平成13年10月25日(木)(第2回)

◎会議に付した案件

1.委員派遣(地方公聴会)承認申請に関する件

 (派遣地) 愛知県 

 (派遣日) 平成13年11月26日(月)

2.日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

上記の件について参考人大沼保昭君及び森本敏君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

  東京大学教授       大沼 保昭君

  拓殖大学国際開発学部教授 森本  敏君

(大沼保昭参考人に対する質疑者)

  中川 昭一君(自民)

  中川 正春君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  都築 譲君(自由)

  山口 富男君(共産)

  今川 正美君(社民)

  松浪 健四郎君(保守)

  近藤 基彦君(21クラブ)

(森本敏参考人に対する質疑者)

  伊藤 公介君(自民)

  小林 憲司君(民主)

  上田 勇君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  松浪 健四郎君(保守)

  近藤 基彦君(21クラブ)


◎大沼保昭参考人の意見陳述の要点

1.護憲的改憲論

  • 現憲法は、戦後の日本が、国際社会に受け入れられるための手段として、また、経済発展の基礎として多大な役割を果たしてきた。
  • しかし、現在、憲法には、A.9条の制定当時の絶対的平和主義と日米安保条約の矛盾を国民が自らに強引に納得させてきた自己欺瞞性、B.日本が平和であればそれでよいとする一国平和主義、という問題点が顕在化してきており、現実との乖離が限界まで達し、国民の間に憲法に対するシニシズム(冷笑主義)が起こっている。
  • このような理由から、現憲法の精神を踏まえ、役割を評価した上で憲法を改正する「護憲的改憲論」を主張する。また、憲法は国家の基本理念の表明であり、各世代の国民は、自ら決定した理念に基づいて国家を運営すべきであるため、新しい憲法が必要である。


2.日本国憲法制定時から1980年代までの日本と国際社会

  • 憲法制定時の日本は小国に過ぎず、忌戦感にあふれ、侵略者意識よりも被害者意識が強く、ある種の「平和主義」が広がっていた。また、アメリカ的なものへの憧憬が強まり、私益万能思想が広がっていた。
  • 第一次大戦後の国際秩序体制の失敗の原因は、A.国際連盟主導の集団的安全保障の弱体性、B.苛酷で非現実的な講和条件、C.戦勝国主導の講和体制が戦後の国際秩序へ継承されたこと、D.米国の保護主義・孤立主義、であった。
  • これらの失敗の反省に立って、第二次大戦後は、A.国際連合主導の集団安全保障体制の強化、B.寛大な講和条件、C.日独の講和と戦後の国際秩序の分離、D.米国の開放的自由貿易体制、といった政策がとられた。


3.20世紀末(冷戦終結後)の国際社会

  • 冷戦終結後、米国の一極覇権の下で、「地球的規模の自由主義」体制が確立され、国境を越えて情報、経済、民主主義、人権等が広がった。また、東アジア地域の経済力が増大し、中国の超大国化が進んだ。
  • 国連による集団的安全保障体制に限界が見られ、各国独自の安全保障である個別的・集団的自衛権の行使が常態化し、安全保障の隙間を埋める工夫としてのPKOが生み出されたが、PKOにも様々な限界があり、問題を生じている。
  • 国際社会での「敗者」側に、貧困、民族対立、宗教対立といった不満が蓄積された。本年9月11日の米国の同時テロ事件は、これらの爆発の典型例と言える。


4.20世紀末の日本と憲法

  • 戦後の意識構造はそのまま残存し、対米追随・崇拝傾向は変わらなかった。また、それにより、モラルの低下、放縦な権利の主張、環境問題等の諸問題が発生した。
  • 対外的姿勢に関しても、9条の厳格解釈に固執し、戦争責任を認めないままに、「二度と戦争を起こさない」というメッセージを発信するのみである状況は変わらなかった。9条は日本の自衛と国際社会の安全保障への積極的参加という二面的意義を有しているにもかかわらず、区分して論じられることがなかったため、積極的な外交を果たせなかった。


5.21世紀の国際社会、日本、憲法

  • 日本は、1990年代にPKO本体業務凍結を解除し、国際社会に積極的にかかわるべきであった。国家の基本原理にかかわる安全保障を解釈の変更で切り抜けて対応していくのは、国民の憲法に対する信頼を損なうので好ましくなく、また、各世代には自らが決定した理念に基づいて国家を運営する権利・義務があるため、憲法を改正していくべきである。

◎大沼保昭参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

中川 昭一君(自民)

  • 今回の米国におけるテロ事件(9月11日の同時多発テロ事件)は、従来の国際紛争が国家対国家の争いを軸としていたのとは様相を異にする事件であると思う。参考人が提唱する「国連を中心とした集団安全保障」との関連で、今回の事件をどうとらえているか。
  • 今回のテロ事件に対しては、米国による自衛権の行使とそれに対する諸国の協力という対応がとられているが、国連としても、何らかの強制措置をとる必要があるのではないか。
  • 参考人は、今回のテロ事件の背景には、先進国による支配や先進国との貧富の差に対する途上国の反発といったものもあると主張するが、むしろ、全世界共通の問題として「テロは絶対に許さない」という視点が重要ではないか。
  • 憲法前文が前提とする「諸国民の公正と信義に対する信頼」が今回のテロ事件により揺らいでいること、さらには、一国平和主義を改めるべきことを踏まえて、憲法前文をどのように改正すべきか。また、そのようなあり得べき前文の趣旨と現在の9条には整合性がないのではないか。


中川 正春君(民主)

  • 今回の米国におけるテロ事件のような国家の枠組みを超えた事件に対応するには、国家を超えた意思決定のシステムが必要と思うが、それを日本の憲法等にどのように組み込めばよいと考えるか。
  • 自衛権や自衛隊に対する国民の疑義を払拭するために、自衛隊の役割を限定した上でそれを憲法に明記すべきと考える。ただし、その際、近隣諸国の理解を得る必要があるが、そのために、我が国はどのようなことをなすべきか。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 参考人は、日本は戦争責任を果たすべきとの考えだが、被爆者援護法が行政庁の解釈によって在韓被爆者に適用されていないことについて、どのように考えるか。また、日本は、原爆を投下した米国の責任を問うていないことについて、どう考えるか。
  • 参考人は、9条には国際社会の安全保障への積極的な参加が謳われていると指摘するが、具体的にはどこの部分なのか。

都築 譲君(自由)

  • 参考人は「国際公共価値志向の安全保障」を主張しているが、世界の国々には文明の違いや貧富の差がある中で、そもそも「国際公共価値」というものは存在するのか。
  • 「テロ対策特別措置法案」における自衛隊の海外派遣は、9条で放棄した「国権の発動たる武力の行使」に該当すると考えるか。また、PKOに参加した自衛隊による反撃行為は、これに当たると考えるか。

山口 富男君(共産)

  • 国連憲章と日本国憲法は、武力行使を禁じている点においては共通しているが、日本国憲法の方がさらに発展している部分もあると考えるが、いかがか。また、日本国憲法制定当時、国連憲章との共通点や相違点は認識されていたのか。
  • 国連憲章における個別的自衛権と集団的自衛権(51条)は、原則として武力行使を禁じている中での例外措置であると認識しているが、どのような経緯で盛り込まれたのか。また、これらは、国連憲章の中において矛盾を生じていないのか。
  • 今回のテロに対する米国の軍事行動について、参考人は、個別的自衛権に基づいていることの根拠が乏しく、危うさがあると指摘しているが、具体的にはどういうことか。

今川 正美君(社民)

  • 憲法の平和主義は、対米依存の安全保障体制ではなく、国連を中心とした集団安全保障体制をその前提としたのではないか。また、各国の軍備を縮小し国連軍を創設して集団安全保障体制に移行していくためには、いかなる段階を経るべきか。
  • 今回の米国におけるテロ事件のような国際的な危機の発生を契機として、自衛隊を海外に派遣しようとする動きがたびたび起こるが、このような動きは、自衛隊の拡大につながり、憲法の平和主義の理念に反するのではないのか。

松浪 健四郎君(保守)

  • 在日外国人数が160万人を超えるような今日、我が国が、単一民族国家であるとの概念は維持できないと考えるがいかがか。
  • アフガニスタン難民を受け入れるべきとの主張をどのように考えるか。また、テロリズムの定義が必ずしも明確でないので、これを明確化すべきではないか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 初等・中等教育において憲法は、どのように教えられるべきと考えるか。
  • 歴史教科書に戦争責任の記述を設けることは、周辺国に対する戦争責任についての我が国のメッセージとなるのか。
  • 国連による集団安全保障の手段として、国連軍又は多国籍軍のいずれが妥当と考えるか。また、現憲法の下で、我が国は、多国籍軍に参加できるのか。

◎森本敏参考人の意見陳述の要点

1.21世紀初頭の国際社会

  • 冷戦後の10年間、支配的影響力を有する米国の一極体制と多国間協調主義との調和に向けての努力がなされてきた。
  • 国際社会は、グローバル化のマイナス要因として、地域紛争、テロ、大量破壊兵器の拡散、環境問題、難民問題、伝染性疾患等の問題に直面している。
  • アジアも同様の問題に直面しており、特に、核保有国であり、かつ、多くの人口を抱える中国及びインドの将来が、アジアの平和と安定に重大な影響を及ぼす。

2.今回のテロ事件への対応とその影響

  • 今回のテロ事件(9月11日の米国の同時多発テロ事件)に対する米国の個別的自衛権の行使については、A.主権国家ではないテロ集団を自衛権行使の対象とし得るか、B.「緊急性」の要件を満たすものであるか等の点で、問題があると考えられる。
  • 米国の軍事作戦の先行きは不透明であるが、その成否が、今後の国際秩序の方向性を決定することになる。成功すれば、米国のリーダーシップとユニラテラリズム(単独行動主義)が強化され、逆に、失敗すれば、米国は孤立主義に陥るであろう。
  • いずれにしても、米国と同じ価値観(法と正義、民主主義、自由、市場経済等)を共有するか否かが対立軸となる新たな国際秩序が形成されるであろう。
  • 国連との関係では、米国の軍事措置が国連の安保理決議に基づくものではなく、また、国連が本来果たすべき機能を低下させていることにかんがみれば、私は、国連の将来を楽観視できないと考えている。

3.日本の安全保障に関する課題

  • 主権国家として、国の在り方を模索するに当たっては、まず、国益や国家観を明らかにして明確な国家戦略を構築すべきであり、その後、国家戦略の実現のための法的枠組み等を論ずるべきである。
  • 法的枠組みや政治的制約を見直すに当たって、憲法9条2項の改正や、自衛権、危機管理に関する首相の責任と権限、国民の権利義務関係等の明記を検討すべきである。
  • 外交政策については、国益や国家像を明確にした上で、特に、アジア戦略と国連・国際協力に係る外交戦略を再構築すべきである。
  • 日米同盟については、脅威を見積もり、国際情勢の変化を見極めた上で、防衛協力の在り方を軸に、より強化する観点から再度定義し直すべきである。また、現在、日米同盟を補完する側面を有する防衛力については、米国が日本の周辺問題に国益を見い出さないケースも踏まえ、独立完結性の高い防衛力を再構築するように再検討すべきである。

◎森本敏参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

伊藤 公介君(自民)

  • 「テロ対策特別措置法案」の内容及びその審議の在り方に対する参考人の率直な見解を伺いたい。
  • 近年、「総合安全保障」や「人間の安全保障」の概念が叫ばれるなど、従来の安全保障の概念は質的に変化しつつあると考えるが、そのような状況に、日本及び国際社会はどのように対処していくべきと考えるか。
  • 国連やNATOは、ソマリア問題、コソボ紛争やルワンダ内戦に人道的見地から介入したが、このような国際社会の国内問題への介入の是非についてどう考えるか。また、介入する場合の枠組やルールはどのようなものが考えられるか。
  • 日本の安全保障政策は、今後、米国との関係を保ちながらEUの中で存在感を示している英国のように、日米同盟を基軸としつつも、アジア諸国との間にもう一つの基軸を構築するよう展開していくべきと考えるが、いかがか。

小林 憲司君(民主)

  • 日本は従来、国際紛争の解決に対して消極的な態度をとってきたが、21世紀においては、集団的自衛権の行使も含めた柔軟かつ明確な国際貢献をするべきと考えるが、いかがか。
  • 私は、憲法を改正して集団的自衛権を認めるべきと考える。21世紀におけるこの国の在り方を考えた場合、参考人は、9条をどのように解釈すべきと考えるか。
  • 今回の「テロ対策特別措置法案」の衆議院における審議において、民主党は、自衛隊の派遣につき、原則として国会による事前承認が必要であるとする修正案を提出したが、これと、事後承認でよいとした与党修正案との間に本質的な違いがあったと考えるか。

上田 勇君(公明)

  • 「持てる国」と「持たざる国」との格差の拡大が、国際テロリズム等の脅威へとつながっている。この脅威を回避するためには、米国のユニラテラリズムの是正、発展途上国を組み入れたシステム作り等が必要と考えるが、いかがか。
  • 冷戦が終了した今日、脅威が多様化し、そのすべてに対処することは、難しくなっていると考えるが、参考人は、このような脅威に日米同盟として、また、我が国としてどのように対処すべきと考えるか。

藤島 正之君(自由)

  • 参考人は、中国をアジアの中に政治的、経済的に組み入れていくべきと主張するが、私は、それは困難であり、むしろ、中国を民主主義国家へと変質させていく必要があると考えるが、いかがか。
  • 冷戦が終了したことによって、国連は、国際の平和及び安全を維持する機能を発揮しやすくなっている。我が党は、自衛隊を出動させるに当たっては、自衛権又は国連決議に基づくべきであると主張しているが、これについての参考人の意見を伺いたい。
  • 参考人は、今回の米国の軍事行動支援のための自衛隊の派遣を、我が国の個別的自衛権の発動としてなされるものと考えているか。

春名 直章君(共産)

  • アフガニスタンへの米英両国の軍事行動に対して、世界各国は一枚岩で支持しているのではないと考えるが、いかがか。また、米国の報復攻撃が世界に与えるマイナス面について、参考人の意見を伺いたい。
  • 国連は、今こそ集団安全保障の機能を発揮すべきであり、今回の事態への対応を通じて国連の機能強化を図るべきである。また、我が国は、9条を持つ国として、そのための非軍事的貢献をすべきと考えるが、いかがか。
  • 今回の米国の軍事行動に関し、集団的自衛権の発動を決議したNATOの米軍に対する支援措置と「テロ対策特別措置法案」に規定されている支援措置が異ならないことから、同法案は、集団的自衛権の行使を認めるものであると考えるが、いかがか。

金子 哲夫君(社民)

  • 国連の本来の役割は国際紛争の未然防止にあると思うが、いかがか。
  • 参考人は、「安全保障の概念が質的に変化する中で、予防外交や平和維持活動など、非軍事的分野が重視されている」と論文で主張しているが、まさにこの分野こそ、日本が積極的に貢献すべき分野ではないか。
  • 米国は、アフガニスタンのタリバン政権に対する攻撃に対する協力の見返りとして、核保有国であるインド及びパキスタンに対する経済制裁を解除したが、このことは、核拡散を容認する結果となるのではないか。

松浪 健四郎君(保守)

  • 基本的なことを確認したいが、アフガニスタンの国土の5%程度しか実効支配していない北部同盟が国連に代表を送っているのは、なぜか。
  • 米国の攻撃がアフガニスタン全土に及んでいることにかんがみれば、そこにはテロ根絶以外の目的があると思うが、いかがか。
  • 「攻撃に対する復讐」や「客人への厚いもてなし」を重んずる慣習を持つパシュトゥン人を、米国が、自己の価値観に基づいて攻撃するのは、ハンチントンの言う「文明の衝突」であると思うが、いかがか。

近藤 基彦君(21クラブ)

  • 一般的に言って、日本が個別的自衛権を行使できる条件とは、どういうものか。また、米国が今回のアフガニスタン攻撃を個別的自衛権の行使としていることについて、どう思うか。
  • 参考人は、今回の米国のアフガニスタン攻撃が何をもって終結すると考えるか。
  • 米国の軍事行動の終結後、アフガニスタンの復興のイニシアティブを握るのは、どこか。