平成14年2月14日(木)政治の基本機構のあり方に関する調査小委員会(第1回)

◎会議に付した案件

政治の基本機構のあり方に関する件

上記の件について参考人高橋和之君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  東京大学教授 高橋 和之君

(高橋和之参考人に対する質疑者)

  奥野 誠亮君(自民)

  松沢 成文君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  藤島 正之君(自由)

  山口 富男君(共産)

  金子 哲夫君(社民)

  井上 喜一君(保守)

  谷垣 禎一君(自民)

  島 聡君(民主)

  中山 正暉君(自民)


◎高橋和之参考人の意見陳述の要点

1.はじめに

  • 私は、議院内閣制の運用に関して、国民が「政策プログラム」と政策の実行主体である「首相」とを事実上直接的に選ぶことのできる直接民主政的な議院内閣制の運用、すなわち「国民内閣制」を提唱する。


2.「国民内閣制」導入の意義

(1) 政策プログラムの「絞り込み」の二つのモデル
  • 我が国の議院内閣制は、国会と内閣との関係において、それぞれの自由な不信任権と解散権を要素とする「均衡型」と認識されてきたが、今日においては、国民主権との関係からそのメカニズムを把握する必要がある。
  • 代表制を基礎とする現行制度においては、国民の多様な意思に対する考え方を、議会議員選挙や首相指名選挙などを通じて絞り込み、一つの政策プログラムとしてまとめ上げるという政治プロセスが見られる。
  • このプロセスを運用するに当たって、「絞り込み」をいつ行うかが問題であるが、「絞り込み」モデルには、(a)基本政策の絞り込みを選挙のプロセスで行い、「政策プログラム」と「首相」の選択を同時に行うモデル(「国民内閣制」モデル)と、(b)選挙においては、多様な意思を議院の構成に忠実に反映させることのみを目的とし、選挙で選ばれた代表者により政策プログラムの絞り込みを行うモデル(媒介民主政的モデル)との二つのモデルが考えられる。
(2) 「国民内閣制」モデル
  • 現在の日本のような「積極国家」においては、積極的な施策を行うに当たり、政治に強いリーダーシップが求められる。そのためには、内閣及び実行する政策プログラムが、国民の多数の明確な支持を受けることが要請される。そのような観点からは、「国民内閣制」モデルの方が適合的ではないかと思われる。
  • 「国民内閣制」の観点から、内閣の「統治」に係るこれまでの改革に一定の評価はなしうるが、内閣を「コントロール」するという点については、不備が認められる。その役割は、野党を中心とした国会が担うべきであり、国政調査権を中心とした十分な制度設計をなすべきである。


3.「国民内閣制」の実現に向けて

(1) 選挙制度
  • 小選挙区制は、政策プログラムが選択されることで、国民の多数意思を明確化することを目的とする制度であり、比例代表制は、国民の多種多様な政策に関する意見を忠実に国会の構成へ反映させることを目的とする制度である。したがって、「国民内閣制」には、小選挙区制が適合的であるということになる。
(2) 政党の在り方
  • 議院内閣制における政党の役割は、政治が国民の意思に従い国民のためになされるための手助けであり、自党の政策プログラムを提示するとともに、それを国民とのフィードバックを通じて多数の支持する政策プログラムへと柔軟に修正していくことが肝要である。
(3) 国民の心構え
  • 国民は、「国民内閣制」の理解に基づいて、選挙等に当たり、多数派形成を意識した明確な意思表明を行うことが肝要である。


4.「国民内閣制」と参議院の在り方

  • 「国民内閣制」の導入に憲法改正は不要であるが、参議院は、衆議院と類似の選挙制度、権限を有し、法律案の処理に関する権限を行使することで実質的な内閣に対する不信任権を行使し得るにもかかわらず、内閣はこれに対して解散権等の対抗手段を持たないため、機能不全に陥る可能性がある。「国民内閣制」の運用に当たっては、参議院は権限行使を自制する等の「憲法習律」の確立を図るべきである。

◎高橋和之参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等

奥野 誠亮君(自民)

  • 首相や地方公共団体の首長の選出方法については、日本の伝統や文化、他の制度との関連性などを踏まえて総合的に判断すべきだと考えるが、参考人はどのように考えるか。
  • 天皇は国事行為のほか様々な活動を行っており、参考人が論文の中で述べているような名目的なものではないと考えるがいかがか。


松沢 成文君(民主)

  • 参考人の主張する「国民内閣制」は、イギリスの議院内閣制をモデルにしていると理解してよいか。
  • 選挙において政策プログラムを選択する国民内閣制との関係において、一つの問題についてダイレクトに国民の意思を問う「国民投票制度」はどのようなものとして位置付けられるか。
  • 「国民内閣制」は憲法とどのような関係にあるのか。具体的には、41条が国会を「国権の最高機関」としていることは、法的な意味で三権分立の原則と矛盾しないか。また、44条は、両議院の議員及びその選挙人の資格について差別をしてはならないと規定しているが、同条所定の差別は現状ではほとんど問題となっていない。現状で問題となっているのは「居住地による差別」、すなわち、一票の格差である。「居住地による差別(=一票の格差)」をしてはならないことを憲法に明記することについて参考人はどう考えるか。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 現在の日本国憲法は、国会が法制定を行い内閣が法執行をする「法制定−法執行」図式と内閣が統治し国会がコントロールする「統治−コントロール」図式(「国民内閣制」モデルにおける内閣と国会の関係)とのいずれを想定しているのか。
  • 私は、制度設計は別として、イスラエルの首相公選制(すでに廃止)は議員の選挙において民意を「反映」し、首相の選挙において民意を「集約」するものであるという点において理想的なものであったと理解しているが、参考人は首相公選制についてどのように考えるか。
  • 「国民内閣制」においては、国民が政治において何がどのように問題となっているかを知ることが重要であると考える。メディアはその重要な手段であるが、参考人はメディアの在り方についてどのように考えるか。


藤島 正之君(自由)

  • 私は、国政選挙において首相を選出するという意識が出てきており、日本は「国民内閣制」モデルに近づいてきていると考えるが、参考人はこの点についてどのように考えるか。
  • 参考人は与党と内閣(与党の党首たる首相)の関係、大臣と官僚との関係についてどうあるべきであると考えるか。また、現在の官僚制度には問題があり、例えば政権が変わったら高級官僚もすべて替わるというようなダイナミックなシステムも考える必要があるのではないか。
  • 参考人から、参議院が事実上、内閣不信任の権限を有しているとの指摘があったが、議院内閣制との関係において参議院の在り方を見直すべきではないか。

山口 富男君(共産)

  • 「国民内閣制」の提唱は、現在の政治における民意の反映が不十分であるという認識に基づくものであると考えるが、民意の反映という観点から参考人が憲法上問題であると考える点について教えていただきたい。
  • 「国民内閣制」モデルは、国会の最高機関性との関係でどのような位置付けを持つのか。
  • 「統治−コントロール」図式と三権分立はどのような関係に立つのか。
  • 議院内閣制を維持すべきであるとする理由は何か。


金子 哲夫君(社民)

  • 連立政権を構成する政党の組替えが選挙を経ずに行われるのは、おかしいと考えるが、いかがか。
  • 「国民内閣制」を運用していくためには、各政党は選挙時に首相候補者を国民に対して提示する必要が生じると思うが、連立政権が常態化している下で、各政党が首相候補者を提示することの意味をどう考えるか。
  • 国会における審議の中で、少数意見の尊重は、どのような方法によって図られるべきであると考えるか。


井上 喜一君(保守)

  • 参考人の「国民内閣制」は「統治−(野党による)コントロール」図式を念頭においているが、我が国は、行政府が強いという状態にあるので、行政に対するコントロール権限は与党にも与えるべきと考えるが、いかがか。また、党議拘束については、緩和されるべきと考えるが、いかがか。
  • 憲法は、参議院にも内閣総理大臣の指名の権限を持たせる等、参議院に強い権能を与えているが、こうした参議院の権能については、何らかの憲法改正が必要か。また、どのように改めるべきと考えるか。


谷垣 禎一君(自民)

  • 現在の小選挙区比例代表並立制について、私は、かつての中選挙区制的に運用されているのではないかと考えているが、参考人は、どのように評価しているか。
  • 我が国の両院制の問題点は、選挙制度や両院の権限が同等であるところにあるのではないか。また、このような制度の下では、「国民内閣制」の運用に則した参議院の自制の慣行をつくることは、難しいのではないか。
  • 「国民内閣制」の運用に当たっては、与党の所属議員は、国会においてどのような役割を果たすべきと考えるか。

島 聡君(民主)

  • 首相がリーダシップを発揮できるよう、65条の規定は、「行政権は、内閣総理大臣に属する。」と改めるべきと考えるが、いかがか。また、閣議の全会一致制というのは、緩和されるべきと考えるが、いかがか。
  • 与党による事前審査制は、我が国固有のものではないか。内閣の責任において議案を提出する場合には、与党の議員も、国会における質疑を通じて内閣提出の議案を修正すべきと考えるが、いかがか。
  • 首相公選制を導入した場合、首相に対する不信任や議会の解散等、内閣と議会との関係はどのようになると考えるか。


中山 正暉君(自民)

  • 各国の憲法に国家の防衛や安全の確保に関する規定があることにかんがみた場合、我が国の安全確保という観点から、現行憲法についてどのように考えているのか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

中村 哲治君(民主)

  • 国民内閣制を採用する場合にも、与党は法案の事前審査を行わず、また、党議拘束を緩和して、与野党とも国会の中で議論し争点を明らかにすることが国民の代表者としての国会の務めである。


奥野 誠亮君(自民)

  • マッカーサー三原則をもとに政府の憲法草案が作成されたこと、また、占領下で新聞等の事前検閲があったこと等の現行憲法制定当時の我が国の状況について調査会として調査をし、結論を出すべきである。また、その後の状況の変化を踏まえて、今後、我が国がどうあるべきかという議論に沿って、憲法を見直すべきである。


島 聡君(民主)

  • 本調査会では、制定経緯についてすでに議論をしており、時代に合わせた議論を行うべきである。米国が日本に憲法を押しつけた事実に関する永久秘密資料の公開については、中山正暉小委員から小泉首相に要請をしたとのことであり、そのようなことは自民党内で議論すればよいことではないか。


中山 太郎会長

  • 79条及び80条で、裁判官の報酬は、在任中、減額することができないと規定されている。他の公務員に同様の規定がない一方、裁判官の報酬が保障されている意義について、検討をお願いしたい。


山口 富男君(共産)

  • 現行憲法は、素案は米国が作ったが、国会の審議を経ており、9条の部分的な修正等もなされたことを考慮すると、戦争への反省に立って制定されたもので、「押しつけ」とみなすことはできない。
  • 参考人の指摘する「民意の反映」の観点から、選挙制度、国会審議の在り方、行政の監督等について、憲法と現実との食い違いについて調査すべきである。


松沢 成文君(民主)

  • 民主政治国家の要諦は、国民が憲法を作る自由と権利が保障されていることであると考える。真の民主政治国家になるためには、国民自らの手で憲法を作る経験を持つ必要がある。
  • 我が国では、居住地によって一票の格差が二倍を超えており、これを是正して国民一人一人に平等に政治に参加する権利が与えられない限り、民主政治は成り立たないと考える。


斉藤 鉄夫君(公明)

  • 国会と内閣の関係が憲法制定当時に想定されたものから変化してきたとの参考人の指摘を踏まえ、国民の意思を反映することができる統治機構の在り方を議論し、必要があれば改正を考えるべきである。
  • 奥野小委員の現行憲法の制定経緯についての指摘については、事実の解明は必要だが、憲法がこれまでに果たした役割や国民に認知されてきたという事実の上に立ち、真摯な議論をすることが必要である。


伴野 豊君(民主)

  • 民意を反映してリーダーが選ばれ、また、首相が変わる都度に民意が問われるべきであると考える。その際、政治の空白を避けるために、選挙における電子投票の採用等の工夫が必要である。


金子 哲夫君(社民)

  • 選挙の投票率が低いことについては、制度上の問題というより、政治の在り方、政策の実行等に要因があり、また、民意の反映の点からも問題があると考える。
  • 選挙制度や国会における少数意見の尊重も、民意の反映の観点から重要である。
  • 現行憲法の制定過程については、すでに調査会において整理がなされ、次の段階に進んでいることを踏まえるべきではないか。


中野 寛成会長代理

  • 奥野小委員の現行憲法の制定経緯に関する発言は、タブーを作ることなく前向きに議論すべきとの提言として評価するが、「押しつけ」憲法かどうかは、今後、憲法調査会で議論する必要はないのではないか。
  • 憲法の運用実態について調査し、現状と憲法のずれを見定めることも調査会の重要な役割りであり、その上で必要ならば、改正ということもあるかもしれない。