平成12年12月7日(木)(第6回)

◎会議に付した案件

 日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

  上記の件について参考人松本健一君及び渡部昇一君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

  評論家・麗澤大学教授    松本 健一君

  上智大学教授        渡部 昇一君


(松本健一参考人に対する質疑者)

  平沢 勝栄君(自民)

  中野 寛成君(民主)

  赤松 正雄君(公明)

  武山 百合子君(自由)

  山口 富 男君(共産)

  日森 文尋君(社民)

  宇田川 芳雄君(21クラブ)

  小池 百合子君(保守)


(渡部昇一参考人に対する質疑者)

  田中 眞紀子君(自民)

  牧野 聖修君(民主)

  太田 昭宏君(公明)

  達増 拓也君(自由)

  春名 直章君(共産)

  辻元 清美君(社民)

  宇田川 芳雄君(21クラブ)

  小池 百合子君(保守)


◎松本健一参考人の意見陳述の要点

はじめに

日本は、これまで、幕末・維新期の「第一の開国」、太平洋戦争の敗戦時の「第二の開国」を経験し、現在は「第三の開国」期にある。

1.じぶんの国はじぶんで守る

  • 「第三の開国」期において、世界では、冷戦の終了により東西両陣営による対立の構図が消滅し、また、人・モノ・カネ・情報が国境を越えて相互に行き交うグローバリゼーションが進展している。このような状況下においては、「じぶんの国はじぶんで守る」ことなくしては、世界史の中で、独自の存在を維持し、自国の国土、文化、歴史等を守っていくことが困難になっている。

2.ナショナル・アイデンティティの再構築

  • 「じぶんの国はじぶんで守る」ために、「じぶんの国」とは何か、すなわち、ナショナル・アイデンティティを、軍事力、経済力によってではなく、文化を主体として再構築する必要がある。
  • 例えば、台湾及び中国において新たな歴史教育が試みられているように、世界各国でも、ナショナル・アイデンティティの再構築が行われつつある。

3.「国民憲法」

  • 「第三の開国」期である今日、「じぶんの国はじぶんで守る」という国民意思の上に立った「国民憲法」を新たに制定すべきである。
  • 自衛隊は憲法に違反しているので、まやかしはやめて、9条に第3項を設けて、自衛軍の保持を明記すべきである。

4.首相公選、もしくは国民投票制

  • 首相公選制、ナショナル・アイデンティティの根幹にかかわるような重大な事項に関する国民投票制は、国内の対立を助長し、衆愚政治に陥る危険性も有しているが、国民自身が政治的な責任を認識し、政治に関心を持つという利点を有しているので、憲法において制度化するべきである。

5.天皇制との関係

  • 象徴天皇制は、権力から切り離された日本独自の文化システムである。
  • 首相公選制の導入は、大統領的首相の出現を招き、天皇制に抵触するとの主張もあるが、天皇は一切の権力から離れた文化的象徴であるべきであるから、その主張は当たらない。


◎松本健一参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

平沢 勝栄君(自民)

  • 参考人の言う「ナショナル・アイデンティティ」を培っていくには、どうしたらよいか。
  • 参考人は、天皇は政治権力からは完全に切り離し、文化的な権威、象徴としての存在であるべきとの考えだが、天皇による外交等もなるべく制限的であるべきとの考えか。天皇が頻繁に外出や発言をすることを通じて、国民との間の垣根を低くしようとする姿勢と、そのようなことは極力慎む姿勢とでは、どちらが好ましいと考えるか。
  • 参考人は、首相公選制の導入を主張しているが、議院内閣制との関係をどのように整理するのか。
  • 永住外国人に地方参政権を認める考えをどう思うか。
  • 教育基本法の改正を含めて、これからの教育の在り方について所見を伺いたい。

中野 寛成君(民主)

  • EUの超国家理念に見られるような“国際協調主義”と「ナショナル・アイデンティティ」の確立を目指すという“国家主義”との交錯をどのように考えるか。
  • 首相公選制を導入した場合、天皇は元首ではないということか。その場合、天皇の権威と権力の関係はどう理解すべきか。

赤松 正雄君(公明)

  • 参考人が指摘する「日本国憲法の制度疲労」とは、どのような点で見受けられるのか。
  • 私見では、集団的自衛権は認めるべきでないが、国連等を中心とした集団安全保障への参加については憲法に書き込んだ方がいいと考えている。参考人は、これらの点についてどう思うか。
  • 「ナショナル・アイデンティティ」、愛国心と地球レベルでの協調性との関係をどう理解するか。
  • 参考人は明治維新から現在までの歴史を「三つの開国」という概念で区分しているが、このように明確に区分をすることは困難ではないか。

武山 百合子君(自由)

  • 前回の参考人である石原慎太郎東京都知事は、「マッカーサー憲法」を否定し、新たな憲法を制定すべきであると主張していたが、参考人は新憲法を制定することと、現行憲法を改正することのどちらが望ましいと考えるか。
  • これからの憲法を議論する際、日本の歴史の確認をする必要があると考えるが、いかがか。
  • 「各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議」という現行の憲法改正手続の下で、憲法改正が可能であると考えるか。自由党の新憲法草案では「過半数の賛成による発議」に改めるものとしているが、参考人はどう思うか。
  • 国際貢献について、これまでの日本は経済面での貢献が主であったが、今後、どのような役割を果たすべきと考えるか。

山口 富男君(共産)

  • 南北朝鮮の対話、東南アジア非核地帯条約等のように、アジアで平和を求める動きが進行している状況を踏まえれば、9条に自衛軍の保持を明記するという参考人の考えは不適切であり、9条を完全実施する途をとるべきではないか。
  • 参考人の言う「第三の開国」の認識において、途上国に対する公平・平等な経済環境の確立、貧困格差の是正、地球環境の保護等をどのように位置付けるのか。
  • 参考人は「国民主権の明確化」を主張するが、国民主権に反するどのような現状があると認識しているのか。

日森 文尋君(社民)

  • 最近の教育においては、歴史を歪めて教えようという動きがあると思われるが、参考人はどう思うか。
  • 日本国憲法の「平和主義」を、日本の「ナショナル・アイデンティティ」とすべきではないのか。
  • 参考人は9条を改正して自衛軍の保持を規定すべきとの考えであるが、アジア諸国に対しては逆効果となるのではないか。

宇田川 芳雄君(21クラブ)

  • 首相公選制を導入すべきという参考人の考えに賛成であるが、首相公選制の長所、短所をどのように考えるか。
  • 私見では、首相の権限を強くするべきであると考えるが、首相公選制を導入するとしても、議院内閣制との関係を整理しなければ、首相の権限が制約されるのではないか。
  • 国民投票の実施には賛成であるが、国民投票を制度として憲法や法律に規定することは、議会制民主主義と矛盾するのではないか。

小池 百合子君(保守)

  • 「アイデンティティ」という言葉を適切な日本語で表現すると、どのように表現できるのか。
  • 若い人には自分の国を守るという気概がないのは、何に原因があると考えるか。
  • 首相公選制がポピュリズム(大衆迎合主義)になることを防ぐため、例えば、国会議員30人の推薦を立候補の条件とすることについて、どう思うか。また、首相公選制を導入した場合、国家元首は天皇になるのか、首相になるのか。

◎渡部昇一参考人の意見陳述の要点

1.戦前の日本の反省点

  •  戦前の日本は、有色人種として初めての自主憲法たる大日本帝国憲法の下、近代化及び民主化の道を着実に歩んでいた。
  • しかし、共産主義革命たるロシア革命の影響を受けた「右翼(という名の左翼)」や軍部、官僚の台頭により、次第に国家社会主義的風潮を強め、自由主義と敵対することとなった結果、破綻した。

2.戦後の日本の反省点

  •  戦後の日本は、重工業を中心に発展を遂げ、アメリカをしのぐ経済大国となった。
  • しかし、官僚組織が私有財産制を軽視し、社会主義的政策を続けたことが原因となって、冷戦構造崩壊後の自由市場の展開の中で、日本経済は破綻した。

3.明るい将来のための道

  •  我が国は、二度にわたる失敗の反省に立って、私有財産制の廃止、相続権の廃止、生産・流通手段の国有化といった「マルクス主義」のマインドコントロールから脱却すべきである。
  • 私有財産を守るためには、適切な税制が必要である。具体的には、相続税を全廃し、遺留分を廃止し、所得税を一律10%にすべきである。
  • 税制を改革することにより、人、カネ、モノ、情報等が集まり、国家運営を有利に進めることができる。

4.明るい将来のための憲法

  •  私有財産が守られることを世界に明らかにするため、税率の上限を憲法に規定すべきである。

◎渡部昇一参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

田中 眞紀子君(自民)

  • 参考人は、内閣総理大臣の職務権限の範囲及び職務権限を効率よく行使するための方策について、それぞれどのように考えるか。
  • 内閣総理大臣に大統領的な権限を与えるよう内閣法を改正すべきとする意見について、どのように考えるか。
  • 天皇制を存続させていくことについて、どう考えるか。
  • 参考人は、9条についてどのような認識を持っているか。

牧野 聖修君(民主)

  • 現在の閉塞状況を打破するためには、自己責任、自助努力や効率を求めるだけでは無理であって、やはり一定の規制・保護と自由競争とのバランスのとれた政策が必要なのではないか。
  • 効率万能主義だけを求めた結果、昨今の企業や医療現場での不祥事が引き起こされていると考えるが、いかがか。
  • 参考人は、今後、我が国の教育はどうあるべきだと考えるか。

太田 昭宏君(公明)

  • 日本の軍国主義への傾斜を止めることができなかった大日本帝国憲法には、どのような欠陥があったのか。また、統帥権を有する天皇は、大日本帝国憲法以前の天皇制の在り方と異なるのか。さらに、日本が「侵略」を始めた時期についての参考人の認識を伺いたい。
  • 市場改革の論議がアメリカ主導の下に進んでいる今日の経済情勢において、日本のアイデンティティーを確保する観点から、所得格差是正のためのセーフティーネットを設ける等経済に係る仕組み自体を変革させる必要があるのではないか。

達増 拓也君(自由)

  • 減税こそ財政再建の決め手になるのではないか。
  • 現行憲法は20世紀的なものであり、21世紀を展望するに当たっては、国際化、情報化等を考慮した憲法を志向すべきであると考えるが、いかがか。
  • 日本人のこころの在り方、文化・伝統、教育問題等については、国が一定の方向性を示すべきと考えるが、いかがか。

春名 直章君(共産)

  • 戦前の日本について反省すべきことは、侵略戦争を行ったことであり、専制支配を行ったことでないか。また、戦争の違法化の歴史の先端にある9条の方向に日本が進むことが、21世紀の道を切り開くのではないか。
  • 税制問題を憲法に照らして考える場合、憲法のどの点に着目して考えるべきか。
  • 「金持ち優遇」税制等の税負担に係る不平等の解消が必要なのではないか。また、参考人が主張する税の定率化は、いっそう逆進性を促進するのではないか。
  • 徴収された税の使途の不透明性、無駄遣いの問題等税制のゆがみについて、どのように考えるか。

辻元 清美君(社民)

  • 経済のグローバリゼーションについては、そのプラス面及びマイナス面を認識した上で、的確に把握する必要があると思うが、いかがか。
  • 「大きな政府」か「小さな政府」かという対立は言い換えれば「公助」と「自助」のいずれの仕組みがよいかという対立であるが、今後は、そのいずれとも異なる「共助」という発想が重要になると思う。これについて、参考人はどう考えるか。
  • 環境保護の観点から、地球全体のキャパシティを考慮した経済政策が必要であると思うが、いかがか。

宇田川 芳雄君(21クラブ)

  • 日本国憲法はさまざまな自由を保障しているが、参考人が、最も重要と考える自由、あるいは他に必要であると考える自由は何か。
  • 農地や中小企業の円滑な承継を阻害している税制の改革について、参考人の所見を伺いたい。

小池 百合子君(保守)

  • 英語の公用語化について、参考人の所見を伺いたい。
  • マスコミは国民に伝えるべきことを伝えず、逆に国民をマインドコントロールしようとしているように思うが、いかがか。
  • 日本人が戦略的思考を持てるようにするためのインフラ整備として、何が必要と考えるか。