平成13年11月8日(木)(第3回)

◎会議に付した案件

日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

上記の件について参考人長谷部恭男君及び森田朗君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。

(参考人)

  東京大学法学部教授         長谷部 恭男君

  東京大学大学院法学政治学研究科教授 森田 朗君


(長谷部恭男参考人に対する質疑者)

  中山 太郎会長

  保岡 興治君(自民)

  山田 敏雅君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  春名 直章君(共産)

  原  陽子君(社民)

  松浪 健四郎君(保守)

  近藤 基彦君(21クラブ)


(森田朗参考人に対する質疑者)

  中山 太郎会長

  坂井 隆憲君(自民)

  筒井 信隆君(民主)

  太田 昭宏君(公明)

  都築 譲君(自由)

  塩川 鉄也君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  松浪 健四郎君(保守)

  近藤 基彦君(21クラブ)


◎長谷部恭男参考人の意見陳述の要点

1.首相公選制について

  • 私は、首相公選制導入については、否定的な考え方を持っている。
  • イスラエルでは、首相候補と政策をワンセットで国民に提示する政党の役割が、首相公選制導入により分断され、機能不全に陥り、首相が安定的な政治運営を行うことが妨げられた。
  • 議会選挙で比例代表制をとるイスラエルと異なり、仮に小選挙区制と首相公選制を組み合わせた場合でも、公選首相は全体の利益を考慮しない議員で構成される議会と対峙することになり、結果は同じであろう。
  • 大統領制の導入を唱える見解もあるが、米国型の厳格な権力分立を伴った大統領制を採用し長期にわたり安定している国は、ほぼ米国のみである。また、米国には、日本と異なる独特の政治慣行や政治風土があり、制度の枠組みだけの移植はうまくいかない。


2.衆議院と参議院の関係について

  • 二院制の妙味を活かす方策としては両院の構成等を異なるものとすることが重要だが、現行憲法上、参議院は比較制度的にかなり強い権限を有しており、実態として衆議院と同様の機能を果たすことになるのは必然である。
  • 現状を改善する適切な方法は参議院の権限縮小だが、憲法改正には参議院議員の3分の2以上の賛成が必要なので、現実的には困難である。したがって、参議院が自らの権限等を抑制的に行使する慣例ないし憲法習律を成立させることが必要である。


3.議会制民主主義の古典的イメージとその変容

  • 議会制民主主義の古典的イメージは、社会の多様な意見が、議会での公開の審議という政治的プロセスを通じ公益の実現へとつながるものであった。
  • しかし、組織政党の発展により公開の場での審議が形骸化し議会制民主主義の古典的イメージがあてはまらなくなったため、そのような状況を「直接民主制」により打破すべきと唱えるカール・シュミットのような者も出現した。
  • このような考え方によれば、公開の審議が形骸化した議会は意義あるものと認められず、そこには利害関係者の直接の取引のみがあるに過ぎないとされた。


4.討議民主主義へ

  • 客観的公益の存在を前提として、民主的討議と多数決によりそれに到達できるとする「討議民主主義(Deliberative Democracy)」の考え方が主張されてきた。
  • ハーバーマスは、現代の議会制民主主義を、議会での討議が世論一般にも向けられ、社会における討議を喚起し、その結果が選挙に反映されるという時的・空間的に広がりを持った形で理解すべきと主張している。
  • そのような討議の場においては、大義名分に基づく筋の通った議論をすることにより、一般利益と特定の利益とを近づけることが可能となってくる。


◎長谷部恭男参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

中山 太郎会長

  • 首相公選論は、今年5月の小泉首相の所信表明演説をきっかけに国民的関心を集めた。ところが、9月に行われた本院議員団の調査では、イスラエルのような首相公選制には問題が多いことが分かった。さらなる問題点として、仮に我が国に首相公選制を導入することとした場合には、天皇の地位等はどう変わるのかということがあると思うが、この点に関し、参考人はどのように考えるか。

保岡 興治君(自民)

  • 首相公選論に対する賛成意見が増えている背景を、参考人はどのように認識しているか。また、政治が強いリーダーシップを発揮し、政策プログラムを強力に推進するには、どのような方策が考えられるか。
  • 政策決定が政府及び与党によって「二元的」になされていることが、議会審議の「空洞化」を招いていると思うが、いかがか。また、縦割り行政の弊害や政策立案における理念の欠如を防ぐためにも、与党の政策責任者が政府に入り、政策決定プロセスを「一元化」することが重要であると考えるが、いかがか。
  • 参議院の議席構成によって政権の枠組みが決まってしまうのは、おかしいと思う。参議院の在り方の見直しこそ、最大の憲法改正項目ではないかと考えるが、いかがか。


山田 敏雅君(民主)

  • 「擬似首相公選制」によって成立した小泉政権を、参考人はどのように評価するか。
  • 「米国型の大統領制を我が国に移植するのが困難であるのは、米国の独特な政治文化・慣行が日本においては妥当しないからである」とする参考人の考え方は、必ずしも日本の現実に即していないと思うが、いかがか。
  • 参議院改革のため憲法改正が必要であるにもかかわらず、その改正のためのハードルが高すぎて、事実上何もできないという状況を、参考人はどのように考えるか。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 首相公選制を導入した場合における多様な意味を持つ三権分立の在り方について、参考人の意見を伺いたい。
  • 民意の「反映」・「集約」の二つの観点から、首相公選制の導入をどう考えるか。
  • 日本における政党の役割やあるべき姿は、どのようなものか。
  • 現行の衆議院の選挙制度(小選挙区比例代表並立制)は、民意の「反映」の観点からは欠陥を抱えていると考えるが、いかがか。


藤島 正之君(自由)

  • 日本において大統領制を採用した場合に、どのような問題が発生すると考えられるか。
  • 首相公選制を導入した場合、天皇制との関係はどうなるか。
  • 投票行動が風評によって動かされやすい国民性をもつ日本において、首相公選制が導入された場合の問題点について、参考人はどのように考えるか。
  • 民主政治は、政党政治が中心であるべきと考えるが、我が国における政党政治の在り方として、二大政党制と多党制のどちらが望ましいか。
  • 衆議院のカーボンコピーと称される参議院は、どのような役割を果たすべきか。また、解散のない参議院の議員の任期を衆議院より短くしてはどうか。

春名 直章君(共産)

  • 一人の者に強大な権限を与えることは、議会制民主主義の発展の観点からふさわしいものであるか。
  • 「討議民主主義」を主張する参考人の立場から見て、国会審議が形骸化している現状、国会の役割やそこでの議論の在り方に対する意見を伺いたい。
  • 日本の社会には対立軸の数が多く、多様な民意が存在するという実態にふさわしい選挙制度を導入すべきであると考えるが、最近の選挙制度改革に関する議論に対する参考人の意見を伺いたい。
  • 憲法が要請する議院内閣制の在り方と、政・官のいびつな関係をめぐる諸問題についてどのように考えるか。


原 陽子君(社民)

  • 首相公選制の導入については、国民が直接首相を選出できる等の理由から、これに肯定的な意見がある一方で、人気投票的な側面を否定できないとの意見もある。この後者の意見について、参考人の見解を伺いたい。
  • 官僚組織の肥大化が問題となっている現状においては、国会機能の拡充を図ることが必要であると考えるが、いかがか。
  • 首相公選制に関する論議は、その導入に向けた小泉首相の発言を契機として世間の関心を集めているが、小泉首相が首相公選制を導入しようとする目的は何か。


松浪 健四郎君(保守)

  • 首相公選制の導入が議論されるようになった背景には、我が国における国民の高い知的水準と成熟した民主主義があると考えるが、いかがか。
  • 首相公選制の下に選出された首相は「民意のカリスマ」としての性質を有することから、「伝統的カリスマ」である天皇との関係において整理すべき問題があると考えるが、いかがか。
  • イスラエルにおける首相公選制は失敗であったとの評価が一般的であるが、議会選挙が比例代表制でなければ一定の成果を上げることができたであろうという意見もある。このような意見について、参考人は、どのように考えるか。


近藤 基彦君(21クラブ)

  • 今日、諸外国において採用されている統治制度として、議院内閣制のほか、大統領制、半大統領制等を挙げることができるが、議院内閣制以外に、我が国において有効に機能し得る制度はあるか。
  • 議院内閣制をより良く運用していくに当たって、例えば、行政と立法とを分離する観点から、閣僚の議員等との兼職を禁止する等の措置を講ずべきではないか。  

◎森田朗参考人の意見陳述の要点

1.行政学における政治行政(政官)関係

  • これまでの通説的説明によれば、我が国では厳格な三権分立制が採用されており、「立法(府)」である国会と、内閣を含む「行政」を対峙させ、両者は抑制と均衡の関係にあるという視点から両者の関係が考えられてきた。しかし、行政学の立場からは、民意を表す選挙にその基盤を置く国会と内閣を「政治部門」として一体と解し、「政治部門」と職業的行政官により構成される狭義の「行政部門」との均衡のとれた関係とは何かを考えることが重要である。


2.日本の内閣制度における論点

(1) 国会と内閣の関係

  • 三権分立を重視する立場からは、国会と内閣は、対等な地位にあり相互に牽制しあう関係と理解されるが、「政治部門」として両者は一体であり、ともに「行政部門」を指揮監督するものと考えるべきである。また、国民が直接選出する国会が内閣総理大臣を指名することからすれば、両者の関係は、国会が優位すると考えるべきである。


(2) 内閣総理大臣とその他の国務大臣の関係

  • 内閣総理大臣の指導性の強化という観点から、「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する」という内閣法6条が適切かどうかを再検討すべきである。


(3)内閣と行政各部の関係

  • 内閣を構成する大臣は、政治部門の一員としての「国務大臣」と、各省庁の組織と一体化し、その所管事項を分担管理する「主任の大臣」という二重の性格がある。各省庁による分担管理の原則の下で、後者の性格が強く出た場合、内閣は、各省庁間の緩やかな調整の場とされ、内閣の一体的な機能が害されるおそれがある。


3.日本の内閣制度の形成と継承

  • 現在の内閣制度は、明治憲法下の内閣制度を継承し、また、内閣と国会が対峙するというアメリカ的な三権分立の構造の下に立っているが、この三権分立の構造を絶対視しすぎるきらいがある。


4.内閣制度の変容―首相公選制について

  • 首相公選制の導入議論は、迅速な決断を必要とする国際問題の発生、マスコミ報道等により首相が国民の目に触れる機会が増大したことがその背景にある。しかし、内閣と国会を一体とした「政治部門」の主導による統治機構の確立を目指す立場から、国会とは別の正統性の根拠を首相に持たせることは問題であること、選出された首相が民意に反する行動をとった場合、その者を辞任させることが難しいこと等の問題を有しており、賛成することはできない。

◎森田朗参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

中山 太郎会長

  • 首相公選制を導入した場合、首相の地位と天皇の地位との関係はどのように考えればよいか。
  • 首相公選制を導入した場合において、議会は首相を不信任することにより罷免することができないものとすると、不都合が生じるのではないか。


坂井 隆憲君(自民)

  • 地方分権を進めていくに当たり、国と地方を結び付ける役割を何に負わせるべきか。また、自治体の長の選出方法に間接選挙を取り入れるようなことも検討されるべきではないか。
  • 政府の各種審議会において政治主導の議論ができるよう、審議会の委員に国会議員を多く任命すべきと考えるが、いかがか。
  • 自治体において、教育委員会のような独立行政委員会を活用していくことについてどう思うか。
  • 現在、政府による広報手段としては、総務省の行政情報部門によるもの、内閣官房による広報、内閣府による政府広報等があるが、このような複数の広報手段をどう整理すべきか。

筒井 信隆君(民主)

  • 参考人が主張する内閣、行政の制度改革に際しては、「抵抗勢力」が存在するのではないか。また、昨今の中央省庁改革に際しても、「抵抗勢力」が存在したのではないか。
  • 「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する」という内閣法6条の下では、総理大臣は閣議を通じ、各省大臣を介してしか行動できないこととなり、権限が弱すぎるのではないか。
  • 参考人は、閣僚には「執政部門たる内閣の一員」の性格と「所管事項について分担管理する主任大臣」の性格との二面性があると言うが、内閣の機能を強化する観点からは、前者を重視すべきではないか。


太田 昭宏君(公明)  

  • 「内閣の機能強化」を目的とした今次の中央省庁改革は、うまく機能していると考えるか。
  • 参考人は、国会における議論は、議会対内閣ではなく、与党対野党の構図で行われるべきであるとし、与党が内閣に質問することの意味を疑問視している。しかし、連立政権の下では、与党が内閣に質問する意義があると考えるが、いかがか。
  • 政策の決定、執行に当たっては、政治家、官僚、審議会等の第三者機関等の役割分担を整理する必要があると考えるが、いかがか。


都築 譲君(自由)

  • 国民には、公務員に依存したり従おうとする「お上意識」が根強いと考えるが、参考人は、憲法の規定を改めることによってこのような国民意識を変えることができると考えるか。また、省益にこだわる公務員が多い中で、公務員に対する民主的統制を行うことが政治の役割と考えるが、いかがか。
  • 与党の政策でさえ官僚が作成していることにかんがみれば、「明日の内閣」のような野党の政策立案についての制度的な保障が必要と考えるが、いかがか。
  • 行政府の審議会等を廃止し、審議を国会に集中させたり、政策スタッフを配置すべきと考えるが、いかがか。


塩川 鉄也君(共産)

  • 国民主権を実現する方策としては、「内閣の機能強化」よりも議院内閣制を健全に機能させることの方が重要と考える。「内閣の機能強化」により、民意が反映されなくなったり、行政に対する国民のコントロールが働かなくなる懸念があるが、いかがか。
  • 首相の強力なリーダーシップよりも、各閣僚が民意を基礎に合議で政策を決定することが重要であるとの考えもあるが、いかがか。
  • 民意を表明する機会である選挙の際の公約が守られていないことは、民主主義が侵されていることと考えるが、いかがか。


金子 哲夫君(社民)

  • 首相の地位や各大臣との関係は、66条1項、68条等の憲法の規定によって十分明確に位置付けられていると思われるにもかかわらず、内閣法等ではその精神を活かしていないため、憲法の権威を貶めているのではないか。
  • 内閣を構成する各大臣は、国民の代表である国会の信任を受けて官僚機構を監督する地位にあるにもかかわらず、実際は各省庁の官僚機構から逆に制約を受けており、これを改革する必要があると考えるが、いかがか。
  • 国民の恒常的な政治への参加方法として、選挙の他に住民投票が活用されるべきと考えるが、参考人は、住民投票の意義や、それが盛んに行われる昨今の状況をどう捉えているか。


松浪 健四郎君(保守)

  • 「官僚主導」型から「政治主導」型の行政への移行のためには、政治的任命職の増加が重要ではないか。
  • 国家の発展のためには、優秀な人材は官公庁と民間企業のどちらにより多く就職した方がよいと考えるか。
  • 明治憲法下の貴族院・衆議院の関係と、現憲法下の衆議院・参議院の関係の違いは何か。


近藤 基彦君(21クラブ)

  • 昨今、市町村合併の動きが盛んであるが、その実施については困難も多い。これを効果的に行う方法についての意見を伺いたい。
  • 道州制と連邦制の導入についての意見を伺いたい。
  • 住民投票には、住民に身近な内容のものから国策に関するものまで対象が広範であり、結果の捉え方も異なってくると思う。住民投票についての意見を伺いたい。