平成12年12月21日(木)(第7回)

◎会議に付した案件

1.日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

  上記の件について参考人村上陽一郎君から意見を聴取した後、質疑を行った。

(参考人)

  国際基督教大学教養学部教授 村上 陽一郎君  

(村上陽一郎参考人に対する質疑者)

  中山 太郎会長   

  水野 賢一君(自民)

  島   聡君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  塩田  晋君(自由)

  春名 直章君(共産)

  保坂 展人君(社民)

  近藤 基彦君(21クラブ)

  小池 百合子君(保守)

2.中山会長から本年中の調査会の経過について報告があった。


◎村上陽一郎参考人の意見陳述の要点

はじめに

私は、知的な営みである「科学」とそうではない「技術、工学」という二つの概念を峻別する立場から、意見を申し述べたい。

1.近代日本における科学・技術

  • 19世紀後半、日本は、欧米と歩調を合わせる形で大学に理学部を設け、科学を制度化したのみならず、欧米に先んじる形で技術、工学を大学教育に取り入れた。
  • 日本は、欧米のように技術、工学に対する偏見を持たず、過去150年間、これを国家建設の柱としてきた。

2.現代世界における科学研究の変化

  • 第二次世界大戦中からその直後にかけて、国家が科学研究の成果を軍事目的などに"exploit(搾取)"する現象が生じ、もともと技術とは無関係であった科学が、技術に接近し始めた。
  • 研究者の好奇心を拠り所に進められてきた科学研究と異なり、国家や企業から与えられた使命を達成する科学研究の成果は、社会の成員の生から死までのすべての局面に影響を与えることとなった。

3.科学・技術の観点から21世紀日本の社会が目指すべき方向

  • 教育における文科系と理科系の分類を改め、人間や社会に対する洞察力と、科学や技術の可能性や本質についての洞察力の双方を養うようにするべきである。
  • 社会に浸透する科学や技術の成果に関し十分な情報を公衆に開示することによって、社会の成員が自己の意思で判断・行動するに当たってその基礎となる情報が常に十分に提供される「情報社会」を目指すべきである。
  • 生命科学の進展にかんがみ、ドイツ基本法のように、憲法において、人間の尊厳の不可侵性を国家理念として基本的人権の前に規定すべきである。
  • 知に対する喜びを求める科学研究と社会や国家から請け負った使命を達成する科学研究を区別し、その双方に対して十分な配慮をするべきである。その際、従来から技術に対する配慮が厚かった日本においては、前者の科学研究を重視するべきである。

◎村上陽一郎参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

中山 太郎会長

  • 20世紀において科学技術の進歩はさまざまな形で人類社会に影響を及ぼしたが、その中で人類が受けた恩恵とはどのようなものか。また、科学技術の進歩が未来の人類にもたらす影響はどのようなものか。さらに、科学技術の進歩による負の側面とそれへの対応をいかに考えるか。
  • 科学技術と人類の安全の関係、人間の尊厳と学問の自由の関係をいかに考えるか。また、生命科学の進展に伴う社会の価値観の変化を、国家がどこまで規制できると考えるか。さらに、国際社会に対し科学技術的側面において日本が負うべき責務とは、どのようなものか。
  • 我が国の新しい教育制度は、いかにあるべきか。

水野 賢一君(自民)

  • 参考人は、現在の科学技術庁をどのように評価しているか。また、来年の初頭に行われる省庁再編により発足する文部科学省に対してどのような期待をしているか。
  • 21世紀において政府は、科学技術のどのような分野に重点を置くべきと考えるか。
  • 地球環境を保護していくためには、環境保護に関する科学技術研究の推進と現代の文化の質的転換が必要だということであるが、科学技術によって解決し得る環境保護の分野とは何か。
  • 21世紀の科学技術発展のため、現行の法体系で改めるべき点はあるか。また、科学技術の濫用防止のためには、どのような規制が必要であると考えるか。

島   聡君(民主)

  • 「環境権」を「人間を含むすべての生命にとっての権利」として憲法に規定すべきと考えるが、いかがか。
  • スイス憲法には「人間は、これを生殖医学及び遺伝子技術の濫用から保護する」と規定されているが、この場合の「濫用」として、どのようなことが予想されるか。
  • 「知る権利」についても憲法に明文の規定を設けるべきであると考えるが、その場合、「知る権利」と秘密保護の関係をどのように規定すべきと考えるか。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 我が国では、欧米諸国のように技術や工学に対する偏見が持たれてこなかったことについて、その文化的背景は何か。また、それにもかかわらず、技術者が優遇されていないのはなぜか。
  • 科学技術の進歩と国力増進との関係について、参考人は、どう考えるか。
  • 科学技術分野の研究開発に対する評価は、どのように行われるべきと考えるか。

塩田  晋君(自由)

  • 我が国の大学教育や公務員制度においては、文科系と理科系がはっきりと区別され、固定化されているが、参考人は、これをどう評価しているか。
  • 文科系・理科系の枠を超えた総合的な教育の進め方は、どうあるべきと考えるか。

春名 直章君(共産)

  • 科学研究及び技術開発は平和目的のものに限定すべきであると思うが、いかがか。
  • 現憲法の平和主義は科学技術の平和利用原則を根拠づけるものとして重要であり、21世紀の科学技術の進むべき方向を示していると思うが、いかがか。

保坂 展人君(社民)

  • 現憲法が戦後の科学技術の発展のために果たした役割は何か。
  • 教育現場において過剰な調和精神が植え付けられている日本では、知的好奇心を発揮し、周囲の批判に屈せず独自の研究を重んじる若い研究者が育ちにくいのではないか。
  • 交通事故や医薬副作用の原因究明等、人の安全に関する科学技術研究の必要性について参考人の所見を伺いたい。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 東京大学が、欧米の大学に遅れることなく、設立当時から理学部を設置するに至った理由は何か。また、当時そこでなされた研究はどのようなものであったか。
  • 日本の科学研究は伝統的に基礎研究が弱いと思うが、今後重要となる環境問題に関しては基礎研究こそ重要ではないか。
  • 高校2年生の段階で文科系又は理科系に進路が分かれる現在の教育システムについてどう考えるか。

小池 百合子君(保守)

  • 省庁再編により文部省と科学技術庁が文部科学省に統合されることは、どのような効果をもたらすか。
  • 基礎分野の研究を担う国立の研究所の今後の在り方についてどう考えるか。
  • 日本の科学界は、学閥、派閥等にとらわれていると思うが、いかがか。