平成12年11月30日(木)(第5回)

◎会議に付した案件

 日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

  上記の件について参考人石原慎太郎君及び櫻井よしこ君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

  東京都知事      石原 慎太郎君

  ジャーナリスト    櫻井 よしこ君


(石原慎太郎参考人に対する質疑者)

  柳澤 伯夫君(自民)

  島  聡君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  武山 百合子君(自由)

  山口 富男君(共産)

  阿部 知子君(社民)

  近藤 基彦君(21クラブ)

  小池 百合子君(保守)


(櫻井よしこ参考人に対する質疑者)

  高市 早苗君(自民)

  枝野 幸男君(民主)

  江田 康幸君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  山口 わか子君(社民)

  近藤 基彦君(21クラブ)

  小池 百合子君(保守)


◎石原慎太郎参考人の意見陳述の要点

はじめに

 最近の我が国やヨーロッパの動きを見てみると、戦争の惨禍を受けた国民が主体性を取り戻すためには50年を要するというのが、歴史の必然かもしれない。

1.日本国憲法は「マッカーサー憲法」から「平和憲法」と称されるようになってから一つの理念の象徴となり、国民はその理念が現実であるとの錯覚に陥っている。これは非常に危ういことである。  

2.憲法制定の経緯、さらにはそれ以前の日本及び世界の近代史を振り返って、どういう意図をもって、誰が主体となって日本国憲法が作られたかを正確に認識しなければならない。

3.それぞれの国家、民族は個性を持ち、それを発揮しようと互いに競争をしている。そして、自己決定能力(自主性)を喪失した国家は、崩壊する。

4.アメリカは日本の力を恐れ、その力を抑制するために日本国憲法を作った。そこには日本人の意思、自主性は、ほとんど反映されていない。

5.国民の代表機関である国会は、日本国憲法には歴史的正統性がないとしてこれを「否定」する決議をし、その上で、新たな憲法を作る仕事に着手するべきである。


◎石原慎太郎参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

柳澤 伯夫君(自民)

  • 参考人は、9条改正、外国人の地方参政権等に関し、国会議員であったときと現在とでその考えを変えたのか。
  • 参考人は、日米安保条約を、集団的自衛権を強化する方向で変えていくべきと考えるか、あるいは、それをアジアの地域的集団安全保障体制に発展させていくべきと考えるか。

島  聡君(民主)

  • 地方分権を推進するに当たり、地方と中央の役割分担はどうあるべきか。
  • 我が国を将来的に連邦型国家とし、地方政府に広範な法律制定権、課税権を与えるべきと考えるが、いかがか。
  • 現行の議院内閣制を改め、首相公選制を導入すべきと考えるが、いかがか。

赤松 正雄君(公明)

  • 参考人は、国会議員として永年在職の表彰を受けた際の謝辞の中で、「政治の在り方に失望した」として議員辞職を表明されたが、その「失望」は今も変わらないか。
  • 中江兆民の『三酔人経綸問答』で示されている、理想主義、穏健的現実主義、パワーポリティックスのうち、参考人は、どの立場をとるのか。

武山 百合子君(自由)

  • 参議院議員通常選挙に全国区から立候補して当選した経験のある参考人は、全国区をどう評価しているか。
  • 参考人は、現行憲法が今までなぜ改正されてこなかったと考えているか。
  • 学校教育では、歴史教育において近代史以降がきちんと教えられていないように思うが、いかがか。

山口 富男君(共産)

  • 現行憲法の前文は、世界の平和やアジアの平和のための拠りどころになると思うが、いかがか。
  • 参考人は、かつてその主宰する「黎明の会」が作成した改憲案において、9条の全面改正を主張していたが、これは今でも変わらないか。
  • 9条の理念を世界中に広めようという運動が各国で起こっているが、これをどう評価するか。

阿部 知子君(社民)

  • 現行憲法は、制定時から国民の支持を得ていたと考えている。また、公布に当たっての天皇の勅語にも憲法を正しく運用していく旨の決意が述べられている。これらについて、参考人はどう考えているのか。
  • 参考人は、我が国が直面している領土問題を武力で解決すべきと考えているか。また、このために徴兵制が必要と考えているか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 憲法について、国民に対する啓蒙活動が必要と思うが、そのための効果的な方法としてどのようなことが考えられるか。
  • 現行憲法をいったん「否定」して考え直すというのは、憲法のすべてを「否定」するという意味と理解してよいか。

小池 百合子君(保守)

  • 領土に関する我が国の意識は希薄であると考えるが、いかがか。
  • 今後の我が国の国家戦略に必要なものは、何か。

◎櫻井よしこ参考人の意見陳述の要点

1.日本をとりまく国際環境の変化

(1)国際社会の価値観の二重構造
  • 21世紀は人類の普遍的価値と国益の交錯する時代である。コソボ紛争を例にとると、21世紀の国際社会においては圧政や人権問題が一国の内政問題では済まなくなっている。一方、他国への人道的介入に際しては、自国の国益を考慮せざるを得ないという現実もある。
  • 21世紀の日本に求められていることは、国境を越え、一人一人の人間を大事にする価値観であり、例えば、チベット問題について中国に問いただすことなど、人道問題を政治に反映させるべきである。
(2)米国の変化と日本の試練
  • 本年10月に共和党、民主党の両ブレーンにより発表された「日米の成熟したパートナーシップに向けて」によれば、21世紀の日米関係の妨げとして、日本が集団的自衛権の行使を認めていないことを挙げている。日本は米国に対し、米英関係のように対等な立場で役割を分担していくべきである。

2.考える能力をもつ国民の育成(情報の把握/分析/公開―満州事変から薬害エイズまで)

  • 日本は、これまで国民が情報を取得することによって、自ら考え、議論する能力を育んでこなかった。満州事変から薬害エイズに至るまで、情報が歪められることにより、国民が惑わされ、過ちを招いた。また、現行憲法の制定においても国民は十分な情報を得ることができなかった。情報は国民の考える能力を引き出す道具であるため、情報公開について憲法に書き加えるべきである。

3.世界のために役立つ日本

(1)環境政策
  • 21世紀は軍事力、経済力といったハードパワーでなく、情報の発信、国際世論の喚起といったソフトパワーが重要となる時代である。日本が世界に対し、最もソフトパワーを発揮しうる分野は環境政策であり、国際社会において環境面でなしうることを率先して行っていくべきである。
(2)外国人との共存
  • 外国人に「やさしい」政治という観点から、日本は難民の受入れなどを積極的に行うべきである。

4.日本の姿を知る

  • 過去の戦争に対する反省と冷静な分析が必要である。
  • 憲法は国の土台であり、国民が一緒に議論する必要がある。「日米の成熟したパートナーシップに向けて」が訴えているのは日本の憲法改正であるが、再び外国の圧力で憲法改正を行うことのないように、あらゆる情報を国民に提供し、透明、公正なプロセスで議論を進めて欲しい。

◎櫻井よしこ参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

高市 早苗君(自民)

  • 憲法の議論をするに当たって、国の役割は、主権、国益、国民の生命、財産を守ることであり、他方、国民は自由だけでなく責任を自覚することが必要であるとの認識に立つべきである。また、「平等」の意味は、「結果の平等」ではなく「機会の平等」であると考えるべきである。このような私見に対する感想を伺いたい。
  • たとえ国外であっても、国家は、紛争に巻き込まれた邦人の救出活動を行うべきである。憲法や自衛隊法がその支障となっているのなら、改めるべきと思うが、いかがか。
  • 永住外国人に参政権を認める考えについて、どう思うか。
  • 憲法には、国民の義務の規定が少なく、権利の主張が目立つ。行き過ぎた権利主張を制限するため、人権の制約根拠である「公共の福祉」の内容をもっと明確にする必要があると思うが、いかがか。

枝野 幸男君(民主)

  • 中国政府がチベットに対して圧政を行っている現状を踏まえれば、中国に対するODAを中止するぐらいの措置をとるべきと思うが、いかがか。
  • 台湾に対する日本の外交政策をどう評価しているか。
  • 仮に、人道的立場からの軍事的介入を容認する立場に立つとしても、我が国は、それ以前の問題として、まず外交姿勢を改めるべきではないか。例えば、チベット問題、台湾問題等について中国政府の言いなりになっているような外交姿勢は改める必要がある。
  • 参考人は、日米関係は米英関係と同じように両国の対等性に基づくべきであるとの考えだが、その対等性は、どのような面で実現できると考えるのか。

江田 康幸君(公明)

  • 過去において、富国強兵や経済大国の実現という「手段としての教育」が行われた。しかし、今後は、「目的としての教育」を目指していくべきと考えるが、教育基本法の見直しについて、どのように考えるか。
  • 開かれた民主主義国家の実現という見地から、永住外国人に対する参政権付与について、どのように考えるか。
     

藤島 正之君(自由)

  • アジアの安定を図るためには、日米が対等に付き合っていく必要があるのではないか。
  • 中国及び朝鮮半島の動向について、どのように考えるか。
  • 「集団的自衛権を有するが、行使はできない」とする内閣法制局の見解について、どのように考えるか。

春名 直章君(共産)

  • 南北朝鮮の歴史的な和解がなされる等、アジアは危機的な状況ではなく平和に向けた流れの中にあるのでないか。また、そのような流れを促進する外交努力こそ、なされるべきではないか。
  • 9条の改正よりも、侵略戦争の反省とその補償を優先すべきではないか。また、周辺事態法等について、アジア諸国の反発が強いが、9条を堅持していくことこそ、アジアの平和に資するのではないか。
  • 我が国は平和主義を推進していくべきであり、平和主義を徹底する9条は、世界史的な意義を持っているのではないか。

山口 わか子君(社民)

  • 戦争の悲惨な体験をした者としては、再びこのような過ちを繰り返すことのないよう、平和主義を掲げた現行憲法を守り、平和を推進していくべきであると考えるが、いかがか。
  • 憲法と現実との乖離は、憲法に掲げられた理念に適った法律の制定や政策の実行がなされていないことに問題があると考えるが、いかがか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 改憲を主張する理由として、憲法と現実との乖離を重視するのか、それとも「押しつけ」の事実を重視するのか。
  • 国民的な憲法論議を引き起こすための手段として、どのようなものが考えられるか。

小池 百合子君(保守)

  • 日米関係及び米英関係の歴史及び取り巻く環境等の差違にかんがみれば、日米関係を米英関係的なものに改めるべきとする参考人の主張の実現には時間がかかるのではないかと考える。参考人は、その実現のための課題はどのようなものと考えるか。
  • 国家戦略を構築するシステムの確立が重要であると考えるが、そのためのインフラ整備としてどのようなことが考えられるか。