平成12年10月12日(木)(第2回)

◎会議に付した案件

 日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

  上記の件について参考人曽野綾子君及び近藤大博君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

  作家・日本財団会長          曽野 綾子君

  日本大学大学院総合社会情報研究科教授 近藤 大博君


(曽野綾子参考人に対する質疑者)

  保利 耕輔君(自民)

  赤松 正雄君(公明)

  近藤 基彦君(21クラブ)

  松浪 健四郎君(保守)


(近藤大博参考人に対する質疑者)

  柳澤 伯夫君(自民)

  太田 昭宏君(公明)

  近藤 基彦君(21クラブ)

  松浪 健四郎君(保守)


◎曽野綾子参考人の意見陳述の要点

1.自立の必要性

 a 自立の意味
  • 国内的な自立:食糧、水、エネルギー、産業確保等の分野でのバランスを図ること
  • 国際的な自立:防衛の確立
 b 自立を確立する手段及び過程=現実の正視
  • 力:現実は、世界平和という理想でなく、淘汰により成り立っている。その現実世界の中では、力に対する正当な判断と慈悲の精神が必要である
  • 電力:電力のないところに民主主義や物質的豊かさは存在しない
  • 貧困:貧困は、強盗・暴力、乳幼児の死亡率の増大、平均寿命の低下・道徳性の崩壊、麻薬の蔓延、売春を引き起こす

2.「徳」の力

  • 親子関係、兄弟関係等の基本的人間関係から生ずるもの
  • 帰属的人間関係→国旗及び国歌の必要性
  • 真・善・美:「真」と「善」についての共通認識はあるが、「美」は、個人が選択し、守るものである

3.普遍的なもの

  • 愛(“アガペー”=理性の愛):すべての活動や制度の基本に在るもの
  • 勇気(“アレーテ”=男らしさ、卓越、勇気、徳、奉仕貢献):愛を推し進めるもの

◎曽野綾子参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

保利 耕輔君(自民)

  • 貿易の自由化の議論は、自由化を主張する側の利己主義に基づいていると思うが、食糧、水等の自立を指摘する参考人の認識はいかがか。
  • 憲法前文については、翻訳調を改め、誰でも理解できるような文章にするべきと考えるが、いかがか。
  • 人間教育、すなわち人と人との間の関係はいかにあるべきと考えるか。
 

赤松 正雄君(公明)

  • 21世紀に向けて、政治家に期待すべきことは何か。
  • 教育において大事なものは、確立された「個」との接触と考えるが、いかがか。
 

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 子どもに精神面での修養をさせるため、奉仕活動の義務化以外にどのようなことが考えられるか。
  • 最近の教育の議論において、教育する側の人の問題や社会環境の整備の議論が少ないのではないか。
 

松浪 健四郎君(保守)

  • 参考人は、日本ではマスコミによる言論統制が行われていると指摘するが、本当に、日本に言論の自由はないと考えるか。
  • マスメディアの活動から個人情報を保護する必要があるが、新聞、雑誌等の活字メディアを監督する省庁は、どこがふさわしいと考えるか。

◎近藤大博参考人の意見陳述の要点

1.戦後論調にみる日本・日本人の自画像の探求

  • 自画像そのものより、自画像を探し求め、描こうとする努力の跡をたどる。
  • 日本人は自己の文化とアイデンティティーを模索してきたが、その中には普遍性への依拠を求める動きが見られる。
(1)終戦直後〜講和成立期

近代化の失敗・後進性の認識 →否定的異質論・欧米基準・自信喪失

  • 敗戦による自信喪失
  • 日本の伝統的文化・芸術の否定
  • 『菊と刀』における日本の「集団主義・恥の文化」と欧米の「個人主義・罪の文化」の対比
(2)高度経済成長期

近代化(経済大国化) →肯定的異質論・日本回帰・自信回復

  • 独立及び高度経済成長による自信回復、日本肯定論
  • 『ジャパン・アズ・ナンバーワン』における日本的経営に対する賛美
  • 新中間大衆の増大による総中流化
(3)低成長期及びバブル経済期

否定的異質論・欧米基準・自信喪失

  • 外国人による日本異質論の台頭
  • バブル経済期における日本優位の再定義及び日本的経営の賛美
  • バブル経済崩壊に伴う自信喪失
(4)現在

(続)否定的異質論・欧米基準・自信喪失

  • 社会の活力の低下、パラサイト・シングルの増加
  • 大国イメージと非大国イメージの間での意識の動揺

2.憲法調査会への提言

(1)温故知新を繰り返すべきである。

(2)思想や論調には不易と流行があることを認識した上で、不易に目を向けるべきである。

(3)日本にとっては、憲法は簡潔に国家のシステムを律するものであることが望ましい。

(4)憲法の条文は、外国語に訳した場合も考慮して決めるべきである。


◎近藤大博参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

柳澤 伯夫君(自民)

  • 日本論及び日本人論が、戦後、数多く語られてきた理由は何か。また、それらが戦後の日本にどのような貢献をしてきたのか。
  • アイデンティティーとは不易なものであって、それは、日本人にとっては、同質性やコンセンサス主義といったものであると考えるが、いかがか。
  • パラダイム・シフトとしての「普通の国」論の登場や日本型経営の転換をどう評価しているか。
 

太田 昭宏君(公明)

  • 戦後、我が国は、軍国主義から平和主義へ、全体主義から個人主義へ、一国主義から国際主義へ及び国家神道から無宗教化へと国家の目標と理念を転換したが、現在、それらはいずれも矮小化され、又は変質してしまったと考えるが、いかがか。
  • 現在の日本は、欧米の経済・生活水準に追い付くという目標を達成した後の新たな目標を定めることができないでいると考えるが、いかがか。
 

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 今日に至るまでの日本論及び日本人論の論調というのは、その時々の我が国の経済の状況にリンクしたものであったと考えられるか。
  • 憲法の条文は、外国語を意識して書かれるべきであると参考人が主張する理由は何か。
 

松浪 健四郎君(保守)

  • 戦後の日本の論壇に総合雑誌が果たしてきた役割は、失われていないと考えているか。
  • 我が国が中国との国交を回復したことと、その当時の日本論及び日本人論に現れた否定的な論調には、何らかの関係があると考えられるか。