平成13年2月22日(木)(第2回)

◎会議に付した案件

1.委員派遣(地方公聴会)承認申請に関する件

 (派遣地) 宮城県 

 (派遣日) 平成13年4月16日(月)

2.日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

上記の件について参考人林ア良英君及び小川直宏君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

  理化学研究所ゲノム科学総合研究センター

  遺伝子構造・機能研究グループ

  プロジェクトディレクター           林ア 良英君

  日本大学人口研究所次長

  日本大学経済学部教授             小川 直宏君

(林ア良英参考人に対する質疑者)

  三ッ林 隆志君(自民)

  中川 正春君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  北川 れん子君(社民)

  近藤 基彦君(21クラブ)

(小川直宏参考人に対する質疑者)

  中山 太郎会長

  伊藤 公介君(自民)

  鹿野 道彦君(民主)

  上田  勇君(公明)

  塩田  晋君(自由)

  瀬古 由起子君(共産)

  原  陽子君(社民)

  小池 百合子君(保守)

  近藤 基彦君(21クラブ)


◎林ア良英参考人の意見陳述の要点

はじめに

意見を陳述するに先立って、若干の用語の解説をする

  • 「ゲノム」:生物が生活環(ライフサイクル)を営む上で必要な遺伝情報のすべて
  • 「cDNA」:遺伝子本体のコピー
  • 「タンパク質」:20種のアミノ酸が並んだもの
  • 「ゲノムシーケンス」:遺伝暗号である四つの塩基の並び
  • 「完全長cDNA」:タンパク質の合成が可能である完全な形のcDNA

1.ゲノム科学のこれまでの流れ

  • ゲノムシーケンスの研究は20世紀末から進んできたが、2001年2月、ゲノム科学史上画期的な二つの成果である「ヒトゲノムドラフトシーケンス」及び「マウス完全長cDNA」が発表された。このことを契機に、ライフサイエンスは次の時代を迎えたと言える。

2.加速と統合に向かうゲノム科学をベースとしたライフサイエンスの変貌

  • ゲノム科学はライフサイエンスのすべての基盤をなしており、創薬、食糧、環境などの各分野で各国の競争が激化している。また、ゲノム科学の進展は、学際的統合、産業領域の統合等をもたらした。そうした流れの中で、我が国は人材、社会経済構造の点で立ち遅れている。

3.教育行政

  • ライフサイエンスは多数の学問領域をカバーする科学知識と技術が必要な学際的分野であり、それらの学問領域をこなせる人材が必要である。しかし、我が国の現在の教育システムでは、そのような人材が育ちにくい。

4.特許行政

  • ゲノム科学は物ではなく、情報の価値を提供するが、DNAの塩基配列やタンパク質の3次元構造だけでは特許にならず、その有用性を証明しなければ特許と認めないという方針が打ち出されている。ただし、実験による実証をせず、コンピュータによる予測のみで有用性を認めるようなことがあってはならない。

5.技術開発の重要性

  • 「科学は技術の到達すべき水準を与え、技術は科学が到達できる水準を与える。」という原理原則に従い、技術開発は科学研究に先行してなされるべきであるが、現在のところDNAやタンパク質の解析技術の基本特許はほとんど米国から出願されている。米国の実例に学び、我が国でも研究分野の目標を質量ともに達成できるスペックを持つ技術を開発するため、国による研究施設の重点的センター化と投資が必要である。

6.次世代の科学行政

  • 国家として、ライフサイエンスに投資を行うことは正しい選択である。
  • 今後は、ゲノム、cDNA、タンパク質の主要生体構成分子の相互間関係(「遺伝子ネットワーク」)の解明に焦点が移る。よって、ライフサイエンスへの投資は、遺伝子ネットワークの解明を企業化応用研究につなげる最後の基礎投資になろう。

7.おわりに

  • 遺伝子ネットワークの解明は、国民の福祉向上に必ず役立つ。しかし、同時に、生命倫理の観点から、その成果の使用の仕方をきちんと考えなければならない。
  • ゲノム研究は、ヒト及びマウスに関しては、ゲノム、cDNA、タンパク質及びその最終的集合体である個体の網羅的な収集解析がそう遠くない時期に完成する。その後、どのような科学が求められるか、またそれを遂行するためのどのような行政、産業が求められるかをもう一度見直し、見据える時期が来たと痛感する。

◎林ア良英参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

三ッ林 隆志君(自民)

  • ゲノム科学研究の分野では、米国に差をつけられてしまったが、ポストゲノムの研究において我が国が勝ち抜くためにはどうすればよいか。
  • 遺伝子に関する情報を特許として認めることの問題点及びそれが基礎研究に与える影響は何か。
  • ヒトゲノム研究の推進と、生命倫理の立場からの人権の尊重との抵触についてどう考えるか。
  • スイス憲法には生命倫理に関する規定があるが、我が国において遺伝子に関する研究が憲法や法律で制限されることについてどう考えるか。
  • 我が国はゲノム科学研究の分野で出遅れてしまったが、今後の研究に関して、参考人は科学者としての立場から政治に何を望むか。

中川 正春君(民主)

  • ゲノム科学研究の分野で我が国が出遅れたと参考人が主張する理由は何か。また、次の人類共通の研究分野としてポストゲノム研究が挙げられるが、そこで我が国は遅れを取り戻せると考えるか。
  • 我が国においては、単なる遺伝子の機能の発見については、特許を認めるべきではないのではないか。
  • アイスランドでは、自国の民族の特質等に関する情報を一般企業に売って、データとして集積させることを国が決定したとして問題になっているが、このような国家の動きとプライバシーの関係についてどう考えるか。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 高度知識社会の出現が民主主義に及ぼす影響、例えば、ライフサイエンスの研究の必要性を納税者に理解してもらう上での問題点についてどう考えるか。
  • 日本人には、他人の研究に対して評価を下すことのリスクを避ける傾向があると考えるか。また、そうであるならば他人の研究を評価するシステムを作るべきではないか。
  • 過去に、「沈滞した研究所の典型」と言われた理化学研究所が、どのような改革の結果、現在、最先端の研究所とまで言われるようになったのか。

藤島 正之君(自由)

  • 参考人はゲノム解析における画期的な技術開発を成し遂げたが、このような技術開発はどのようにして可能となったか。その際、最も苦労した点は何か。また、今後、我が国がそのような技術開発を行い続けることは可能か。
  • ポストゲノムの分野で我が国が今後重視すべき領域はどこか。また、その領域における研究開発において、国の果たすべき役割はどういうものか。

春名 直章君(共産)

  • ゲノム研究の成果を人類共通の財産として役立てるため、ゲノム解析の結果を広く国民に公開するべきであると考えるが、いかがか。
  • ライフサイエンスに係る研究開発については、安全性の確保が不可欠と考えるが、いかがか。
  • 人間の尊厳とライフサイエンスの関係について、参考人はどのように考えるか。

北川 れん子君(社民)

  • ヒトの卵子、胚等の無償提供を受けて利益を生む研究開発をする上で、守らなければならない倫理があると思うが、参考人は、そのような倫理が科学技術の発展を阻害するものと考えているか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 米国がゲノム研究をここまで有利に展開することができた理由は、どのようなものか。
  • 参考人は、我が国の基礎研究が世界に認められるようにするには、国としてどうすればよいと考えるか。
  • 科学技術の発展のために国が取り組むべき課題として、参考人は教育行政を挙げたが、そのほかに、国が科学研究に対してなすべきことはないか。

◎小川直宏参考人の意見陳述の要点

1.出生率の動向

(1)戦後のベビーブーム以降の出生率低下の動向
  • 戦後のベビーブーム以降、4.54人であった合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)が10年間で半減するという人類史上初めての出来事が起こった。出生率はその後安定したが、第1次オイルショック以降、再び落ち始め、1999年では1.34人まで低下している。
(2)出生率低下の要因の変化(晩婚化・未婚化からチャイルドレスへ)
  • 合計特殊出生率の低下要因を分析すると、オイルショック以前は、ほぼすべての男女が結婚して2人の子どもを持ち、子を持つことについての障害は第3子以降を持つことにあった。しかし、1980年代は、晩婚化現象が出生率低下の主要因となり、1990年代になると、結婚しても子どもを持たない夫婦が増えたことが主要因となっている。そして、1990年代の後半は、バブル崩壊とリストラによる経済的不安が、産む子どもの数を減らしたり、出産のタイミングを遅らせてきており、この傾向は特に、都市部における低所得者層に顕著に見られる。
(3)女性の晩婚化・未婚化の背景
  • 女性の高学歴化、社会進出により、男女の賃金格差が縮小し、その結果、子育てのために就業継続を断念することにより失うこととなる利益(機会費用)が増加したことが、結婚、出産をためらわせている。
(4)早急に対策を講じる必要性
  • 近年の出生率の低下は、理想子ども数との乖離を拡大させており、理想子ども数が低下する前に政策を講じる必要がある。また、第2次ベビーブーム世代が結婚・出産の適齢期を迎える今後5年以内に、彼らが出生のタイミングを遅らせずに済むように、@マクロ経済の安定と、A結婚に魅力を持てる環境作り、出産しやすい環境作りのための施策を講じるべきである。

2.高齢化現象の進展

(1)高齢化社会がもたらす問題

高齢化社会は既に65年前から始まっており、選択なき社会である。日本の高齢化、人口の減少は諸外国に比較し、そのスピードが速いことに特徴があり、以下のような問題をもたらすであろう。

  • 経済の活力を低減させ、税収増が見込めない。
  • 建造物等のハードウェアが高齢者に対応できなくなる。
  • 高齢者ドライバーの増加により、交通システムが混乱する。
  • マンパワーが不足し、介護保険の維持等が困難になる。
(2)価値観の変化を踏まえた本格的高齢化論の必要性
  • 高齢化現象が進展すると、特に女性の介護負担が大きくなる。しかし、老後保障の期待と介護についての意識調査をすると、親の介護をよい習慣、当然の義務と考える人や、自分の介護を子どもに期待する人は減ってきており、価値観が変化してきている。
  • 高齢化社会について今までは、何人で何人を支えるといった数の議論が中心であったが、今後はこのような価値観の変化を踏まえた本格的高齢化論が必要となってくるであろう。
(3)寿命の伸びによる高齢者の再定義の必要性等
  • 近年の高齢化の主たる要因は、死亡率の減少である。寿命の伸びを踏まえて、2000年からの25年間で高齢者の定義を「65歳以上」から「73歳以上」に変えることができれば、その期間の高齢者割合を安定した水準に保つことができる。また、単に「寿命」ではなく、「健康寿命」といった概念や、定年延長、年金支給時期等の検討が必要となってくるであろう。
(4)日本の役割と政治家のリーダーシップ
  • 出生率の低下、高齢化の進行はアジア諸国でも生じている。今後、外国人労働者の活用等アジア諸国との協力が必要不可欠であり、日本が政策面においてもリーダーシップを発揮していかなければならない。
  • また、少子高齢化対策には、政治家が強いリーダーシップを発揮していかなければいけない。

◎小川直宏参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

中山 太郎会長

  • 日本は生産年齢人口がすでに減少し始め、国連の推計では、生産年齢人口を維持するためには、日本は今後毎年約65万人の外国人労働者を受け入れる必要があるとされている。このようなことからも、外国人労働者の積極的な受け入れが不可避と考えるが、いかがか。
  • 少子高齢化社会の進行に伴い財政事情が悪化し、国民負担率が増大すると考えるが、いかがか。

伊藤 公介君(自民)

  • 21世紀は国民が多様な生き方を選択すべき時代であると考えられる。例えば、未婚者が出産することが社会的に容認されてくることも想定される。日本では、未婚者で子を持つものの数はどのくらいか。
  • フランスのように、子を持っている者の経済的負担を軽減する政策を積極的に推進することについて、参考人はどう思うか。
  • 途上国の人口爆発と先進国の人口減少という世界的規模での人口問題を踏まえ、日本は、エネルギー、食料等に関する対策を講じる必要があると思うが、いかがか。
  • 今後、世界的に人口が増大すれば、環境問題が極めて重要になってくる。ドイツ憲法には「国には、自然的な生活基盤を保護する責任がある」旨の規定があるが、我が国では、環境問題を憲法においてどう扱うべきか。

鹿野 道彦君(民主)

  • 世界の人口問題を踏まえ、我が国における適正な人口規模というものを想定することは可能なのか。
  • マルサスの「人口論」の考え方からすれば、出生率は経済の生産力の範囲に抑制され、両者は適正な数値に自動的に調整されることになるはずだが、現在は、そのような相互の調整機能が破綻しているのではないか。
  • 参考人は、アジア諸国でも少子化が進むので、少子高齢化社会についての対策を検討するには、アジア諸国との連携が必要だと主張するが、そのような連携は、資源の配分や人の移動にどのような効果をもたらすのか。
  • スイス憲法には、生殖医学、遺伝子技術に関する規定があるが、我が国において少子化対策を進めていくに際し、人口の分野で憲法に規定を設けた方がよい事柄はあるか。

上田 勇君(公明)

  • 少子化の要因として、女性の就業と子育てとの両立が困難なこと及び子育てに多額の費用がかかることが挙げられるが、そのどちらが主たる要因であると考えるか。
  • 少子化対策における「公平性」や「効率性」とは、具体的にどのようなことか。
  • 効果的な少子化対策を講ずるに当たっては、景気を回復させることがその前提になると考えてよいか。

塩田 晋君(自由)

  • 21世紀末において、世界及び日本の人口は、どの程度であると参考人は予想するか。
  • 日本の人口をこれ以上減らさないためには、具体的にどのような施策が必要になると考えるか。

瀬古 由起子君(共産)

  • 参考人は、景気回復が少子化対策の前提であると主張するが、具体的に、どのような経済対策を講ずればよいか。
  • 就業と子育てとの両立が困難であることを理由に結婚に負担を感じる者が増加していることにかんがみれば、就業と子育てとの両立を容易にする環境の整備を図ることが重要であると考えるが、いかがか。
  • 少子化対策を講じるに当たっては、女性の地位を向上させることが重要であると考えるが、いかがか。

原 陽子君(社民)

  • 経済が好調であったバブル期にも出生率が低下した事例にかんがみると、出生率の動向と経済状況は必ずしも関連性があるとは言えないのではないのか。
  • 少子化を防ぐためには、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(特に、女性が出産時期、出産間隔、子どもの数等について決定する権利等)を確立し、女性差別をなくしていくことが重要ではないか。

小池 百合子君(保守)

  • 少子化進展の背景には、養子縁組への抵抗感のような血縁を重視する社会的意識があるのではないか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 諸外国の少子化対策で成功した事例はどのようなものがあるか。
  • 少子化対策には、良好な教育環境・豊かな自然等の子育てを容易にする環境の整備が重要ではないか。