平成14年2月28日(木) 地方自治に関する調査小委員会(第1回)

◎会議に付した案件

地方自治に関する件

上記の件について参考人岩崎美紀子君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  筑波大学教授 岩崎美紀子君

(岩崎美紀子参考人に対する質疑者)

  葉梨 信行君(自民)

  中村 哲治君(民主)

  江田 康幸君(公明)

  武山百合子君(自由)

  春名 直章君(共産)

  日森 文尋君(社民)

  小池百合子君(保守)

  平井 卓也君(自民)

  筒井 信隆君(民主)

  渡辺 博道君(自民)


◎岩崎美紀子参考人の意見陳述の要点

1.地方分権改革

(1) 地方分権の推進力
  • 地方分権は、世界的な潮流と言え、その推進力として、(a)民主化、(b)文化的アイデンティティ、(c)近代化の終焉、(d)行財政改革、(e)グローバリゼーションという要因が指摘される。
(2) 分権化の潮流
  • 分権化の潮流として、(a)「官治分権」から「自治分権」という民主化の流れと、(b)権限を渡された側が渡した側の意図に拘束される「権限委譲」から、渡した側から何らの関与も受けない「権限移譲」へ向かう流れがある。
(3)日本の地方分権改革
  • 前回の地方分権改革の三つの柱は、(a)機関委任事務の廃止、(b)国の関与の在り方の是正、(c)国地方係争処理委員会の設置であったが、今後の課題としては、(a)税・財政面での権限移譲、(b)自治体の広域化(二層制を維持するのか)、(c)自治体の説明能力の向上とそれによる市民社会の地方自治への参加等がある。

2.自治体の規模と能力

(1)自治体の存在根拠及び規模をめぐる価値基準
  • 自治体の存在根拠には、(a)公共サービスの供給、(b)住民の政治参加の場であることがあり、前者から、スケールメリットの観点で「大きな自治体」が要請され、後者から、住民により身近な「小さな自治体」が要請され、相反する要請の均衡を探ることが重要となる。
(2)基礎自治体のあり方の四パターン
基礎自治体の規模、種類 公共サービスの態様
アメリカ 小規模、多様 多様
フランス 小規模、画一 画一(供給主体は基礎自治体の上位にある県)
イギリス 大規模、多様 多様
北欧 大規模、画一 画一
(3) 基礎自治体の再編と広域自治体
  • 我が国は、二層制を維持した上で、基礎的自治体の規模を再編・拡大し、全国的に画一した公共サービスを提供する北欧型の自治制度を目指すべきである。

3.道州制と連邦制

(1)制度の本質的相違
  • 道州制と連邦制の本質的な相違は、連邦制においては、憲法に国と州との間での立法権の分立が明記されていることである。
(2)道州制への課題
  • 道州制を導入する場合、(a)領域の確保、(b)首長の選出方法、(c)二層制をとるかあるいは三層制をとるか等が課題となる。
(3)連邦制への課題
  • 連邦制を導入する場合には、(a)二院制をとり、そのうちの一院に地域代表性を持たせる必要がある、(b)連邦制においても、市町村のような基礎自治体への分権は必ずしも保障されないといった課題がある。

4.日本の地方自治・地方分権

<単一制度のなかでの最大限の分権>
  • 我が国の地方自治制度は、憲法により立法権の分立を定める「連邦型」とは異なり、法律により地方の地位及び権限を規定する「単一型」といえるが、憲法改正が必要となる「連邦型」をとらなくても、憲法を変えずに、「単一型」の中で、(a)執行における地方の裁量を認め、かつ(b)中央の決定に対して地方が影響力を及ぼす制度を整えることで、最大限の分権を図るべきである。

◎岩崎美紀子参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等


葉梨 信行君(自民)

  • 大都市と地方における人口の格差や、文化、経済における格差等もあることから、国土政策という観点からの地方分権も必要と考えるが、いかがか。
  • 国会議員は国政を担う一方で地方の代表でもあるが、地方分権における国会議員の果たすべき役割をどのように考えるか。
  • 広域行政や道州制を実施するにしても、日本の歴史・伝統に配慮し、民族のメンタリティを実現するという観点から、日本の地方自治はどうあるべきと考えるか。


中村 哲治君(民主)

  • 参考人は、地方分権を担保するためには地域文化性と地域政党の必要性を主張している。地域文化性や地域政党を重視するのであれば、まず、マスコミの一極集中を是正する必要があり、そのためには首都機能の移転が一つの方法と考えるが、いかがか。
  • 政令指定都市と県との間では同様の行政施設を作るなどの重複が見られる。道州制を検討する中でこれらの関係を見直すべきと考えるが、いかがか。


江田 康幸君(公明)

  • 所得税や消費税の一部を地方に移す代わりに地方交付税を減額すべきとも考えられる一方で、地方交付税が持つ財源の再分配機能も重要と考える。参考人は国から地方への財源移譲について、どのように考えるか。
  • 地方税の充実や地方交付税の見直し等を中心とする小泉内閣の地方自治改革をどのように評価しているか。


武山百合子君(自由)

  • アメリカと異なり、日本では市町村によって公共サービスに格差があると感じるが、なぜ、格差が生じ、また、その解消が進まないのか。
  • 参考人は公共サービスに関する市町村の格差を是正するためには合併が必要であるとするが、現在、合併を促進している主体は都道府県であり、市町村の住民の意識はそこまで達していないと感じる。住民の意識を高めるためにはどうすればよい考えるか。
  • グローバリゼーションが進む中において道州制が実現した場合、例えば九州が、遠くの東京よりも、韓国や中国等の近くの海外に目を向けるようになったとしてもよいと考えるが、いかがか。


春名 直章君(共産)

  • 参考人は、日本では、(a)「中央の決定に対して地方が及ぼす影響力」及び「執行における地方の裁量の余地」が小さい、また、(b)国と地方が相互にもたれ合い、浸透し合っている、と主張するが、これらをどう改善したらよいか具体的に説明されたい。
  • 基礎的自治体(市町村)は、住民の政治参加の場、また、十分な公共サービスの供給主体としての意義がある。昨今、国主導の「上からの」市町村合併が推進されているが、このような動きと基礎的自治体の意義との関係をどう考えるか。
  • 地方交付税は、自治体間の財源調整という重要な機能を持つのに、昨今、地方交付税を削減しようとする議論が進んでいることをどう評価するか。


日森 文尋君(社民)

  • 情報公開と住民参加が地方自治の基盤であるにもかかわらず、これらが非常に遅れていることが、我が国において地方分権が進まない理由と考えるが、いかがか。
  • 自治体の合併が進み自治体の規模が大きくなると、住民との協働による行政やきめ細かい公共サービスの提供ができなくなる懸念はないか。
  • 政令指定都市のような大都市の財政に赤字が多いことを見ても、自治体の規模を大きくすれば財政が改善するとは限らない。このことからも、財政に関する問題の解決を抜きにして合併だけを押し進めても意味がないと考えるが、いかがか。


小池百合子君(保守)

  • 市町村の規模がどれぐらいであれば、コストと十分なサービスの供給の面で適切であると考えるか。また、県については、どうか。
  • 地方分権を進めるには、お上への依存意識の強い住民の意識改革やそのための教育が重要であるが、地方自治を担っていく人材を育てるにはどうすればいいか。


平井 卓也君(自民)

  • 参考人は、地方分権を推進する力の一つとして、「近代化の終焉」を挙げているが、日本において「近代化の終焉」とはどういう意味か。
  • 地方分権を進めていくのならば、過去の全国総合開発計画において重要視された「国土の均衡ある発展」という概念を捨て、自治体間の「健全な差」を容認すべきと考えるが、いかがか。
  • 日本では、個人が集まって集団ができるという考えよりも、個人と集団は対立するものであるという考えが強いと思うが、いかがか。


筒井 信隆君(民主)

  • 参考人は、(a)機関委任事務制度の廃止、(b)国の関与の在り方の是正、(c)国地方係争処理委員会の設置により地方分権改革の第一歩が踏み出されたと述べているが、特に制度面における今後残された課題とは何であり、どのように対処していくべきと考えているか。
  • 地方自治体の財源に関しては、地方交付税を廃止して地方税に一本化すべきであり、そこで生じる自治体間格差については調整ファンドを新たに作ることによって対応すべきであると考える。地方自治体の財源について、参考人はどのような形が理想的と考えるか。
  • 参考人にとって、都道府県及び市町村の合併・広域化の理想像はどのようなものか。


渡辺 博道君(自民)

  • かつて地方自治体職員であった経験から、地方分権改革に際しては、権限や財源の移譲に加えて人材が重要であると解するが、参考人は、地方自治体の人材育成についてどのように考えるか。
  • 少子高齢化が進むと、住民の生活に密着した市町村への地方分権の重要性が高まると考えられる。そのため、地方自治に関して憲法に詳しい規定を設ける必要があると考えるが、いかがか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

春名 直章君(共産)

  • 第8章「地方自治」の規定は、日本国憲法の先駆性を示すものであり、21世紀の地方自治の指針ともなり得る。しかしながら、この精神は十分には実現されておらず、例えば、国は住民投票に消極的な姿勢をとっている。


中山 太郎会長

  • 地方自治体の首長は、地域と密着し、徴税権と執行権といった強大な権力を有していることから、首長の多選禁止を検討する必要があると考える。


森岡 正宏君(自民)

  • 教育に関しての国と地方の役割分担は重要な問題であり、国が教育においてどのような役割を果たすべきかを検討する必要がある。


永井 英慈君(民主)

  • 地方分権と中山会長の主張する首長の多選禁止には密接な関係があるので、是非とも検討しなければいけない。


葉梨 信行君(自民)

  • 春名委員が指摘する住民投票は、地方のみに関する事項について行われるべきであり、安全保障や環境問題といった国全体に関する事項については国会で審議するべきである。


中川 正春君(民主)

  • 住民の地方政治への直接参加は地方自治の観点から望ましいことであり、住民投票法を制定する必要があると考える。
  • 従来の地方自治に関する議論においては、「地方自治の本旨」のうち、「団体自治」の面に重点が置かれていたが、これからは「住民自治」の面の充実の方がより重要である。


中野 寛成会長代理

  • 在日外国人といえども我が国に居住する住民であることから、永住外国人への地方参政権付与法案の早期可決を望む。

>葉梨信行君(自民)

  • 地方政治と国政は密接な関係にあり、国籍を有しない者が間接的とはいえ国政に関与するのは好ましくない。外国人参政権に関しては、国籍取得要件の緩和により対応するべきである。

>中野寛成会長代理

  • そのような議論に関しては、既に所管の委員会で審議が尽くされている。外国人の国籍取得と参政権付与(被選挙権ではなく、選挙権の付与)とは別の問題であると考える。