平成13年4月16日(月)(地方公聴会)

日本国憲法に関する調査のため、宮城県仙台市において地方公聴会を開き、意見陳述者から意見を聴取した後、意見陳述者に対し質疑を行った。

1.意見を聴取したテーマ 日本国憲法について

2.派遣委員

団長 会長   中山 太郎君(自民)  

   会長代理  鹿野 道彦君(民主) 

   幹事   葉梨 信行君(自民)  

   幹事   仙谷 由人君(民主)  

   幹事   斉藤 鉄夫君(公明)  

   委員   藤島 正之君(自由)  

   委員   春名 直章君(共産)  

   委員   金子 哲夫君(社民)  

   委員   小池 百合子君(保守)  

   委員   近藤 基彦君(21クラブ)

3.意見陳述者

 仙台経済同友会代表幹事          手島 典男君

 宮城県鹿島台町長             鹿野 文永君

 東北大学名誉教授             志村 憲助君

 東北大学文学部教授            田中 英道君

 専修大学法学部教授・東北大学名誉教授   小田中 聰樹君

 「憲法」を愛する女性ネット代表       久保田 真苗君

 東北福祉大学助教授            米谷 光正君

 弘前学院聖愛高等学校教諭         濱田 武人君

 専修大学北上高等学校講師・志民学習会代表 遠藤 政則君

 みやぎ生協平和活動委員会委員長      齋藤 孝子君


◎団長挨拶の概要

団長から、会議開催の趣旨及び憲法調査会におけるこれまでの議論の概要について、発言があった。


◎意見陳述者の意見の概要

手島 典男君

  • 私は、現行憲法の基本原則は今後とも堅持するべきであるが、一方で、憲法制定後50年余の間に生じた国内外の状況の変化にも対応する必要があると考える。
  • 具体的には、(1)大量殺傷兵器の廃絶を訴えるとともに、自衛のための組織を設けることや有事の際の危機管理の原則を明文化する、(2)国際機関の行う平和維持、人道支援活動に自衛隊を海外に派遣する場合があることを規定する、(3)重要課題に迅速、機動的に対応するため、内閣総理大臣のリーダーシップを強化する、などの事項のうち、特に緊急を要すると国会が認めるものから改正の手続をとるべきである。

鹿野 文永君

  • 中学生の頃に新憲法に出会って驚きと感動を覚えたこと、憲法の定める「地方自治の本旨」を体現しようと決意して町長選に立候補したこと、の二つの個人的体験を土台として、私は、7期27年間、非核宣言、町民憲章、環境美化条例の策定など憲法の理念に基づく町政を推進し、水害対策を通じて地方分権に努めてきた。
  • 私は、改憲をめぐる最近の状況を見聞して、これらの試練に耐えてこそ日本国憲法は人類普遍の原理として本物の最高規範たりうると思っている。
  • 憲法を論ずる前提として、すべての国民が中学校を卒業するまでに徹底した憲法教育を受けるべきである。

志村 憲助君

  • 私は、生命科学者という立場から、環境問題に絞って意見を申し上げる。
  • 憲法は人間の生活にかかわるものであって、他の生物との共生に関心が薄いようであるが、現在大問題となっている地球温暖化現象を考えるとき、人間中心のものの考え方だけでは済まされないことを指摘したい。また、深刻化するエネルギー問題に対処するため、自然科学のルールに沿った地球環境憲章を制定すべきである。
  • 日本国憲法は、生命科学の視点から見ても、貴重な内容を有しており、特に9条は輝きを増している。相当の覚悟をもって、これを堅持すべきである。

田中 英道君

  • 我が国は、世界に誇るべき技術力・経済力を有し、世界で最も貧富の差がない平和な社会を築いたが、それは、7世紀に聖徳太子が作った十七条憲法の「和をもって貴しとす」という言葉が実践されているからである。
  • 諸外国がいくらでも残虐な戦争を行っていることを考えると、9条のように、戦争を放棄し軍隊を禁止するような偽善を強いるべきではない。日本内部の国民の幸福のみを考える「内向きの憲法」ではなく、日本の伝統的見解である十七条憲法をそのまま世界に普遍化し、日本が積極的に世界の平和のために調停をすることを可能にするような「外向きの憲法」になるよう、現行憲法を改正すべきである。

小田中 聰樹君

  • 99条により国会議員は憲法尊重擁護義務を負っているのであるから、国会の憲法調査会の調査は、当然、憲法の理念を堅持する立場からなされるべきである。
  • 日本国憲法は、(1)その前文にあるように、国民主権、立憲民主主義、自由、平和、福祉が相互依存的関係にあることを認めるとともに、(2)これらの諸価値を実現させるには行政権の肥大化を抑制することが不可欠であることから、議院内閣制と違憲審査権を定めるなど、体系的に一貫した構造を持っている。
  • また、現実的機能の面からみても、日本国憲法は、地域紛争、グローバリゼーション、政治経済の混迷といった現代的課題に、明快な理論的枠組を提供していると言える。

久保田 真苗君

  • 戦前の日本では女性の権利はほとんど認められていなかったが、日本国憲法により女性も男性と同様の権利を認められるようになった。現行憲法は広く国民に支持されており、生活の中へ憲法の理念を持ち込むべきである。
  • 20世紀は戦争の世紀とよく言われるが、戦争防止のため多大な努力をした世紀でもある。ハーグ国際平和会議では日本国憲法9条が高く評価され、国際世論も核兵器や対人地雷禁止へと動いている。自国軍隊による国民保護の考えはもはや幻想に過ぎない。21世紀が、「人間の安全保障」が確立され、戦争が廃絶される世紀となるよう努力すべきである。

米谷 光正君

  • 13条は包括的人権規定として個人の尊厳や人格尊重を定めているが、人権にも「公共の福祉」や「権利の比較衡量」といった限界がある。人権イコール権利というわけではなく、人権があるから権利があるとは言えない。
  • 法は社会に追随していくものであり、法が人間を使うのではなく、人間が法を使うのである。社会を超越した憲法を作ってはならない。
  • 25条は生存権の規定であるが、このままの条文では「画に描いた餅」に過ぎず、条文の改正かこれを補足する法律が必要である。これまでは憲法の規定の足りないところを解釈で補ってきたが、もう限界に近い。これからは国民が意見を言いやすい身近な憲法へと変えていくことが必要である。

濱田 武人君

  • 私は教師であるが、最初は、なぜ教師になったのかという質問にはっきりと答えられなかった。その後、生徒たちの悪い見本にならないよう心がけているアメリカの教師や、地域の役に立つための具体的な将来の目標を持っているタイの生徒の姿に心を打たれ、それを契機として、単に教科を教えるだけでなく、様々な社会問題について生徒と共に考え、取り組むようになった。
  • 教師にとっては生徒との話合いが重要であり、その中で自らのロマンを生徒に訴えることにより、世界平和を希求する生徒を育てていくことができる。9条は、そのような教師に夢とロマンを与えてくれる条文であると言える。

遠藤 政則君

  • 政治的無関心が蔓延し、投票権を放棄する者が多い現在の日本で、国民を本当の主権者にするためには、国民の政治参加の機会を増加させる必要がある。政策選択者である国民に政策提示者である政治家が選択肢を示して判断を迫る機会は、現行憲法上96条の憲法改正時の国民投票だけである。よって、これを活用すべきである。
  • 96条の国民投票に関する法律が未だに制定されていないのは国会の怠慢であり、速やかに「憲法改正基本法」を制定するべきである。また、96条の規定自体についても、現在改正に必要とされている各議院の総議員の3分の2以上の賛成を出席議員の過半数にする等の改正を行うべきである。

齋藤 孝子君

  • 身近な生活の中でも、憲法が現実には守られていないと感じることが多い。
  • 今やるべきことは、たくさんの犠牲を払って生まれてきた9条を守ることであり、これを変えることではない。
  • 「押しつけ憲法」等を論じるよりも、日本国憲法のできた理由や、日本の不十分な戦後処理について考えるべきである。
  • 一度憲法を変えてしまうと、なしくずし的に二度三度と改憲が続くことが予想されるので、憲法に手を付けるべきではない。
  • 憲法調査会の情報をもっと公開してほしい。また、国民の意見も取り入れて慎重に審議を重ねてほしい。


◎意見陳述者に対する主な質疑事項

中山 太郎団長

  • 本調査会に関するすべての情報は、インターネット等を通じて公開されている。特に、調査会の議論の概要は、英文でも公開され、世界に向けて情報発信をしているところである。今後とも「憲法は主権者である国民のものである」との認識に立って、情報公開に努めて参りたい。(齋藤陳述者に対して)
  • 憲法は、99条で、国会議員その他の公務員に対して憲法尊重擁護義務を規定しているが、同時に、96条において改正条項を設けている。この二つの条文の関係を、どのように考えるか。(全陳述者に対して)

葉梨 信行君(自民)

  • 陳述者が挙げた憲法改正の検討事項のうち、陳述者自身が喫緊と考えるのは何か。また、その理由はどういうものか。(手島陳述者に対して)
  • 陳述者の実際の仕事、生活上の実感として、憲法と現実のミスマッチを、どういうところで感じるか。(濱田陳述者、遠藤陳述者及び齋藤陳述者に対して)

仙谷 由人君(民主)

  • 私の憲法に関する考え方をごく簡単に述べれば、「民主主義の民主化を」という言葉に集約される。国内的にはもっと国民主権を徹底し、国際的にはアジアの平和の枠組みづくりに日本がもっと主体的に関与していくべきであるということである。
  • 現在生じている諸問題は我が国の中央集権体制に起因すると考えるが、憲法に、地方自治体と国は対等である旨及び地方自治体の課税自主権を規定することについて、どう考えるか。(鹿野陳述者及び手島陳述者に対して)
  • 最高裁判所の違憲審査権は、具体的審査制をとっていることもあって、限界にきていると思う。この際、憲法裁判所制度が必要ではないかと思われるが、いかがか。(小田中陳述者に対して)

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 地球資源の問題、エネルギーの問題に関連して、憲法に環境権を明記すべきとの意見があるが、これについてどう考えるか。(濱田陳述者及び志村陳述者に対して)
  • 陳述者は、「9条は相当の覚悟をもって堅持すべき」との意見を述べたが、どういう覚悟か。(志村陳述者に対して)
  • 首相公選制を導入すべきとの意見について、どう考えるか。(手島陳述者及び遠藤陳述者に対して)

藤島 正之君(自由)

  • 陳述者の言う「内向き・外向き」の議論と国家の自衛権との関係は、どのようなものか。(田中陳述者に対して)
  • 陳述者は「9条の夢とロマン」について意見を述べたが、現実には戦争が起きたりする国際情勢について、教壇でどのように教えているのか。(濱田陳述者に対して)
  • 外国の侵略に対して国民が多大な犠牲を払うことがないようにすることが、国家の役割ではないか。(遠藤陳述者に対して)

春名 直章君(共産)

  • 前文及び9条の恒久的平和主義の先駆性並びに実現の条件及び可能性についてどう考えるか。また、生存権や社会権を定めた人権規定の先駆性とその活かし方についてどう考えるか。(小田中陳述者に対して)
  • 町長として、日本国憲法の重みをどう考えているか。また、暮らしを守るために憲法をどう活かしていくべきか。(鹿野陳述者に対して)

金子 哲夫君(社民)

  • 陳述者は、日本国憲法が成立した時、どのような感想を持ったか。(手島陳述者に対して)
  • 現行憲法に関しては、広島、長崎及び沖縄を含むアジアで民衆が多大な犠牲を払ったことを知った上でなければ議論の意味がないと考えるが、いかがか。(久保田陳述者に対して)
  • 現在、高校の歴史の授業では、戦争の歴史や戦前の日本についてどの程度教えられているのか。(遠藤陳述者に対して)

小池 百合子君(保守)

  • 情報公開の規定については、国民の政治に対する信頼回復のためにも、法律ではなく憲法に規定するべきではないか。(鹿野陳述者、久保田陳述者及び米谷陳述者に対して)
  • 政治家のリーダーシップと「コンセンサスの政治」は両立しうると考えるが、その実現は難しい。そのような中、政治不信の原因が政治家のリーダーシップの欠如にあると論じられることも多い。憲法における政治のリーダーシップの理想像についてどう考えるか。(手島陳述者及び田中陳述者に対して)

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 現行憲法は、理念的には立派なものであるが、文言が非常に難しい。このような難解な文言の憲法に初めて接する生徒の反応はどのようなものか。(遠藤陳述者及び濱田陳述者に対して)
  • 13条や25条等、憲法には個々に応じた特別な解釈をしなければ現実に適合し得ない条文が多いが、このような解釈はもはや限界なのではないか。(米谷陳述者に対して)

◎傍聴者の発言の概要

派遣委員の質疑終了後、団長は、傍聴者の意見を求めた。

高田 健君

  • 憲法調査会は公開されているといっても、その傍聴手続は煩雑であり、インターネットの利用も人によっては容易ではない。調査会の活動状況をもっと国民に知らせてほしい。

佐藤 瑩子君

  • みなさまの真摯な議論を聞き、みなさまが憲法を非常に大事に思っていることを知った。
  • これからは、自衛権及び基本的人権の二つの問題について、政党にしばられることなく、もっと国民的な議論を巻き起こしていくべきである。