平成12年9月28日(木)(第1回)

◎会議に付した案件

1.幹事の辞任及び補欠選任

 辞任 枝野幸男君(民主)、補欠選任 島  聡君(民主)

2.日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

 上記の件について参考人田中明彦君及び小田実君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

 東京大学大学院情報学環教授 田中 明彦君
  作家            小田  実君

(田中明彦参考人に対する質疑者)

 久間 章生君(自民)

 五十嵐 文彦君(民主)

 斉藤 鉄夫君(公明)

 武山 百合子君(自由)

 春名 直章君(共産)

 阿部 知子君(社民)

 近藤 基彦君(21クラブ)

 松浪 健四郎君(保守)

(小田実参考人に対する質疑者)

 高市 早苗君(自民)

 細野 豪志君(民主)

 赤松 正雄君(公明)

 武山 百合子君(自由)

 山口 富男君(共産)

 保坂 展人君(社民)

 近藤 基彦君(21クラブ)

3.欧州各国憲法調査議員団の調査の概要について説明聴取(中山太郎会長)

(参考)「衆議院欧州各国憲法調査議員団」の調査の概要


◎田中明彦参考人の意見陳述の要点

1.21世紀の世界

  • 冷戦の終結−世界的課題の優先順位の非明確化
  • グローバリゼーション−世界的影響の伝播の速度増大
  • 民主化−個人の尊厳に普遍的価値を置く自由主義的民主主義のひろがり
  • 主体の多様化(国家、国際組織、企業、NGO、個人)と主体間の関係の複雑化
  • 三つの圏域−平和で安定した圏域、近代化途上の圏域、内戦・飢餓に苦しむ圏域
  • 「ネーション・ステート」の新たな意味づけ(一体感を有する国民の国家)

2.国家の役割

  • 国家=一定の領域に定住する人々(国民)の安全を確保し、彼らの利益を集約し、その維持・増進に努める組織
  • 国家の相対的影響力の低下
  • 世界政治における領域代表としての意味

3.日本のあるべき姿

  • 日本の現在の姿−大規模国家としての日本(国民総生産や人口等で世界の上位に位置する)
  • 日本国民にとっての日本−安全の確保、繁栄の継続、価値観の維持(外国から有能な人材を「新日本人」として迎え、彼らを含めた国民全体のアイデンティティーを確保することの必要性)
  • 世界にとっての日本−大規模国家として様々な分野で世界をリードする責任

◎田中明彦参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

久間 章生君(自民)

  • 現憲法下で国連のPKO活動等における十分な人的貢献ができるか。
  • 具体的に9条2項をどのように改正するべきか。
  • 国土の広い国々がほぼすべて連邦制やそれに準ずる制度を採用している中で、唯一中央集権的制度を採用している中国の体制は、今後変化すると考えるか。
  • 在日外国人の日本への帰化に必要な要件を緩和するべきであると考えるが、いかがか。

五十嵐 文彦君(民主)

  • 非核原則を憲法に明記するなど、憲法において根源的価値や国家目標を規定することについてどう考えるか。
  • 我が国の外交と内政について統一的な理念がないように思うが、いかがか。
  • 外交分野において、我が国が対米迎合的態度をとるのは問題ではないか。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 日本の安定のために憲法が果たしてきた役割と、今後世界の中で憲法が果たすべき役割についてどう考えるか。
  • 国家と民族に加えて文化という重要な要素があるが、これら三つの要素の関係についてどう考えるか。
  • 参考人は現代を「新しい中世」と称するが、その真意は何か。
  • これからの教育において国家の概念をどう扱うべきか。

武山 百合子君(自由)

  • 我が党は、日本の伝統や誇りに根ざした国家目標を憲法に明記すべきであると主張しているが、どう思うか。
  • 世界の中における日本という観点から、有能な政治指導者をどのように育てるべきか。
  • 日本は世界経済の成長の中でどのような役割を果たすべきか。
  • 外国から多くの有能な人材を「新日本人」として迎えるためには、意識改革が必要であるが、これが進まない理由は何か。
  • 日本周辺の安全と平和を守るためには何が必要か。

春名 直章君(共産)

  • 朝鮮半島の南北首脳会談の意義をどう考えるか。
  • アジア諸国の信頼を得るために日本は過去の侵略行為と植民地支配への反省を明確にすべきという見解についてどう考えるか。
  • 国際社会における核兵器廃絶の動きをどう評価するか。

阿部 知子君(社民)

  • 子どもたちにも分かる、日本から世界への平和のメッセージ及び平和的生存権のための核廃絶のメッセージは、どのようなものとすべきか。
  • 核廃絶のために尽力することが東アジアにおける日本の役割ではないか。
  • 国連の平和活動における我が国の役割はどうあるべきか。
  • 現行9条のまま自衛隊がPKOに参加することは、立法府に対する行政府の越権行為とならないか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 今後の国際情勢は、アメリカの優越がますます強まっていくのか、それともこれに対する対立軸ができるのか。
  • 世界の一体化が進む中では各国の役割分担が必要と解するが、日本はどのような役割を果たすべきか。
  • 「新日本人」にはどのような分野における活躍を期待しているか。

松浪 健四郎君(保守)

  • イラン・イラク戦争の場合と湾岸戦争の場合とで国際社会の対応が異なった理由は何か。
  • 湾岸戦争において、日本が資金面での援助をするにとどまり、人的貢献をしなかったことに対してどう考えるか。
  • 日本は中東地域や中央アジア地域の紛争解決に尽力する必要があるのではないか。

◎小田実参考人の意見陳述の要点

1.日本は、長期的展望として、「良心的軍事拒否国家」を目指すべきである

(1)背景

ドイツにおける良心的兵役拒否制度

  • 戦争を繰り返してはいけないという歴史認識
  • 兵器の進歩がもたらす大量の殺戮と破壊
  • 精神の自由の尊重
  • 「軍事的奉仕活動」ではなく、「市民的奉仕活動」による「平和主義」の実践
(2)「良心的軍事拒否国家」とは
  • 日本国憲法の「平和主義」の原点に立ち、紛争の解決に武力を用いず、「非暴力」に徹する理念
  • 平和交渉の仲介、難民救済、途上国の債務の軽減など、国家としての「市民的奉仕活動」の実践

2.「良心的軍事拒否国家」の実現に向けて、武力を前提としない日米関係を構築するため、日米安全保障条約を破棄し、日米平和友好条約を締結すべきである


◎小田実参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

高市 早苗君(自民)

  • 参考人が良心的兵役拒否を認めている国として挙げたドイツ及びNATOによるコソボ空爆に反対したギリシャは、平和主義を実践している国と言えるのか。
  • 参考人は、現実問題として我が国が侵略を受ける可能性はないというが、万が一侵略を受けた場合の自衛戦争まで否定するのか。

細野 豪志君(民主)

  • 短期的な課題として、軍事分野における日米関係をどのように考えるのか。
  • 短期的な課題として、自衛隊の役割についてどのように考えるのか。
  • ドイツ憲法にある庇護権(政治的に迫害されている者が保護を受ける権利)、国の環境保護義務等の規定を憲法に挿入することについてどのように考えるのか。

赤松 正雄君(公明)

  • 参考人は、「良心的軍事拒否国家」を実現していく「力」が今の日本には十分備わっていると言うが、その「力」とはどのようなことか。
  • 非核三原則は当然守るべきことだと思うが、さらに、日本としては「作らせず、持たせず、使わせず」という新非核三原則を提唱すべきと考えているが、参考人はどう思うか。
  • IT革命のメリット・デメリットについてどう考えるか。

武山 百合子君(自由)

  • 現在まで、日本国憲法の平和主義の理念が国民に理解されてこなかった理由を、どう考えるか。
  • 「良心的軍事拒否国家」の考えを広めていくには、どうすればいいと思うか。
  • 平和主義を実現していくためにどのような教育をすればよいと考えるか。

山口 富男君(共産)

  • 平和主義が21世紀の世界に広がる条件は、何であると考えるか。
  • 最近の我が国での憲法9条改正論をどう思うか。
  • 災害の被災者への公的支援と憲法との関わりはどうあるべきと思うか。

保坂 展人君(社民)

  • 現在、学校教育におけるボランティアの義務化が提唱されているが、これについて、どのように考えるか。
  • 人権を議論する際に主張される義務規定の充実、公共の福祉の内容の明確化等の意見について、どのように考えるか。
  • 現在が平和主義を世界にアピールするチャンスであるという主張について、各国での反応はどのようなものであったか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 武力という「劇薬」の抑止力があるからこそ、平和主義という「漢方薬」を併用することによる効果が生じるのではないか。
  • 軍事分野において、これまで日本がアメリカに対し主張すべきことを主張できなかった理由は何か。
  • 日本において、「奉仕活動」が根付かない理由は何か。
  • 憲法前文に盛り込むべき事項が今後生ずると考えるか。

◎(参考)「衆議院欧州各国憲法調査議員団」の調査の概要

1.調査議員団の構成

団長      中山太郎君

副団長     鹿野道彦君

          葉梨信行君、石川要三君、中川昭一君、仙谷由人君、赤松正雄君、春名直章君、辻元清美君

2.期間

平成12年9月10日(日)から9月19日(火)

3.派遣先

ドイツ     連邦憲法裁判所・良心的兵役拒否者の勤務する養護施設・連邦議会

スイス     連邦議会・連邦司法警察省

イタリア    憲法裁判所・下院憲法問題委員会

フランス    国民議会・憲法院

なお、ドイツ大使公邸にて、フィンランド大使館から招致した書記官より、フィンランド憲法改正に関する説明・質疑応答、また、イタリア大使公邸にて、現地在住の塩野七生さんと懇談を行った。

4.調査の概要

ドイツ

  • 戦後46回に及ぶドイツ基本法の主要な改正の概要及び背景、連邦軍のNATO域外への派兵の合憲性に関する判決の問題、兵役義務と良心的兵役拒否の制度の実態などについて質疑応答

フィンランド

  • 今年の3月から全面改正されたフィンランド憲法の改正経緯と背景について説明聴取

スイス

  • 1874年の制定以来140回の部分改正を経てきた旧憲法を昨年全面改正したことの背景と経緯及びその新憲法の特徴(生命倫理規定など)について説明聴取

塩野七生さん

  • (1)古代のローマ人は「法」をどのように考えていたか、(2)塩野さんは日本国憲法をどのように考えているか、についてお話を伺った後、意見交換

イタリア

  • 戦後10回改正されているイタリアの憲法の動向及び憲法裁判制度、祖国防衛義務に関する国民の意識、「地方自治の保障」と「地方自治体に対する中央政府の監督権」の関係、EU統合による問題などについて、質疑応答

フランス

  • 13回の改正を経てきた現行憲法の改正の動向(大統領任期縮減に係る憲法改正国民投票の問題など)、人権と社会公共の義務の調和の問題、コアビタシオン(いわゆる「保革共存政権」)の問題などについて、質疑応答