平成12年11月9日(木)(第4回)

◎会議に付した案件

 日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

  上記の件について参考人佐々木毅君及び小林武君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

  東京大学教授      佐々木 毅君

  南山大学教授・法学博士 小林  武君

(佐々木毅参考人に対する質疑者)

  新藤 義孝君(自民)

  鹿野 道彦君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  武山 百合子君(自由)

  春名 直章君(共産)

  日森 文尋君(社民)

  近藤 基彦君(21クラブ)


(小林武参考人に対する質疑者)

  水野 賢一君(自民)

  前原 誠司君(民主)

  太田 昭宏君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  山口 富男君(共産)

  横光 克彦君(社民)

  近藤 基彦君(21クラブ)

  松浪 健四郎君(保守)


◎佐々木毅参考人の意見陳述の要点

1.「政治主導」の始動〜「官主導」の世紀との訣別

  • 構造的な諸問題の解決のため、「官主導」体制を「政治主導」に変革する必要がある。
  • 「政治主導」とは、官僚制の「縦割り化」を排し、政策面での「体系性」と「計画性」を実現し、政治の「戦略性」を高めることである。
  • このため、次のように、旧来の政治的慣行を改めるべきである。

    (1)内閣と与党の二元的運営体制の一元化

    (2)頻繁な大臣交代の慣行の是正

    (3)「政治主導」と「行政の中立性(公平性)」とのバランスをとるためのルール作り

2.「政治主導」と憲法政治〜改正手続をめぐる問題

  • 現在のように厳格な改正発議の要件で国民の憲法議論を封じ込めておくことの弊害   

    (1)憲法が空洞化するおそれ

    (2)国民生活に直接影響のない条項(例えば、国会に関する規定)すら変えられない。

    (3)政治的リスクなしに憲法が論じられ、政治による問題解決能力を低下させる。

  • よって、政治と憲法との緊張関係を回復させるために改正発議の要件を緩和すべき。

3.政治及び政治制度をめぐる諸問題

a.政党の位置付け

  • 政党を憲法上に位置付け、その役割と責任を明確化すべき。
  • その際、憲法では、政党は国民主権実現のための公器であることや政党の「開放性」、「公開性」について定めれば足り、詳細は政党法で定めればよい。

b.国会や内閣をめぐる諸問題

  • 充実した審議を図るために、会期不継続の原則の再考が必要である。
  • 現在の参議院の地位は、(1)不信任−解散の制度がない(大統領制に近い)、(2)総理大臣の指名に加わる(議会制の原則)というように、議会制と大統領制が混在しているので、二院制の議論の整理が必要である。

c.中央・地方関係の再整理

  • 両者のもたれ合いを排し、地方分権の徹底と中央政治の地方政治からの「解放」を図る。
  • 国政は、国際水準で任務を達成することに専念し、地方は、自治体の数やサイズの見直しによるコスト感覚の醸成を図る。

d.国民の直接参加

  • 昨今の我が国での直接民主制的ムードに対しては、議会制が政治主導で結果を示していくことが、最良の反論である。

◎佐々木毅参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

新藤 義孝君(自民)

  • 政治主導の下で憲法改正を行う場合、国会での審議の元となる案の立案作業を誰がどのような形で行うべきかについても考える必要があると思うが、いかがか。
  • 憲法を改正することとなった場合、全面改正と部分改正のどちらが望ましいと考えるか。また、改正手続については厳格のままでよいか、それとも緩和し、柔軟に改正できるようにするべきと考えるか。
  • 国の統一性や国民の一体感を国民が意識できるようにするため、個人の尊重と公共や国に対する意識の醸成について、どういうバランスをとるべきか。
  • 日本は優秀な国民性や大国としての実態を備えながら、外国に対しては、それにふさわしい自信を持たず、世界の中で正当に評価されていないと思うが、今後、日本は国際社会の中でどのように行動すればよいか。

鹿野 道彦君(民主)

  • 総理大臣が指導力を発揮できないのは、憲法の下位法である内閣法において総理大臣の権限が不明確であるためと考えるが、いかがか。
  • 65条に「行政権は、内閣に属する」とあるが、個々の行政(省庁)と内閣は本来別であると考えられ、また、議院内閣制を健全に機能させるためにもこれらの関係を明確にするべきであると考えるが、いかがか。

赤松 正雄君(公明)

  • 参考人は、「官主導」から「政治主導」への移行を主張するが、政・官の間に明確な線を引くことは難しいのではないか。
  • 国民の間に政治に対する不信感が高まっていることが国民の憲法論議を活発にしているという考え方についてどう思うか。

武山 百合子君(自由)

  • 「政治主導」の実現のための基盤をどのように整備すべきと考えるのか。
  • 理想的な政治家の資質とは何か。また、そのような資質を備えた政治家を挙げるとすれば誰か。
  • 無党派層の問題についてどのように考えるか。

春名 直章君(共産)

  • 「政治主導」の実現は、一面、国民主権の体現化でもあると思うが、国民主権の現状についてどのように考えるか。
  • いわゆる一票の格差の問題等が存在し、議会制民主主義の前提となる民意の反映が実現されていない現状についてどのように考えるか。

日森 文尋君(社民)

  • これまで、憲法裁判所のような機関が存在しないこともあって、国民が憲法を身近に議論する機会がなかったことが、国民の憲法に対する理解を阻害してきたのではないか。
  • 首相公選制は、指導者の資質によっては、国民を危険な方向に導くおそれがあるのではないか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 衆議院議員選挙に導入された小選挙区制の今後の在り方について、参考人はどのように考えるか。
  • 首相公選制の必要性について参考人はどのように考えるか。

◎小林武参考人の意見陳述の要点

はじめに

 「21世紀の日本のあるべき姿」について、憲法が主権者である国民の作品であることを前提に、主権者国民として、憲法研究者として考える。

1.憲法調査としての「日本の姿」論

(1)憲法調査会による調査の在り方

  • 憲法に照らした「国のかたち(=憲法の諸原則の示す社会と国のありよう、その意味での憲法構造)」の調査
  • 各政党・政治家の憲法の実践についての国民に対する責任を自覚した上で憲法論を行うべき

(2)憲法調査会の法的位置の確認

  • 権限の自己制限(憲法調査会の目的が日本国憲法についての広範かつ総合的な調査に限定されていること、憲法調査会には議案提出権がないこと、調査期間が5年程度とされていること等)
  • 憲法調査会の調査テーマを、より体系的なものとするようにすべき

2.憲法からの政治の「乖離」をもたらしたもの

(1)日本国憲法はどのように扱われてきたか

  • 戦後の政府及び政権政党の日本国憲法に対する非好意的態度、法治主義原則を逸脱する解釈改憲の手法
  • 憲法調査会の歴史的役割(憲法実現の状況についての客観的な調査)

(2)憲法実現の課題に最高裁はどのように応えてきたか

  • 最高裁の違憲法令への対応は、政治部門への過度の寛容を示している。
  • 憲法の要求を十分に満たさない立法を行う国会と憲法判断を回避する最高裁

3.憲法を活かした21世紀の日本の姿

(1)新世紀の日本像をどのように描くか

  • 第145回国会の諸立法(周辺事態法、国旗国歌法、通信傍受法等)が意味するもの
  • 25条の生存権保障のもつ格別の意義(「憲法を暮らしの中に活かす」という政策原理の柱)

(2)憲法に誠実なデッサンを――平和主義をめぐって

  • 9条の規範的意味と現に存在する自衛隊を憲法に適合的な非軍事的存在へと転換させる「憲法政策」
  • 平和的国際貢献を内容とした積極的憲法政策の展開

おわりに

 憲法の誠実な実践の上でこそ、真の改正論議が可能になる。


◎小林武参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

 水野 賢一君(自民)

  • 憲法については、その掲げる理念の充実及び明確化のため、あるいは時代に合わせるため、改正していくのが妥当である。特に、国民から認知されている自衛隊の存在や武力による自衛権の行使については、憲法を現実に合わせるよう改正するのが自然なのではないか。
  • 参考人は、憲法がどのような形で自衛権の発動を認めていると考えているのか。
  • 芦田修正は自衛のための戦力の保持を認める趣旨で行われたと評されているが、この芦田修正についてどのように考えるか。
  • 平和的手段による国際貢献とは、具体的にどのようなものか。また、平和的手段による国際貢献を行う旨憲法に明記すべきではないか。
 

前原 誠司君(民主)

  • 日本が自衛権を有しているという参考人の見解は、9条の解釈から導き出されるものか、それとも主権国家の有する自然権から導き出されるものか。
  • 武力を伴わない自衛権の行使とは、具体的にどのようなものか。
  • 非暴力・不服従を貫くことでは、国民の生命・財産を守るという政治の責任が果たせないと思うが、いかがか。
  • 9条にあまりに忠実であるがために、憲法体制自体を崩壊させることがあるのではないか。

太田 昭宏君(公明)

  • 憲法判断についての司法消極主義という閉塞状況の打破のため憲法裁判所を設置するということについて、どのように考えるか。
  • 21世紀への未来志向の中で、生命・生態系への広がりを重視した環境権等は、13条や25条からは読み取れないのではないか。

藤島 正之君(自由)

  • 自衛隊の存在は合憲と解するが、解釈の違いにより違憲とする者もいる。解釈の余地をなくすために改憲するべきと考えるが、いかがか。
  • 参考人は、日米安全保障条約は憲法に反すると考えるのか。

山口 富男君(共産)

  • 参考人は、自衛隊を憲法に適合する非軍事的存在に転換させる「憲法政策」が21世紀中に実現すると考えるか。
  • 9条が世界的に評価されている理由及び25条が先進的であるという理由は何か。
  • 環境権等の新しい人権は現行憲法の規定でも裏付けられるか。
  • 参考人は、96条の改正手続に関し国民投票を削ることは改正の限界を超えるためできないと主張するが、そこにいう憲法改正の限界とは何か。

横光 克彦君(社民)

  • 憲法の掲げる平和主義の理念と現実との乖離を埋める方策として、「平和基本法」を制定すべきと考えるが、いかがか。
  • 前文中の国際社会における「名誉ある地位」とは、どのようなものと考えるか。
  • 我が国は、非軍事の国際貢献だけで「名誉ある地位」を占めることができると考えるか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 環境権、男女共同参画等憲法が現実社会に合わせるべき部分もあるのではないか。
  • 「押しつけ」憲法論について、どのように評価しているか。
  • GHQによる検閲等制定当初から憲法の規定する内容と現実が合致していないという問題があったのではないか。

松浪 健四郎君(保守)

  • イラクによるクウェート侵攻、旧ソ連によるアフガニスタン侵攻及びインドとパキスタンの核兵器開発競争について、どのような感想を持っているか。
  • 参考人は、言論の自由及び学問の自由が保障されていると実感しているか。
  • 私学助成制度は、89条の規定に照らして違反しているのではないか。