、との意見を伺った。
    • 歴史教育・憲法教育については、歴史教育と憲法教育は密接に関わっており、憲法を教える際には、なぜこのような憲法が作られたのかを教えることが、憲法を理解するために不可欠であることなどの説明を受けた。
  3. ポルトガル共和国における調査の概要
    • 憲法改正手続については、@ポルトガル憲法は、原則として直近の改正から5年を経過しないと改正できないこととされているが、特に見直しが必要な場合、議会の5分の4の賛成があれば、5年未満でも例外的に改正ができる仕組みとなっている、A憲法は安定したものである必要があり、この5分の4は重要な役割を果たしている、B憲法改正そのものには議会の3分の2の賛成が必要とされており、憲法改正をするためには与野党が協議して最終的な結論に至る必要があることなどの説明を伺った。
    • 財政規律条項については、憲法に規定すべきだという意見が強い一方、規定した場合、何か突発的な問題が起こり、それを守ることができなくなった場合にはどうするのかという問題もある。一般的に、細かいことまで憲法に規定した場合、それを実行できなくなったときにどうするのかという問題もあるので慎重に考える必要があるとの意見を伺った。
    • 環境権条項については、@憲法は国民を団結させるものでなければならず、環境問題もそのような「国家の理念」の一つということであれば、憲法に規定することは有意義であるとの意見を伺った。また、A66条の環境権条項だけでは絵に描いた餅であり、民衆訴訟を認める52条が追加されてはじめて実効性のあるものとなったとの説明の後、B「環境」に関する規定を憲法に設ける際の留意点としては、権利という形ではなく、むしろ、義務・責務という形にすべきとの意見を伺った。
    • ポルトガルでは司法権が行政権、立法権との関係で強すぎないかという点については、憲法では分権システムが採用されており、全体の調和がとれて市民の権利が守られること、法廷での結論が政府の考え方に反することもあるが、それこそが重要であり、司法は政治によって左右されることがあってはならないとの話を伺った。
    • 憲法裁判所の裁判官の政治的中立性については、@裁判官13名のうち10名は国会が任命するが、任命には国会の3分の2の賛成が必要であり、与党が自由に任命を行うことはないこと、また、A裁判官は政治に関わることは禁止されており、政治色を持ち込むこともしないとの話を伺った。
    • 国民投票については、@国民の意見は基本的に国会で代表されており、憲法改正、国家予算等の重要な問題については国民投票にかけることにはなっていないこと、さらに、A国民投票の結果が拘束力を持つためには、50%を超える投票率が必要だが、50%以下の場合でも、国民投票の結果自体は無効ではなく、実際、妊娠中絶の合法化の可否について問われた国民投票の結果は、拘束力を持つものではなかったが、合法化に賛成する意見が多かったため、国会において立法措置がなされたとの説明があった。
    • 歴史教育・憲法教育については、@政治の仕組み、法律、憲法などは歴史の時間に教えられている、A全体的な政治に関することは教えるべきだが、43条の趣旨から特定の政党の立場に偏ったような「偏向教育」は行ってはならないことなどの説明を伺った。また、「政治教育」に関連して、B18歳から選挙権が認められていることで、クラス内に選挙権がある人とない人が混在するが、特段の問題は起こっていないことなどの話もあった。
    • ポルトガル憲法は、1974年に革命が起きて、それまでの独裁政権が倒れて新しい民主政治に移行したときに制定されたが、その際、独裁当時の記憶が強烈で様々な権利を守るため、300条近い詳細な内容が盛り込まれることとなったことの説明があった。
    • 1976年憲法は、当初「民主主義的で社会福祉を重視する法治国家」と「社会主義への移行期にある国家」という、いわば2つの頭を持つ憲法であったことについて、@1974年の「革命」は弱体化した独裁政権が自然消滅したものであった、Aそこで政治的空白が生じた際、唯一組織化された政党が共産党であり、当時の指導者がスターリンとも非常に近い関係にあって、この機会を利用して左傾化を図ったものであり、その後1989年改正の際に社会主義的な条文が削除されたとの話があり、大変興味深く伺った。
  4. スペインにおける調査の概要
    • 憲法の制定過程については、@1978年制定当時は内戦の記憶が人々に残っており、多くの政党間で合意に達しなければまた過去の内戦のような状態になってしまうとの危機感が共有されていたため、そのような認識の下、多くの政党の合意を得て、様々な考え方を内包する現在のすばらしい憲法が制定されたとの話があった。Aそのような経緯から、憲法改正は、難しく恐ろしいことと考えられ、タブーとの意見すらある、B非常にバランスをとってできた憲法であるために、バランスが少しでも崩れたら、この憲法がまた崩れてしまうかもしれないとの危惧があり、基本的なルールを改正するには「大きな合意」が必要とされているとの説明を伺った。
    • 憲法裁判所については、@ヨーロッパの場合は、裁判官がナチスやファシストの法律を許容・適用するなど、伝統的に権力に従い過ぎる傾向があったため、そのような裁判官がきちんと法の適用をしてくれるのかという疑念があり、従来の裁判所とは別に、憲法裁判所が設けられることとなった、A憲法裁判所は政治的な課題に対して判断を下さなければならないが、一般に判決は尊重されているとの説明があった。
    • 2011年に財政規律条項を導入するための憲法改正が行われたが、当時は深刻な経済危機であり、スペインは大丈夫であるというメッセージを市場に対して送る必要があった。そのような認識が二大政党の間でも共有され、非常に迅速に改正が行われることとなったとの説明を伺った。
    • 国民投票については、@スペインでは国民投票が実施できる場合は、厳しく制限されていること、Aこれにはフランコ独裁時代、しばしば国民投票が独裁を正当化する手段として利用されてしまったという歴史的な経験が背景にあるとの説明を伺った。
  5. まとめ
    • ギリシャのツァキラキス教授からは、憲法の規律密度については、ギリシャ憲法は非常に詳細なものであるが、その点に関し、「憲法の単語数の多い国ほど経済的な発展に問題を抱えている」との研究がある旨紹介され、憲法にあまり多くを詰め込んでしまうと国民や国会議員の動きを阻害することにつながるため、簡潔なものの方がよいとの意見を伺った。
    • 一方、各国憲法にオンブズマン、ストライキ権や、裁判権が付与された会計検査院等が位置付けられていることには目を引かれた。
    • 今回の南欧3か国は70年代まで独裁政権が続いていただけに、その後作られた各国憲法については実は改正に慎重であった。日本が参考にするときは、各国憲法の成り立ち・生い立ち・歴史経緯を踏まえる必要があると感じた。

◎調査に参加した委員の発言の概要(発言順)

船田 元君(自民)

  • 今回はスペインに加え、欧州において今まで未調査であったギリシャ、ポルトガルの調査を行った。この3か国には、1970年代半ばまで独裁政権が続き、その後民主政権に移行した共通点があり、民主政権を具現化する憲法を大切にする国柄であることを感じた。
  • 3か国に国民投票制度はあるが、必ずしも憲法改正の要件とはされていない。憲法改正については、国民の代表である国会が慎重に審議をしている経緯がある。
  • いくつかの国では、国政の重要課題に関する国民投票の実施事例があるが、国民投票は、独裁政権時代に多用された苦い経験があるため、抑制的に実施されているという感想を持った。
  • 環境権については、3か国とも環境権の概念が定着しつつあった1970年代半ばの憲法制定であることから、自然に環境権が憲法に導入されたのではないか。ギリシャとポルトガルにおいては、環境権と開発とのバランスの問題をはじめ、環境権を主張するには環境訴訟を伴わなければならず、権利と義務のバランスを決めなければならないとの印象を持った。
  • 緊急事態については、ヨーロッパ諸国と同様に訪問各国にも規定がある。緊急事態の種類(災害、テロ、他国からの侵害、内乱)を区分して規定されていることが印象深い。緊急事態時の国会の特例だけではなく、基本的人権の尊重を最大限維持しつつ、国民の権利の一部を制限する規定があることが興味深い。
  • 財政規律条項については、訪問各国は近年財政危機に直面しており、EUから憲法又は法律による財政規律を要求されていた。スペインは、憲法に財政規律条項を入れた一方で、他の2か国は憲法の規定により政府が縛られることを嫌気し、憲法に財政規律条項を入れていない。同じ問題、同じ状況下でも対応が異なる点が印象的であった。
  • 訪問各国の改正手続は厳しいものとなっているが、それでも複数回の改正が行われている。我が国においても、将来の国の姿に合致するよう、ハードルを乗り越えて憲法を改正することが重要である。
  • 憲法改正においては、テーマを絞ることが必要であるが、各党との協議の上、例えば、今回の海外派遣で関心事項となった環境権、緊急事態、財政規律などから進めていくことが妥当ではないか。

中谷 元君(自民)

  • ポルトガル憲法は、1974年のカーネーション革命により独裁政権を倒した後、1976年に制定された。このため、同憲法は、個人の尊厳、自由、公正かつ連帯的な社会の建設に努める民主的法治国家が根幹となっており、国旗、国歌、公用語としてのポルトガル語も基本原則に定めている。
  • ポルトガルでは、これまでに7回憲法改正が行われた。その改正は、直近の改正から5年を経過した後に行われる「定期的な改正」と、5年を経過前に改正を行う「特別な改正」に分類できる。これまでの改正の具体的な内容は、憲法裁判所の設置や国民投票制度の導入等であった。なお、今日の議会には6つの政党が存在し、左右の勢力が拮抗しており、憲法改正は与野党が協議しなければ達成できない。
  • ポルトガルの憲法裁判所は、「憲法上独立した機関」及び「裁判組織の筆頭」という二重性を有しており幅広い憲法審査権限があるが、国家の意思決定における行政府や立法府とのバランス及び司法の独立について留意する必要があると感じた。
  • ポルトガル法務大臣に、「政府の国家予算のうち年金等を削減する部分を違憲とするような場合等には、行政府がその責任を果たすことができないのではないか」と質問したところ、先方からは、「憲法裁判所は行政府の施策の実施を差し止めることができず、規範に対してのみ判断する。年金制度の違憲判決について行政府が従うのは当然であり、その枠内で他の方法を考えなければならない」との説明があった。
  • 憲法裁判所の正当性については、憲法裁判所の13人の裁判官のうち10人が議会の3分の2の賛成により任命されることにある。ポルトガルの選挙制度は比例代表制で、一党が大量の議席をとることは困難なため、与党がその任命をコントロールできる可能性はゼロに近いようである。
  • ポルトガルの国民投票の発議は、議会、政府又は75,000人の市民によってなされるが、我が国と異なり、ポルトガルでは国民投票が憲法改正の要件となっていない。その理由は、革命前の1933年に当時の政府が憲法を制定するために体制に都合のよい形で国民投票を利用したという歴史的な経緯があったため、また国家の重大な問題が国民投票により大衆迎合化することを避けるためであるという説明を受けた。
  • ポルトガルでは、18歳から国民投票権が付与されているので、憲法問題については市民育成のための講義が行われている。教師等は偏った思想教育とならないよう十分気をつけているとのことであった。なお、中等教育最後の学年は18歳になって投票権がある者とそうでない者が混在しているが、特に問題はないようであった。
  • ポルトガルでは他の科目の理解を促すことにもつながるため、ポルトガル語教育に重点を置いている。言葉の乱れについては、Twitter等で省略した言葉を使う分には構わないが、正式な文章を書くときにはそのような表現をしてはならないと教育しているとのことである。
  • 日本国憲法は1947年に施行されて以来一度も改正されていない。今後、憲法審査会を通じて、日本の憲法のあり方について議論していくことが重要であると思われる。

馬場 伸幸君(維新)

  • 憲法改正の進め方について、ギリシャの行革大臣が「政治・経済情勢が厳しい現況にあるため、異なる意見を持つ政党とも、かえって協力関係が生まれる」と述べていた。我が国が抱える閉塞感を打破するためには「より効率的で自律分散型の統治機構改革を実現することが急務」であり、そのためには憲法改正が欠かせないと我が党は考えるが、我が国の憲法論議は、長らく左右のイデオロギー対立に基づく「神学論争」という不毛な議論の繰り返しであり、これが閉塞感を生み出す要因となったと思う。我が党は、諸政策を、イデオロギーではなく、「国益と国民」本位に合理的に判断することによって、「保守対リベラル」を超えた政治が可能となると考えており、まして、新陳代謝が遅れて国力が停滞・弱体化し、改革が急務となっている我が国は、行革大臣の発言のとおりの状況にあると言える。今こそ、改革諸勢力の英知を結集し、必要な統治機構改革を断行する好機にあると改めて認識した。
  • 先の通常国会で、4年後までに国民投票権年齢が18歳に引き下げられることが確定したが、この引下げには、憲法教育の充実という重要な前提条件がある。18歳投票権の真の実現のためには、憲法に対する興味をかき立てられ、憲法に関する正確な知識を獲得できるような教育環境の整備が肝要であり、訪問各国においても同様の認識が共有されていると感じた。
  • 投票権・選挙権年齢を18歳に引き下げると高校3年生の中に権利を有する者と有しない者が混在して問題が生ずる、との懸念が示されることがある。この点、投票権・選挙権年齢が18歳であるポルトガルにおいて、高校の校長の「問題が起こったという話は聞いたことがない」との発言に接し、投票権年齢に加えて選挙権年齢も速やかに引き下げるべきであると改めて確信した。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 3か国とも憲法に環境権が規定されており、基本法的な理念法、その下に個別法という体系になっている。憲法と理念法とで矛盾はないか、ということに関しては、それぞれにふさわしい書き方があるので矛盾はないとのことであった。
  • 司法関係者も政治家も、開発と環境の両立に大変悩んでおり、訴訟も多いとのことだ。今後日本で環境権を議論する際には、この点を考慮すべきというアドバイスがあった。
  • 1970年代の環境権は、開発と環境は相反するものという考え方で規定されており、そこからは脱却しなければならない。現在、我が国では環境制約が経済成長につながる、環境と開発は矛盾しない、という考え方がある。こうした方向性を持って環境権を議論したい。
  • ポルトガルにおいて、環境権を専門とする大学助教授から、日本への環境権条項に関するアドバイスとして、「憲法に権利を書く必要はない。書くのであれば簡潔な文言で、国家の義務、市民の義務、様々な機関の義務、環境を保護して将来につなげるという内容を盛り込むのが良い」という発言があったことは大変印象的であった。

笠井 亮君(共産)

  • 憲法に対する理解は、制定の歴史に対する理解と不可分であり、また、憲法教育を行う上でも重視されていると感じた。ギリシャでは、憲法教育においては、過去の独裁政権について教え、憲法制定の前段階についての理解がないと、現行憲法について理解ができないと強調され、ポルトガルでは、革命前の歴史についても教えているとの説明があった。
  • 日本国憲法に対する理解も、制定の歴史に対する理解と一体のものとするべきであり、憲法教育においては、歴史の真実、戦争体験や被爆体験をしっかり継承することが重要である。
  • 来年は戦後70周年、広島・長崎被爆70周年となり、歴史を消し去ることはできないが、正面から向き合うことによって、アジア及び世界各国から尊敬され、信頼されるのであり、そうした平和外交によって、世界平和と核兵器廃絶に貢献することこそ、日本が果たすべき最大の役割であると考える。
  • 環境権保障については、明文規定の有無ではなく、政治が立法や制度作りにいかに取り組むかが重要であると確信を深めた。ポルトガルでは、環境権について憲法に入れるだけでは役に立たないので、法整備が必要であるとの説明があった。また、66条1項の環境権規定はある意味で飾りに過ぎず、むしろ訴訟提起の根拠となる民事法が重要であるとの説明があった。
  • 日本では、13条等の幸福追求権に依拠して環境権を獲得してきた経験がある。各地の大型開発や米軍新基地建設による環境破壊に対し、日本国憲法を活かした環境を守る政治の責任こそ問われていると改めて感じた。
  • 今回の訪問国の中で、憲法の根幹に関わる事項を、憲法改正ではなく、時の政府による解釈の変更によって変えた国はなかった。ギリシャでは、憲法に解釈規定があり、解釈規定を変える際にも憲法の条文改正と同様難しい手続が必要となるので、解釈を変えることで憲法を本質的に変えるということは余り行われていない、との説明があり、政府が解釈を変えた事例の紹介はなかった。ポルトガルでも、憲法解釈の最終的な判断は憲法裁判所であるとの説明があった。これは、政府による憲法の根幹を変える勝手な解釈変更は許さないという意味であると理解した。
  • 日本では、7月1日、安倍内閣が集団的自衛権行使を容認する閣議決定を強行した。これは海外で戦争する国への道を開く憲法改定に等しい大転換で、立憲主義を根底から否定するものであり断じて許されない。このような閣議決定は撤回しかないことを、今回の調査を通じても確信した。国民の多くは集団的自衛権行使に反対であり、この憲法問題に関する最大の関心事である。憲法改定の必要はなく、憲法審査会を動かす必要もない。そのため我が党は、地方公聴会の開催に反対した。暮らしと平和を守り、憲法を活かした政治を行うことこそ、国会の最大の任務であると改めて感じた。

◎自由討議

三谷 英弘君(みんな)

  • ポルトガルでは、同じ学年で選挙権を持つ者と持たない者が混在しているが、事実上問題はない旨の報告があったが、これは選挙権年齢引下げに関する有益な示唆である。
  • 緊急事態条項については、ギリシャでは乱用があったとの報告があったが、憲法改正の際には、運用面での乱用を防止するような限定をどう付していくか議論する必要がある。
  • 財政規律条項については、理想を掲げるだけでは意味はなく、実効性を法的に担保することが必要である。しかし、ポルトガルで示唆があったように、国家主権を縛りすぎることは好ましくなく、原則と例外のバランスをとることが重要である。
  • スペインでは、憲法改正を議論すること自体が非常にデリケートな問題である旨の示唆があったが、憲法は歴史と一体不可分であるとの観点から、日本国憲法制定の経緯を考えると、我々の手でしっかりした憲法を制定していく必要性を強く感じた。

鈴木 克昌君(生活)

  • 各国の憲法改正がどのような形で、どのような考えで行われたのか、あるいは行われなかったのかについて、今回の海外派遣を踏まえて勉強していきたい。
  • 憲法教育について、ギリシャやポルトガルでは歴史と憲法というものを非常に重視しているように感じた。我が国でも、教育に憲法の歴史をきちんと盛り込む必要があり、それが憲法に対する国民の理解を深めるポイントとなるのではないか。

西野 弘一君(次世代)

  • ギリシャでは、「歴史教育と憲法教育が密接に関わっており、憲法を教える際には、なぜこのような憲法が作られたのか、遡って理由を教えることが憲法を理解するために不可欠である」との指摘があったとのことだが、我が国の教育においては、現行憲法が占領下で制定されて改正されずに現在に至っていることについて、偏りのない中立的な立場で教えられてきたのだろうか。我が党は、投票権年齢が18歳に引き下げられることを踏まえ憲法教育の充実を唱えているが、中立性の担保が重要であると改めて感じている。

中谷 元君(自民)

  • 笠井委員は、環境権について憲法ではなく法律で定めるべきという意見だが、環境権について法律で定める際にも、憲法上の環境権の定義や義務としての根拠が必要であり、環境権を憲法に規定すべきではないかと思うがいかがか。
  • 斉藤委員から、環境権について開発とのバランスであるという意見があった。都市部の過密と地方の過疎といういびつな国土になっている現状を踏まえれば、環境権を通じて国のかたちを変えていくことも必要ではないかと思うが、環境権の必要性とイメージについて改めて伺いたい。

笠井 亮君(共産)

  • 環境権は、13条の幸福追求権に依拠した国民の戦いの中で獲得してきたのであり、そのことを明確にすることを妨げてきたのが歴代の自民党政権だったのではないか。今回の派遣によっても、現行の憲法で良いことを改めて痛感した。
  • 訪問した国々では、独裁政権の下での痛苦の教訓によって憲法が生み出されたということが共通して語られた。日本においても、戦前の暗黒政治、植民地支配や戦争による犠牲の中から日本国憲法が生まれたという、憲法制定に至る歴史についても、もっと教育の場面で考える必要があることを改めて感じた。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 個人的意見ではあるが、憲法に環境権条項は必要だと考える。現在環境権については、13条、環境基本法、個別法という法体系となっている。環境基本法、個別法といった下位法に憲法の精神を活かすためには、地球環境の中で生命、生活、生存を守るという国としての義務、個人の権利を明確にすることが必要である。
  • 今回の訪問国の憲法が制定された1970年〜80年代の環境権条項は、環境と開発が対立していた時代のものであったが、現在では環境を守ることが経済成長につながり得る、またそうした「開発」でなければならないという考え方がある。日本もこの考え方に基づき、環境権条項について議論すべきである。

西野 弘一君(次世代)

  • ポルトガルにおける1974年の革命は弱体化した独裁政権が自然消滅したものであり、その際組織化されていた政党はソビエトの強い影響下にあった共産党のみであった。そのような状況下で憲法が制定されたので、後の1989年に大改正が行われた。
  • 我が国の憲法も、制定時に政党は存在したものの、GHQの占領下で仕方なく作られたものである。ポルトガルの例に倣い、早く国民の手により憲法を作っていくべきである。改正国民投票法も成立した今、早急に憲法の中身を議論できる審査会にしてほしい。

船田 元君(自民)

  • 今回の訪問では、投票権・選挙権年齢について、懸念されていた17歳と18歳が混在することによる教育現場での混乱は生じていないとのことだった。我が国においても、投票権年齢の18歳への引下げに伴って既に8党で合意している選挙権年齢の18歳への引下げを、更に自信を持って進めるべきだと感じた。
  • この選挙権年齢の18歳への引下げについては、政党間協議を精力的に行っている。公職選挙法改正案は憲法審査会が扱う案件ではないものの、政党間協議においてできるだけ早く結論を出し、その成果について、憲法審査会において中間報告あるいは最終報告をさせてもらいたいと考えている。
  • 憲法教育については、どの時点の歴史を教えるかが議論となる。戦前の歴史はもちろんのこと、GHQによる占領下での憲法制定の過程についても教えるべきであり、これが中立的な教育に繋がると思う。
  • 国民投票について、欧州では積極的に活用しているイメージを抱いていたが、昨年の海外調査で訪問したドイツと今回訪問した南欧3か国はこれに慎重な態度であったという印象を受けた。いずれの国も独裁を経験しており、国民投票が独裁体制の補強等に多用されたことに対する反省によるものと認識した。今後、憲法審査会で一般的国民投票を議論する際には、この調査成果も参考となろう。

保岡 興治君(自民)

  • 投票権年齢が4年後に18歳に引き下げられ、また選挙権年齢も引き下げる方向で各党協議が進んでいるが、若い世代に主権者教育を行うこと、また、社会参加の意義を理解してもらうことは国家の形成において重要なことだと考える。訪問各国においても、憲法の制定経緯等をしっかり教育しようと努力している旨の報告もあった。
  • 過去の経緯も大事であるが、変化するこれからの国際社会、平和や繁栄、またそれらへの貢献について、若い世代にこそ国の将来のかたちを作る主権者としての意識を強く持たせるような教育をすることが非常に重要ではないかと思うが、それらについて、派遣議員から感想があれば伺いたい。

武正 公一君(民主)

  • 改正国民投票法施行後、初の海外調査であったので、主な調査目的の一つを学校での憲法教育、歴史教育とした。訪問各国において、公平性についての配慮も念頭に置きながら、自然な形で憲法教育、歴史教育がなされていたことが印象深く感じられた。今後の審査会においても憲法教育の重要性についての議論を深められれば良い。
  • ポルトガル憲法では公用語をポルトガル語とする旨を規定しており、スペインも同様である。我が国においても日本語の位置付けや普及について考えることが大事であると改めて痛感した。

古屋 圭司君(自民)

  • 今回の訪問各国では、それぞれ改正手続は異なるものの、憲法は硬直したものでなく、時代の変革や国民のニーズを斟酌した上で、議会が憲法改正を行ってきていることは共通している。日本国憲法が制定以来一度も改正されていないことについて、訪問各国の有識者等から、何かコメントがあったのであればご紹介願いたい。

船田 元君(自民)

  • 昨年海外派遣で訪問したチェコでは、頻繁に憲法改正が行われており、日本では憲法改正が行われたことはないということについて、「うらやましい」との発言があった。今回訪問した各国では、日本が一度も憲法改正をしたことがないことに言及した識者はいなかった。