平成13年5月17日(木)(第6回)

◎会議に付した案件

1.幹事の補欠選任

幹事 津島雄二君(自民)−幹事新藤義孝君(自民)去る5月7日委員辞任につきその補欠

2.日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

上記の件について参考人木村陽子君及び大隈義和君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

 地方財政審議会委員         木村 陽子君

 九州大学大学院法学研究院教授    大隈 義和君

(木村陽子参考人に対する質疑者)

 中山 太郎会長

 西川 京子君(自民)

 小林  守君(民主)

 上田  勇君(公明)

 藤島 正之君(自由)

 春名 直章君(共産)

 阿部 知子君(社民)

 近藤 基彦君(21クラブ)

(大隈義和参考人に対する質疑者)

 西川 京子君(自民)

 生方 幸夫君(民主)

 太田 昭宏君(公明)

 塩田  晋君(自由)

 山口 富男君(共産)

 日森 文尋君(社民)

 近藤 基彦君(21クラブ)


◎木村陽子参考人の意見陳述の要点

1.増大する社会保障費、社会保険料

  • 社会保障費は1998年には国民所得の20%に達し、このうち社会保険料は55兆円と膨大なものになっている。

2.「高齢社会」から「超高齢社会」へ

  • 1970年代以降、高齢社会が進行することによって、家族、企業、地域社会、公共部門の在り方や役割も変更を余儀なくされつつあるが、もっとも変化したのは女性である。例えば、女性の労働力率は、当時と比べて20%アップした。
  • 超高齢社会において、今後は、ノーマリゼーション、機会の均等、男女共同参画社会の実現等が課題だが、特に、働く意欲のある高齢者の労働力を活用するためにも、求職における年齢制限を廃止していくべきである。

3.国家はどこまで個人の生活に関与するのか

  • 90年代以降、国家がどこまで個人の生活を保障するのかに関して、各国は、(1)新保守主義、(2)従来型の福祉国家、(3)第3の道(最近、イギリス、ドイツが進めているような、国民が意思決定に参加していく方式のこと)、に分かれた。
  • 私見では、福祉国家とは、ナショナル・ミニマムの保障(その者が給付を必要とする原因を問わずに最低限度の給付は行う制度)を意味する。今後は、我が国では国家がどこまで個人の生活を保障するのかに関して、このナショナル・ミニマムの保障を維持していくのかについての議論が必要である。ちなみに、近年、アメリカ、イギリスでは、ナショナル・ミニマムの保障が勤労意欲の喪失というモラル・ハザードを引き起こさないように、生活保護給付の制限等を行っている。
  • 日本でも、皆年金、皆保険を維持すべきかが議論されているが、年金は保険料を払える者のみを対象にしてよいが、医療は、皆保険を維持すべきと考える。ちなみに、スウェーデンでは、皆年金方式は止め、所得の再配分機能は国庫による公的扶助によって行うことにした。
  • そして、今後の我が国の課題としては、専業主婦の優遇税制、在職老齢年金制度等のような労働意欲を損なう社会保障制度を改めていくべきである。

4.ケア供給主体の多元化と公的補助金

  • 介護主体の多様化を踏まえ、これらの主体への補助金の交付等による支援、競争政策の推進等が必要である。

5.地方分権と介護システム

  • 少子高齢社会を迎え、介護サービスを実効的に提供できる規模への自治体の再編、自治体間の事務分配、税源配分等の検討が必要である。

◎木村陽子参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

中山 太郎会長

  • 少子高齢化の進展は社会保障制度にも大きな影響を及ぼし、現行制度を今後も維持し続けるためには、50%を超える国民負担率が必要になると予想される。この点を勘案した上で、社会保障制度についてどのような改革を行っていくべきと考えるか。
  • 少子高齢化社会の到来を迎えて、定年制の見直しを行うべきではないか。また、年金原資の運用の見直し等を行うべきと考えるが、いかがか。

西川 京子君(自民)

  • 少子高齢化への対策と男女共同参画社会の推進とは、いくつかの面で摩擦を生じさせているが、この摩擦を解消するためには、どのような施策が必要と考えるか。
  • 少子化対策に当たっては男性の意識改革や子どもの視点からの環境整備が重要であると考えるが、このような観点からの子どもの保育の在り方について、参考人の見解を伺いたい。
  • 地方自治体が十分な機能を果たすためには一定程度の規模が必要とされるが、規模を大きくすることによりその提供する基本的サービスの質が低下することも懸念される。地方自治体の適正な規模について、参考人はどのように考えるか。また、これに関連して、道州制の導入について、どのように考えるか。
  • 現行の社会保障は「個人」を単位としたものであり、そして、これに伴う弊害が、今日、生じてきている。地域における共生や連帯という観点から、共同体の保護又は再構築を図るべきと考えるが、いかがか。

小林  守君(民主)

  • いわゆる国民年金の空洞化が問題となっているが、空洞化の原因は、制度の問題と考えるか、それとも、国民のモラル・ハザードの問題であると考えるか。また、基礎年金は、全額を租税方式で賄うべきであると考えるが、いかがか。
  • 社会保障制度の改革は、共同体意識を再構築し地方分権を推進することと一体として進めるべきではないか。
  • 参考人が主張する「中福祉・中負担」とは、いかなる理念に基づくものなのか。

上田  勇君(公明)

  • 雇用における年齢差別を禁止する立法措置をとるべき思うが、いかがか。
  • 労働力人口の減少に対応し、外国人労働者を受け入れるべきとする主張について、いかに考えるか。
  • 老人医療費は、他の医療保険と別建てにすべきと考えるが、いかがか。

藤島 正之君(自由)

  • 高齢化対策としては、定年を延長すると労働の効率性が落ちるので、代りに定年後の再雇用の促進を図っていくべきではないか。
  • 参考人は医療・介護については最低限の水準を決めがたいとの立場であるが、社会保障の最低限の水準は、国が保障し、それ以上のサービス等の受給等については、個人に負担を求めていくべきではないか。
  • 市町村合併を進め、一定の規模の地方自治体により介護サービスを効率的に提供すべきではないか。

春名 直章君(共産)

  • 最近実施された世論調査では、25条の生存権が保障されていないと答える人が、保障されていると答える人よりかなり多く、また、その割合も20年前と比較して大きくなっているが、このような結果が生じている原因は何か。
  • 1950年の社会保障制度審議会の勧告は、25条の生存権の理念を高く評価して国が社会保障に関する施策を講じる責任を明らかにし、その後多くの制度が作られることとなったと認識するが、参考人はこの勧告をどう評価するか。
  • 介護保険制度では低所得者も保険料の支払い義務があるなど、近年、憲法の理念が後退している事態が生じていると思うが、いかがか。
  • 1995年の社会保障制度審議会の勧告では、生存権の保障は個人の自己責任を前提としたものであるという考えに立っているが、これは憲法の精神と異なるのではないのか。

阿部 知子君(社民)

  • 参考人は社会保障の前提として自己責任を強調するが、あまり自己責任を強調しすぎると女性が子どもを産むことをためらってしまうのではないのか。
  • 介護保険制度を維持していくためには地方自治体の財源不足の問題を解決する必要があるが、どのような財源措置を講ずべきと考えるか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 高齢化の問題は特に過疎地域で深刻な問題となっているが、地方分権が推進されている中、今後一層都市部との地域間格差が拡大していくことになると思うが、いかがか。
  • 高齢化社会の対策として高齢者の就業が推進されているが、女性が対象となっていないように感じる。男女共同参画社会の実現が求められる中、高齢者についてはいまだに差別が残っているのではないのか。

◎大隈義和参考人の意見陳述の要点

はじめに

  • 私は、21世紀の「地方」の住民が、民主主義の小学校における小学生ではなく、民主主義の原動力として政治の中心的役割を担っていくはずであるとの考えに立って、21世紀にあるはずの「国」と「地方」の関わりを論じたい。

1.地方分権・地方自治の基本的考え方

  • 地方自治について、従来の通説は、憲法により制度的に保障されたものに過ぎず、憲法改正によって廃止できると解していた。
  • これに対し、私は、地方自治権は地方自治体が有する固有の権利であり、民主主義の根幹を支える制度であるから、憲法改正によってもその存在を否定できないものと解する。

2.国民主権と住民主権(住民自治)

  • 住民自治の内容について、従来の通説は、国民主権の下での民主主義体制の在り方と同様、議会制民主主義、代表民主制として理解してきた。
  • これに対し、私は、地方自治権を強化し、国民主権の内容を理念としては直接民主主義的に理解し直すともに、住民参加、特に住民投票制度を、それが多くの難問を抱えることを認めながらも、積極的に再評価すべきであると考える。

3.選挙人(国民・住民)の複雑な期待

  • 国民又は住民は、議員を、エリートとしての代表者ではなく、自分たちと同じ仲間と考えている。
  • 他方、国政又は地方政治のいずれの場合でも、政治の担当者は、国民又は住民から、「国民又は住民のために何を守るべきか」を的確に判断できる能力、すなわち高い識見と倫理的高潔さを期待されている。

4.まとめ

  • 国及び地方の民主主義政治は、21世紀に入り、情報公開制度の充実に見られるように、直接参加型民主主義へと進みつつある。
  • なお、憲法改正については、民主主義の強化を目指し、改正対象を明確化した個別修正こそが可能であり、手順を尽くした議論が必要であることを付言する。

◎大隈義和参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

西川 京子君(自民)

  • 住民投票は、地方自治権の中でも重要な権利であると思うが、過去の実例を見てみると、住民投票に付するのにふさわしい対象を絞り込む必要があると考えるが、いかがか。
  • 首相公選制については、メディアの評価に国民がたやすく影響を受けてしまうポピュリズムの怖さを感じるが、いかがか。また、国民の直接公選によって選ばれた首相によって組織される政府は、どのような形態になると考えられるか。
  • 92条に謳われている「地方自治の本旨」を、例えば「地方自治基本法(仮称)」の制定によって明確にするなどの必要があると思うが、いかがか。

生方 幸夫君(民主)

  • 憲法改正は十分慎重に検討して行うべきという参考人の意見に、賛成である。
  • 住民投票に当たっては、投票率の高いことが、住民の意思の反映という観点から重要になるのではないかと思うが、いかがか。また、投票率の向上を図るにはどのような方策が必要と考えるか。
  • 住民投票には、(1)その手続は簡単だが自治体はその結果に左右されないというものと、逆に、(2)手続は難しいがその結果は自治体の意思決定を拘束するものと二通りがあると思うが、参考人は、どちらの住民投票が望ましいと考えるか。
  • 住民投票を実施するに当たっては、住民に問題の是非についての判断材料を提供する必要があり、そのためには情報公開が欠かせないものと考えるが、それ以外にどのような方策が考えられるか。

太田 昭宏君(公明)

  • 「地方自治は民主主義の原動力である」とする参考人にとって、「地方主権」、「地方分権」、「住民主権」のうち、どれが最もリード役にふさわしい言葉と考えるか。
  • 21世紀においては、ナショナル・アイデンティティとしての「郷土愛」、「地方分権」、「共生」、「共同体」といった見地からの国家論が重要になると考えるが、いかがか。
  • 共生、人権及び地方分権の三つを進める観点から、永住外国人に対して地方参政権を与えるべきであると考えるが、いかがか。

塩田  晋君(自由)

  • 地方自治における直接民主制の理念を憲法上明記すべきか。また、曖昧な概念である「地方自治の本旨」の内容を憲法に具体的に明記すべきか。
  • 交通や通信手段が発達した現在、市町村合併を進め、その数を300から500程度にすれば、都道府県を廃止しても違憲ではないと考えるが、いかがか。
  • 住民投票に関しては、その地域の住民でない者による煽動や妨害運動により、住民の意思が不当に曲げられるおそれがあるなど、技術的な問題が多過ぎるのではないか。

山口 富男君(共産)

  • 参考人は、地方自治に関する憲法の理念が、実際の地方自治において十分に活かされてきたと考えるか。活かされていないとすれば、その理由は何か。
  • 参考人は、住民投票制度がうまく作動するには難問が山積していると述べたが、それを打破する方策が憲法から導き出されないか。また、国の事項に係る住民投票の是非についてどのように考えるか。
  • 地方自治の発展の観点から、外国人の地方参政権についてどのように考えるべきか。

日森 文尋君(社民)

  • 先の地方分権一括法では、地方の財政自主権の問題は手付かずのまま残されてしまった。この問題の解決策としては、地方に課税自主権を与えることや税財源の配分比率の変更が考えられるが、参考人はどのように考えるか。
  • 条例は、従来考えられてきたように国の法律の下位に位置付けられるものではなく、法律と同等のものであると考えるが、条例制定権の行使の在り方について参考人はどのように考えるか。
  • 首相公選制の議論がなされているが、むしろ政治を身近に感じるのは住民投票であり、それを先に考えるべきであると思うが、いかがか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 住民投票では、各住民が問題点について十分に理解し、判断することができるだけの情報が与えられないことや、住民間に感情の対立を引き起こすなどの問題点があると考えるが、いかがか。
  • 市町村合併に当たっては、異なる都道府県に属する市町村合併をも視野に入れるべきと考えるが、いかがか。