平成13年12月 6日(木)(第5回)

◎会議に付した案件

1.日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

 上記について自由討議を行った。 

2.中山会長から本年中の調査会の経過について報告があった。


◎各委員の発言の概要(発言順)

鳩山 邦夫君(自民)

  • 残念ながら昨今の国会では、地球や人類の歴史の観点から見て、本質的な議論がなされているとは思えない。22世紀以降の未来を見据えた場合、歴史を踏まえた理念や哲学が新憲法には必要である。
  • 人類が経済発展を優先したために、環境問題をはじめさまざまな問題を引き起こしてきたことにかんがみれば、今後は「人類は万物の霊長である」との考えを改め、「自然との共生」という理念を憲法に取り入れるべきである。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 憲法論議では、まず9条について取り上げるべきとの意見も強い。それはそれで重要な論点ではあるが、他方で、(a)科学技術の進歩による問題、(b)文化の問題というような、現行憲法では対応しきれない問題についても議論を進めていくべきであろう。
  • (a)に関し、21世紀は「生命科学の世紀」であると言われている中で、クローン胚の実験等人間の尊厳や人間存在の根本に関わる問題が生じつつある。このような問題と学問の自由(23条)との関係について、国民総意の下に議論し、憲法の中で何らかの方向性を指し示すべきである。
  • (b)に関し、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する25条は、ともすれば物質的な側面からしか理解されてこなかったが、日本は、これからの時代、文化芸術大国としてソフト・パワーに力点を置いて発展していくべきであり、そのような方向性を憲法の中で指し示すべきである。


細川 律夫君(民主)

  • 本年6月に出された司法制度改革審議会の答申は、現行憲法を前提として、個人の尊重(13条)や国民主権(前文及び1条)の真の実現等を図ろうとするものであり、肯定的に評価できる。しかし、反面、憲法改正を前提とする問題や司法権と他の二権との関係に触れられていない等の問題点もある。
  • 司法による行政のチェックの観点から現状を見た場合、(a)要件が厳しいこと等により行政訴訟の件数自体が少ない、(b)訴訟が提起されても、審級が上がるに従い行政寄りの判断が下される傾向が強いとの指摘ができる。こうした現状を打開するために、内閣が大きく関わる現行の裁判官の任命方法を改め、諮問委員会を設置したり、任命に国会を関与させるなどの方途も検討すべきではないか。


春名 直章君(共産)

  • 今国会の調査会等において、米英軍のアフガニスタン攻撃及び日本の「参戦」に対して批判の声が多く上がった背景には、9条の存在があり、国際紛争を非軍事的貢献によって解決することが、21世紀の日本の役割として求められていると考える。このような憲法の精神に反した施策を講じてきた政府の姿勢こそ、本調査会において調査の対象とされるべきである。
  • 首相公選制については、参考人等からは、これを歓迎・支持する意見はほとんどなかったと言えよう。
  • 基本的人権については、グローバル・スタンダードからみた日本の人権保障の在り方の調査をこれから行うべきである。


金子 哲夫君(社民)

  • 法治国家において、憲法は最高法規であることは当然のことであるが、米国同時多発テロ事件以降の国会審議を見ていると、政府は憲法をないがしろにしていると言わざるを得ない。
  • 小泉首相は、前文に独自の解釈を施したり、「憲法の前文と9条の間には、すき間、あいまいな点がある。」などと発言している。しかし、日本の平和主義は無謀なアジア太平洋戦争の反省や悲惨な原爆体験からできあがったものであり、憲法にあいまいな点はないと考える。したがって、このような首相の発言の趣旨を、本調査会における調査の対象とするべきである。
  • また、今後の本調査会においては、憲法が現実の政治、社会の中で、どのように活かされているかを調査するべきである。


都築 譲君(自由)

  • 現憲法は二世代前の考え方に基づいて作られているが、その考え方で現代を縛ってよいかは疑問であり、また、憲法と現実の間に乖離があることは、国民の規範意識という点から問題がある。そこで、我が国の現状及び将来を見据えた新憲法を、国民が納得できる形で提示するべきである。
  • 過去10年間に、(a)「豊かな社会」が我が国史上初めて実現した、(b)情報化が急速に発展し、多様な価値観が生まれた、(c)冷戦構造が崩壊し、民族紛争や宗教紛争が激化した、(d)少子高齢化が進展したなどの変化がみられた。我が国は、こうした変化にしっかりした対応をすることが求められている。その中で、憲法の果たすべき役割を考えるべきである。


松浪健四郎君(保守)

  • 国連主導の下に行われたアフガニスタン暫定政権協議は、民族の自決権や内政不干渉の観点からは、積極的評価ができるかどうか明らかでない。
  • アフガニスタンは、部族を中心とした政治が行われており、我が国の憲法が立脚する「民主主義」とは考え方を異にする。このことから明らかなように、民族や歴史と憲法の間には深い関わりがある。
  • 日本は敗戦を機に現在の憲法を手中にしたが、その後の歴史の変化や、世界における日本の役割の変化を踏まえて、21世紀の国際社会にふさわしい新しい平和憲法を作るべきである。


中山 正暉君(自民)

  • 憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」の部分については、「人間は人間を殺すという本性を持っている」とする脳生理学の見地から、その前提が幻想であると指摘する者がいる。
  • 誰もが平等に扱われ、食べ物を口にすることができるということが「平和」という言葉の語源であるが、そういう状態が達成されていない現状にかんがみれば、幻想にとらわれることなく、憲法前文から見直す必要がある。


伊藤 公介君(自民)

  • 「55年体制」が終わった後、与野党間で憲法の認識に関して共通の基盤ができてきたことや、これまで当調査会で大きなテーマについて調査をしてきたことを踏まえると、調査会における今後の議論の進め方については、各論の議論を進める時期にきていると考える。
  • その際の各論における論点としては、(a)前文、(b)天皇の地位、(c)自衛隊による国際協力の在り方、(d)環境権及び国の環境保全義務、(e)参議院の権限・組織の在り方、(f)首相公選制、(g)私学助成、(h)憲法改正手続が考えられる。


山田 敏雅君(民主)

  • 我が国の安全保障に関わる事柄は、これまで米国の都合によって決定されてきており、また、日本の防衛力が中国にとって脅威と映っていることにかんがみ、安全保障についての理念を明らかにしつつ、日本人の日本人による憲法を実現すべきである。
  • 我が国は、世界平和構築のために実現可能な理想として「世界連邦構想」を提唱し、世界をリードすべきである。
  • 憲法には、自由・権利についての規定は豊富だが、義務についての規定はほとんどなく、愛国心についても言及がない。教育現場でも、自由・権利について教える前に、義務や愛国心の大切さについて教えられていないことは問題である。


森岡 正宏君(自民)

  • 世界的な問題の解決には、さまざまな国家が共同して当たることが必要であり、特定の国家の価値観だけで対処できるものではない。そこで重要となってくるのが、国家の枠を超えて個々の人間を大切にする「人間の安全保障」という考え方であり、これを憲法上明記することによって世界をリードすべきである。
  • 個人主義の行き過ぎや権利の偏重が家庭内において問題を生じさせていることから、社会生活の基礎単位としての「家庭」を国が保護すべき旨を憲法上明記すべきである。


中村 哲治君(民主)

  • 個人主義の行き過ぎや権利の偏重といった問題が生じている背景には、人間の尊厳や他者の尊重といった憲法の理念を活かしきれていないことがあるのではないか。
  • 憲法の解釈権は、一次的には国会にある。国会議員は、この認識を踏まえた上で、憲法の理念を活かした立法を行うべきである。
  • 司法のチェック機能を強化する観点から、11月29日に畑尻参考人から述べられた、憲法改正によらずに最高裁に憲法訴訟を専門に扱う「憲法部」を設置するという構想は、検討に値するものと思う。


菅 義偉君(自民)

  • 現行憲法が制定された当時と比べて生活環境が大きく変化した現在、憲法も時代の変化に合わせて改正すべきである。
  • 「憲法は改正することができる」という意識を国民に植え付ける意味からも、意見の対立の大きい9条の改正よりも、私学助成、環境権等、多くの国民が理解しやすい部分から改正すべきである。
  • 首相公選制についても今後議論をしていくべきである。


上田 勇君(公明)

  • 現行憲法の精神は今後も大切にすべきと考えるが、現行憲法が想定していない状況が生じている現在、時代の変遷に合わせて見直すべき点や補充すべき点もあると考える。
  • 今までの調査で論点は出揃っているため、今後は、それらについて具体的なアイデアを提示して、コンセンサスを得ていくべきである。その際、意見の隔たりの大きい9条については、最後に議論すべきである。


今村 雅弘君(自民)

  • 現行憲法の理念は、ほぼ達成されたと考える。今後は、理念の達成度を点検し、権利と義務の関係や家族制度等について、必要な見直しを図っていくべきである。
  • 時代の変化、グローバリゼーションに対応した憲法に改正すべきである。


赤嶺 政賢君(共産)

  • 憲法調査会は改正の議論をする場ではなく、広範かつ総合的な調査に徹するべきである。
  • 沖縄の人々は「ひめゆりの心」を9条に託してきたにもかかわらず、今国会におけるテロ対策特別措置法の成立、PKO法の改正によって、9条の精神を蹂躪する現内閣の姿勢が明らかとなった。
  • 21世紀は、軍事力ではなく、外交や平和的な話合いによる紛争解決の時代であり、9条の価値が地球的に活きることを希望する。


中曽根康弘君(自民)

  • 内閣に憲法調査会が置かれていた昭和30年代当時と比べて、現在の憲法論議は、(a)冷戦の終了、(b)独立回復後約50年の経過、(c)憲法に対する世論の変化といった状況下で行われていることに特徴がある。
  • 改憲派が30〜40歳代に多いのは、他国の文化から良いところを積極的に取り入れて日本独自の文化を築いてきた日本人の「民族的同化力」を、若い世代が備えていることの現われである。
  • 集団的自衛権に関する憲法解釈は、時代の変化に伴って変わり得るものであり、「集団的自衛権を保有しているが行使できない」という内閣法制局の解釈は、見直すべきである。
  • 今後の論点としては、(a)前文、(b)9条、(c)非常事態、(d)私学助成、(e)環境問題、(f)憲法改正手続、(g)首相公選制、(h)参議院の在り方、(i)最高裁判所裁判官の国民審査制、(j)憲法裁判所等が挙げられる。
  • 憲法調査会での「論憲」は3年程度を目途として、4年目には各党が新憲法の要綱を提案し、憲法改正の準備段階に入るべきだ。


首藤 信彦君(民主)

  • 「人間の安全保障」の観点をも踏まえ、従来の国家中心の安全保障から、テロ、難民、地域紛争等の新しい課題に対応できる安全保障へ転換すべきである。また、危機管理に関する法整備を行うべきである。
  • 難民、貧困等の全世界的な問題に対して我が国がどう取り組むか、また、NGO、NPOを憲法上明確化する等、国家と市民社会との関係はどうあるべきかについて検討すべきである。


今野 東君(民主)

  • 外国人に社会権が認められるかといった問題をはじめとして、外国人に保障される人権の範囲については学説においても諸説あるが、今後幅広い議論が必要である。
  • 国際紛争の解決は、国連軍が中心となるべきである。また、「人間の安全保障」の観点から、平和憲法を持つ日本は、国連に対して、紛争の平和的解決を目指すという本来の国連の姿を求めていくべきである。


小林 憲司君(民主)

  • これまで、憲法解釈により集団的自衛権の行使を認めず、個別的自衛権に徹したきたことで、我が国の安全は守られてきた。今後は、国際情勢の変化に合わせて、世界及びアジアの中における我が国の役割、国民のアイデンティティー等を踏まえた憲法改正を積極的に検討していくべきである。


原 陽子君(社民)

  • 小泉首相の首相公選論のような改憲を前提とした発言が相次いでいるが、憲法調査会の活動は、あくまで日本国憲法の広範かつ総合的な調査に徹すべきである。
  • 憲法調査推進議員連盟が憲法改正の国民投票に係る法案を提出する動きがあるが、同議連の会長を、憲法調査会会長が兼ねていることは、中立・公平性の観点から問題である。また、委員の出席率の低い現状では、憲法調査会が報告書を作成したとしてもその正当性が疑われるのではないか。
  • 現憲法に不満をとなえないサイレント・マジョリティの存在を重視すべきである。


下村 博文君(自民)

  • 21世紀においても、国家は国際関係における基本的単位として残っていくと考えられるので、あるべき国家の姿を基本法である憲法の中で論じていくべきである。その際には、家族、教育、首相公選制、安全保障等が重要なテーマとなる。
  • 憲法をめぐる議論は、際限なく続けるべきではなく、一定の期間を区切り、各党が改正案を持ち合い、合意を形成する努力を行うべきである。


大出 彰君(民主)

  • 21世紀の日本の憲法を考えるに当たり、自由権を基礎とし、この担保のために、民主主義を尊重すべきという観点から以下の点を主張したい。(a)象徴天皇制を堅持しつつ、憲法の第1章を「国民」に変える、(b)自由権の前提として、前文のいわゆる「平和的生存権」の内実を発展させる、(c)唯一の被爆国として、核廃絶、非核三原則の理念を憲法に盛り込む、(d)いわゆる環境権等の新しい人権、動物愛護のような規定を積極的に盛り込む、(e)民主主義の発展のために地方分権を進める、(f)地球・宇宙環境の保護を配慮する国家となるべきである。


島 聡君(民主)

  • 憲法論議の際には、(a)明文改憲、(b)法律改正、(c)解釈の変更、の三点に分けて議論するべきである。
  • 統治機構について議論する際は、行政権の長である小泉首相に参考人として来てもらい、首相のリーダーシップ、政党の憲法上の位置付け、集団的自衛権の解釈等について議論したい。


二田 孝治君(自民)

  • 憲法といえども「不磨の大典」ではなく、時代に応じた憲法改正が必要であり、それに対応して法律も制定していくべきである。また、憲法改正規定の在り方についても検討する必要がある。


藤島 正之君(自由)

  • 集団的自衛権の行使を認めない憲法解釈を維持したままで、実際は集団的自衛権の行使に当たると考えられる自衛隊の海外派兵を行ったことや、地方自治の形骸化、最高裁判所の違憲判断回避の傾向等は、国民の憲法に対する信頼を損なう。
  • 社会の変化のスピードは速いため、憲法調査会も5年という期間にとらわれず、早期に結論を出すことを考えるべきである。


中川 正春君(民主)

  • 我が国の「国家意思」や「国家戦略」を形成すべきであり、それを憲法の条文において明確にすべきである。
  • 調査会の今後の運営として、(a)各党は個別的・具体的事項につき意見を集約した上で、調査会の場に提示すべきである、(b)調査会においては、国家のビジョン等を徹底的に議論し、集約すべきである。