◎会議に付した案件
1.幹事の辞任及び補欠選任
辞任 仙谷由人君(民主)、補欠選任 細川律夫君(民主)
2.日本国憲法に関する件
ロシア等欧州各国及びイスラエル憲法調査議員団の調査の概要を中山会長から聴取した後、討議を行った。
3.参考人出頭要求に関する件
日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)について、参考人から意見を聴取することに協議決定した。
◎(参考)「衆議院ロシア等欧州各国及びイスラエル憲法調査議員団」の調査の概要
1.調査議員団の構成
団長 中山太郎君
副団長 鹿野道彦君
葉梨信行君、保岡興治君、仙谷由人君、斉藤鉄夫君、山口富男君、金子哲夫君、近藤基彦君
2.期間
平成13年8月28日(火)から9月7日(金)まで
3.派遣先
ロシア 国家院(下院)・法務省・憲法裁判所
ハンガリー (※1)
オランダ 第一院(上院)・女王官房府・内務省(※2)
イスラエル 司法省・外務省・クネセット(議会)・その他学識経験者
スペイン 国務院・下院
※1 在ハンガリー日本国大使公邸にて、ハンガリー、ポーランド、チェッコ及びルーマニアの憲法について、それぞれの大使館から招致した書記官より説明を聴取し、質疑応答を行った。
※2 在オランダ日本国大使館にて、スウェーデン、デンマーク及びベルギーの憲法と王室制度について、それぞれの大使館から招致した書記官等より説明を聴取し、質疑応答を行った。
4.調査の概要
ロシア
- 1993年に制定された新しいロシア憲法の制定経緯や国民への浸透の実態、大統領の強大な権限に対する議会のコントロールの在り方、憲法裁判所の審理の実態などについて説明聴取・質疑応答
ハンガリー、ポーランド、チェッコ及びルーマニア
- ソ連邦崩壊後の一連の民主的改革に伴う新憲法の制定・改正の経緯やその特徴などについて説明聴取・質疑応答
オランダ
- 第二次世界大戦時のドイツ占領下におけるオランダ憲法の法的状態、王制の歴史、オランダ憲法の三つの特徴と言われる君主制・民主制・地方分権などについて説明聴取・質疑応答
スウェーデン、デンマーク及びベルギー
- 国王の権限と地位その他憲法における王室制度の位置付けとその運用実態などについて説明聴取・質疑応答
イスラエル
- 「首相公選制」の導入及び廃止の経緯などについて説明聴取・質疑応答
スペイン
- 1978年に制定されたスペイン憲法の制定経緯や「新しい権利」を含んだ権利規定の充実ぶり、自治州制度の問題点などについて説明聴取・質疑応答
◎派遣議員の発言の概要
仙谷 由人君(民主)
- 体制転換後のロシア及び東欧諸国の新憲法体制下においては、専制政治の抑止及び人権保障の確保の観点から、憲法裁判所、人権オンブズマン、児童権利擁護官等の諸機関が設置され、制度的な担保が図られている。
- イスラエルの首相公選制については、安定的な政権運営という目的とは反対に、比例代表制の選挙制度を通じて小政党が乱立し、小政党が政権運営のキャスティング・ボートを握るという結果が生じてしまった。したがって、イスラエルにおいては、首相公選制に対する否定的な見解が多く見受けられた。
- グローバリゼーションが進展し、かつ、国民や国民意識が多様化している現状においては、例えば、EU諸国のように国際機構に対する国家主権の移譲を憲法に規定するなど、国際機構と国家との関係を整理するとともに、効率的な行政を構築し、多様性の確保を図ることが今後の課題であると考えられる。
斉藤 鉄夫君(公明)
- 民意の集約及び反映という選挙の二つの機能にかんがみれば、私は、首相公選制は理想的な制度であると考えていたが、その失敗を経験したイスラエルでは、否定的な評価がされていた。しかし、イスラエルの首相公選制に係る制度設計上の問題点(選挙制度、議会による不信任制度等)を十分に検討することなく、首相公選制自体を否定することは、早計であると考える。
- 人間活動の自由な発露である文化、学術、芸術等は、本来、国家からの関与を受ける性質のものではないが、今日、その維持、促進等の観点から、公的に支援する必要性が唱えられている。オランダでは、政府の直接的な関与により文化活動等が損なわれないよう、王室を通じて間接的なサポートがなされている。このような事実にかんがみれば、天皇制の問題について、そのような視点からの議論を行っていくことも必要であると考える。
- 諸外国では、国民的な議論の下に憲法改正が行われていることから、日本において憲法問題を議論するに当たっても、国民の意見を反映させる形で進めていくことが重要である。
山口 富男君(共産)
- 各国憲法事情の調査を通じて、憲法をめぐる諸問題は、国際関係と連関を保ちつつ、その国の国民生活や歴史と密接に結び付いていることが認識できた。なお、A.ロシアでは、政治的な闘争を背景に、大統領に対する議会のコントロールが不十分であること、B.オランダでは、憲法の制定が19世紀半ばのヨーロッパ変革の歴史を背景としているなど、国内事情と国際関係とが密接に結び付いていること、C.イスラエルでは、安定的な政権運営を期待して導入された首相公選制が失敗に終わったが、その制度設計上の問題点を十分に検証する必要があること、D.東欧諸国では、体制転換以降、人権保障が重視されていること等が印象に残った。
- 平和の理念、豊富な人権規定等の先駆的な内容を有する日本国憲法は、全体主義や侵略戦争に対する反省に基づき制定されたものであり、その意味において、諸外国の憲法と同様に、歴史と現実の中に位置付けられている。今後においては、現実の中に憲法を活かしていく方向性を示していくべきである。
金子 哲夫君(社民)
- 首相公選制を導入してリーダーシップの強化を図るよりも、多様な意見を集約する形で議会制民主主義を発展させることにより、安定的な政治を行っていくことが重要であると考える。
- 憲法裁判所が設置されている諸国では、憲法裁判所への提訴を通じて、国民が生活の中で憲法を意識していると考えられる。このように憲法を生活の中に活かすという観点及び政策決定に係るチェック・アンド・バランスの観点からすれば、憲法裁判所的な機能を拡充していくことは、十分検討に値すると考える。
- 憲法問題を議論するに当たっては、その背景にある歴史や文化を十分に認識した上で進めていく必要がある。
◎各委員の発言の概要
春名 直章君(共産)
- 各国憲法は、それぞれの国の歴史、文化等、国の在り様と直結しており、政治体制の変革やEU統合等の大きな変化に対応するために数次の憲法改正がなされている外国の経験を、我が国憲法に機械的に当てはめることは戒めるべきである。
- ロシアにおいては、憲法裁判所や欧州人権裁判所への提訴件数が多く、また、昨年訪問したフランス憲法院においては、人権擁護機関としての機能が重視されるようになっている等、人権重視の流れが見られる。我が国においても、充実した人権規定をより豊かに開花させる努力が必要である。
伊藤 公介君(自民)
- イスラエルの国情、文化等は我が国とは異なり、宗教、民族を反映した多数の政党が存在し、比例代表制による選挙制度の下で小党乱立が進んでいる。同国における首相公選制の導入、廃止の経験を一つの参考としつつも、我が国においては、イスラエルの例とは異なる角度からも首相公選制を検討すべきである。
藤島 正之君(自由)
- 訪問各国において数次の憲法改正が行われていることと、憲法改正手続との関係について、どのように考えるか。
葉梨 信行君(自民)
- 我が国の憲法改正については、一般に、「総議員の3分の2以上の賛成」による発議が一つのハードルと考えられている。しかし、訪問各国の中にも、「3分の2以上」が必要とされている国が少なくないのに、憲法改正が度々なされていることを考えると、「3分の2以上」の要件自体は必ずしもハードルになっていないのではないか。
中山 正暉君(自民)
- 我が国憲法が米国によって押し付けられた事実は、米国側からは、同国の情報公開法の下でも公開されていないが、当該事実の公開を求めることを日本外交の基本方針とするよう、憲法調査会において取り計らうべきである。