◎会議に付した案件
1.幹事の辞任及び補欠選任
幹事 保岡興治君(自民)-高市早苗君委員辞任に伴いその補欠
同 新藤義孝君(自民)-幹事の各会派割当基準の変更に伴い選任(塩田晋君(自由)幹事辞任)
同 中川正春君(民主)-島聡君幹事辞任に伴いその補欠
同 斉藤鉄夫君(公明)-赤松正雄君委員辞任に伴いその補欠
2.参考人出頭要求に関する件
日本国憲法に関する件について、参考人から意見を聴取することに協議決定した。
3.日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)
上記の件について参考人西澤潤一君及び高橋進君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
岩手県立大学長 西澤 潤一君
東京大学教授 高橋 進君
(西澤潤一参考人に対する質疑者)
(高橋進参考人に対する質疑者)
◎西澤潤一参考人の意見陳述の要点
1.「個人主義」と「利己主義」の区別
- 本来、「個人主義」とは他者や社会全体に配慮することを当然の前提とするものであり、自己のことのみしか考えない「利己主義」とは異なるものである。しかるに、現在は利己主義が横行している。
- これは、現行憲法には権利の規定は多いが義務、責任の規定が少ないことにその一因があると思われる。そこで、憲法の前文に、国民各人が、各自の資質を伸ばし、自国のみならず他の国を良くしていく責任があることを明記すべきである。
2.科学技術の役割、課題
- 国防といえば、軍事による防衛がすぐ議論される傾向にあるが、21世紀は、科学技術の面における戦争が、国家間の争いとして決定的なものとなる。
- 現在では、科学技術が濫用され、人間に悪影響を与えるおそれがあるが、本来は、エジソンの電球、ワットの蒸気機関の発明のように、科学技術は、人間に役立つものであり、その根底にはヒューマニズムがある。
- サイエンスとヒューマニズムを一体化し、思いやりの心を持った研究・開発が必要である。
- 世界で誰もやっていない発明をして、人類に貢献するのが資源の乏しい日本の生きる道であるが、最近は、日本の研究はオリジナリティーがないと指摘されている。
- 白川英樹博士の研究のように目立たない研究が世界的に評価されたのは真に喜ばしいが、このような研究が、日本ではあまり注目されてこなかったことを我々は反省しなければならない。
- 限られた国の予算の中で効果的な研究開発を行うため、優れた研究に重点的に予算を配分する必要がある。そのためには、事後評価制度を確立することによって、優れた研究を正当に評価すること及び事前に正当に研究の価値を見抜くことができる能力を備えた「目利き」役を発掘することが重要である。
3.教育改革等
- 現在の教育現場は、教育が荒廃し始めた時代以降に教育を受けた世代が教師となっているため適正な教育を行う基礎が欠けており、また、個性を重視しすぎる教育の弊害が顕著であるので、教育改革が不可欠である。
- また、国民の能力を十分に活用するためには、高齢者を年齢によって差別することをやめなければいけない。
4.おわりに
- 国民一人一人の資質を伸ばしていき、「日本は良い国だ」と他国から尊敬されるような国になることを理想とすべきである。
◎西澤潤一参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等
葉梨 信行君(自民)
- 近年、学校での規律の乱れ、大学生の学力低下等、教育の荒廃が進んでいるが、教育の現状について、どのように考えるか。
- 教育には、いわゆる「読み・書き・そろばん」等のような基礎的な教育が必要ではないか。また、最近、文部科学省の懇談会が小学校から英語の授業を行うことを提言しているが、そうした場合、基礎的な教育がおろそかになるおそれはないのか。
筒井 信隆君(民主)
- 諸外国には、ポーランド憲法の「他者と連帯する義務」、インド憲法の「生物を慈しむ義務」等の規定がある。参考人は、社会に対する責任、義務といった規定を憲法に盛り込むべきと主張するが、このような規定を想定しているのか。
- 参考人は、安全保障は軍事に限らないと主張するが、軍事以外の安全保障とは、具体的にどのようなことを指すか。
- 憲法に科学技術に関する規定を設ける場合、国家が科学を奨励する観点と国民の権利を保障する観点の双方について、規定すべきと考えるか。
- エネルギー問題に関して、遠距離送電のような大規模施設の開発よりも、太陽電池等の自然エネルギーの利用を推し進めるべきではないか。
斉藤 鉄夫君(公明)
- 科学技術振興において国家が果たす役割についてどのように考えるか。
- 我が国の科学技術を振興する体制の整備において、大学改革が大きな課題であると考えるが、いかがか。
- 高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開等のエネルギーをめぐる問題について、いかなる意見を持つか。また、国際熱核融合炉(ITER)の誘致について、いかに考えるか。
藤島 正之君(自由)
- 参考人の主張する「利己主義」から「個人主義」への転換を図るためには、今後、何をすべきか。
- 科学技術の発展のためには、研究の事後評価制度の確立よりも、多少の無駄があっても多くの投資をした方がいいのではないのか。
- 参考人は、高齢を理由とする差別をやめるべきと主張するが、他方、若い人の発明や発見の力を伸ばすことも考慮すべきではないのか。
塩川 鉄也君(共産)
- 23条は学問の自由を保障しているが、大学における自由な研究を行う上で、憲法の規定と現実の政策とのギャップをどのように感じているか。また、現在、研究者にとって、研究に良好な環境が提供されていると言えるのか。
- 憲法の平和主義に照らし、科学者は科学技術を非軍事の方向で利用することに努力する必要があると思うが、いかがか。
金子 哲夫君(社民)
- 最近の教育の荒廃や若者による凶悪犯罪の増加は、まじめに働くことを軽視し、株や土地への投資に狂奔したバブル経済についての反省を大人がしていないことに一因があると思うが、いかがか。
- 今後は、一度事故を起こすと数世代先まで影響を及ぼす原子力エネルギーを推進するよりも、代替エネルギーの開発に力を注ぐべきではないのか。
小池 百合子君(保守)
- 文系と理系とをはっきり区別させる現在の大学受験制度では、社会人にとって必要な知識を十分に学ぶことができず、見直す必要があると思うが、いかがか。
- 今の教育では、考える力を養うことについて軽視しがちであると思うが、いかがか。
近藤 基彦君(21クラブ)
- プルサーマル(MOX軽水炉利用)について、どのような見解をお持ちか。
- 将来的には、代替となるエネルギーがあれば原子力発電は無くなった方がいいと思うが、今後、開発余地のある自然エネルギーは何か。また、国内である程度賄えるエネルギーは何か。
◎高橋進参考人の意見陳述の要点
はじめに(最近の西欧政治の特徴)
- 近年、西欧では、「政治の実験」と称される現象が起きている。その特徴として、(1)中道左派政権の樹立、(2)機会の平等の重視、市場原理主義への批判等を内容とする「第三の道」を求める理念論争の活発化、(3)EUの深化(=統合現象)と拡大(=加盟国の増大)、(4)グローバリゼーションへの対応が挙げられる。
1.グローバリゼーションとは
- グローバリゼーションの定義は未だ明確でなく、ハイパー・グローバリスト、懐疑派、変容派がそれぞれの意味において使用しているため、議論が混迷している。そこで、ここでは、「政治、経済、文化、通信、アイデンティティー等の様々な分野において地球レベルでの相互連関が強化されていく現象」をいうものとする。
2.グローバリゼーションと国家
(1)国家の変容- グローバリゼーションが進展する中においても、国家は、依然として存在し続ける。ただし、その果たすべき役割は、グローバリゼーションの民主主義的なコントロール、多国間主義の重視等の観点からの調整という手続的なものに変容していく。
- 政治の場面においては、グローバリゼーションを積極的に肯定する勢力からこれを否定する勢力に至るまで、諸勢力が入り乱れている。
- イギリス:グローバリゼーション推進の観点から、市場志向の道をたどる。
- オランダ:合意を重視する歴史的背景から、労働条件の柔軟化が図られる。
- フランス:国家主義の伝統が依然として強く残る。
- スウェーデン:グローバリゼーションと社会福祉とをつなぐ道を模索している。
3.マルチ・レベル・ガヴァナンス
(1)地域主義- EU及びアジア地域では、ロー・ポリティクスの強化を基軸とした“region(諸国家間の新たな共通項を見出す人為的かつ創造的空間)”の形成が図られてきた。
- EU圏においては、EU、中央政府及び地方の三層構造が主流となっており、それぞれの役割分担及び組合せが今後の課題となってくる。
おわりに
(1)「国家のかたち」と「グローバル化した世界のかたち」- 国家及び世界の将来像を模索する際には、国家をどうするかを考えた上で、どのような世界としていくかについて主体的に関わっていくことが重要である。
- 今後、社会間の関係強化が図られていくと考えられるが、地球的市民社会が直ちに形成されるわけではなく、そこに至るまで多くの問題を抱えることになるだろう。
◎高橋進参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等
下村 博文君(自民)
- 参考人は、最近の米国とEUとの関係を、地政学的観点からどのように分析しているか。また、「グローバル・スタンダード」について、米国とEUでは理解の仕方が異なるのではないか。
- グローバリゼーションが進む中、国連の存在とその機能の拡大が重要になると思うが、いかがか。
- 日本とドイツの憲法を比較した場合、両国が置かれた戦後環境の違いを考慮に入れても、我が国の憲法は時代の変化に対応していないと思うが、いかがか。
- グローバリゼーションに対応する西欧の政治的流れと比較して、我が国政治には、グローバリゼーションの中でも変わらない特殊性、普遍性があると思うが、いかがか。
- 我が国が東アジアにおいてマルチ・レベル・ガヴァナンスの方向性を打ち出すには、どのようなことがポイントになると考えるか。
枝野 幸男君(民主)
- キリスト教やローマ文明は、EUの形成にどの程度の影響を及ぼしているか。
- 欧州ではほぼ同じような国が集まってEUを形成しているが、アジアにおいては中国と他の国の格差があり過ぎるため、EUのようなものを形成するのは困難を極めると思うが、いかがか。
- イギリス、ドイツ、イタリアの各地域とEUの関係は、どのようなものか。
- EUの形成は、加盟国家の安全保障にどのような影響を及ぼしているか。また、欧州共通軍創設の可能性はどの程度あるか。
上田 勇君(公明)
- 「EUの深化」は、グローバリゼーションに逆行するものと捉えるべきか、それとも、グローバリゼーションへ向けての一段階と捉えるべきか。
- 欧州評議会やNATOなど従来から存在する機関とEUとは、どういう関係にあるのか。
- グローバリゼーションの中での日本の将来像を考えた場合、東アジア地域におけるリージョナリズムの下地はできつつあると考えるが、いかがか。
塩田 晋君(自由)
- 世界は、米国、欧州と東アジアという三極構造になりつつあると思うが、欧州のEUを中心とした将来構想と比べ、ASEANなどの東アジア地域の統合プロセスは、遅れているのではないか。
- 欧州のEUへの統合プロセスの中で、「ナショナル」の意識が薄れた結果、欧州の安全保障体制は、どのように変化していると考えられるか。また、EU加盟各国の外国人に対する地方参政権付与の制度は、拡大されていくと考えられるか。
春名 直章君(共産)
- グローバリゼーションがもたらした負の側面に対処するに当たっては、弱者保護、公平平等の精神が必要とされてくるのではないか。
- 日本国憲法前文の精神や恒久平和主義といったものこそ、グローバリゼーションの中で活かされていくべきと考えるが、いかがか。
山内 惠子君(社民)
- 北東アジア非核地帯構想等のように、9条の精神を活かして非核・非武装の平和外交を行うことについてどう考えるか。
- EU加盟各国のユーロ参加は単なる経済政策のみならず、安全保障政策でもあると思う。このようなEUの動きは、9条の精神とも共通するものではないのか。
小池 百合子君(保守)
- 個人や企業が、自己を守ってくれるか否かという観点で国を選ぶと言われる現在、日本国憲法はこのようなグローバリゼーション時代に耐えられるのか。
近藤 基彦君(21クラブ)
- EUが将来の加盟国の範囲として北アフリカ諸国まで視野に入れているとすれば、その他のアフリカ諸国がEU加盟国の支配を受けるような状況になりはしないか。
- 政治の世界のグローバリゼーションが進む中、日本は米国、欧州、東アジアのいずれに目を向けるべきと考えるか。